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前世の世界へ帰ってきた 5

なんか順番入れ替わってたりするんで、もし間違えてたら教えていただけますと助かります。


そもそも見てくださってる方が少数かもしれませんが(ㆁωㆁ*)

「人目はないか?」


(だいじょーぶー)


 自分の目で確認し、ディアベルからもしっかりと確認してもらい、俺は地面へと降り立つ。

「……よし、だいぶ感覚は戻ったな」

 前世より小柄なため、記憶が戻ってから少しだけあった違和感はすっかり無くなり、前世ほどではないが動けるようになったので良かった。

「格闘技でも習っとけば良かったよ」

(クオン、ムキムキなりたいのー?)

「前世でもそこまでムキムキじゃなかっただろ? それでも鍛えてはいたから、少し筋肉落ちたって感じるんだよ」

 前足で二の腕辺りをふにふに押してくるディアベルに、くすくすと笑って返し、門へと向かって歩き出す。

「しばらくおとなしくしててくれ」

(はぁい)

 テンプレだと、身分証無くて門番に止められたり、並んでる奴に絡まれたりするんだろが……。

「身分証の提示を。っ、これは、ヴァイン家の……っ」

 生真面目そうな門番の男性が、俺の出した身分証を見て、俺の顔を見て、また身分証を見てるな。

「偽物じゃないですよ」

 俺が声をかけると、門番さんはビクッと肩を揺らして身分証を返してくれる。

「通っても構いませんか?」

「あ、あぁ、もちろん、お通りくださいませ」

 口調が若干迷子な門番さんに見送られ、俺は街の中へと足を踏み入れる。

 昨日はヒューバートと一緒に通り過ぎただけだったから、今日はつい懐かしい街並みにきょろきょろしてしまう。

(ねークオンー、なんで街の中に、また壁あるのー?)

「あそこにあるのが、一応この国の一番偉い奴がいる建物だから、かな」

(ふぅん)

 悪魔なディアベルは、人の事には興味が無いらしく、俺の説明を聞いてすぐ興味を失ったようで、猫っぽく毛づくろいを始めている。

「落ちないようにな」

(はぁい)

 パタパタと揺れるディアベルの尻尾と羽に頬を擽られながら、俺は冒険者ギルドを目指して歩いていく。

 巻き込まれ主人公にありがちな方向音痴属性は俺には無いので、立ち並ぶ店の商品を横目に眺め進む足取りは軽い。

(色々売ってるねー)

「ここはこの国の城下街だからな」

 各地の食材が集まるこの街では、地球で売っていたような食材もあれば、ファンタジーそのものな食材も売っている。

「しょう油とミソも普通に売ってたんだ、思い出してみれば」

 前世ではあまりメジャーな調味料じゃなかった事もあり、料理に使った事はなかったが、存在は市場で見て覚えていた。

 調味料としては結構いい値段だったため、記憶に残ったのだ。

 残念なことに、前世の俺はあまり金に余裕がなかったため、興味はあっても手を出すことは出来なかったが。

 しょう油とミソの出処は、ファンタジー小説の定番というかあるあるなのか、東の海を超えた先にある島国だそうで、距離の関係もあるのか、かなり高めのお値段だ。

(買うー?)

「そうだな。ま、どっちにしろかさばるから帰りに……」

(収納使わないのー?)

「そうか、その手があったか」

 小声でディアベルと会話をしていた俺は、ディアベルの提案にポンと手を打つと、早速しょう油とミソを売っているであろう店のある方向へと足を向ける。

 収納は前世でも使えなかった魔法だから、存在を忘れがちだ。便利だから色々使ってみよう。




 しょう油とミソを売っている店は、前世の記憶と変わらず、少し大通りから外れた静かな場所で営業していた。

 店の見た目は地球でも見るような八百屋みたいな感じだが、並んでいるのは野菜ではなく各種調味料やスパイスだ。

「らっしゃーせー」

 そんな事を考えて眺めていると、店の奥から出てきた年下に見える少年店員からの予想外なゆるい挨拶に、思わず吹き出しそうになる。

 たまに行っていたコンビニのお兄さんがこんな挨拶してたのを思い出したせいだ。

「……あの、なにか?」

 ガン見してしまっていたらしく、店員の少年から不審者を見るような目で見られていた。

「いや、すまない、しょう油とミソが欲しいんだが……」

「はい、ありがとうございます! 配達もいたしますが、どうされますか?」

 客だとわかった瞬間、少年はニコニコと笑顔になって接客してくれる。

 現金だな、と苦笑いしていると、店の奥から今度は俺と同い年ぐらいの少女が飛び出してきて、少年の後頭部を張り倒した。

「いっ、たー! 何すんだよ!」

「それは私の台詞よ! お客様にあの挨拶は何よ! そりゃ、あんな目で見られるわよ!」

 顔が似ているから姉弟かな、と思って眺めていると、ハッとした顔になった少女が、俺に向かって深々と頭を下げる。

「うちの者が大変失礼をいたしました! 本当に申し訳ございません」

「俺が最初ボーッとして態度が不審だったのも悪いから、あまり怒らないでやってくれ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」

