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第三十話

「文栞ちゃん! 助けて!」

「ど、どうしたの?」


 呼ばれて調理室まで駆けていくと、志保に泣きつかれた。

 どうやら売れに売れたことが原因で材料が足りなくなったようで、調理班のうち数人が買い出しに行ったらしい。


 だがそもそも繁盛していたからこその事態なわけで、そこから人が抜けると手が回らなくなるのは必然だ。

 代理を立てようにもそこそこ調理が出来る人じゃないと、今から慣らしていては間に合わない。

 そこで志保が推薦して私に白羽の矢が立ったというわけだ。


「文栞ちゃんなら作れると思うんだけど……」


 先ほどまで給仕していたメニューだ。おおよそは把握している。念のためレシピをざっと確認してみたけれど……うん、問題ない。


「大丈夫! 手伝うよ」

「……良かったぁ。ありがとう」


 あからさまにほっとした様子の志保。

 私は黙って頷くと、服を汚さないように調理班の子が置いていったエプロンを借りて調理を開始した。

 メイド服の上からエプロンって変な感じ。


 ――作ってみて思ったけれど、これメニューの選定ミスじゃないかなぁ。

 とにかくメニューの種類が多いし、材料も多い。

 文化祭の二日間のみの限られた期間で使う分しか買えないのに、これは少ししんどいかも。

 明日はメニューの数を減らせばなんとかなりそうな気がする。


 調理は元々好きなのに加え、あちこち動き回ったり無理に笑顔を振りまいたりする必要はない。

 志保たちと話しつつ、忙しい中でも意外と楽しくこなすことが出来た。


 お昼時が過ぎて少しずつ人の波が引いてきたのか、徐々にお店の方から料理を求められるスピードが遅まってくる。

 そうこうしている間に買い出しに行っていた調理班のみんなも戻ってきた。


「文栞ちゃん、もういいよ。私も交代の時間過ぎてるし、一緒に上がろう。ありがとね」

「うん。疲れたねー……」

「本当。明日はちょっとメニューの数減らさないといけないなぁ。こんなのやってられないよ」


 やっぱり志保も気付いてたんだ。

 じゃあ私が出張って何か言うより志保に任せちゃったほうがいいな。同じ調理班だし。


「あ、そうだ、文栞ちゃん。適当にお昼作ってここで食べちゃおうよ」

「え? いいの?」

「戻ってから喫茶の方でお金だけ払っちゃえばいいでしょ。好きにトッピング出来るし、作り立てだから変なところで買うより絶対美味しいよ」


 志保と何を作るか相談した結果、お店で出しているふわふわパンケーキにアイスとフルーツをトッピングすることにした。

 そういえば生クリームはないのかなと思ったけれど、どうやら模擬店では保健所の許可がでないらしい。

 結構大変なんだなぁ。


「よし! 完成。食べよう」

「うん、いただきます」

「私もー。いただきます」


 パンケーキを切って口に運ぶと、柔らかな甘さがふわりと溶けていき、疲れた体を癒してくれた。

 かといって甘いだけでなく、添えたフルーツの爽やかな酸味がすっきりと口の中をリセットしてくれる。

 志保が一緒に淹れてくれた紅茶の香りもとても良く合っていた。


「美味しいね」

「うん。文栞ちゃんやっぱり作るの上手だね」

「志保に言われてもなぁ。この紅茶もすっごく美味しいし」

「これは趣味だから。私、料理よりどちらかというとこういうお菓子作りとか紅茶淹れたりとかそういうのの方が好きなんだよね」

「いいなぁ。私も興味はあるんだけど、あんまり機会がなくって……。良かったら今度教えてよ」

「全然いいよ。いつにしよっか?」


 そんな感じで話していると、何やら外が少し騒がしくなってきた。

 何かなと思っていると、ガラッと調理室のドアが開くと同時に入口に近い女子の黄色い声が響いた。

 びっくりして思わずフォークに刺さったパンケーキを落としそうになる。


「文栞…………と鈴見。もう仕事は終わり?」

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