第二話
――――遅い。
私は焦れていた。
今日は金曜日。
長瀬くんがあの短編集を借りて行ってから、早四日。
私が借りた長編は疾うに読み終わり、なんなら同じ作家さんの別の作品も三冊読破済みだ。後はあの短編集を残すのみ。
お薦めしてくれた友達の咲良は本好きなだけあってさすがに面白く、時間も忘れてあっという間に読み終わってしまった。
咲良には感謝。今度、私のとっておきを教えてあげなきゃ。
そして目下の問題は長瀬くんだ。あの作家さんの作品なら面白くないはずがない。初期の作品ならば外れなんかもあるかもしれないけれど、あの短編集は最新作だ。私ならば絶対にその日中に読み終わるのに!
他の本を借りて行くという選択肢もあるけれど、今の気分は完全にあの作家さんの本なのだ。ほら、お蕎麦を食べる気分だったのに、やっぱりラーメンになったら違うってなるでしょ? それと一緒。
でもいつ返却されるかわからないし……今日返してくれるだろうか。
せめてもの悪あがきにと図書室で週末の課題を片付けながら時間を潰す。
トイレに席を立つときに、返却棚に返ってきてないかの確認も忘れない。――うん、やっぱりないよね、知ってた。
最終下校時刻まであと三〇分となったところで、件の長瀬くんが図書室に姿を現した。
手にはあの目的の文庫本を持っている。そしてそのまま返却カウンターへ行き……やった!
うちの学校の図書室は本が返却されると、まず返却カウンターで処理をされ、一旦、返却棚に置かれる。その後、ある程度量がたまったところで図書委員がまとめて書架に戻す。
一時置き場である返却棚に置かれた本を、書架に戻される前に借りるのは自由だ。
私は長瀬くんが書架の陰に消えていくのを見送ると、急いで返却棚に行き、置かれたばかりの短編集を手に入れた。
そのまま貸出処理をして一安心。はぁ、と安堵の息を吐き、ぎゅっと文庫本を胸に抱く。
これで心穏やかな週末が過ごせそう。