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雪の下で眠る花は乞い願う【完】  作者: 壱原 棗
花は眠り幸せを待つ
6/12

学校の図書館

 今日はリアンと約束した図書館を案内してもらう日。馬車で学術院の正門まで送ってもらい、彼と待ち合わせた。初めて足を踏み入れる大きな学校にわくわくしながら校内を進んだ。

 リアンの後ろを歩きながら校舎や廊下の中を見ると、様々な年齢の生徒が大勢行き交っている。


「すごい人の数ですね」

「9学年もいるとさすがに。いまちょうど授業の合間でみんな移動するから。それに、この校舎は共有スペースも多いんだ」

「制服の色が違う……寮ごとのお色ですか?」

「うん。俺は黒曜館こくようかんだからあんまり色目立たないけど」

「黒曜館……オブシディアンですか」


 聞きなじみのない言葉を声に出して繰り返す。確かヨハネスは”翠玉館すいぎょくかん”と言っていただろうか。


(エメラルドの、寮……)

 彼のダークブロンドに映えそう、などと制服姿を想像してみた。大人びているようでまだ学生なのだ。ここでは周りの学生たちのようににぎやかに過ごしていることだろう。


「着いたよ」

「わあ……すごい」


 エントランスを抜けるとメインカウンターを囲むように壁一面にそびえ立つ本棚に目を奪われた。視界に入る本の数だけでも圧倒される。エイル家の蔵書は芸術関係に絞ればかなり貴重なものを保有しているが、ここにはありとあらゆる種類があるのだ。

 前を歩くリアンは魔術によって浮遊している本を、慣れた手つきでどかしながら階段を上がっていく。


「多分、あなたが好きそうなのはこっち。本棚に数字がふってあるから迷ったら上を見るといいよ。わかりやすいように、ここのカフェスペースにいるから自由に見て。困ったことがあったら、腕章つけてる人は職員だから何聞いても大丈夫。俺にも声かけていいからね」

「はいっ……ありがとうございます!!では行ってきますね」


 午前中とはいえ、空き時間の学生で自習や読書で利用する人数は増えていく。入ってからうずうずしていた私を気遣ってかすぐにそう言ってくれた彼の提案はとてもありがたかった。


 そこからはずっと没頭してしまった。奥の方を散策してみれば、古い資料がまとまって保存してある本棚は、大きなサイズの本が並んでいた。背表紙を触れば、重厚な装丁が施されたものが多い。あまり利用されていないスペースなのか、ほかに比べ絨毯の毛足がまだしっかりしているのを足元から感じる。


(すごい……絶版になった貴重な本ばかり。装飾図案集がこんなにきれいな状態で保存されて……)


 あれもこれもと見ていくうちに、ずいぶん時間が経っていた。没頭しすぎたと慌ててカフェスペースに戻ると、机に本を積み上げあれた状態で、課題をやるリアンの姿がある。


「ご、ごめんなさいリアン!私ってばすっかり……」

「あ……俺も声かけなくてごめん。もう昼だね、ご飯食べに行こうか」

「はい!」


 連れてこられたのは、図書館にほど近いところにある食堂だった。どうやら利用者のほとんどは職員のようで、人もまばらである。


「学生の多い食堂だとどうしても目立ってしまうし、居心地がよくないと思って」


 きょろきょろとあたりを見回していると、食事を注文しながらリアンがそう言った。マダムからも聞いていたが、とても気遣いのできる少年だ。自分とヨハネスの関係も知っていると思われるが、深く聞いてくる様子はまったく無かった。その絶妙な距離の取り方はありがたいと同時に、なんだかヨハネスに似ているようで少しおかしかった。


「お気遣いありがとう。ここではドレスだと目立ってしまいますもの。リアンとゆっくり食事ができませんね」

「……少し似てる」

「え?」

「何でもない。なにか気になる本はあった?」

「それです、部外者の私でも本を借りることはできるのでしょうか?」

「カード発行してもらえればできるよ。市民図書館と似たようなシステムだけど、一部持ち出しできない書架はある」


 部外者には貸出を行っていないかもしれないと思ってそう聞くと、意外な返答だった。


「まぁ、ここは広いし正門からだと遠いから、利用者は多いわけじゃないみたいだよ。だから今後来るときは裏門からがおすすめ」

「そうなんですね。では、午後はカードを作ってみようと思います!」



***


「ピーアニー嬢……?どうしてここに」


 昼食を食べて無事に利用者のカードを発行できて、一息ついているところに意外な人物が現れた。


「ヨハネス様……あっ」

「ね~いた~?」


 驚いた様子のヨハネスの後ろから、ひょっこり顔出した白衣の女性と目が合った。横からリアンの大きなため息が聞こえる。


「エト先生……」

「ん!ヨハンと差し入れ持ってきたんだ~お嬢さんも一緒にどうぞ~~」


 フレンドリーにこにことマカロンを差し出してきた女性は、なんと先生だった。幼い顔立ちで、制服を着ていれば生徒にも見えてしまうだろう。第一印象から若さに驚いてしまう。


「あ、ありがとうございます。こんにちは、ヨハネス様。お久しぶりですね」

「驚いちゃったな~……まさかこんなところでお会いできるなんて」

「んんん~??きれいなドレスの可愛いお嬢さんはヨハンのお知り合い??あ~!リアンともお友達なの!?」


 彼のへらりと笑った様子はあまり見たことがない。が、それも一瞬でまたいつもの完璧な笑顔に戻った。一方女性は表情をころころと変えながら、子供のようにはしゃいでいる。ヨハネスを愛称で呼ぶ人物を、彼の身内以外で初めて見た。


「ちょっとエト先生!カフェブースだとしてもここで騒がないでよ」

「え~??じゃあ東棟のカフェテリアでお茶しよ~~。ね、ヨハンもいいよね??」

「えっ、う、うん。いいよ、エトちゃん」

「やった~~~びゅーんって外いこ~~!!!」

「っだ!!エト!!!!」

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