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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第四章 真相を探れ!

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空を飛んで王都の街へ!

 一気に木の高さくらいまで飛び上がる。

 柄にぶら下がったジェムはみょーんとチーズのように伸びていた。

 このままだと地上についてしまいそうだ。


「いや、ジェム、長過ぎ!」


 そう指摘すると、触手がするする短くなっていく。

 スーパーの買い物袋の持ち手くらいの長さに収まった。


 緊張しているようで、手のひらにじんわり汗を掻いている。

 もしもこの手を離してしまったら、真っ逆さまだ。

 ぎゅっと力を込め、柄を握りしめる。

 ただ、今は恐怖よりも、わくわく感のほうが勝っていた。


 だんだんと高度を上げていき、とうとう校舎よりも高く飛んだ。


「わ、わあ!」


 上空から見た魔法学校は、敷地内が魔法陣の形になっていることに気づいた。

 結界は校舎やクラブ舎、寮などの建物を魔法の核とし、結界を展開させているのだろう。

 いったい誰が考えたのか。すごすぎる。

 学校の敷地は思っていた以上に緑が多い。そして、なんの建物かわからないものも上空から見たらいくつかあった。


 学校の敷地からでようとした瞬間、行く手を阻むように魔法陣が浮かんだのでびっくりする。

 それだけでなく、ブリザード号の飛行も強制的に止められてしまった。


「え、何!?」


 魔法陣には署名をして身分を示し、外出許可を示すように、と書かれてあった。

 これは空からの侵入や脱走を防ぐ魔法のようだ。

 さすが、魔法学校と言えばいいのか。その辺のセキュリティも完璧なわけだったのだ。

 署名を求められたが、ペンなどないので、空中に文字を書く感じでいいのか。

 ミシャ・フォン・リチュオル――そう指先で書いていくと、魔法陣が光り、そのまま消えていった。

 外出許可はなかったが、今はホリデー中なので、提示しなくてもいいようだ。

 そして、飛行も可能となる。


「ふーーーー、驚いた!」


 無事、魔法学校の敷地内を抜け、王都の街を目指す。

 あまり高い位置を飛んでいると、飛行系の魔物と遭遇してしまうらしい。

 飛行系の魔物の数は多くなく、遭遇率も低い。

 けれども強力な魔物が多いようで、注意しておくように、と授業で習った。

 魔物との戦闘は避けたいので、なるべく低い位置を飛んでいく。

 地上にも魔物はわんさかいるので、こちらにも注意が必要だった。


 あっという間に、城下町に到着した。

 ひとまず中央街まで飛んでいき、上空から渡り鳥の風見鳥がある屋根に降り立った。

 これは上空を飛んでいる魔法使いが自由に着陸してもいい、と示す物なのだ。

 はしごも用意されているので、ありがたく利用させていただく。

 地上に降りると、任意で代金を入れる箱がある。心ばかりのお礼として銅貨を一枚入れておいた。

 ふと、ジェムがついてきていないことに気づく。

 視線を感じたので上を見ると、ジェムが屋根の上から私を見つめていた。


「ジェム、降りてきなさい」


 球体なので、はしごを伝って下りることは難しいのだろうか。

 屋根からの高さを飛んで着地したらどうかと提案するも、左右にぶるぶる揺れる。


「もしかして、怖いの?」


 ジェムは控えめにこくりと頷いた。高いところが怖いだなんて、意外とかわいいところもあるものだ。

 私が再度屋根に上がって、薄く伸びたジェムを持って下りてくればいいのか、なんて考えていたが、別のアイデアが浮かんだ。


「ねえ、ジェム。液体状になって、はしごを下りてくるのはどう?」


 ジェムはよく、本物のスライムのように、ぷるぷるとした液体状に変化することがあったのだ。

 ジェムは宝石スライムなので、スライムというよりは水銀のほうが近いのかもしれないが。

 そんなことはさておき、ジェムは私の言うとおり液体状となる。

 粘度のある液体がこぼれるように、ぬるぬるとはしごを伝って下りてきていた。


「よくできました!」


 褒めてあげると、ジェムは嬉しそうにちかちか発光させる。

 愛い奴め、と撫でてあげたのだった。

 球体へ戻ったジェムは、私のあとに続く。念のため、はぐれないようにと言っておいた。


 路地裏から大通りへでると、人通りの多さに圧倒される。

 王都は社交期に突入し、一ヶ月も経っていないのに、各地から集まった貴族達が行き来していた。

 この人込みだとブリザード号は邪魔になるだろう。ジェムに預けておく。


 中央街にはたくさんの商店が並んでいた。

 目移りしそうだが、買う物は決まっている。

 以前、アリーセがおいしいと話していた、レモンケーキのお店だ。

 アリーセがくれた紹介状を手に歩いていたら、長蛇の列を発見してしまう。

 並んでいるのはメイドや従僕といった、貴族の使用人達だ。

 まさか、と思って行列の先に視線を移してみたら、レモンケーキのお店だった。


「すごい人気ね」


 二時間ほど並んだら購入できるだろうか。

 他にもお菓子を売るお店はある。けれどもすでにレモンケーキを食べたい気分になっていたため、行列に並ぶことにした。

 しばし待っていたら、レモンケーキの店員がひとりひとりオーダーを聞いているようだった。

 事前にお店の在庫とすり合わせているのだろう。

 ついに、私の番が回ってきた。


「いらっしゃいませ、お客様――あ!」


 アリーセからもらった紹介状を見た店員は、「どうぞこちらへ!」と誘導してくれた。

 何事かと思ったら、裏口からお店の中へと案内してもらう。


 扉を開けた先はすっきりと洗練された喫茶店で、紅茶とレモンケーキがでてきた。

 なんでもここは、常連客のみ利用できる特別なサロンらしい。

 レモンケーキはとてもおいしく、酸味の利いたアイシングと、レモンの皮が入った生地の香りが最高だった。


 じっくり堪能したあと、店員が注文を聞きにやってくる。

 レモンケーキを二十個ほど注文すると、すぐに包んでくれた。

 金額も二割ほど割り引いてくれたようだ。

 これが、アリーセの実家の力!

 今日ばかりはありがたく思った。 

 

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