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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第四章 真相を探れ!

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レヴィアタン侯爵邸を目指して

 レヴィアタン侯爵家が立つ深い森の中は強い風が吹いたり、天気が悪かったり、霧が深かったりするので、ブリザード号でいくのは危険だろう。

 そう判断した私は、貸し切り馬車で向かうことに決めた。

 レヴィアタン侯爵から、貸し切り馬車の乗車券をもらっていたのだ。そのため、私の懐は欠片も痛まない。

 ジェムと共に馬車へ乗り込み、レヴィアタン侯爵邸を目指したのだった。


 初めての飛行で、体力や魔力を消費したからだろうか。馬車の中で揺らされているうちに、眠たくなってくる。

 眠気に抗うことができなかった私は、うたた寝してしまった。


「――重たい!」


 謎の重量感で目を覚ます。何事かと思えば、液体状になったジェムが私の膝の上に乗っかっていたのだ。


「え、ジェム……? 私に甘えたかったの?」


 そう問いかけると、ジェムは『ピンポーン!』と鳴いた。


「い、今の音、何!? 前世のクイズ番組でしか聞いたことがなかったんだけれど!」


 ジェムの反応に驚き、眠気が吹き飛んでしまった。

 もう一回聞かせてと言っても、ジェムはプイッとそっぽを向くばかりで、聞かせてもらえなかった。


 気まぐれな子なので、いくら言っても無駄なのだろう。

 私は早々に諦めた。


 鬱蒼とした森を進んでいたが、レヴィアタン侯爵家の敷地内に到着したようだ。

 馬車はレヴィアタン侯爵邸の門をくぐる。

 黒薔薇の蔓とマンドレイクは元気だろうか。なんて思いながら窓の外を眺めたのだが、いつもと違う光景にギョッとした。

 怪しく発光する提灯に、ふよふよと漂う火の玉――これだけでもかなり不気味なのに、地面に埋められた人の手のようなものがいくつも見え、どれも微かに動いていたので、悲鳴をあげそうになった。

 けれどもよくよく見たら、人の手ではなく、小さな木だった。ただ、動いているのは見間違いではない。

 あれはきっと、魔法植物なのだろう。

 レヴィアタン侯爵邸の不気味さがより際立つようだった。

 なんとか息を整え、玄関前に降り立つ。

 ジェムは馬車の扉から勢いよく飛びだしてきた。地面にぶつかって割れるんじゃないかと心配だったが、きちんと液体状に変化してから着地していた。


 レヴィアタン侯爵邸にあるオーガを象ったノッカーを叩くと、お馴染みの執事が顔を覗かせる。


「はあい。おやおや、ミシャお嬢様ではありませんかあ。お帰りなさいませえ」

「ただいま」


 今日の執事は顔に返り血を付着させた状態だった。

 ハンカチを差しだしつつ、指摘する。


「頬に血がついていますよ」

「ああ、なんて失態を」


 執事はぺこぺこしながらハンカチを受け取り、血をしっかり拭っていた。


「何をしていたんですか?」

「今日は降誕祭のごちそうに使う、七面鳥を絞めていたんですよお」


 今日くらいから絞めないと、降誕祭の当日までにお肉がやわらかくならないと執事は言う。


「やはり降誕祭の四日前くらいが、死後硬直が解けて、肉が口の中でほろほろ解れるようになるんですよお」 

「は、はあ」


 よくよく確認したら、執事の服には七面鳥の羽根と思しきものが何枚も突き刺さっていた。

 取ってあげると、執事はにっこり微笑み、お礼を言ってくれる。


「降誕祭の当日はごちそうがたくさん並ぶので、楽しみにしていてくださいねえ」

「はい!」


 レヴィアタン侯爵夫妻が私を待ち構えているという。

 執事と深く話し込んでいる場合ではなかったようだ。


 リビングルームに向かうと、レヴィアタン侯爵夫妻が同時に立ち上がる。夫人が私のもとへ駆け寄り、優しく抱擁してくれた。


「ミシャさん、おかえりなさい」

「ただいま戻りました」


 レヴィアタン侯爵もやってきて、私の頭を撫でてくれた。

 温かな歓迎に、胸が熱くなる。


 レヴィアタン侯爵夫妻はヴァイザー魔法学校で起こった食中毒事件についての話を聞いていたらしい。

 

「手紙に書いていいものか、悩んでいたのだ」

「私はこの通り、なんともありませんでした」


 詳しい話をすると、レヴィアタン侯爵夫妻は驚いていた。


「死者をださなかったとは……! 皆の行動の一つ一つが、すばらしい働きだったことだろう」

「本当に」


 思い出しただけでもゾッとするような事件だった。

 無事、解決してよかったと心から思う。


 話が一段落したタイミングで、ジェムがお土産のレモンケーキを差しだしてきた。


「ああ、そう! これ、街で買ってきたんです。よろしかったらどうぞ」

「まあ! 〝ジョンブリアン〟のレモンケーキではありませんか!」


 レヴィアタン侯爵夫人でも噂に聞くばかりで、人気のあまり一度も購入できていなかったお菓子だと言う。


「長時間行列に並んだのではないのですか?」

「いえ。友達が紹介状を持っていて、それで待ち時間もなく購入できたんです」

「そうでしたの」


 レヴィアタン侯爵はピンときていないようだったが、夫人はとても喜んでくれた。

 ホッと胸をなで下ろす。


 しばしレモンケーキを囲んでお茶を楽しんでいたが、降誕祭のパーティに招待いただいたことを思い出した。


「あの、このたびはすてきなパーティに招待いただき、ありがとうございました」

「驚かなかったか? 妻が突然、招待状を送ったものだから」

「いいえ。とても嬉しかったです。エアも、楽しみにしていると言っておりました」

「だったらよかった」


 なんでも降誕祭のパーティには、レヴィアタン侯爵夫妻の息子達も帰ってくるという。

 どんな方々なのか、とても楽しみだ。

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