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雪山対策の授業

 今日の授業は雪山で一晩過ごすための、野営に使う魔法を習う。

 雪山課外授業に参加するのは、クラスの三分の一程度だったようで、これまでになく少ない傾向らしい。うちのクラスだけでなく、他のクラスも同じように少ないようだ。

 雪山課外授業で起きた騒動について聞いてしまったら、参加したくないと思うのも無理はないだろう。

 この授業は雪山課外授業に参加する、しないに関係なく、全員受けるようだ。


 まず、習うのは結界魔法。

 結界と聞くと、国を災いや魔物から守る高位魔法だというイメージが強い。けれども数名を守る程度のものであれば、訓練をすれば誰にでも使えるものだという。

 結界魔法を教えてくれるのは、ウサギの耳を生やした、四十半ばくらいの男性教師である。

 まずは座学から始まるようで、丁寧に教えてくれた。


「今回習う結界魔法は、野営時に必ずと言っていいほど必要となるだろう」


 雪山で一晩過ごすなんて、考えただけでもゾッとする。

 下手したら凍死してしまうだろう。

 けれども結界魔法さえあれば、寒さを防いでくれるらしい。

 この手があったか、と授業を聞きながら思う。

 私が結界魔法を使えたら、故郷の冬に薪代で悩むこともなかったのだ。


「結界魔法というのは、防壁魔法を複数同時展開させたもの、と思えばいい。防壁魔法さえ扱えるようになれば、誰もが使えるようになるだろう」


 防壁魔法はそこまで難しいものではなく、皆、すぐに使えるようになった。

 問題は結界魔法である。

 魔法陣の構成を見てみると、なかなか複雑だ。


 他のクラスメイトも魔法の発動に手間取っている様子だったが、成功させた者が現れる。


「おお、さすがだ」

「ありがとうございます」


 模範生のように言葉を返すのは、レナ殿下だ。

 教師が絶賛していたのだが、レナ殿下は少し困ったような表情で「魔法と先天属性の相性がよかっただけです」と答えていた。

 それを聞いて、私は結界魔法と相性が悪かったのだ、と思うようにした。


 魔法を発動させること二十回――ようやく結界魔法を成功させた。

 結界の中というのは不思議なもので、暑さや寒さ、音、物理的な攻撃など、何もかも遮断してしまうようだ。

 ただ、これは結界魔法の基礎中の基礎で、強度はなく、先生がモーニングスターで数回叩くと壊れてしまった。

 さらに、魔力の消費も激しい。クラスメイト達の中にはめまいや吐き気を覚えた者もいたようで、数名保健室に運ばれた。


「高位の結界魔法が使えたら、好きなようにアレンジできる」


 たとえばヴァイザー魔法学校の敷地内を守る結界のように、魔物や侵入者を弾くだけに特化したものや、教会などにある魔物の侵入を防ぐものなど、自分の好きな条件で結界を作ることができるようだ。


 ひとまず私達のレベルでは、強度が弱く、すべてのものを遮断する結界しか作れないらしい。


「雪山課外授業では、ペア行動が基本で、一晩中、代わる代わる交代して結界魔法を使うこととなるだろう」


 私達が扱えるようなレベルでは、結界魔法を常時展開させておくことは難しい。

 そのため、雪山課外授業ではペアを決めて、代わりばんこで結界を使うようだ。

 ペアを組むならば、結界魔法が得意なレナ殿下がいい。レナ殿下も女性であることを知っている私とならば、安心できるだろう。


 最後の最後に、ペア決めを行うようだ。


「ペアについては、結界魔法のレベルに合わせて決めることとする」


 先生が個人の結界魔法のレベルを入念に確認しているな、と思っていたのだが、ペア決めに使うための情報収集だったようだ。


「まず、レナ・フォン・ヴィーゲルトとペアを組むのは――」


 もはや神頼みしかない、と思ってお願い!! と祈りを捧げる。

 しかしながら、私の名前は読み上げられなかった。


「エア・バーレ」


 まさかエアがレナ殿下のパートナーだなんて。

 エアを振り返ると、「やっぱりそうだったか」と呟いていた。

 なんでも結界魔法を発動できたものの、強度が極めて弱かったらしい。

 順位はクラスの中でも最下位だろう、と決めつけていたようだ。


 次々とペアが決まっていく中で、ふと気づく。

 パートナーを組むのは同性同士だということを。一晩一緒に過ごすことになるので、そうなるのも無理はないか……と今更ながら気づいてしまった。

 つまり、最初からレナ殿下と私がペアになることは無理な話だったわけだ。


 だったらアリーセと組みたい、と思ったものの、彼女は別のクラスメイトと一緒に名前が読み上げられた。

 彼女のペアはよく喋っている女子生徒だったものの、一瞬、不安げな表情を浮かべていた。

 自信家のアリーセが珍しい。

 もしかしたら何か、心配事があるのかもしれない。

 あとで話を聞いてみよう。


 私のペアはいったい誰なのか。

 ドキドキしていたら、ついに名前が読み上げられる。


「ミシャ・フォン・リチュオルとペアを組むのは、ノア・フォン・リンデンブルク」


 名前を聞いた瞬間、声をあげそうになるほど驚いてしまった。

 ノアは注目が集まっているからか、私のほうを見てにっこりと微笑む。

 普段、あんな顔を見せることはないので、逆にゾッとしてしまった。


 まさか、ノアと一緒に仲良く雪山で野営をしなければならないなんて。

 彼は私のことが大嫌いで――なおかつ男である。

 大丈夫なのか、今から心配になってしまった。

 

 休み時間になった途端に、私はアリーセに声をかける。


「ねえ、アリーセ、少しいい?」

「ええ、別によろしくってよ」


 周囲に聞かれたくない話だったら大変なので、廊下に移動した。

 窓を開き、窓枠に肘を突いて頬を預けながら本題へと移る。


「ペア決めのとき、何か心配そうにしていたけれど、何かあったの?」

「見ていらしたのね」

「ええ。アリーセとペアを組みたかったから」

「光栄ですわね」


 心配事はどうやらペアの相手についてではなかったらしい。


「実を言えば、雪深い山に行くのは初めてで、大丈夫なのか不安でして」

「そうだったの」


 何を持っていっていいものかも、わからないと言う。

 一応、基本的な防寒道具は学校側が用意しているようだが、それでも心配らしい。


「だったら今度の休日に、一緒に買い物に行かない?」

「ミシャと、わたくしが?」

「ええ。あ、エアも誘いましょう!」


 提案をすると、アリーセは嬉しそうにはにかむ。

 これはなんとしてでも、エアを誘わなければならないだろう。

 すぐに誘いに行くと、エアは快諾してくれた。

 そんなわけで、私とアリーセ、エアの三人で休日にお買い物へ行くことが決まった。

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