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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第四章 真相を探れ!

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降誕祭の贈り物

「えっ、これ、通信魔法って、どうして!?」

『どうもこうも、ミシャは婚約者でないのに二人きりでは会えないとかなんとか言うから、作ってみた』

「手作りなんですか!?」

『ああ』


 なんでも市販の手鏡に、魔宝石を一粒一粒丁寧にちりばめ、魔法陣を描いて完成させた物だという。

 手鏡には盗聴防止機能がついているので、安心して会話ができるらしい。

 内緒話をしたいときは、今度からこれを使えばいいのだ。さすがヴィルである。


『手紙を交わすのもいいが、声が聞きたいときもあるかもしれないと思って』

「そうだったのですね。ありがとうございます、とても嬉しいです」


 そんな言葉を返すと、ヴィルは安堵するような表情を浮かべた。

 実は私もヴィルに贈り物を用意している。

 以前、街へ買い物にいったときに、こっそり購入していたのだ。

 銀のイヤーカフに、祝福の魔法をかけたものである。

 ヴィルの耳は穴など空けていないきれいなものなのだが、耳飾りが絶対に似合うと思って購入したのだ。

 イヤーカフならば、耳に穴を空けずとも装着できる。

 しかしながら今日、正装姿をした彼を見て、私が買った品なんか身につけさせてはいけない、と思ってしまったのだ。


 もちろん、安物を買ったつもりはない。

 けれどもヴィルは生まれた頃から一級品だけを身につけ、育ってきた男性ひとである。

 私が買える範囲の銀製品なんて、ヴィルにふさわしくないだろう。


「あの、私は何も――」

『うわっ、なんだ!』


 ヴィルの驚いたような声が聞こえ、何事かと覗き込んだ瞬間、手鏡はどこかに放りだされていた。


『どうしてここにいる!?』


 その声色は危機に迫るものではなく、見知った者に対する非難的なものに聞こえた。

 久しぶりにお酒を飲んで酔っ払ったと言っていた、エグムント卿でもやってきたのだろうか。


 相手の声などは聞こえない。いったい誰なのかと思っていたら、手鏡に見知った球体が映り込んだ。


「え、もしかして――」

『おい、ジェム!!』


 ヴィルもはっきりと、〝ジェム〟と呼んだ。

 そういえばお風呂から上がってからずっと、ジェムの姿がなかった。

 どうしてヴィルのもとへいったのか。理解できない。


「ねえ、ジェム、そこで何をしているの!?」


 ジェムは私の問いかけを無視し、くるりと背面を見せる。

 ヴィルの部屋にいって捕まえてこないと! と思ったものの、今の自分自身の格好に気づく。

 薄い寝間着を着ていて、人前にでられるような姿ではなかった。

 この状態をヴィルに見られていたのだと気づくと、途端に恥ずかしくなる。

 慌ててガウンをまとい、前身頃をきっちり閉めた。

 いやいや、今は格好なんて気にしている場合ではなかった。


「ジェム、戻ってきなさい!!」


 いくら命じても、ジェムは応じない。

 ジェムはいったい何を目的にヴィルのもとまでいったのか。

 鏡を注視していると、ジェムは突然触手をにゅっと伸ばす。

 その先には、私が隠し持っているはずの包みが握られていた。


「まって、ジェム、それは――!!」

『ん? なんだ、私への贈り物か?』


 包みには丁寧に、ヴィルフリート・フォン・リンデンブルク様へ、と書いてあった。

 ヴィルはそれを手にし、自分の名前が書いているのを確認した瞬間、嬉しそうな表情を浮かべる。

 彼は手鏡を再度手にし、話しかけてきた。


『これはミシャから私への贈り物だな』

「ええ、まあ……」


 まさかジェムがヴィルのもとへ持っていっていたなんて。

 心の中で頭を抱える。


『今、開けてもいいか?』

「どうぞ。たいした品物ではないですけれど」

『そんなことはない』


 包みを開封するため、ヴィルは手鏡を置いたようだが、ジェムが持ち上げてヴィルの様子を見せてくれた。


 ヴィルは瞳をキラキラ輝かせながら、包みを開いている。


『これは――』

「イヤーカフです」


 手にした瞬間、ヴィルはハッとなる。


『もしや、ミシャの魔力がこめられているのか?』

「ええ、祝福を少々」

『すばらしい』


 ヴィルはすぐにイヤーカフを身につけてくれた。

 耳飾りを装着するのは初めてのようで、少し手間取っていたが、なんとかつけることができたようだ。


『どうだろうか?』

「とてもすてきです!!」


 思っていたとおり、ヴィルは耳飾りがよく似合う。

 ヴィルが身につけていると、私が購入したイヤーカフが最高級品に見えてしまうから不思議である。

 値段を気にしていたが、身につける人が一流だと、それなりの品物に見えてしまうようだ。  


『ミシャ、ありがとう。こんなに嬉しい降誕祭の贈り物は初めてだ』


 なんでもヴィルは、私がエアに贈り物をしているところを目撃し、自分にはないのか、と落胆していたらしい。


『まさかこのようなすばらしい品を用意してくれていたなんて……!』


 こんなにヴィルが喜んでくれるとは、夢にも思っていなかった。

 ジェムのおかげで、彼の笑みを見ることができたのだ。

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