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Traumerei  作者: 水月
第三章・泉早苗
21/34

004

 「待ちに待った大晦日だぁ!!」

 「テンション高すぎだろ」

 「なんかこういう日って無駄にテンションが高ぶるんだよな」

 「気持ちは確かにわかる気もしますが……」

 「おにいちゃんあんまり浮かれち駄目だよ?」

 「わかってるって!」

 「本当にわかってんのか?」

 「さて、皆様お待ちかね、大晦日と言えばのコーナー!! パチパチ」

 「だから、自分で効果音入れて悲しくないのかよ」

 「んじゃ成生、持ってきたものを見せてくれ」

 「はいよ」

 「ほうほうこれは――餅か、って成生は気が早いわ! まだ年明けてないからな!?」

 「どうせ年が明けたら食べるんだ。ちょうどいいと思うけどな」

 「ギリギリセーフとしようか。それじゃ、夏澄と早苗ちゃん!」

 「はい!」

 「わたしたちはこれです!」

 「こ、これはおせち……ってこれも正月なのでは!?」

 「夜はそばも茹でる予定です」

 「ならセーフだな」

 「いや、誰目線なんだよ。てかそういう鎌田は何にしたんだよ」

 「ふっふっふ、よくぞ訊いてくれた」

 「もったいぶるなよ」

 「オレの用意したアイテムはこれだ!」

 「こ、これは――」

 「甘酒、ですか?」

 「おにいちゃんこそ正月じゃない」

 「結果揃ったのは餅、おせち、甘酒か」

 「……正月じゃねえか!?」

 「いやだから正月なんだよ!」

 「こうして見てみると本当に正月ですね」

 「せっかくみんな用意してきたんだし、早速食べちゃおうか」

 「一足早い正月だな」

 「そうですね。先取りです」

 「お蕎麦は夜に食べましょうか」

 「それじゃ、まずは甘酒からだよな」

 「私、甘酒って飲んだことないんですよね」

 「俺も飲んだことはないな」

 「オレも基本炭酸しか飲まないし、でも甘酒っていうくらいだから甘いんじゃないの?」

 「どれどれ」


 俺は甘酒を飲み干す。


 「なんか不思議な味だな」

 「う~ん、何とも言えない」

 「独特……ですね」

 「………………」

 「泉?」

 「あ……すみません……」

 「顔赤いけど、まさか……酔った、とか?」

 「酔ってないれすよぅ!」

 「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ……」

 「成生君!」

 「な、なんだよ」

 「学校はサボったらダメなんですからねぇ!?」

 「は、はい……」

 「あ~あ、成生言われてやんの~」

 「鎌田君もダメなんですからね? 今後は私が絶対にサボらないように監視します!」

 「誠に申し訳ありません」

 「泉さん、めちゃくちゃ酔ってますね……少し横になりましょうか」


 夏澄ちゃんが泉を介抱し、こたつに寝かせる。


 「すぅ……すぅ……」


 泉が寝息を立てながらぐっすりと眠っている。


 「一番年下の夏澄ならもしかしたら酔っぱらうかなとは思ってたけど、まさか早苗ちゃんがそうなるとは……」

 「おにいちゃんわたしを酔わせようとしてたの?」

 「これは犯罪の匂いがするぞ~」

 「だからそういうんじゃないって!」

 「泉さんってこんな一面もあったんですね」

 「というと?」

 「はい、いつも誰に対しても敬語でお淑やかな泉さんにもこんな一面があったんだな、と」

 「たしかに、早苗ちゃんにしてはだいぶグイグイきてたかもね」

 「言われてみればそうかもしれないな」

 「なるほどなるほど、これがギャップ萌えってやつか」

 「おにいちゃん?」


 しばらくして、泉が目を覚ました。


 「あれ、私寝てしまっていましたか?」

 「調子はどうだ、泉」

 「調子ですか? いつも通りですけど」

 「どうやら覚えてないみたいだな」

 「覚えてない? もしかして酔ってしまってましたか?」

 「まあ、少しな」

 「私、はしたないこととかしてなかったですか?」

 「その点は大丈夫だから安心してくれ」

 「明るめな泉さんでした」

 「主張がいつもより強めかなくらいだったね」

 「そうですか、ご迷惑をかけてすみません」

 「でも、時間もいい頃合いかもな。あともう少しで年が明けるぞ」

 「それならよかったです。それに、なんだか少し気分が楽になりました」

 「寝れてないのか?」

 「いえ、睡眠はとってるのですが、最近眠りが浅い日が多くて」

 「あんまり無理するなよ? 」

 「早苗ちゃんも起きたし、早めのおせち食べちゃいますか!」

 「せっかくなので先に年越しそばにしませんか?」

 「いいね! 食べちゃおう」

 「それじゃ夏澄ちゃん一緒に行きましょう!」

 「わかりました!」


 年末の特番を見ながら、時間を潰す。あまり気にしていなかったのだが、歳を取る度にこういった番組というのも味気が無く感じてしまう。単純に歳を重ねてしまっただけなのか、それとも面白くなくなったのか。その両方なのか。

