010
懐かしい場所だ。目の前には一人の少年が一人で将棋を指している。
これは、ナツメの記憶……?俺はもう、小さい頃の記憶なんてあまり覚えていないが、ナツメとどんな話をしていたのだろうか。
『あ、きょうもきたんだね!』
『う、うん、だめだった?』
『ぜんぜんいいよ! ナツメとおはなししたり、あそぶのたのしいからね!』
『ありがとう、ゆうまはやさしいんだね』
『そう? ふつうだとおもうけど?』
『だってさ、ぼくのすがたはだれにもみえないんだよ? きみがわるくない?』
『どうして?』
『どうしてって……』
『かっこいいじゃん、とうめいにんげん、そしてそれをみることができるぼくはもっとかっこよくない? それに――』
『っとゆうまー!?』
『ほら、ぼくはこうしてナツメにふれることができるよ!』
『ゆ、ゆうまのおでこが、ぼくのおでこに』
『ナツメのおでこあたたかいね。ぼくとぜんぜんかわらないや。これですこしはジシンついた? ナツメだってちゃんとしたニンゲンなんだよ? ジシンをなくしたらいつだってきていいんだからね。ぼくはナツメのトモダチだから、いつだってチカラになるよ』
俺は、ナツメとそんなことを話していたんだな。
会いに行こう。もう一度ナツメに。白い霧をかき分けて記憶の回廊を進んでいく。
『ナツメのユメはなにかあるの?』
『ユメ……かんがえたこともないかも』
『ぼくはあるよ。バスケットボールせんしゅ!』
『ばすけっとぼーる?』
『そう、このボールをあのリングってところににくぐらせるスポーツだよ!』
少年はボールを放り、ボールをリングに潜らせる。
『さ、ナツメもやってごらんよ』
『ぼくには、むりだよ……』
『やるまえからよわきになっちゃダメ! ほら、このボールをもって!』
『ちょ、ちょっとー……』
『ほらもてた。やればできるじゃん』
『ゆうまはいじわるだよ』
『こんどはあのリングにいれてみよう。さ、ほうってみて』
そうか。こんなにナツメと遊んでいたのか。でも、どうして忘れたんだろうか。
『ゆうま。ぼくきめたんだ』
『なにを?』
『ぼくはゆうまのまえからいなくなることにする。ぼくがいたままじゃ、ゆうまはきっとフコウになる。だから、ぼくのことはもう、わすれるんだよ――』
そういうことか。ナツメはそれを願って――
霧を抜けた先には一本の木。その根元には一人の生徒が立っている。
「なんだか、お互い遠くに来たような感じがするな」
「悠真。そろそろ僕のことは忘れそうな頃合いだと思ってたんだけど」
「もう忘れないさ。二度も同じ手は食わない」
「でも、どうして悠真だけはなかなか僕を忘れてくれないんだろうね?」
「本当は、忘れて欲しくない、からだろ」
「………………」
「誰だって忘れられるのは嫌さ。存在自体が否定されるから。だから、俺の前にこうしてまた現れたんだろう?」
「本当に悠真は見透かしてくるね」
「あたりまえだろ? ナツメといた時間はそこそこあったからな」
「で、僕になんの用かな?」
「ちょっと失礼するぞ」
「ちょ、悠真!?」
俺はナツメの手を握ってもう片方の手で木に触れる。
「一緒についてきてくれ」
「いったいどこへ……」




