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雪の下で眠る花は乞い願う【完】  作者: 壱原 棗
きっかけは好奇心
5/12

めずらしい噂(Side: Johannes)

【補足】

・エト・アメルス

学術院の女性講師。魔法アイテムの優秀な技術士だが生活能力が皆無。天才。リアンの後見人。

ヨハネスは彼女に気を許しており、学部が違うが研究室に訪れがち。

・ネビュラル(国名)

アラステアから東に位置する国。観光資源や魔術研究に富んでいる。

Side: Johannes


ある日の昼休み、面白い話を耳にした。


「そうそう、なんだっけ。エトちゃん先生とこのお世話係の。珍しくエトちゃん以外の女の子と歩いててさぁ」

「えー?珍しい!何科の子?」


 人数の多い魔術学部のある東塔の食堂はほかに比べて広く設計されている。知り合いの話題だったからだろうか、そんな話を昼食をとっていたヨハネスはランチ時でにぎわう食堂で耳にした。


(へぇ~リアン君がねぇ?)


 リアンは魔術工学部の生徒であり、東棟で見かけることはおそらくない。見かけたとしたら中庭かそれとも…。


「いや、さすがにそれはわかんないわ。てか、外部の子だったかも。制服着てなかったし」

「まあ、エトちゃんお世話係のイメージあるけど、あの子ネビュラルの『特待生』だからね?エリートだから外部の人と関わることも多そう」

「うちの学科にも特待生いるけど、特別授業に来る偉い先生の相手とかしてるんだよねぇ」


 そんな会話を聞き流しながら、後で彼に会った時のからかうネタにしようとヨハネスは友人と食事を続けた。


***


「今日はリアン来ないよ~」


 午後の授業が終わった後、ヨハネスはいつものように魔術工学部にあるエト・アメルスの研究室を訪れていた。彼女に差し入れを渡してなんとなく視線を巡らせると、そう声をかけられた。

 ふわふわしているように見えて、たまに核心をついた物言いをする。この学術院でいうと蒼玉館の生徒としゃべる時に似ている。


「あ、そうなんだね。珍しい」

「なんかねぇ、今日はお手伝いできないから絶対これやっておきなよ!!っておこっちゃった」

「まぁた怒らせちゃったの?どれどれ……」


 すでに手元にある作成中の何かに夢中のエトが、よれた一枚の書類を指さした。そこに書かれていたのは返却期限を大幅に過ぎた図書館の蔵書一覧。一番下にリアンの字で『明日全部返却すること!!罰金!!!!』と丸で囲われてあった。

 教員が罰金なんて笑えないな、と少し部屋を見渡すと、きれいな一角に本が山積みになっている。昨日リアンが整理して探し出したのだろう。


「エトちゃ~ん?」

「んん~~?」

「エートせんせっ」

「…………」

「アメルス博士」

「ひゃい!?」


 何度目かの応酬で、ガタリと音を立てて立ち上がった。椅子も倒れた。これでは居眠り生徒のそれである。

 倒れた椅子を静かに戻し、ついでに膝をついたままヨハネスはエトの手をすくって見上げた。


「それではアメルス博士。図書館まで、ご同行いただけますか?」

「はぁい…」

「詫び菓子買ってから行こうね~~」


***


 返却期限の過ぎた運ぶには難しい量の本を、魔術で浮遊させながら図書館に入る。一階のメインカウンターが中央奥に鎮座してあり、そこから左右対称に位置する上へと続く大階段は見事だ。ここはアラステアの国立機関並みの蔵書数を誇り、また学生が歓談できるようなスペースも設けられているため非常に広大な造りをしている。


「あらエトちゃん、久しぶりね。待ってたのよ~~?ずうっと」

「あははぁ~。ミラ、久しぶり~~?」


 返却スペースまで本を運ぶと、エトと同年代の女性職員が青筋を立てた笑みを浮かべながら待ち構えていた。部屋から出ないエトの生白い両頬を彼女は左右へ引っ張った。


「教員が忙しいのは私も理解してるわ。でもほかの先生方には職員室で会えるのに、どうしてエトちゃんに”だけ”こんなに会えないのかしら~~?」

「んぁ~~ほへんってば~」

「やだっ!?こんっなモチ肌でノーメイクですって!?羨ましすぎる!!」

「うううう」

「やっほ~ミランダさん。エトちゃんの延滞分、返しにきたよ。あと魔術学部のマカロン。よかったら皆さんでどーぞ」

「あら~相変わらずフォロー上手ね~ありがとう、いただくわ。今日は最終期限だから特に首を長くして待ってたのよ」


 彼女はそう言うと、『ブラックリスト』というファイルを取り出し、持ち込んだ蔵書の登録番号とリストを照らし合わせている。


「も〜こんなこと続いたらエトちゃんに本貸せなくなっちゃうでしょ。どこの世界に学内施設を出禁になる教員がいるのよ」

「ネビュラルにいた頃は、本が自分で帰っていくんだもん」

「あの最先端技術が詰め込まれた世界一の図書館と比べられたら流石に頭が痛いわ。はい、この書類に必要事項記入して終わりよ」

「はぁ~い」


 二人のやり取りを横目に、ヨハネスはなんとなくあたりを見回した。ここから読書席のスペースは見えないは、近くの本棚にいる生徒の中にリアンは見当たらない。


「ねえミランダさん、今リアン君いる?」

「さっき上のカフェスペースで見たわよ。一般のお客様の案内をお願いしてるの」

「へぇ~ホントだったんだ。エトちゃん、リアン君にも差し入れてこようか」

「もう怒ってないかな?あ、ミラ終わった~」

「仕事はできるの知ってるんですからね!?よろしく頼みますよアメルス博士」


 大階段を上がって本棚から離れたスペースにいくと、広いテーブルがいくつもあり生徒たちが思い思いに過ごしていた。ここは少しの飲食ができるようになっている。その中に、浮いた光景があった。

 見慣れたリアンの横に、制服ではない簡素なドレスに身を包んだ少女。ハーフアップにまとめた赤みの強い茶髪に、ヨハネスは見覚えがあった。


「ピーアニー嬢……?どうしてここに」

続きは明日21時に更新。

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