 なんて、くだらないことを考えているうちに泉と夏澄ちゃんが帰ってきた。


 「お待たせしました。時間もギリギリですし、初詣間に合うでしょうか?」

 「初詣? この辺に神社なんて――」

 「何言ってんだ? 成生が一番通ってる神社があるだろ?」

 「あ――」

 「そこで年越そうと思ってな」

 「私も構いませんよ」

 「わたしは皆さんについていきますので」

 「ははっ――」


 あんまり触れないようにしてたのに、みんな気を使ってくれるんだな。


 「でも、私たち深夜徘徊になってしまいますけど、大丈夫でしょうか」

 「夏澄はまだ中学生だもんな」

 「おにいちゃん……深夜徘徊って高校生もだからね?」

 「え? そうなの?」

 「おいおい、それは常識だろ……」

 「なら夏澄は留守番した方が――」

 「おにいちゃん?」

 「わかったよ。なんかあったらオレの策で補導から逃げ切ってやろう」

 「捕まりそう」

 「逮まんないから! てか、こんなド田舎なんて誰も見てないだろ!」


 十分後。


 「あっれぇ~? なんかいかにも『悪い子はいねが~?』って言いそうなおっさんが徘徊してるんですけど?」

 「徘徊してんのは俺達だからな?」

 「さて、ここでどうやったら乗り越えられるか、だな。作戦1、あっちに高校生が居ましたよ作戦はどうだ?」


 鎌田の脳内作戦を聞く。


 『こんばんは。あっちに、高校生っぽい人達居たんで、補導した方がいいんじゃないですかね?』

 『ありがとう。協力感謝するよ』


 鎌田の脳内作戦は以上だ。


 「ニシシ、これで完璧だな。ちょっと声かけてくる」

 「待て待て、俺達の服装を見ろ」

 「オレ達の服装?」


 鎌田が俺達の服装を見つめる。


 「おい、なんで制服なんか着てきてんだよ」

 「お前も制服だからな?」

 「え……? ホンマや……」

 「アホ……」

 「クソ……いつもなら補導なんてしない癖にこんな時だけやってる風を装うなんて汚い大人達め……」

 「おい、社会の闇に触れてやるな」

 「いっそのことバナナでも仕掛けて転倒させてしまおうか」

 「それは鎌田だろ」

 「じゃあどうする? 悠長に考えてたら年が明けちゃうぜ」

 「日が暮れちまうの派生版みたいなのを作るな」

 「賄賂?」

 「やめとけ~さすがに問題がデカくなるだけだ」

 「何かいい案はないか?」

 「おい、策士なんだろ。何とかしてくれよ」

 「そうだ、スニーキングミッション開始!」

 「結局ただのゴリ押しか」

 「よし、後ろを向いたぞ。少しずつ近づけ」


 鎌田の指示で、警察との距離が縮まる。


 「ここまできたはいいが、視線を逸らさせないとあっち側に行くのは厳しそうだぞ?」

 「鎌田君、何か策はあるんですか?」

 「任せろ、これを使う」

 「それは……鎌田が持ってたエロ本!?」

 「いや、だからオレの所有物じゃねえんだよ!」

 「ん? 今声が聞こえた気が……」

 「ヤバッ――」


 急いで建物の影に隠れる。半分、というかもはや不法侵入だ。


 「ふむ、気のせいか」

 「おにいちゃん? まさかこんな時に変なことする気じゃないよね?」


 夏澄ちゃんの冷ややかな眼差しが鎌田に突き刺さる。


 「夏澄、オレに任せておきな。オレが必ず、あの警官をどかして見せるから」

