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Traumerei  作者: 水月
第二章・鎌田連
10/34

002

 「もうすぐ、冬休みだな~」

 「今年はなにして過ごすかな」

 「成生は追試課題ないん?」

 「あるよ。でも鎌田ほどでもないからのんびりやるつもり」

 「いつの間に出席してたんだよ」

 「俺真面目だから」

 「真面目なやつはそもそも追試の課題を貰わないよ」

 「このマンガ二巻ある?」

 「ああ、これな」

 「サンクス」

 「ギターの本は読まないのか?」

 「……今は、まだいいかな」

 「そうか……」


 あれから数日が経った。かごめとはあの日以来会えていない。かごめは絶対に生きている。ただ、今はまだ出会えないだけ。そう信じているはずなのに。

 放課後のチャイム。

 空っぽのカバンを持ち上げ帰る支度をする。


 「成生今日はどうする?」

 「……ああ、後で行くよ。先に帰っててくれ」

 「……りょーかい」


 教室を出、空き教室へ向かう。

 もしかしたら、なんて淡い希望を持ちながら空き教室のドアを開ける。


 「………………」


 今日もいない、か。

 俺はギターケースからギターを取り出す。

 かごめはどんな気持ちで弾いていたのだろうか。自分の姿が誰にも見えず、一人の世界で。

 ここでかごめと活動してた日はそんなに長くなかったが、遠い場所に来てしまった気がする。


 「こんなところにいたのか」

 「鎌田?」

 「すみません、鎌田君に成生君の場所を尋ねられたので、まさか本当にいるとは思ってませんでしたが……」

 「泉まで」

 「ここで練習してるのか?」

 「してる、というよりしてたって方が正しいけどな」

 「そうだ、オレも手伝ってやることにしたぞ。ドラム」

 「いいのか?」

 「ドラムでスカッとできそうだしね。早苗ちゃんもどう?」

 「バンド? ですよね?」

 「オレがドラムやるからあとは、キーボードとベースだね」

 「ピアノなら少しだけできますけど」

 「お、ちょうどいいじゃん早苗ちゃんも一緒にやらない?」

 「さすがに強引すぎるだろ……」

 「あはは、でもなんだか楽しそうですね。すぐにはお返事できませんが前向きに考えておきます」

 「無理にやらせるつもりもないし、嫌だったら断ってもいいからな」

 「はい。私は先に帰りますね」

 「ありがとうね早苗ちゃん~」


 泉は空き教室を立ち去る。


 「いったいどういう風の吹き回しだ?」

 「まあまあ細かいことは気にすんな。オレも用事は一応片付いたし、それよりも、かごめちゃんと演んだろ? 今の腑抜けたお前じゃ演奏なんかできないだろうしオレも手伝ってやるよ」

