魔法生物学の授業
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(5月からは隔日更新に戻ります)
二学期からは二学年で習う教科の特別講習が入るようになった。
今日は魔法生物学について教わる。
魔法生物学とは、人間をはじめとする、魔力を持つ生き物全般について習う科目らしい。
今日学ぶのは、魔法生物学の中でもっとも歴史が浅い魔法生物についてだった。
魔法生物学の先生は分厚い教科書を開き、魔法生物がどこからやってきたのか、という説明を始めた。
「魔法生物が国で認定され、広まっていったのは二十年ほど前だったと言われている」
少し前まで、魔法使いが使役できる使い魔は精霊や幻獣、妖精に限定されていたらしい。
それらの生物は数が少なく、使い魔を使役できる魔法使いは一握りだけだったという。
「それ以前は、魔法生物はあまりよいイメージがなかったようだ」
もともと、魔法生物というのは闇魔法使い達の実験で生まれたものらしい。
邪悪な思想を持つ闇魔法使い達に精霊や妖精、幻獣などが従うわけもなく、使い魔が必要な彼らが愛玩用の動物を利用して造りだしたものだったようだ。
「闇魔法使い達が造った魔法生物の命を無駄にしてはいけない――。そんな王家の指示を受け、魔法生物研究所が誕生した。その後、邪悪な思想に染まっていた魔法生物の浄化を成功させた」
その後、繁殖に成功し、善良な魔法生物が生まれたという。
結果、魔法使いの多くが使い魔を従えることができるようになったようだ。
入学式の日に貰った召喚札も、魔法生物が生まれる前までは、使い魔を喚ぶことができない者が大半だったらしい。
魔法生物の数が増えた今は、ほとんどの生徒が使い魔を召喚できる。
「いい時代になったものだ、と誰もが口を揃えて言っている」
先生がヴァイザー魔法学校の生徒だった時代は、使い魔を召喚できる者はクラスに一人か二人程度だったという。
「魔法生物の政策を積極的に進めたのは、王妃殿下である」
反対の声もあったようだが、王妃殿下の出身国であるルームーンでは、魔法生物に似た使役動物が存在していたらしい。そのため、魔法生物の存在は魔法の発展にも繋がると訴え、ルームーンの援助を受けつつ、計画の実現に向けて動いていたようだ。
たしかに隣国ルームーンは我が国ソレーユより魔法文化が発展している。
移動も馬車でなく、魔石車と呼ばれている自動車に似た乗り物が走っているのだ。
スマホみたいな携帯機器もあるし、テレビ放送みたいなものもある。
ルームーンは現代日本に劣らないほどの魔法文明が存在するのだ。
そんなルームーン出身の王妃殿下の言うことには説得力があった上に、資金も提供されたので、皆賛成する方向へ傾いたのだろう。
授業を聞いていると、レナ殿下の母君はとてつもなく偉大なお方なのだな、としみじみと思ってしまった。
◇◇◇
放課後となったが、教室にはクラスメイト達がいつもより多く残っていた。
雪山課外授業の参加の有無について、ホイップ先生が明日のホームルームまでと提出期限を伸ばしてくれたのだ。
皆の話に耳を傾けると、参加したくないと言う者もそこそこいるように思えた。
将来、爵位を継承したり、実家が太い婚約者がいたりする者など、自立した暮らしが必要ない者は、無理に参加しなくてもいいだろう。
なんて、アドバイスができるわけがないのだが。
ホイップ先生は自分で決めるように言っていたのだ。
「レナ様はどうなさるのですか?」
帰ろうか、と思っていたところに、ノアとレナ殿下の会話が耳に入ってしまう。
いつもは素早く帰宅するノアが、残って話をしているのは珍しい。
「私は参加するつもりだ」
「とても危険だと聞いておりますので、無理に参加する必要はないと思うのですが」
ノアはしおらしい様子で聞いているが、瞳は「どうか不参加だと言ってくれ!」と強く訴えているように見えた。
「たしかに、私は危険な場所に身を投じる必要はないのかもしれない。しかしながら、騎士達が普段行っているような訓練を経て、彼らを理解できるような者になりたいのだ。このような経験ができる機会など、きっと今だけだろうからな」
「レナ様……」
ノアはそれ以上、何も言えなくなったようだ。
「君は無理をしなくてもいい」
「いいえ! あなたの隣に立つ者としてふさわしくなれるよう、私も雪山課外授業に参加します!」
ノアは凜とした声で、レナ殿下に言葉を返す。
彼の中にも、王妃となる確固たる覚悟があるようだ。
これが未来の国王と王妃の姿か、と思うと胸がじんと震えた。
盗み聞きするつもりはなかったのに、結果的にそうなってしまった。
そそくさと退散しようとしていたら、レナ殿下に見つかってしまう。
「ああ、ミシャ。もう帰るのか?」
「え、ええ」
「では、途中まで一緒にいかないか?」
大変光栄なお誘いだったが、ノアが邪魔者め、という表情で見ていた。
「そ、その、下校は若いお二人で楽しんで!!」
自分でも意味不明なことだと思ったが、レナ殿下の誘いを断る理由が思いつかなかったのだ。
そのままの勢いで私は教室を飛びだした。
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