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魔導カードについて

 ホームルームの時間に、雪山課外授業に持っていく鞄が配布された。

 一般的なトランクケースと言えばいいのか。

 革張りで頑丈そうに見える。持ち上げてみると、思いのほか軽くて驚いた。

 いったい何の革で作っているのか。魔法の処理がされているような気がした。

 それにしても、こうして手にしてみると、思っていた以上に小さく感じる。

 このトランクケースに入る物しか持っていけないとのことなので、所持品は選別する必要がありそうだ。

 所持品の持ち込みに制限がなければ、ジェムに呑み込んで運んでもらうのに。

 お金持ちの生徒が多いので、品物をいくらでも収納できる鞄の持ち込みを警戒し、このような対策を採ったのだろう。

 ちなみにお菓子の予算は半銀貨一枚まで。バナナはお菓子に入りません、とのこと。

 ちなみにバナナはこの辺りでは温室栽培が基本で、王都で購入すると一房金貨一枚ほどの価格である。

 生まれ変わってからは、一度も口にしていない。値段を聞いてしまったら、とてもではないが、食べるだけで勇気がいりそうだ。貧乏人の悲しいさがである。

 裕福な家の子はバナナを本当に持ってきそうで恐ろしいのだが……。


 ホームルームの終了後、皆、どのお菓子を買って持っていこうか、という話で盛り上がっていた。


 傍にいた男子グループが特に盛り上がっている。


「そーいや明日、魔導カード第七弾の発売日じゃね? あれもお菓子に入るような」

「そうだった! 昼休みに買うのは無理だな」

「放課後ダッシュ一択だな」


 魔導カードとはいったい?

 首を傾げていたら、私と同じように話を聞いていたエアが教えてくれた。


「ミシャ、魔導カードを知らないのか?」

「ええ。流行っているの?」

「とんでもない人気らしい。子どもから大人まで、知らない奴はいないって話だって聞いたんだけれど」

「残念ながら、私が生まれ育ったラウライフにまでは伝わってきていなかったみたい」

「そうだったんだ」


 エアは生徒手帳を取りだし、中に挟んであった一枚のカードを見せてくれた。


「ほら、これが魔導カードだ」


 小さなカードに丸っこい赤ちゃん竜のイラストが描かれていて、〝赤竜〟という文字の隣に、星が五つ連なっている。カードにはホログラム加工のようなものがなされていて、キラキラだった。

 まるで、前世で流行っていたモンスターカードのようである。


「チョコレートウエハースのおまけに付いてくるカードなんだけれど、皆、こっちのカードメインに収集しているみたいなんだ」

「これって、前に購買部で売ってたやつ?」

「いや、あれはこれの後追いで、こっちが本家なんだ」


 後追いは魔法生物のカードが封入されているのに対して、本家は幻獣、精霊、妖精などのカードが封入されているらしい。

 ただ、すべてにそれらのカードが入っているわけでなく、大半は魔法の絵が描かれたカードだという。

 集めたカードはゲームに使用するようで、対戦用のマットの上に置くと、描かれた生き物が実際に浮かび上がり、迫力のある戦闘を見せてくれるようだ。


「幻術系の魔法が付与されているってこと?」

「ああ、そうなんだ」


 効果はそれだけではないらしい。


「このカードは実際に召喚して使えるらしくて、大人も夢中になって買い集めているようなんだ」

「召喚もできるの!?」


 ただし効果は攻撃一回分程度な上、一度召喚に使ったカードは消失してしまうらしい。


「それでもすごいわ」

「だろう? 人気なのも頷けるってわけ」


 ちなみにエアは降誕祭の贈り物として、保護者ガーディアンであるミュラー男爵から魔導カードを大量に貰ったようだ。


「このカードはリザードに似ているから、気に入っていて持ち歩いているんだ」

「そうだったのね」


 エアの使い魔であるリザードは、冬休み中にも大きくなり、ついに持ち歩いていた鞄に入らないようになったのだとか。

 今は寮で留守番をさせているらしい。


「前に発売したやつだけど、ミシャにもやるよ」


 そう言って、エアは鞄から未開封のお菓子をふたつもくれた。

 長方形の銀紙に、魔導ウエハースと印刷され、勇ましい赤竜の姿が描かれている。


「これは第六弾だな」


 早く鞄にしまうように言われた。なんでも見つかったら、他の生徒達からたいそう羨ましがられるらしい。

 第六弾はすでに完売しているようで、未開封の品が高値で取り引きされているとも言っていた。

 鞄は手元になかったので、傍にいたジェムの口に急いで放り込んだ。


「ミシャもハマったら言ってくれ。明日発売のやつも、おじさんがたくさん用意したって言っていたから」

「エアのおじさん、何か伝手でもあるの?」


 そんな疑問を口にしたあとで、ミュラー男爵が商人だったことを思い出す。


「あ、もしかして、お店で売っているとか?」

「いいや、違うんだ」


 エアはぐっと接近し、ヒソヒソと耳打ちする。


「これを作っているの、おじさんの商店なんだ」

「そっ――そうだったのね」


 羽振りがいいわけだ、としみじみ思ってしまった。

 魔導ウエハースはありがたくいただく。開封は家でしたほうがよさそうだ。


 教室までヴィルが迎えにやってきたので、エアと別れて家路につく。

 もしかしたらノアに何か言われるかと警戒していたが、彼はいつもの通り素早く帰宅していたようだ。


「ミシャ、どうした?」

「いいえ、なんでもありません」


 私が意識をしすぎていたのかもしれない。

 てくてくと歩く中、ふと、疑問に思う。

 もしかして、クラスの男子同様、ヴィルも魔導カードに夢中なのだろうか?

 質問してみた。


「あの、ヴィル先輩、魔導カードって知っていますか?」

「なんだ、それは?」


 どうやらヴィルも魔導カードについて知らなかったらしい。

 仲間がいてホッとした瞬間であった。 

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