 「はは、正直助かるわ。じゃあ、数学の誰先生だっけ? とりあえず先生に鎌田を誘ったことを後で伝えておくわ」

 「ちなみにオレも音楽経験とかないから期待はすんなよ」

 「やれるだけのことはやろうぜ。失敗しても別に死ぬわけじゃないし」

 「そうだな。音楽は(ハート)で奏でるものだからな」

 「俺は今日作曲でもするかね」

 「んじゃ、オレもやるか」

 「鎌田作曲できんのかよ」

 「こんなのノリと直感を信じてやればちょちょいのちょいよ。適当にパソコンで打ち込んで明日聴かせてやるよ」

 「ほいこれ」


 放課後。鎌田にイヤホンを渡されスマホに入ってる曲を聴いてみる。


 「まだ未完成でドラムもツッチーツッチーくらいだけど」

 「え? 普通に完成度高いんだが。鎌田が好きそうな少し激しめ感じの曲だな?」

 「それが伝わったならいいや。このフレーズから世界観を広げて行こうと思う」

 「バスケだけじゃなく音楽でも爆走しちまうのかよ鎌田は」

 「もたもたしてるとあっという間に追い抜かしちまうぜ」

 「それはそれでなんか癪だな。俺ももう少し頑張るか」

 「ハハッ、それでこそ成生だぜ。そうだ、この後少し体育館寄ろうぜ」

 「体育館? バスケ部とか部活やってんじゃないの?」

 「今日はバスケ部部活ないって後輩が言ってたぞ」

 「そうなのかってなんかまた都合のいいような」

 「? まあ気にすんなよ。久しぶりに動いとかないと体も訛っちまうし」


 体育館に移動するが、本当にバスケ部はおらず、静かな空間が広がっていた。


 「よし、少しやろうぜ」

 「やるって――おっと!」

 「ここにきたんだ。やることは一つしかないだろ」


 鎌田は俺にバスケットボールを投げつける。


 「まさか俺が鎌田と戦うなんて事はないだろうな?」

 「そのまさかだけど」

 「アホか! 勝てるわけないだろ!」

 「諦めたらそこでなんちゃらってよく言うだろ?」

 「いやもうなんちゃらなのよ」

 「こういうところから曲のイメージが湧く可能性もあるんじゃねえか?」

 「それは一理あるかもな……てやりたいだけだろ」

 「フーッフーッ」

 「口笛吹けてないからな」

 「わかった、んじゃ二本先取でどうだ?」

 「は~わかったよ。二本だけだぞ?」

 「っしゃ。んじゃ先攻は譲ってやるよ」


 少しボールを突いて感覚を取り戻す。俺も久しぶりのバスケだ。

 体育の授業で先生が休みの時に鎌田と軽くバスケをするレベルでもう数ヵ月もしていない。


 「よし、それじゃいくぞ」

 「こい!」


 俺は鎌田の懐にドリブルで切り込むが、鎌田のディフェンスはやはり上手い。

 ボールを切替し逆手で再びドリブルを始める。


 「どうした成生~、去年一緒にやってた時はこんなんじゃなかったろ?」

 「こんなもんもそんなもんも、試合中にシュート決めてたのは俺じゃなくて九割は鎌田だろうが!? 俺はパス担当だっての!」

 「そうだっけ?」

 「ラノベの無自覚系最強主人公みたいで腹立つな」

 「めっちゃ具体的なこと言うじゃん!?」

 「よし、それじゃこれでどうだ!」


 鎌田のディフェンスを引きつけロールターンで切り返し、後ろ向きに飛びながらシュートを放った。


 「ロールターンからのフェイダウェイか――まだまだぁーー!」


 鎌田の手はギリギリ触れず、ボールは放物線を描いてリングの中に入っていった。


 「お、やるじゃんよ成生」

 「ほんと勘弁してくれ。ディフェンス上手すぎ」

 「んじゃ次は俺のターンな」


 俺はボールを鎌田に渡す。


 「さて、どう攻めようかね」

 「いつもみたいに持ち前の速さでちぎればいいだろ」

 「それはもう少し体が温まってからね。まずは――」

 「速――」


 ギリギリ抜かれなかったものの、やはり鎌田のスピードは異次元だ。これより上があるんだから正直考えたくもない。


 「っと!」


 鎌田は俺の一瞬の硬直を狙ってシュートを放つ。

 心地の良い音とともにボールがネットを潜る。


 「手も足も出ないとはこのことだよ」

 「なに言ってるんだい? お互い一本取ってるじゃないか!」

 「んじゃ、次俺な」


 俺は鎌田からボールを貰う。


 「体が温まってきたからね。少しギアを上げてくぜ?」


 鎌田が常人を凌駕する速さで詰めてくる。何とか切り返すが、これでは逃げるので精一杯だ。


 「くっ――」

