第三十三話
教室に戻ってバックヤードに入ると、椅子に座って休憩していた近藤くんが私たち二人が戻ってきたことに真っ先に気がついた。
「お、佑太と綾瀬さん、おかえりー。あれ? 手、繋いでる?」
近藤くんの視線が私たちを射抜く。顔に疑問符を浮かべており、何か言いたげな表情だ。
咄嗟に私は手を離そうとしたけれど、佑太くんの手にぐっと力が篭められ、離れてはくれなかった。
「佑太くん……?」
意図を図りかねて見上げた私の視線を受けて佑太くんが「あ……悪い」と手を離した。
「ううん、別にいいんだけど……」
その様子を見ていた近藤くんが「ほーん」と何かわかったかのような声を出して近づいてきて、佑太くんの肩に手を置いた。
「ま、頑張れや。俺は応援してるぜ」
「……うるせ」
微妙に気まずそうな顔の佑太くん。対照的にどこか愉快そうに笑う近藤くん。
離さない方がよかったかな、でも今からまた繋ぎ直すのも変だしな、と逡巡していると、場を誤魔化すかのように佑太くんが明るい声をあげた。
「――っと、ここで突っ立ってても仕方ないし、着替えに行くか」
「あ、そうだね」
そのために戻ってきたんだった。
それに今はお昼時をすぎてしばらく経った頃なのでまだ比較的暇だけど、もう少しすると小腹がすき始めるころだ。また忙しくなるかもしれないし、ここでこの恰好のままいると、もしかしたら臨時で駆り出されてしまうかもしれない。
ここならメイド服も目立たないし、それほど落ち着かないということもないんだけどね。それでも制服の方がより落ち着けるというのは間違いない。
着替えは更衣室で行うので、またこのメイド服で廊下を歩かなくてはならない。今は唯可たちもいないし、悪目立ちしそうだなぁ……。
私は着替えの入った鞄を手にとっ――たところでふと思い立って、制服のブレザーを取り出した。
メイド服の白いエプロン部分だけを脱いで、上からブレザーを羽織る。
うん、やっぱり。色合いも似てるし、これなら廊下を歩いていてもそれほど違和感ないのでは……?
「なんか文栞、女学校の生徒みたいだな」
「女学校……!」
いずれにせよコスプレっぽいのかもしれないけれど、女学校ならありかも。なんとなく良家のお嬢様が通う学校のようなイメージがあって、実は密かな憧れがある。ほんの少しだけどね、ほんの。
「じゃあここで一旦解散か。どうする? 着替えた後、一緒に回る?」
特例措置として文化祭のこの二日間だけは、男子には空き教室を更衣室としてあてがわれ、男子更衣室と女子更衣室の両方が女子更衣室として活用されることになっている。女子生徒のかなりの人数が一斉に着替えるとなっては、女子更衣室だけでは足りなかったらしい。
だから普段通りなら一緒に更衣室前までいけばいいんだけど、今日は全然違う場所だ。
「ううん、せっかくだけど友達と約束してるから……」
「そっか。じゃあ俺は近藤と一緒に回るわ。じゃ、また後で」
「うん、またね」