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ミシャの従姉、リジーの言い分・後編

 ついに、ルドルフはあの女に婚約破棄を宣言した。あの女の引きつった表情を前にするのは見物だった。

 あの女が長年奪っていたものを、取り戻すことができたのだ。

 今日ほど、気持ちのいい瞬間はなかっただろう。

 ルドルフは殴られてしまったものの、あの女の評判を下げることに一役買ってくれるに違いない。

 今後はこの屋敷の女主人として、楽して暮らそうと思っていたのに、なぜか庭師に追いだされてしまう。

 どうやらあの女は腕力がある庭師に媚びを売り、いいなりにさせていたようだ。

 今後はそうもいかない。

 ルドルフを手に入れることができた。同時にリチュオル子爵家はあたしの物となったのだ。


 そのままの足で教会に向かい、昼寝をしていた神父をたたき起こし、神様の前で夫婦の誓いを交わした。

 あたし達は正真正銘、夫婦となったのだ。


 あとは屋敷で暮らすばかりだと思っていたのに、リチュオル子爵の使用人達があたしやルドルフを除外しようとしていた。やってきたあたし達を、屋敷の中へ入れてくれなかったのだ。

 きっとあの女があたし達の悪口を言って、のけ者扱いするよう命じたに違いない。

 あの女や使用人相手では話にならない。伯父と話せば、わかってくれるだろう。

 夜、こっそり屋敷へ忍び込み、伯父と接触することに成功した。


 伯父は腰抜けだから、これまでルドルフが覚えたリチュオル子爵家の内情を漏らすと言ったら、手放さないだろう。

 そう信じて疑わなかったのだが、ありえないことに、ルドルフが日々、せっせとこなしていた帳簿は教材だったという。

 ここで、ルドルフがどうかここで働かせてほしい、と引き下がる。

 彼にはその権利があると思っていたが、伯父は首を横に振った。

 さらに、ここからでていくように言ってくる。


 体の弱いルドルフが、ここ以外で生きていけるわけがない。

 外でなんか働いたら、死んでしまうだろう。

 人殺しにでもなるつもりか、と罵声を浴びせようとしたのに、またしても使用人から追いだされてしまった。


 外の冷たい風に吹かれながら、憎らしい気持ちがわき上がってくる。

 こうなってしまったのもすべて、あの女のせいだ。

 絶対に許さない。

 ぐらぐらと怒りで我を失いそうだ。

 憎しみだけが、あたしの傍に寄りそってくれるような気がした。 


 ◇◇◇


 それからの日々は酷いものだった。

 しばらく安宿に身を寄せたのだが、彼は体調が悪いと言って寝込み、てんで役に立たない。

 このままでは働かなくてはいけなくなる。こんな生活を送るなんて、あたしにふさわしくない。

 本当ならば、リチュオル子爵家の女主人になれるはずだったのに……!

 たった一週間で、あたしは安宿に見切りをつけようと決意した。

 男と逃げた母親が唯一残してくれたのは、王都に住む父親との連絡手段だった。

 あたしを捨てた父親になんか絶対に頼らないと思っていたのだが、状況が変わった。

 王都にいって、返り咲いてやる!!

 そのためには、ルドルフが必要だった。こんな病人でも、王都で使えるかもしれないから。もしも足を引っ張るようならば、売っ払ってしまえばいい。

 ルドルフの私物をいくつか売って、新婚旅行にでかけると言って、ラウライフの地を飛びだしていった。

 王都への道のりは大変だったが、なんとかたどり着いたのだった。

 父親とはすぐに連絡がついた。

 母親の実家である下町の酒場で、くだを巻いていたようだ。

 あたしが娘だと名乗り、ルドルフを紹介すると、怪訝な表情を浮かべていた。

 けれどもルドルフの高貴な生まれについて話すと、よくぞきてくれた、と大喜びしていたのだ。

 なんでもルドルフの生まれは利用できるかもしれない、と言う。

 父親を探しだして秘密を喋ると脅し、金をせびるつもりのようだ。

 期待はしていなかったが、あたしの父親は相当なクズのようだった。


 それからというもの、あたしはあれこれと行動を起こすようになった。

 祖父母は働けと言うけれど、労働なんてこのあたしに相応しくない。

 未来への投資だと思ってルドルフの名前で金を借りて、社交界への伝手を繋いでもらう。

 新参者に対する態度は冷たいものだったけれど、ラウライフみたいに寒くないし、男達は言いなりになってくれるし、悪くはなかった。

 ただ、王都で返り咲く夢は諦めていない。

 いつか酒癖の悪い父や体が弱っちいルドルフを捨てて、高貴な身分の貴公子の妻になってやる。

 そのためには金が必要なのだ。

 

 数ヶ月後――そのチャンスが訪れる。

 あのクズでクソな父親が、とんでもない話を持ち帰ってきたのだ。

 それは、隣国ルームーンの王女殿下がヴァイザー魔法学校に留学しにやってくるらしい。そのお付きにこのあたしが抜擢されたようだ。

 なんでも父が仕えているツィルド伯爵が、王女殿下の傍付きができる者を養女に迎えたいと言ってくれたようだ。

 そのさい、父が娘である私はどうか、と言ってくれたようだ。

 ツィルド伯爵は一度客の振りをして酒場にやってきたようだが、気立てのいいあたしを見て、気に入ってくれたようだ。

 あたしは伯爵の娘として、王女殿下の傍付きをしながら、魔法学校に通えるという。

 そのさい、面白い情報を聞いた。

 なんでもその魔法学校には、あの女、ミシャ・フォン・リチュオルがいるらしい。

 まさかあの女と、王都で会うことになるなんて。

 王女殿下の傍付きであるあたしに、あの女が勝てるわけがない。


 今度こそ、こてんぱんにしてやる、と心に誓ったのだった。



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