ホリデー明けのアリーセ
ホリデーで皆リフレッシュできたのか、すれ違う生徒達の表情は明るい。
教室でも、クラスメイト達がホリデーの話で盛り上がっていた。
教室に入るとすぐにアリーセがやってきて、挨拶してくる。
「ミシャ、おはようございます」
「おはよう、アリーセ。ホリデーはどうだった?」
「つまらなかったですわ」
アリーセは頬をぷくっと膨らませ、少し拗ねたような様子でいた。
「先ほど、エアから話を聞きましたの。ミシャと一緒に降誕祭を過ごしたって。わたくしはミシャに一度も会っていないのに、手作りのお菓子まで貰ったっておっしゃっていたので、羨ましくなって」
「ごめんなさい。アリーセは家族で過ごすと思い込んでいたから」
「少しお茶をする程度であれば、いくらでも会えましたわ」
まさかアリーセが休日まで私に会いたいと思ってくれていたなんて。
「ミシャはわたくしに会いたくなかったのですか?」
「会いたかったわ。でも、私は保護者の屋敷にいる居候だったから、招待する権利はなくて」
「そうでしたわね。わたくしったら、気づきもせずに……ごめんなさい」
「いいのよ」
エアを降誕祭に招待したのも、慣れない保護者よりも、親しい友達と過ごすほうがいいのではないか、とレヴィアタン侯爵夫妻が気を遣ってくれたものだ、と説明しておく。
「エアも、そうだったのですね。下町育ちと聞いていたものですから、てっきりご両親のもとでホリデーを過ごしたものだとばかり」
途端に、アリーセはシュンとなる。
「家族と一緒にのうのうと過ごしていたのは、わたくしだけだったのですね。そうとは知らずに、二人を羨ましいと思ってしまいました」
「気にしないで」
「しかし……」
何かアリーセが元気になるようなものはないのか、と考えていたら、ピンと閃く。
「そうだわ! アリーセ、今度、エアと三人でパーティをしましょうよ」
「なんのパーティですの?」
「そ、そうね……あ! そういえば、月末がエアの十八歳の誕生日だと言っていたわ。サプライズでお祝いをしましょう」
そんな提案をすると、アリーセの表情がパッと明るくなる。
「いい考えですわ! 三人だけで、やりましょう!」
アリーセが元気になったので、ホッと胸をなで下ろす。
「エアには内緒で、こっそり計画を立てません?」
「いいわね! まあ、その前に雪山課外授業があるのだけれど」
「それがどうなさいましたの?」
「いえ、噂によると、騎士隊の訓練並みにきついとかで」
「まあ! そうでしたのね」
アリーセと二人で遠い目になる。
無事、乗り越えることができたらいいのだが。
アリーセと別れ、自分の席にいくと、エアが元気よく挨拶してくれた。
「よう、ミシャ、おはよう」
「エア、おはよう」
ホリデーはどうだったか聞くと、エアはまあまあだったと答える。
「何をしていたの?」
「課題をやって、暇になったらリザードと遊んでた」
リザードというのはエアの使い魔である。
みるみるうちに大きくなり、現在は小型犬くらいの大きさになっている。召喚した当初はエアの胸ポケットに入るくらいの大きさだったのに。今はエアの通学鞄の中に入り、眠っているようだ。
「ジェムは? 今日は家に置いてきたのか?」
「きているわよ。最近姿隠しの魔法にはまっていて、人がいる場所では気配を消しているの」
ジェムは誰もいない教壇に登り、我が物顔で左右に揺れていた。
普段であればあのような注目を集める行動はしないのだが、誰にも見えていないからか、元気よく動き回っていた。
そんなことはさておき、エアは比較的穏やかなホリデーを過ごしたらしい。
「なんかさ、おじさんと過ごす初めてのホリデーで、気まずいんじゃないかって思っていたんだけれど、暖かい部屋があって、気遣ってくれる人達がいて、おいしい料理が用意されていて、悪くなかったな、って思ったんだ」
これまでエアは薪もまともに買えないような環境で、頼りの母親は体が弱くて寝込むことが多く、食事もまともに取れないような日々だったという。
子どもが当たり前のようにもたらされるものが、エアにはなかったのだ。
「おじさんを家族と言っていいのかわからないけれど、そういう人がいてくれるのは恵まれているんだな、って感じた」
「そう」
エアを今すぐ抱きしめたくなったものの、教室でそんなことをしたら熱愛騒ぎになってしまうだろう。
そしてエアからもまた、母親のようだと言われてしまうに違いない。
今日のところはぐっと我慢した。
ホームルームの開始を知らせる鐘が鳴るのと同時に、ホイップ先生がやってくる。
「はいはい、みなさん、席について~」
ホリデー気分が抜けきっていない私達に、ホイップ先生は現実を知らせてくれる。
「今から一週間後に行われる雪山課外授業の予定表を配るわあ」
冊子状の分厚い予定表を前に、私は戦々恐々としたのだった。