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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第四章 真相を探れ!

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叔父と別れたあと

 叔父の借金を肩代わりしてくれるですって? 

 まあ、なんてすばらしい雇用主なんでしょう! なーーーーんて思うわけがない。

 ツィルド伯爵の瞳は野心でギラギラしていた。

 未来のリンデンブルク大公であるヴィルに恩を売りたい、という下心が手に取るようにわかるのだ。


 叔父は初めての恋を自覚した乙女のように頬を染め、ツィルド伯爵の傍へ駆け、深々と頭を下げる。


「ツィルド伯爵、ありがとうございます! いいのですか?」

「いいわけないでしょう!!」


 ツィルド伯爵に言葉を挟む暇なんて与えず、私は叔父を制する。


「借金は叔父様が働いたお金から返してもらうわ」

「いや、雇用主であるツィルド伯爵が払ってくれる金だから、俺が稼いだようなもんだろうが!」

「それじゃだめなの。叔父様が父に対する反省の気持ちを抱きながら、一生懸命になって働いて、もらったお金で返済することに意味があるのよ!!」


 叔父はピンときていないようだ。

 これ以上、何を言っても無駄なように思える。

 そろそろ引き下がるときなのかもしれない。ヴィルのほうを見ると、こくりと頷いていた。


「叔父様、いい? この世の中は悪いことはできないようになっているの。運がよくて人の目を掻い潜ったとしても、神様が罰を与えるんだからね」


 悪いことに心当たりがある叔父は、サーーーッと顔色を青くさせていた。

 けれどもこの場で改心するような善良な心は持ち合わせていないようだった。


 ツィルド伯爵がヴィルを引き留め、叔父に借金を返させると言う。


「それはツィルド伯爵でなく、叔父が父と話し合うことかと思います」


 ツィルド伯爵なんかに、恩やリンデンブルク大公家との繋がりを作らせるわけにはいかない。

 この場ではっきりと言っておいた。


 ツィルド伯爵邸をあとにする。

 なんというか、とてつもなく疲れてしまった。


 帰りは開けた場所まで歩いて、そこからセイクリッドの背中に乗った。


「なんというか、叔父様を見て、驚きましたよね?」

「まあ、往生際の悪さは目を見張るものだった」

「ええ、本当に……」


 叔父はリチュオル家の恥である。

 家族は皆、真面目な人ばかりなのに、叔父一家は常識から外れるような行動を取り続けるのだ。


「叔父みたいな人が私の身内にいるとリンデンブルク大公が知ったら、ヴィルとの付き合いを嫌がると思います」

「なぜ? あの叔父とミシャは関係ないだろう?」

「そうですけれど、貴族の家に生まれたとなれば、個人と家族は切り離せるものではないので」

「それは……たしかに。しかしながら、私は別に気にしていない。ミシャはミシャで、あの者はあの者だ。同じようには考えていない」

「ありがとうございます」


 長年、ヴィルもリンデンブルク大公の嫡男としてしか見られず、歯がゆい思いをしていたので、そのように言ってくれるのだろう。

 私がどこの誰であろうと関係なく、接してくれるヴィルの存在がとてもありがたかった。


「ミシャ、これから時間はあるか?」

「え? はい」

「だったら、少し息抜きをしよう」


 ヴィルは私の腰に腕を回し、掴まっておくようにと耳元で囁く。

 至近距離で声を聞いてしまい、心臓が口から飛びだしてくるかと思った。

 これ以上、ドキドキさせないでほしい。なんて、本人に言えるわけもないのだが。

 セイクリッドは加速し、広大な空の海へ飛び込んだような気持ちにさせてくれる。


 果てのない空を前にしていると、私が抱える悩みなんてたいしたことではないように思えるから不思議である。


 なんて考えていたら、ヴィルが私に真っ赤な魔石を差しだしてきた。


「これは?」

「火の懐炉かいろだ。懐に入れておくと暖かい」


 なんでも今からいく場所は、標高が高く、寒い場所らしい。

 少々の寒さならば平気だが、ヴィルの好意だと思って貸してもらうことにした。

 飛行すること一時間ほど。

 雪が積もる雪原にやってきた。


「ここから少し歩くことになるが、大丈夫か?」

「ええ、もちろん」


 ジェムがケープ状に変化してくれたので、それも着用する。

 雪原は雪が五センチほど積もるばかりで、この程度であればなんてことない。

 その後、しばらく歩き、樹氷の森に入る。


「ヴィル、この先に何かあるのですか?」

「ああ」


 具体的に何があるかまでは教えてくれなかった。サプライズをしたいのだろう。

 樹氷の森を歩くこと十五分ほどで、 開けた場所にでてきた。

 そこも雪原と思いきや、よくよく見たら雪の中に見たこともない白い薬草が生えている。


「ヴィル、これはなんですか?」

「〝六花草〟だ」

「それって、雪属性の杖の素材の?」

「ああ」


 膝をつき、六花草を確認する。

 茎、葉、根まで真っ白な薬草で、なんとも美しい見た目をしている。

 これを乾燥させ、粉末にし、水で溶いたあと、杖の着色に使うようだ。


「六花草のある場所を、探してくれていたのですね」

「まあ、そうだな。ただ、この場所が王都付近で唯一六花草が自生する条件が揃っていると知っていただけで、実際に生えているとは思っていなかった」


 たぶん生えているだろう、という想定のみで、ここまで私を連れてきたらしい。


「もしもなかったら、ここで六花草を育てようと提案するつもりだった」

「そうだったんですね。育てるの大変そうなので、あってよかったです」


 まさか杖作りについて、ここまで考えてくれていたなんて。


「ヴィル、ありがとうございます」


 感謝の気持ちを伝えると、ヴィルは美しい笑みを返してくれたのだった。

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