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Traumerei  作者: 水月
第二章・鎌田連
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001

 鎌田連といえば、バスケ部部員の間では有名な人物であり、その名は校内を越え校外まで届いてる。バスケ部に半年ほどしか在籍していかった俺でさえその名を知っているし、彼の伝説をその目で見ていた人間の一人だからだ。彼の伝説の始まりは、高校に入る少し前にまで遡る。中学生が高校生に上がる準備期間――春休みのことだ。スポーツ推薦で入学した鎌田は春休みから既に部活を始めていたが、大体の生徒は筋トレやボール拾いをさせられる。体作りという名目でインターハイ出場を目指す上級生の手伝いを――予選まで、だ。強豪校ならば完全な実力主義であり、中体連で名を馳せた強者たちは一軍で練習をしているが、うちの高校はそうじゃなかった。万年弱小――予選で勝ち上がったとこは見たこともないし、運が良くて一回戦突破。そんな学校では高校の思い出を一つでも多く作れるよう、スタメン、レギュラーは先輩が占めるし、ユニフォームの優先順位は先輩に取られる。

 鎌田の場合は違った。春休み、先輩と新入生が練習試合をする機会があったその日、新入生は先輩相手に――百点差を付けて勝利した。遊びではない、正真正銘全力の試合だった。ほぼ中学生三年生ともうすぐ高校三年生になる二年とでは体格に明確な差が生まれるが、その中でも一人で九十四得点をした新入生が鎌田連だった。天賦の才、明確な実力の差を目の当たりにした監督は、その日のうちに鎌田を中心とした練習を組み、インターハイ常連の強豪校と何ら遜色ない練習メニューは瞬く間にチームを変貌させた。去年のウィンターカップ出場校との練習試合では、ダブルスコア――二倍のスコア差をつけて大勝、万年初戦敗退の男子バスケ部はわずか数ヶ月の間でインターハイまで上り詰めた。そして迎えたインターハイ、各県で最上位に位置する歴戦の猛者達を相手に、鎌田のドリブルはそれらを翻弄する。鎌田の最大の強みはスピードの変化であり、反応が追い付かず体勢を崩され転ぶ選手、そもそもその場から動けない選手が続出、ダブルチーム、トリプルチームと鎌田は徹底的にマークされるが、それでも鎌田は止められなかった。ドリブルに目が行きがちな鎌田だが、シュートセンスやパスセンスも抜群で、特にスリーポイントシュートは毎試合十本以上決めていた。決勝でこそ敗れたが、鎌田は一試合で八十五得点というその年のインターハイでは最多得点を記録した。


 『男子バスケ部インターハイ準優勝!』


 その年、初めて学校に垂れ幕が下りた。

 天才――英雄、バスケ部員の間ではそんな風に囁かれていた。一年になって僅か数か月、背番号は四番を与えられキャプテンの座に着いた鎌田は確かに天才だったのかもしれない。身体能力に恵まれながらも自惚れず、自分に厳しいトレーニングをただひたすらに、ひたむきに研鑽していった。

 俺が部活をやめてからも、鎌田の伝説は耳に入っていた。ウインターカップ予選では毎試合百点差以上の試合が続き、決勝戦ではトリプルスコア以上で大勝。ウィンターカップの出場権を獲得していた。インターハイから数ヵ月が経ち、ウィンターカップでは夏以上の結果に期待されていた。期待の新星――鎌田がバスケ部を優勝へ導く。校内の生徒は皆、そう期待していたし、俺もしていた。男子バスケ部がウインターカップで優勝し帰還するその日を。

 ウィンターカップ初日、男子バスケ部は大敗した。相手のチームが得た点数百十三点に対し、男子バスケ部の得た点数は僅か二十六点。百の位を書き忘れたかに思えたが、これは事実であり、それほどに一方的な試合だったと言う。

 それから間もない頃だった。鎌田連がバスケ部を退部したことを知ったのは。

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