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第三話

「咲良ー! お薦めされた作家さんの本、図書室にある分は全部読んだよ! 面白かったー」

「全部読んだの? 気に入ってくれたみたいで良かった!」

「うんうん、とっても面白かった! これ、お礼に私のお薦めの本。私物だし、何度も読んでるから返すのはいつでもいいよ!」

「ありがとう! 文栞のお薦めなら間違いないから楽しみー。今週中に読んじゃうね!」


 文栞というのは私の名前だ。綾瀬文栞。名は体を表すというけれど、本が好きになったのは少なからず名前の影響もあるのではないだろうか。

 咲良も名前の通り、満開の桜が咲き誇ったみたいな笑顔が似合う子。とっても可愛くて優しい自慢の友達だ。

 私たちはよくこうして本の貸し借りをしている。この前の作家さんはたまたま図書室で見つけただけで、持ってはいなかったらしい。そういうことも、よくある。高校生のお財布事情は厳しいのだ。


 咲良の笑顔に気分を良くした私は鼻歌混じりに、新たな傑作との出会いを果たすべく、図書室へと向かう。

 本の数は膨大だ。時間はどれだけあっても足りない。寸暇を惜しんで励まねば。後悔したときには遅いのだ。


 そうして図書室へ入ったところで気が付いた。


 ――来てる。


 長瀬くんも図書室へ来ていた。いたのは、例の作家さんの本が並んでいるあの書架の前。一冊の文庫本を手に取り、パラパラとページを捲っている。

 もしかしてハマったのかな? 趣味が合うのかもしれない。ほんの少しだが、思わず口角があがる。一応言っておくけれど、これは本好きの性だ。つまり、本能のようなもの。自分の好きな本を好きな人を見つけると半ば反射的に嬉しくなってしまうのだ。決して「長瀬くんと」趣味があったから、というわけではない。


 ……と思ったけれど、ちょーっとずれてる? あの作家さんの本が並んでいるところとは微妙に違う気が…………あっ!


 彼がいたのは先日、私が彼の様子を窺っていた場所。そして手にしているのは例の大人の小説だ。


 ――ふーん、ま、彼も年頃なんだし、そういう本に興味があってもおかしくないよね。クラスでも派手な彼がそういう本をわざわざ読むとはちょっと意外だけど。寛大な私としては見なかったことにしてあげよう。きっと知られたら恥ずかしいだろうから。大人な対応をする私に感謝してほしいくらい。

 いや、でも、あの時、私が手にしているところを見られた可能性も……? でも視線こっちに向けてなかったし。そんなはずないよね? そんなはずない! ぜったい、違う! もしそうだったら下手をすればもう学校に来れない!


 心の中で「絶対に違う、見られてない」と言い聞かせ、長瀬くんに見つからないように足早に他の書架の前に避難する。

 何も解決していないけれど、とりあえず一安心。気を取り直して私も本を探す。

 本を読むときは満たされていなくてはならない。余計なことに気を取られてはいけないのだ。


 タイトルからインスピレーションで数冊選び、その中から冒頭数行を読んで特に気に入ったものを一冊借りて行くことにした。本当はもっと借りたいけれど、一冊以上は寝不足になったり、勉強をする時間がなくなったりして、学校生活に支障をきたしかねない。

 一日一冊までが私のモットーだ。

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