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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第一章 新学期のはじまり

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思いがけない疑惑

 今日はヴィルが私のお弁当を作ってくれるらしい。

 昼休みになったら教室で待っておくように、と昨晩カードが届いていたのだ。

 落ち合う場所を決めてくれたら参上するのに、ヴィルは私を迎えにきてくれるらしい。目立たないようにしなければならない。

 そう決意していた私は、四限目の授業が終了を知らせる鐘が鳴り、教師が授業を切り上げると、すばやく立ち上がる。


「あ、ミシャ」

「何!?」


 エアに呼ばれ、勢いよく振り返る。


「いや、俺、今日から食堂だから」


 一ヶ月分の食券を購入したらしい。魔法学校の料金システムはハイテクなもので、生徒手帳を食堂の出入り口にある魔法陣にかざすだけで会計ができるようだ。


「その、一学期中は毎日ミシャに作ってもらっていたっておじさんに話したらさ、ミシャの分も払うとか言いだして」

「そうだったの」


 私の昼食事情について、クラスメイト達に聞かれたくないので、エアの耳元で報告する。


「実は今日、ヴィル先輩が作ってきたお弁当をいただくことになっているの」

「えっ、なん――むがっ!!」


 大きな声で復唱しそうだったので、エアの口を慌てて塞いだ。


「どうしてそんなことになったんだ?」

「一学期に、エアのお弁当だけでなく、ヴィル先輩の食事も作っていたの。そのお礼ですって」

「そ、そうだったのか。じゃあ、今日は一緒に食べられないんだな」

「ええ、そうなの」


 しょんぼりと項垂れるエアの頭を撫でようとしたら、突然手首を掴まれる。


「――え!?」

「ん?」


 エアと私は同時に顔を上げる。そこにはヴィルの姿があったので、ギョッとした。

 私があげたイヤーカフを耳に着けていたので、それにも驚いてしまう。

 魔法使いはアクセサリー類に魔力を込め、魔法を使う媒介とする。その種類は多岐にわたるため、アクセサリー全般は校則で禁じられていない。

 けれどもヴィルにあげたイヤーカフは、私の祝福が込められているだけの品である。それを、学校にまで着けてくるなんて。


 視線を泳がせていたら、ヴィルと目がバチンと合ってしまった。


「ミシャ、約束の時間だ」

「は、はい」


 ヴィルは私の手を握り、そのまま歩き始める。

 昼休みの廊下は生徒達でごった返すのに、モーゼの海割りみたいに生徒達が道を譲ってくれた。


 行き着いた先は、ヴィルと出会った中庭の森だ。

 そこにはテーブルと椅子が持ち込まれ、ヴィルを歓迎するリスやウサギなどの魔法生物が大勢囲んでいた。


 ヴィルは私の手を握ったまま、話しかけてくる。


「ミシャ、一緒にいた男子生徒――」

「エアのことですか?」

「ああ、そうだ。彼とは特別親しいようだが」

「ええ、友達なんです」


 ヴィルの目つきが鋭くなる。

 いったい何が引っかかったのだろうか。よくわからなかった。


「ミシャは友達と思っているかもしれないが、向こうはどうだろうか?」

「え?」

「彼が友達以上だと思っていたらどうする?」

「エアが私を友達以上だと? ありえないです」

「どうして言い切れる?」


 いつになく低い声で聞かれる問いかけに、驚いてしまう。

 けれどもその問いに、私はすらすらと答えることができた。


「エアは私のこと、お母さんみたいだって言っていたんですよ。異性として意識されているわけがありません」


 エアの言うお母さんのイメージは病弱だった実母でなく、パン屋さんや食堂を切り盛りするような頼りになるおかみさんだと語っていた。

 

「母親だと?」

「ええ」


 友情は証明できないが、私とエアはヴィルが気にするような関係ではない。

 そうはっきり宣言しておく。


「そうか……そうだったのか。普段、ミシャが見せないような表情を、彼にだけ見せていたから」


 それはエアに対し、友達と言うよりも、かわいい弟のような目で見ているときがあるからかもしれない。

 決して、母のような慈愛の眼差しではなかったはずだ。


「もしかしたらヴィル先輩も、私に対して母親へ抱く愛のようなものを感じて――」

「絶対に違う!」


 わかりやすく否定してくれたので、よかったと胸をなで下ろした。


「ミシャ、彼との関係を勘違いしてしまい、すまなかった」

「大丈夫ですよ。よく誤解されるので」


 友達だといくら言っても、照れ隠しだと思われるパターンもある。

 それくらい、男女間の友情というものは珍しいらしい。


「私とエアは、お互いに似ていると言いますか、なんというか……。共感できる部分がたくさんあって、話が合うんです」

「羨ましい限りだ」

「そんなふうに思ってくださったなんて」

「ただの嫉妬だ」


 ストレートな言葉を聞いてしまい、私のほうが照れてしまう。

 怖い顔をしたり、声が低くなっていたりしたのは、どうやら焼き餅を焼いていたからだったようだ。

 それがわかると、なんてかわいいことをしてくれるのか、と思ってしまう。


「なんだ、にやにやして」

「嫉妬していただけるなんて、光栄だと感じただけです」

「私が嫉妬しないよう、彼との友情はほどほどにしてくれ」

「そうですね。勘違いされることも多かったので、少し気をつけておきます」

「少し?」

「えーーーー、たくさん気をつけます」

「よし」


 納得してくれたようでよかった。

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