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Traumerei  作者: 水月
終章・成生悠真
38/41

010

 懐かしい場所だ。目の前には一人の少年が一人で将棋を指している。

 これは、ナツメの記憶……?俺はもう、小さい頃の記憶なんてあまり覚えていないが、ナツメとどんな話をしていたのだろうか。


 『あ、きょうもきたんだね!』

 『う、うん、だめだった?』

 『ぜんぜんいいよ! ナツメとおはなししたり、あそぶのたのしいからね!』

 『ありがとう、ゆうまはやさしいんだね』

 『そう? ふつうだとおもうけど?』

 『だってさ、ぼくのすがたはだれにもみえないんだよ? きみがわるくない?』

 『どうして?』

 『どうしてって……』

 『かっこいいじゃん、とうめいにんげん、そしてそれをみることができるぼくはもっとかっこよくない? それに――』

 『っとゆうまー!?』

 『ほら、ぼくはこうしてナツメにふれることができるよ!』

 『ゆ、ゆうまのおでこが、ぼくのおでこに』

 『ナツメのおでこあたたかいね。ぼくとぜんぜんかわらないや。これですこしはジシンついた? ナツメだってちゃんとしたニンゲンなんだよ? ジシンをなくしたらいつだってきていいんだからね。ぼくはナツメのトモダチだから、いつだってチカラになるよ』


 俺は、ナツメとそんなことを話していたんだな。

 会いに行こう。もう一度ナツメに。白い霧をかき分けて記憶の回廊を進んでいく。


 『ナツメのユメはなにかあるの?』

 『ユメ……かんがえたこともないかも』

 『ぼくはあるよ。バスケットボールせんしゅ!』

 『ばすけっとぼーる?』

 『そう、このボールをあのリングってところににくぐらせるスポーツだよ!』


 少年はボールを放り、ボールをリングに潜らせる。


 『さ、ナツメもやってごらんよ』

 『ぼくには、むりだよ……』

 『やるまえからよわきになっちゃダメ! ほら、このボールをもって!』

 『ちょ、ちょっとー……』

 『ほらもてた。やればできるじゃん』

 『ゆうまはいじわるだよ』

 『こんどはあのリングにいれてみよう。さ、ほうってみて』


 そうか。こんなにナツメと遊んでいたのか。でも、どうして忘れたんだろうか。


 『ゆうま。ぼくきめたんだ』

 『なにを?』

 『ぼくはゆうまのまえからいなくなることにする。ぼくがいたままじゃ、ゆうまはきっとフコウになる。だから、ぼくのことはもう、わすれるんだよ――』


 そういうことか。ナツメはそれを願って――

 霧を抜けた先には一本の木。その根元には一人の生徒が立っている。


 「なんだか、お互い遠くに来たような感じがするな」

 「悠真。そろそろ僕のことは忘れそうな頃合いだと思ってたんだけど」

 「もう忘れないさ。二度も同じ手は食わない」

 「でも、どうして悠真だけはなかなか僕を忘れてくれないんだろうね?」

 「本当は、忘れて欲しくない、からだろ」

 「………………」

 「誰だって忘れられるのは嫌さ。存在自体が否定されるから。だから、俺の前にこうしてまた現れたんだろう?」

 「本当に悠真は見透かしてくるね」

 「あたりまえだろ? ナツメといた時間はそこそこあったからな」

 「で、僕になんの用かな?」

 「ちょっと失礼するぞ」

 「ちょ、悠真!?」


 俺はナツメの手を握ってもう片方の手で木に触れる。


 「一緒についてきてくれ」

 「いったいどこへ……」

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