 「なんかかっこいいシーンに見えそうなのに、左手にエロ本、視線の先には女子中学生……凄い犯罪臭を感じる」

 「ちょっと成生は黙ってろ!?」


 小声でツッコミを入れる鎌田。警官が後ろを向いたその一瞬に、持ち前のスピードを活かし、気づかれないように背後に忍び寄る。そして真後ろにエロ本を設置すると、俺達のところへ戻ってきた。


 「おい、まさかこれで大丈夫とか抜かすんじゃないだろうな?」

 「え? これで大丈夫でしょ? 振り返れば見つけるだろうからその隙に通ればいいんじゃ――」

 「どう考えても詰みだろ!?」

 「え? なんで!?」

 「じゃあ聞くが、エロ本は警官から見てどこに設置した?」

 「警官から見て後ろ」

 「俺達のいる場所は?」

 「……警官から見て……後ろ…………」


 どうやら事の重大さに気づいたようだ。


 「おにいちゃん……どうするの? 今から回収するの?」

 「そろそろあっち側を向いて二十秒くらいです。無理しては見つかる可能性もあります」


 鎌田の設置した本を回収しようと作戦を立てているうちに警官は後ろを振り向いてしまう。


 「あ、終わった……」

 「こ、これは……!?」

 「お、なんか様子が……」


 辺りを見渡して本に近づく警官。座り込み本を読みふける。


 「嘘……だろ?」

 「これで、警官の視野は約15度。下を向いてることを考慮すれば――」


 鎌田は堂々と警官の横を通りすぎる。そして、ついてこいと言わんばかりにジェスチャーを送り、鎌田に続き、俺達も警官の横を通り過ぎる。


 「うひょッ……」


 気持ち悪く蠢く警官の先にいる鎌田のもとへたどり着くと、ドヤ顔で俺たちを待ち迎えていた。


 「どうだいチミ達、オレの策の凄さは」

 「ちょっと引いた」

 「あ、あはは……」

 「おにいちゃんの不埒……」

 「仮定はともあれ、結果よければ全てよしだろぉ!?」

 「で、無事に学校に着いたわけだ」

 「あのー……スルーするのやめてもらっていいすかね?」

 「鎌田はしばらく白い目で見られるだろうから、まあ……頑張れ」

 「ねえ、最近オレの扱い酷くない!?」

 「これも行いだ。いい行いをすることだな」

 「くっ……」


 校舎の裏に周り石階段を上ると、神社の拝殿が静かに俺達を見下ろしている。今日もかごめはいなかった。スマホの時刻はもうすぐ12時を差そうとしており、年が明けようとしていた。


 「ようやっと年が明けるのか」

 「ここ数週間はい人生でもかなり濃厚な時間だった気がするよ」

 「そうですね」

 「わたしもここ1週間は凄く長く感じました」

 「じゃあ、そろそろカウントダウンだな」


 各々のスマホで時計の針を追う。


 『5! 4! 3! 2! 1!』

 「あけおめ~!」

 「あけおめだな」

 「明けましておめでとうございます」

 「あけおめです!」

 「今年は受験か就職か」

 「そうですよ。私がお二人をちゃんと見張ってますからね!」

 「あれ早苗ちゃん、酔ってる?」

 「酔ってませんよ。ちゃんと正常です」

 「2月には創立祭でライブもやるし、みんなで力合わせてやってこうぜ」

 「そうだな」

 「はい」

 「微力ながらお手伝いさせていただきます」


 今年の抱負を述べ、その後俺達は鎌田の家へ戻った。

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