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第十話

 「文栞、今もしかして恋してる?」


 危うく手に持ったスマホを落としそうになった。



 長瀬くんと友達になって早二週間。

 正直、とても楽しい。

 当初はどうなることかと思ったけれど、学校での関わりはこれまでのまま、ほとんどメッセージだけでやり取りしている。

 話題はその日学校であったこととか、本のこととか。薦めた本は意外と気に入ってくれたみたいで、すぐに読んでくれた。そして次の本を薦めるとまた読んでくれたので、同じことを繰り返して今四冊目だ。読んだら必ずメッセージに感想を入れてくれる。

 やはり好きな本のことを話せるのは楽しいし、性格が全然違っているからか、思いもよらなかった視点や解釈を言ってくれるからすごく刺激になる。

 学校での関わり方を変えていないのは、単純にそうする必要がないためと、私がお願いしたからだ。彼は良くも悪くも注目度の高い人だ。もし私なんかと仲良くしていて、何か変なふうに言われでもしたら目も当てられない。



 今日は咲良と二人で学校近くのカフェに来ている。たまにこうしてお話したり、特に話題がなくても一緒に本を読んだりするのによく利用している。

 そしてお喋りそこそこに本を読み始めて二〇分ほどたったところで、スマホが震えたのを感じてポケットから取り出したところに、冒頭の質問が投げかけられた。


「な、なななななんのこと?」

「落ち着け、落ち着け」


 咲良が私をなだめるように、机越しに肩をぽん、ぽん、と二回叩いた。


「文栞、最近ずっとそわそわしてる。普段は本を読んでいるときはスマホなんて鞄に入れっぱなしで全然気にしてないのに、今はポケットに入れてる。そしてキリの良いところでもなさそうなのに、本を途中で置いてスマホを見だした。さすがに私でもおかしいってわかるよ」


 冷や汗が背中を伝っていくのを感じる。


「……咲良の気のせいじゃない? だって私、男子と話すことなんかないし。スマホだって、今日親から連絡来るって聞いてたから気にしてただけだし」

「本当に~? だってさっきスマホを見たとき、すっごい可愛い顔したよ。あれはまさしく、恋する乙女の顔だった!」


 私は気まずさから目線をそらした。まだ、誤魔化せるはず……。


「あれは弟から可愛い猫の動画が送られてきたから……!」

「ま、本当のところは昨日偶然、廊下で長瀬くんと話してるのを見たからなんだけどね。最近怪しいなとは思ってたけど確信はなかったから、カマかけちゃった。ごめんね?」


 い、意地悪だ。言葉とは裏腹に、すごく楽しそうな顔を浮かべている。

 私はせめてもの抵抗に、咲良を睨んでみる。でも、多分我ながら迫力はない。涙目になっちゃってるし。

 だが咲良はやはり楽しそうに笑いながら続けた。


「いやー、文栞にもとうとう春がきたかー。で、実際どうなの? いい感じ?」

「……別に。ただの友達だし」

「いやいやいや、ただの友達ならメッセージ来たくらいであんな顔はしないでしょ。さすがに誤魔化すのは無理あるって!」


 そんなに顔に出ていたのだろうか。……恥ずかしい。一体どんな顔をしていたのだろう。


「でも本当に何もないんだって。だってメッセージも雑談とか本の感想とかだし。それに、私なんかに長瀬くんが興味持つはずがないでしょ?」

「文栞、それ自白してるも同然だから。普通、何とも思ってない相手なら、〝自分が〟興味ないって言うはずでしょ。〝自分に〟興味持つはずがないってすっごい意識してることの裏返しじゃん!」


 何も言い返せない……。顔がどんどん熱くなっていく。

 とうとう顔を両手で覆って俯いてしまった私の頭を、咲良が優しく撫でた。


「よしよし。ごめんね、意地悪しちゃって。もうこれ以上聞かないから安心して? でも、私でもし相談に乗れることとかあったらいつでも言ってね? 絶対力になるから」


 もうすっかりと先ほどまでの揶揄いの色は消え失せていた。私は顔をあげると、咲良の目を真っすぐに見つめて、一度頷いた。咲良はいつもの桜の花みたいな笑顔を見せてくれた。

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