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Traumerei  作者: 水月
第三章・泉早苗
19/34

002

 「よし、こんな感じか」

 「さすが鎌田だな。圧倒的な成成長速度だよ」

 「そういう成生もどんどん上達してるじゃん?」

 「曲もできてきたし、あとは練習あるのみか」

 「あとはベースの方のみですね」

 「……夏澄のこと、ありがとな」

 「どうした改まって」

 「きっと今回の創立祭は夏澄にとってもいい経験になると思うんだ」

 「……そうですね」

 「だから、早苗ちゃん、夏澄のこと頼むよ」

 「任されました」

 「そろそろ大晦日、正月か。今年も早かったな」

 「そうだ、クリスマス会もしたし、正月もやっちゃう?」

 「俺はいいけど、泉はさすがに両親が心配するんじゃないのか?」

 「あはは……そうですね。少し相談してみます」

 「そういや、弾く曲ってもう決まったの?」

 「いや、まったく」

 「曇りなく凄いこと言ってるけど大丈夫そ?」

 「急遽決まったものだからしょうがない」

 「でも、曲作ってるってことは自分達の曲でやるんだろ?」

 「まあ、たぶん?」

 「はっきりしてくれよ……」

 「かごめなら、どうしてたのかな」

 「あ……」

 「……きっと、皆で作った曲を持ち寄ってやってたのではないでしょうか」

 「泉?」

 「私や鎌田君は一緒にいた期間は短いですが、かごめちゃんは心優しい女の子でした。それくらい、なんとなくわかりますよ」

 「そう、だな。それじゃあ悪いけど二人とも曲を一曲頼めるか?」

 「オレはオレなりに作ってるぜ」


 私は夏澄ちゃんと相談しながら作っていきたいと思います」


 「あと必要なのはベースだっけ?」

 「そうだな。あとそこが決まればいい感じにまとまるんだがな」

 「創立祭は二月ですから、本当にあと一ヵ月と少しですね」

 「じゃあ成生、ベースを確保するために作戦会議だ」

 「変な作戦だったら蹴り飛ばすぞ」

 「まだ何も言ってないんですけど!?」

 「で、作戦ってのは?」

 「え、あ~と、その、ねぇ?」

 「ねぇ? じゃないわ! やっぱ変な作戦なんじゃないかよ! あとで超獄辛味噌ラーメンの刑な」

 「すっかりいつものお二人ですね」

 「おかげさまでな。泉がいなきゃこのバカは今でもバスケやってただろうよ」

 「まったく二人には頭が上がらないな」

 『え?』

 「なんでそんな驚いた表情してるんだよ! オレが感謝を述べちゃダメか!?」

 「いや普通に怖いって。体温を測れ」

 「でも、よかったです。夏澄ちゃんの言うことを聞いてくれて」

 「ちょっと怖い気持ちもあるけど、今はただ夏澄のことを信じたい、それだけだよ」

 「じゃあ、鎌田もこの創立祭でいいところを見せないとな」

 「任せろ。これでも本番には強い方だ」

 「よし、それじゃ今日はこの辺でいったん解散にするか。泉も親に聞いてみないとだろうし」

 「オレも先生に夏澄を正月の間家に呼べるか相談しないとだしな」


 鎌田の家で漫画を読んでいると、病院に電話をしてた鎌田が部屋に戻ってきた。


 「どうだった?」

 「いいってさ。よかったー」

 「理解ある先生でよかったな」

 「長年夏澄の面倒を見てくれた先生で、本当にいい先生なんだ」

 「んじゃ、夏澄ちゃんは参加か」

 「そうだね。先生の方からも伝えてくれると思うし」

 「あとは泉か」

 「早苗ちゃんが来てくれれば、夏澄も喜ぶんだけどね」

 「とにかく待つしかないな」


 ………………。


 「あと三日後には大晦日か」

 「年の瀬だよ」

 「忘年会、やるか」

 「だな。どっちにしろ夏澄ちゃんを呼ぶならそうなるだろ」


 スマホのバイブレーションが鳴る。


 「泉からだ」

 「早苗ちゃんどうだって?」

 「よかったな。行けるみたいだぞ」

 「準備するか!」

 「それじゃまずは恒例の買い出し決めだな」

 「と、その前に」


 鎌田がパソコンを取り出し、作曲ソフトを立ち上げる。


 「こんなんでどう? オレの曲」


 イヤホンを渡され曲を聴いてみる。鎌田らしい激しさを感じつつ、静かになるところだあったりと、ついこの前までの出来事を思い出しそう、そんな曲だった。


 「いいじゃないか。この前のバスケをしたことを思い出したよ」

 「……まあ、そんなところだ」

 「成生の曲も聴かせてくれよ。USB持ってきてるんだろ?」

 「持ってきてはいるけど」

 「学校でちょろっと聴いたけど、できてるところまで一回聴かせてくれ」


 鎌田は俺が作った曲のファイルを開いて聴いている。


 「なんかめっちゃ切ないような、それでいて希望を感じる?」

 「やけに具体的な感想だな」

 「でも、よくこんなメロディを思いつくよな。もしかして病んでる?」

 「ほっとけ。至って健康だわ」

 「ギターよりキーボードとかの方が目立ちそうだね」

 「たしかに、そんな感じするな」

 「なにがどうであれ、いい曲なのは間違いない。自信もって最後まで書ききるか」

 「そうだな。完成したらまた聴かせるわ。そういや泉や夏澄ちゃんはどんな曲を書くんだろうな」

 「早苗ちゃんはわからないけど、夏澄のことだ、キラキラした曲を考えてるに違いないさ」




 「へっくちゅ!」

 「老野森さん大丈夫ですか?」

 「あ、先生、大丈夫です。きっと誰かがウワサしてるんですよ」

 「いいウワサだといいですね」

 「案外おにいちゃんとかがウワサしてるのかもしれないですね」

 「ハハ、鎌田君のことならありそうですね。それじゃ看護師の方と診察行きましょうか」




 「ぶわっくしょん!!」

 「やけにデカいくしゃみだな」

 「誰だ、オレの噂をしてるやつは」

 「悪い行いばっかしてるからじゃないの?」

 「え!? オレそんなに悪いことしてる!?」

 「なら学校いけ」

 「残念今は冬休みなんだなぁ」

 「ああ、そうそう。数学の先生から聞いたんだけど、明日の九時から進級できるかの面談なんだってな?」

 「………………すぅ……え?」

 「学年主任とかも来るらしい」

 「え?」

 「聞いてなかったのか?」

 「なんか、あったようななかったような……」

 「まあ、進級できるかできないかは鎌田の言動次第だろうな。その、なんだ、留年したら留年祝いでもあげるか」

 「上げねーよ!? なんだよ留年祝いって、応援しろよ!! ってか、絶対に進級してやる!!」

 「鎌田もついに後輩か~」

 「確定してないのに、よくそんなこと言えるな!?」

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