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第七話

「おー、出版社ってこんなに色々あるんだな。一人で来ても見つけられなかったかもしれないわ。綾瀬と来て正解だな!」

「う、うん。そう……かも……」


 どうしてこうなったんだろう。

 ――原因はわかっている。私の悪い癖だ。昔から後先あまり考えずに思い立ったらすぐに行動してしまう。何度それで痛い目を見たことか。


「で、さっき言ってた本はどこにあんの?」

「えっと、こっちだよ」


 この本屋さんは行きつけだ。どのレーベルがどこに並んでいるかはわざわざ調べなくても覚えている。だから案内も簡単だった。

 だけど私の胸中は穏やかじゃない。だってあの長瀬くんと、放課後一緒に来ているのだ。別に彼が嫌というわけじゃないが、この状況はいろんな意味で落ち着かない。

 ――よし、さっさと案内して私は自分の本を見に行こう。一応ここまで来たのだ。目的は達成したし、本さえ買えればそれでいいはず。


「この棚にあるはずだよ。作家名の五十音順に並んでるから、すぐ見つかると思う。――じゃあ、私自分の本見てくるから……」

「おう、サンキュー!」


 案内した私は足早にその場を去った。作戦成功! うまくいってよかった。

 達成感に満ちたまま、元々の目的を果たしに行く。ここに来たのは図書室では出会えない、新刊をチェックするためだ。

 話題の図書のコーナーへ行くと、有名な賞の候補作がずらりと平積みされていた。その光景を見ただけで否応なしに期待が高まっていくのを感じる。

 先ほどの嫌な緊張感など忘れ、一冊、また一冊と手に取っていく。見るのは帯の推薦コメント、あらすじ、そして冒頭数行だ。出版されたばかりのものなので、まだ文庫化されておらず、価格が高い。なおさら慎重に選ばなければならない。


 ――あ、この文章綺麗だな。

 ――あ、この作家さんがコメントしてくれてるんだ。期待できそう。


 宝探しのような気分で目を通していく。すごく楽しい。

 よし、これを読んだら買うのを決めよう。今のところ、あの本か、あの本だ。でもこの本が良かったら……ああ、もう! 悩ましい!

 わくわくした気分で本を開いて文章に目を落とし「何読んでんの?」


 突然耳元から声がしてピシリと固まった。

 ――か、肩口から覗きこまないで。顔! 近い! 緊張するし……なんかぞくぞくする!


「な、長瀬くん、本はもういいの?」

「おう! 綾瀬のおかげで買えたぜ」


 声で分かっていたが、一歩横にずれて振り向くと、そこにいたのはやはり長瀬くんだ。彼は嬉しそうに手に持った紙袋を掲げて見せてきた。


「綾瀬はもう本選んだのか?」

「わ、私はもう少しかかるかな」

「そっか。じゃあ待ってるわ。向こうの椅子に座ってるから終わったら声かけてくれよ。急がなくていいし」

「え、あ、ちょっ――」


 それだけ言い残し、彼は歩いて行ってしまう。待ってる? なんで? これで終わりじゃないの?

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