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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 ホリデーを楽しもう!

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ヴィル悪人説の違和感

 火のない所に煙は立たぬ、なんて言葉がある。

 よくない噂が流れるのは、その人や物事に原因があるからだ、という意味を持つ。

 その一方で、根も葉もない噂話というものも存在する。

 噂というものは恐ろしいもので、人から人へと伝わるたびに、尾ひれがつけられ、真実がねじ曲がることもあるようだ。

 もしも噂が嘘だったら、渦中の人物は何も悪くないのに名誉を傷つけられてしまう。


 親しい人の悪い噂を耳にしてしまったとき、どうすればいいのか。

 それについては、真実に目を背け、噂を鵜呑みにすることだけはよくないとわかる。

 ただ、だからと言って、本人に噂の真相を聞くのは悪手としか思えない。


 レナ殿下から聞いたヴィルの暗躍については、にわかに信じがたいような話である。

 けれどもよくよく考えてみると、おかしな点はいくつかあった。

 もしもヴィルが謀反を企てていたとしても、利用する相手が私というのは弱くないか。私よりもアリーセや、レナ殿下を籠絡させるくらいの腹芸もヴィルならばできるはずだ。

 私が持つ祝福だって、ちょっとした毒を解毒する効果があるくらいである。

 害のない食事係として傍に置いている可能性もあるが……。

 田舎貴族の娘なんて、途中で行方不明になっても誰も困らない。

 父が一生懸命探したとしても、レナ殿下の誘拐事件のように、騎士隊にもみ消されて終わりだろう。

 考えていたら、なんだか空しくなってきた。

 私のことはまあ、いい。

 疑問なのは、レナ殿下の誘拐に叔父を使ったことだ。

 ヴィルほど頭がいい人ならば、叔父なんかに依頼しないはず。

 仮に作戦が失敗したときを考えて人を雇い、叔父が受けたのが三次請けや四次請けなどの孫請けだったとする。けれども叔父みたいな人に依頼を回すような人を信用し、レナ殿下の誘拐を実行させないだろう。


 考えれば考えるほど、ヴィルが謀反を企てているようには思えないから不思議だ。

 あとは本人とのやりとりで、探りを入れるしかない。

 完璧な人間などいないのだから、どこかでうっかり本音がポロリとでるはずだ。

 私は時間をかけて、彼の発言に対して注意深く耳を傾けるばかりである。


「よーし!」


 明日から頑張るぞ、と気合いを入れたのだった。


 ◇◇◇


 レナ殿下は翌日にはレヴィアタン侯爵邸へと繋がる転移の魔法巻物を用意してくれた。


「三十枚ほどあればいいだろうか?」

「わあ、こんなに……ありがとう」


 緊急以外にも使えそうなくらい用意してくれた。


「えっと、これ、いくらだった?」

「金貨一枚だ」

「え!? 嘘!」


 転移の魔法巻物の相場は安くても金貨五枚だと聞いていた。

 三十枚が金貨一枚だなんて、ありえない。


「あの、本当はいくらだったの?」

「本当に金貨一枚だったんだ。信じてくれ」


 なんでも王家御用達の魔法巻物職人のお手製で、レナ殿下が値切ったところ、金貨一枚まで安くなったようだ。


「ミシャが金貨五枚と聞いて驚いていたから、よほど高い金額なんだろうな、と思って、頑張って値切ったんだ」

「わ、わあ……」


 未来の国王陛下に値切りをさせてしまったようだ。

 頭が下がる思いとなる。


「本当にありがとう。嬉しいわ」

「よかった」


 レナ殿下は安堵したように、にっこり微笑んでくれる。


「明日からホリデーが始まるので、しばらく彼とは会わないと思うが、それでも気をつけるように」

「え、ええ」


 ヴィルがレヴィアタン侯爵家の降誕祭のパーティに参加することを言ったほうがいいのか迷ったものの、レナ殿下がホリデー中、気にしたら気の毒である。

 今回の件に限っては、黙っておくことにした。


 終業式は講堂に集まって校長と理事のありがたい話を聞き、大掃除を行い、各教科の先生達から大量の宿題を賜る。

 宿題を前に教室は阿鼻叫喚と化す。

 けれどもホームルームでホイップ先生から、魔菓子の詰め合わせが配られると、クラスメイト達は笑顔となった。


 ホームルームが終わると、いつもは皆、競い合うように帰宅するのに、明日からホリデーだからか、クラスメイト達と別れるのを惜しんでいるように話し込んでいた。

 いつもなら挨拶を交わし、寮に帰るエアも教室に残っていた。

 なんでもエアは後見人であるミュラー男爵の屋敷で過ごすらしい。


「おじさん、俺の帰りを楽しみにしているんだってさ」

「あら、そうなの」


 そんなふうに語るエアの表情は、以前のようなかげりは見られない。

 後見人との付き合い方について、折り合いがついたのだろう。


「ミシャもすぐレヴィアタン侯爵邸に行くのか?」

「いえ、私は温室の薬草のお世話をして、ホイップ先生に引き継いでからだから、早くても明日かしら」

「大変だな」

「平気よ。賃金が発生するから、むしろありがたいくらい」


 私の話を聞いたエアは、「俺も働こうかなー」なんて言いだす。


「エアは勉強に専念したほうがいいわ。予習の時間が削られるのは、とても惜しいことだから」

「わかっているんだけれどさ、魔法学校の卒業後に、何も貯蓄がないのも心細いから」


 その気持ちはよくわかる。

 私だって、卒業後、魔法を生業として暮らしていけるのか不安だ。

 学校に通っている間に、少しでも多く貯金しておこう、と節約生活もしている。


「だったら、仕事をするのは二学年からにしたらどう? 一学年は魔法の基礎を学ぶ期間だから、勉強に専念したほうがいいと思うの」

「うん、ミシャの言うとおりだな」


 エアは二学年から何かアルバイトを始めてみると言う。

 なんとか納得してくれたようで、ホッと胸をなで下ろした。

 

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