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第二十二話

「いやー! 面白かったな!」

「うん! すっごく面白かった!」


 上映後、私たちは映画館の一つ下の階。レストランなんかがずらっと並んでいる階――所謂レストラン街のフロアに来ている。

 その中のお店の一つ。この店はアップルパイが美味しいことで有名だ。

 ちなみにここを提案したのは私。ずっと頼りきりだったから、ようやく一つ返せたかなといった感じ。


「原作のトリック、結構派手だったからどんなふうに映像化するのかと思ってたけど、いい意味で改変されてたな」

「うん、想像してたのと違う展開になったからびっくりしちゃったけど、『あ~、そうきたかぁ』って感心しちゃった」


 私たちはあれこれと、作品について話していく。

 長瀬くんのお話はメッセージで感じるものよりも熱量があるし、饒舌だ。

 私も誤解が出ないように考えながら文章をつくるメッセージよりも、思ったものをそのまま話すことが出来るし、素直に話せている気がする。


 思えばこうしてこんなに長い時間、長瀬くんと話すのは初めてだ。

 メッセージのやり取りでも思っていたことだけど、やはり長瀬くんとの時間は楽しい。


 メッセージだけでも。


 ――直接お話するならもっと。


 どんどん欲張りになっていく自分を自覚していく。


 でも学校で話せない状況を作っているのは私が望んだから。

 そして今日、こんなにも楽しく過ごすことが出来ているのは長瀬くんが誘ってくれたから。


 そもそもこうやって話すようになったきっかけ……だけはもしかしたら私かもしれないけど、あとは全部長瀬くんが自分からしてくれた。


 今日ここに来るためにちょっとだけ勇気をだして、いつもよりもお洒落をしてみた。

 長瀬くんは褒めてくれた。


 だけど、まだ足りない。


 今日お昼を食べたお店だって、その後の映画館だって、長瀬くんが選んでくれた場所だ。

 私は着いて行っただけ。


 このお店だけは提案できたけど、そもそもどこかカフェでも入って話そうと言ってくれたのは長瀬くんだ。


 だからもうちょっとだけ勇気を出してみたい。

 今度こそ〝自分から〟何か出来たと思えるように。


「――あのっ!」


 感想も粗方話し終わり、少し冷めたコーヒーを口にした長瀬くんに、声を投げかけた。

 

「なに?」


 長瀬くんは特に気負うでもなく、自然とこちらに目を向ける。


 だけど『言おう』としたことが、なかなか出てきてくれない。

 さっきまで普通に話せていたと思ったのに。


 ああ、やっぱり駄目だ。「なんでもない」と言って、なかったことにしよう。

 ――そう、諦めかけたときだった。


「ゆっくりでいいよ」

「……え?」

「何か話したいことあるんだろ? 焦らなくていいから。ゆっくり話してくれればいいから」


 長瀬くんはとてもやさしい顔をしている。

 私が何か話しだそうとしたことをきちんと悟って、待っててくれてるんだ。


 ――やっぱり敵わないなぁ。


 ……うん。でも、おかげで勇気がでた。

 待っててくれるなら、言える。応えたい。

 私はそう心に誓って、口を開く。


「えっとね、これからは『佑太くん』って呼んでもいいかな? ……もっと仲良くなりたいから」


 長瀬くんが目を見開いた。珍しく、ちょっと動揺したようにも見える。

 だけどすぐに嬉しそうな――素敵な笑顔を私に向けてくれた。


「……もちろん! じゃあ、俺の方も名前で呼んでいいよな? 文栞」

「……ありがとう、佑太くん。それともう一つお願いがあるんだけど――」

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