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「よし、こんな感じか」
「さすが鎌田だな。圧倒的な成成長速度だよ」
「そういう成生もどんどん上達してるじゃん?」
「曲もできてきたし、あとは練習あるのみか」
「あとはベースの方のみですね」
「……夏澄のこと、ありがとな」
「どうした改まって」
「きっと今回の創立祭は夏澄にとってもいい経験になると思うんだ」
「……そうですね」
「だから、早苗ちゃん、夏澄のこと頼むよ」
「任されました」
「そろそろ大晦日、正月か。今年も早かったな」
「そうだ、クリスマス会もしたし、正月もやっちゃう?」
「俺はいいけど、泉はさすがに両親が心配するんじゃないのか?」
「あはは……そうですね。少し相談してみます」
「そういや、弾く曲ってもう決まったの?」
「いや、まったく」
「曇りなく凄いこと言ってるけど大丈夫そ?」
「急遽決まったものだからしょうがない」
「でも、曲作ってるってことは自分達の曲でやるんだろ?」
「まあ、たぶん?」
「はっきりしてくれよ……」
「かごめなら、どうしてたのかな」
「あ……」
「……きっと、皆で作った曲を持ち寄ってやってたのではないでしょうか」
「泉?」
「私や鎌田君は一緒にいた期間は短いですが、かごめちゃんは心優しい女の子でした。それくらい、なんとなくわかりますよ」
「そう、だな。それじゃあ悪いけど二人とも曲を一曲頼めるか?」
「オレはオレなりに作ってるぜ」
私は夏澄ちゃんと相談しながら作っていきたいと思います」
「あと必要なのはベースだっけ?」
「そうだな。あとそこが決まればいい感じにまとまるんだがな」
「創立祭は二月ですから、本当にあと一ヵ月と少しですね」
「じゃあ成生、ベースを確保するために作戦会議だ」
「変な作戦だったら蹴り飛ばすぞ」
「まだ何も言ってないんですけど!?」
「で、作戦ってのは?」
「え、あ~と、その、ねぇ?」
「ねぇ? じゃないわ! やっぱ変な作戦なんじゃないかよ! あとで超獄辛味噌ラーメンの刑な」
「すっかりいつものお二人ですね」
「おかげさまでな。泉がいなきゃこのバカは今でもバスケやってただろうよ」
「まったく二人には頭が上がらないな」
『え?』
「なんでそんな驚いた表情してるんだよ! オレが感謝を述べちゃダメか!?」
「いや普通に怖いって。体温を測れ」
「でも、よかったです。夏澄ちゃんの言うことを聞いてくれて」
「ちょっと怖い気持ちもあるけど、今はただ夏澄のことを信じたい、それだけだよ」
「じゃあ、鎌田もこの創立祭でいいところを見せないとな」
「任せろ。これでも本番には強い方だ」
「よし、それじゃ今日はこの辺でいったん解散にするか。泉も親に聞いてみないとだろうし」
「オレも先生に夏澄を正月の間家に呼べるか相談しないとだしな」
鎌田の家で漫画を読んでいると、病院に電話をしてた鎌田が部屋に戻ってきた。
「どうだった?」
「いいってさ。よかったー」
「理解ある先生でよかったな」
「長年夏澄の面倒を見てくれた先生で、本当にいい先生なんだ」
「んじゃ、夏澄ちゃんは参加か」
「そうだね。先生の方からも伝えてくれると思うし」
「あとは泉か」
「早苗ちゃんが来てくれれば、夏澄も喜ぶんだけどね」
「とにかく待つしかないな」
………………。
「あと三日後には大晦日か」
「年の瀬だよ」
「忘年会、やるか」
「だな。どっちにしろ夏澄ちゃんを呼ぶならそうなるだろ」
スマホのバイブレーションが鳴る。
「泉からだ」
「早苗ちゃんどうだって?」
「よかったな。行けるみたいだぞ」
「準備するか!」
「それじゃまずは恒例の買い出し決めだな」
「と、その前に」
鎌田がパソコンを取り出し、作曲ソフトを立ち上げる。
「こんなんでどう? オレの曲」
イヤホンを渡され曲を聴いてみる。鎌田らしい激しさを感じつつ、静かになるところだあったりと、ついこの前までの出来事を思い出しそう、そんな曲だった。
「いいじゃないか。この前のバスケをしたことを思い出したよ」
「……まあ、そんなところだ」
「成生の曲も聴かせてくれよ。USB持ってきてるんだろ?」
「持ってきてはいるけど」
「学校でちょろっと聴いたけど、できてるところまで一回聴かせてくれ」
鎌田は俺が作った曲のファイルを開いて聴いている。
「なんかめっちゃ切ないような、それでいて希望を感じる?」
「やけに具体的な感想だな」
「でも、よくこんなメロディを思いつくよな。もしかして病んでる?」
「ほっとけ。至って健康だわ」
「ギターよりキーボードとかの方が目立ちそうだね」
「たしかに、そんな感じするな」
「なにがどうであれ、いい曲なのは間違いない。自信もって最後まで書ききるか」
「そうだな。完成したらまた聴かせるわ。そういや泉や夏澄ちゃんはどんな曲を書くんだろうな」
「早苗ちゃんはわからないけど、夏澄のことだ、キラキラした曲を考えてるに違いないさ」
「へっくちゅ!」
「老野森さん大丈夫ですか?」
「あ、先生、大丈夫です。きっと誰かがウワサしてるんですよ」
「いいウワサだといいですね」
「案外おにいちゃんとかがウワサしてるのかもしれないですね」
「ハハ、鎌田君のことならありそうですね。それじゃ看護師の方と診察行きましょうか」
「ぶわっくしょん!!」
「やけにデカいくしゃみだな」
「誰だ、オレの噂をしてるやつは」
「悪い行いばっかしてるからじゃないの?」
「え!? オレそんなに悪いことしてる!?」
「なら学校いけ」
「残念今は冬休みなんだなぁ」
「ああ、そうそう。数学の先生から聞いたんだけど、明日の九時から進級できるかの面談なんだってな?」
「………………すぅ……え?」
「学年主任とかも来るらしい」
「え?」
「聞いてなかったのか?」
「なんか、あったようななかったような……」
「まあ、進級できるかできないかは鎌田の言動次第だろうな。その、なんだ、留年したら留年祝いでもあげるか」
「上げねーよ!? なんだよ留年祝いって、応援しろよ!! ってか、絶対に進級してやる!!」
「鎌田もついに後輩か~」
「確定してないのに、よくそんなこと言えるな!?」




