叔父との再会
どこにいけばいいものかと困惑していたら、壮年の男性がやってきて会釈する。
彼は筆頭執事だと名乗った。
どうやら執事は叔父だけではなかったらしい。
叔父が取り仕切る屋敷なんて大丈夫なのか、と心配していたので、ホッとした。
「ようこそおいでくださいました。主人のもとへご案内します」
人がいてよかった、と当たり前のことなのに安堵してしまう。
ツィルド伯爵邸には、わかりやすい魔法がたくさんあった。
センサーライトのように自動で光る灯りに、傍に寄ったら美しく彩る花、実在する場所を映し出す絵画などなど。
魔法学校に通う前の私ならば、心を躍らせていただろう。
まるで魔法を見せびらかすような廊下を通り過ぎると、ツィルド伯爵が待つ部屋に到着した。
筆頭執事は扉を叩いて、私達の訪問を知らせてくれた。
「ご主人様、ヴィルフリート・フォン・リンデンブルク様がいらしゃいました」
「通せ」
筆頭執事は一礼したのちに、扉を開く。
部屋には四十代半ばくらいの男性が、女性を侍らした状態で座っていた。
女性達は夜会でも見かけないくらい胸が大きく開いたドレスを着ていて、愛嬌たっぷりに微笑んでいる。
彼女達はツィルド伯爵の愛人なのだろう。
「ヴィルフリート殿、よくきてくれた。そこに座ってくれ」
長椅子に腰掛けると、ちょうど視線の先に愛人の胸元があった。
目のやり場に困るので、愛人達は下がらせてほしいのだが。
「今日はうちの執事に用事があるんだったな?」
「ええ。すぐにでもガイ・フォン・リチュオルを呼んでいただけるとありがたい」
「もちろんだとも」
ツィルド伯爵は筆頭執事に叔父を連れてくるよう命じていた。
ここで、ヴィルと叔父が顔見知りかわかるわけだ。
叔父が犯行時、偽名を騙っていた可能性があるため、安心できない状況だったわけである。
待つこと五分、ノックもなく扉が開く。
叔父はアイロンがかかっていないくたびれたシャツに、着古したようなズボンを穿いた姿で登場する。
「伯爵、今日は休みなのに、勘弁してくださいよ。それとも、新しい女を下げ渡してくれるんですか?」
叔父は最低最悪の言葉と共に登場してくれた。
「ガイ、お前に客だ」
「客ぅ?」
ヴィルが立ち上がって叔父に会釈する。私は彼の背後に隠れ、様子を窺う。
「ああん、誰だ、この兄ちゃん?」
叔父はヴィルの顔に見覚えはないようだ。
ヴィルは私を振り返り、叔父で間違いないか確認してくる。
彼の表情を見ても、知っている人に会ってしまったようには見えなかった。
間違いないと頷くと、ヴィルは私を紹介してくれた。
「貴殿に紹介したい女性がいる」
「んん? なんだあ?」
ここで、私が叔父の前に登場する。
「叔父様、お久しぶりです」
「なっ、お前は!!」
「叔父様のかわいい姪、ミシャよ。いろいろと、叔父様に聞きたいことがあって、ここまでやってきたの」
「し、知らん! お前みたいな女など!」
まさかの他人の振りである。罪を認めないことは想定していたが、まさか身内を他人呼ばわりするなんて。
今、ここで叔父の罪について糾弾したとしても、拘束される先は騎士隊だ。
レナ殿下を誘拐した証拠がないと言われ、当日のうちに釈放されるのが目に見えている。
悪人が目の前にいるのに、何もできないのには歯がゆい。
ただ今日は、ヴィルと叔父の間に繋がりがなかったとわかっただけでも十分だろう。
今にも逃げそうな叔父の腕を、ヴィルが掴む。
「お、おい、離せ!」
「貴殿はミシャの父親に、借金をしていたのだろう? なぜ返済しない」
「し、知るか!!」
ここで、ツィルド伯爵が口を挟む。
「ガイ、お前はその娘の父親に対し、いくら踏み倒したのだ?」
「なっ、いえ、借金はありませんが」
「いいから正直に言え」
ツィルド伯爵はヘビのように叔父を睨み付ける。
叔父はカエルのように「ぐえっ……」と嗚咽を漏らしたのちに、白状した。
「銀貨……五枚くらいです」
信じられないことに、叔父は自らの借金を少なく申告した。
そのような戯れ言など許さない。私はすぐに修正する。
「お父様に借りていたのは、金貨十枚よ」
ちなみにそれ以外の借金が、探偵調べで金貨百枚ほどあるが、それについては触れないでおこう。
「ガイ、本当なのか?」
「いえ、その」
「本当のことを言わないと、解雇するぞ」
「き、金貨十枚です!」
叔父が認めたところで、ツィルド伯爵が思いがけないことを言った。
「ならばその借金を、私が立て替えておこうか!」