 「それ!」


 ボールを突かれ、コートの白線を越える。


 「やっぱりインチキだぜそのスピードは」

 「じゃあ次はオレの番だな」


 鎌田はボールを持つとさっきよりも脱力した姿勢でドリブルを始める。


 「来るか!?」


 鎌田の得意技。このドリブルに抜かれた選手は数知れず。

 笑みを浮かべる鎌田。そして次の瞬間だった。鎌田は俺の視界から消えた。左側にいるのはわかる。ギリギリ視えるが俺の反射神経じゃ鎌田の速さには追いつけない。

 抜かれた後すぐさま追いかけるが、鎌田はそのままレイアップを決めた。


 「っしゃ、勝ち!」

 「容赦ねぇな」

 「いい気分転換になったな。さて、帰るとすっか」

 「久しぶりに動くと普通に疲れるな」

 「それでも、今のバスケ部よりかは強いんじゃない?」

 「どうかな。スタミナに関しちゃ本当にすっからかんだし」

 「今日は家来るん?」

 「行くか~」




 「こたつ暖けぇ……」

 「そういや、成生ってなんでバスケやめたん?」

 「なんでだったかなぁ。バスケをしている理由がわかんなくなったんだと思う」

 「勝つためじゃないのか?」

 「それならもっと強い学校選んでるよ。インターハイとかウィンターカップ常連校とかな」

 「たしかにそれもそうか」

 「えっと、この漫画の次の巻は……と」


 本棚から漫画を手に取ると、下の段に漫画とは違う年季の入ったアルバムのようなものが目に入る。


 「お、これアルバムか?」

 「ん? ああ、そうだよ~」

 「どれどれ、鎌田の子どもの頃はっと」

 「恥ずかしいからあんまジロジロ見んなよ」

 「うわぁ~なんかめっちゃ表彰されてるじゃん。へ~、ん? この写真にいる女の子は?」

 「ああ……う~ん……なんて説明したらいいか」

 「彼女?」

 「バカ言えッ! これは、あれだ、幼馴染だ!」

 「なんか動揺してるような?」

 「もういいだろう? 返せよ」


 鎌田にアルバムを没収される。


 「てか、そろそろ冬休みだけど鎌田は追試課題間に合うのか? 漫画読んでる暇ないだろ」

 「ぐ、痛い所を付いてくるな。でも成生だってそろそろやり始めた方がいいだろ?」

 「そうだな俺もやるかー。一文字くらい」

 「いやもっと書けよ」

 「今年は何食って年越ししようかなー」

 「そろそろ冬休みだし、何か旨いものでも食う?」

 「タコパするか!」

 「それじゃ、買い出しを決める勝負といこうじゃないか」

 「問題は何で決めるかだ」

 「オレの家にあるのはトランプ、UNO、将棋くらいだけど」

 「回り将棋でもするか? 二人しかいないけど」

 「ブラックジャックで決めるか」

 「よし、んじゃシャッフルするぞー」


 お互いにシャッフルして、一枚目のカードをオープンする。


 「オレは10だな」

 「俺は、よしAだ」

 「んじゃ次はオレだな――フムフム」

 「俺か」


 カードをめくる。

 えっとカードは+4……+4!?


 「なあ鎌田……ちょいと質問なんだが、トランプの予備カード的なやつとか入れてたりする?」

 「うん、いれてるよ。その方がスリリングあるでしょ? もしかして引いた?」

 「これって」

 「あ~これはドロー4ですなぁ」

 「ブラックジャックに一番入れちゃダメなやつじゃないか!! UNOに帰ってくれ!!」

 「さあ成生、四枚ドローするんだ」

 「こんなの負け確定じゃん……」


 一枚目A。この時点で2か12だ。

 二枚目10。12が確定。

 三枚目3。15へ。

 頼む、四枚目は6以下であってくれ。


 「さすがにドロー4じゃあ一溜まりもないか。さて、オレは昼寝でもして待つかな」


 四枚目……ゆっくりとカードを覗くとそこに描かれた数字は6。


 「それはどうかな」

 「なんだよ、まさか21以内に収まったとでも言うのか!?」

 「どうする鎌田、俺はこれでターンエンドだぜ」

 「その自信に満ち溢れた表情はいったい……だが、オレもこのまま勝負を受けるぜ!」

 『オープン!!』

 「オレは20だ!」

 「俺は――21だ!」

 「なん……だと!?」

 「鎌田、買い物は頼んだ」

 「そんな、バナナ」


 鎌田が買い物をしに行くのを見届けた後、俺は炬燵の中で眠りについた。

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