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Traumerei  作者: 水月
第三章・泉早苗
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001

 泉早苗と初めて出会ったのは、高校一年の頃だ。とは言っても、お互いに目を見て話し合ったわけではない。あっちは壇上で、こっちはパイプ椅子――つまり、入学式の新入生代表挨拶を務めていたのだ。入学して数週間は、泉が入試でほぼ満点に近い点数を取っていた、などと話半分、まことしやかに囁かれていた。しかし、日が進むに連れてその話題は風化し、新たな話題によって上塗りされるのだが、泉自身あまり目立つようなことは好きではないらしく、風化するのを今か今かと待ち望んでいたという。新入生代表を務めただけあって成績はとても優秀で、その実力は毎回のテストで学年一位や二位を取るほどだ。バスケ部で絶対的な猛威を振るっていた鎌田を武と例えるなら、泉は文だろう。将来を見据えて勉学に励み、いい大学を目指している。この前の勉強会では課題に加え赤本と呼ばれる大学の過去問集を黙々と解いていた。人間というものは一度苦しみから解放されると怠ける生き物で、入試の壁を越えた生徒たちは何らかの趣味に時間を投じ、徐々に学力の伸びが落ちていくものだが、泉はそういったものとは縁がなかったらしく、勉強という頭に知識を蓄える行為を趣味としていたのかもしれない。俺や鎌田のように抜け殻の時期が一度もなくただひたすらに、ひたむきに学校から与えられた課題やテスト勉強を怠らずにこなしいい成績を取る、泉はそれを今もなお継続中なのだ。しかし、そんな優秀な泉も体育はあまり自信がないようだ。特に、バスケやサッカー、陸上の長距離走等のコート全体を動き回るようなスポーツは苦手意識があるらしい。本人曰く、生まれつきそこまで体が丈夫な方ではないらしい、と苦笑しながら話していた。


 だが、それもあくまで本人談。生まれつき体が丈夫じゃないというのはともかく、スポーツに必要な力、特にバスケのシュートセンスに関しては鎌田とのバスケを通じて間違いなくあると感じていた。苦手とは言ってもそれは他教科との比較に過ぎない。俺や鎌田の苦手のものさしとはわけが違う。

 そんな彼女と同じクラスになったのは二年からで、一年次は別クラスだった。だからと言って、友人としての交流が最初からあったわけでもなく、むしろ正反対な俺と泉はつい先日まではろくに話すこともなかった。片や秀才、片や落ちこぼれ、相容れる要素など微塵もない。

そんな冬のある日だった。泉が高原を見て遠い世界でも見るようにして立っていたのは。


 そして、止まっていた冬が動き始める――

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