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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第四章 真相を探れ!

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ホリデーに入る前に

 皆がいそいそと寮から大きな鞄を抱えて帰宅する中、私はジェムと一緒に温室で作業を行っていた。

 ホリデー期間中は薬草をすべて摘み、土の休息期間にするらしい。

 そのため、今日のお仕事は薬草摘みという単純作業である。

 今、生えている薬草は乾燥させ、長期保存が可能なものである。

 ホリデー期間中にホイップ先生が加工するようだ。

 作業が一段落したタイミングでホイップ先生がやってくる。


「あら、すべて終わってしまったのねえ」

「ええ。ジェムが手伝ってくれたので」

「そう。いいこねえ」


 ホイップ先生がジェムを撫でようとしたら、サッと回避していた。


「ふふ、やっぱり触らせてくれないのねえ」

「気まぐれな子なので、別の日だったら触れるかもしれません」

「さすが、精霊ねえ」


 ひとまず、ホイップ先生に温室の鍵を手渡し、引き継ぎ作業を行う。


「ミシャ、あなたのおかげで、授業と研究に集中できたわあ。本当にありがとう」


 そう言って微笑むホイップ先生の表情に、嘘偽りなどないように思える。

 けれども相手は数百年と生きたハイエルフだ。

 前世含めても数十年しか生きていない小娘を騙すことなど、朝飯前なのかもしれない。


「このあとすぐに保護者のところへいくのかしらあ?」

「いえ、残っている食材がありますので、それで保存食を作ってから、ですね」

「そうなの、大変ねえ」

「食材を無駄にしたくないので」


 ホイップ先生は「ホリデーを楽しんで~」と言って去っていった。

 姿が見えなくなると、はーーーーー、と深く長いため息がでてしまう。

 ホイップ先生相手でもかなり緊張したので、ヴィル相手だとどうなるのか。


 なんて考えていたら、ヴィルがやってきたので飛び上がりそうなくらい驚いてしまった。

 颯爽とやってくる姿に、思わず見とれてしまう。

 一瞬、彼にだったら利用されてもいいのでは……なんて、思考が傾きそうになったものの、何を言っているのか、と首を横に振る。


「ミシャ、まだレヴィアタン侯爵邸にいっていなかったんだな」

「え、ええ! まだやることがありますので」

「何か手伝えることはあるか?」

「いいえ、何も!」


 ヴィルもこのあと、帰宅するらしい。

 馬車乗り場は長蛇の列ができているようなので、使い魔である竜のセイクリッドに乗って帰宅するようだ。


「ミシャもレヴィアタン侯爵邸まで送ってやろうか?」

「作業に時間がかかりそうなので、大丈夫です!」

「遠慮しなくてもいい」

「いえいえ」


 きっぱり断ると、ヴィルは雨の日に捨てられた子犬のような表情で私を見つめていた。

 やっぱりお願いします! と言いそうになったが、口からでる寸前に唇を噛んで、なんとか事なきを得る。


「ヴィル先輩、ホリデー期間中も食事が必要であれば、いつでも魔法生物を派遣してください」

「いや、ホリデー期間中は心配いらない。ゆっくり過ごせ」

「しかし」

「私は大丈夫だから」


 その一言や、私を見つめる眼差しには、ヴィルの優しさが滲んでいるような気がした。

 やはり、ヴィルが他人を出し抜き、謀反を企んでいるようには思えない。

 ただ、答えをだすのは早いだろう。 

 もしかしたら私にだけ優しいタイプである可能性もあるだろうから。


「ホリデー期間中、何かミシャがやりたいことがあれば、付き合うが」

「やりたいこと、ですか?」

「ああ。買い物や勉強、研究に調査など、なんでもいい」


 調査と聞いて、ハッとなる。

 行方不明状態の叔父が今、どこに潜伏しているのか気になっていたのだ。

 もしもヴィルと叔父が繋がっていたら、なんらかの反応を示すだろう。


「あの、王都に住んでいる私の叔父、ガイ・フォン・リチュオルが現在、行方不明でして、探したいな、と思っているのですが」

「叔父君が? 何か事件に巻き込まれたのでは?」


 ヴィルは心配するような声色で言葉を返す。

 これにも、嘘が混じっているようには見えない。


「いつから行方不明なのか?」

「もうずっとです。その、父がお金を貸しているのですが、何度も問い合わせても返済はなかったようで」

「なるほど」


 ちなみに父がお金を貸している話は本当だが、返せと言っているのは嘘だ。

 父は叔父へ貸したお金はどうせ返ってこないだろう、とすでに諦めていた。


「もしかしたら事件が絡んでいる可能性があるから、自分で探さずに騎士隊に一度相談したほうがいいかもしれない」


 騎士隊はレナ殿下の誘拐事件のもみ消しがあったので、まったく信用できない。

 申し訳ないが、その案は却下である。


「あの、実は入学前に叔父を見かけたの。声をかけたら逃げてしまって」

「ああ、そういうわけだったのか」


 ヴィルはしばし考えるような仕草を取ったあと、申し訳なさそうに言ってくる。


「もしかしたら、借金の返済の目処がつかないから、連絡を無視している可能性がある」

「ええ、そうなんです。だから一度、叔父を問い詰めたくって」

「わかった。ならば、捜索に手を貸そう」


 案外あっさり協力してくれることになった。

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