 安堵の表情でまた深々と頭を下げた少女は、少年を横目でキッと睨みつけてから、笑顔を作って俺へと視線を戻す。

「お客様、しょう油とミソはお一つずつでよろしいでしょうか?」

「容器に入った状態で売ってるのか。量はそれぞれどれぐらいだ?」

 俺の要望に即座に反応して、少年が大きめのガラス瓶と壺を持ってきてくれる。

「しょう油でしたら、一番大きな物でこの瓶になります。ミソはこの壺が一番大きな容器です」

 姉が隣にいるせいか、カチコチと緊張した表情で説明してくれる少年に笑顔を向ける。

「ありがとう。じゃあ、しょう油とミソ、どちらも一番大きな物を一つずつもらえるか。そのまま持って帰るから、配達は大丈夫だ」

「え? す、すみません! かしこまりました!」

「すぐご用意いたしますね!」

 片方だけでも少年が持つと一抱えはある物を、少年と体格がほとんど変わらない俺が持ち帰ると言ったせいで、姉弟を驚かせてしまったらしい。

「配達してもらえば良かったか……あー、でもうちまで配達は無理か」

 ぬいぐるみかと思うほどおとなしくしてくれてるディアベルへ話しかけたつもりだったが、姉弟にも聞こえてしまったらしく揃って笑顔でこちらを振り返る。

「今からでも変更は可能です! ……お客様はどちらにお住まいで?」

「お……私が責任持って配達いたします!」

「お、おぅ、向こうの森の奥にある屋敷なんだけど……」

 ずいずいっと寄ってきた二人の勢いに、俺は若干引き気味の笑顔で屋敷のある方角を指さして見せる。

「「申し訳ございませんでした!」」

「うん、わかってた」

(おー、息ぴったりー)

 お笑い芸人かよと思う勢いの手のひら返しな謝罪をして頭を下げる姉弟を、静かだったディアベルが面白そうに眺めてにゃうんと一鳴きする。

「無理だろうと思ってたから、気にしないでくれ。逆に来てもらって何かあったら、心苦しいから」

 ひら、と手を振って見せた俺は、ポケットに手を突っ込んで財布を取り出す。

「すみません、お気遣いありがとうございます」

「その……冒険者に依頼を出して運んでもらったりも出来ますよ?」

 ペコリと礼儀正しく頭を下げる姉に、おずおずと提案してくれる弟。

 最初の挨拶はともかく、好感の持てる姉弟に、俺は次回もここで買おうと内心で決意する。

「どうしても運べそうもなかったら、そうさせてもらう。ありがとう。で、二つでいくらだ?」

「はい。しょう油とミソの大容器、合わせて金貨二枚でごさいます」

「……ん? なんか安過ぎないか?」

 想定より安めの値段に、俺は首を傾げて姉弟の顔を見る。

 まさか十年ちょっとの間に物価が大きく変わったなんて事はそうそうあるもんじゃない。

「いえ、配達も出来ませんし、うちの弟の態度が宜しくなかったので少々ですけど、その、値引きを……」

「気にするな、と言っても無駄か」

 やはりというか、姉の態度から察するに、以前うるさく言ってきた客がいたんだろう。

 あと、姉弟で合ってたようで良かった。内心での判断とはいえ、間違ってたらとちょっと恥ずかしいし。

 で、しょう油とミソの話に戻るが、この二つは決して安い物ではない。その上、この国ではそこまでメジャーな調味料ではない。

 買うのは物好きか金持ちってところか。

 どちらにしろ相手にするのはめんど……大変そうだ。

 俺としてはしっかりとした品には、定価を払うのはやぶさかではない。というか、下手にこんな値下げばかりして、この店が潰れたら困る。

 しょう油とミソも、チラリと確認しただけだが品質はかなり良い。ぐるりと見渡して見た他の商品も、良い物に見える……が、俺以外客はない。

「じゃあ、こうしよう。まず値段は定価を払わせてくれ。それで、俺はしょう油とミソが定期的に欲しいから、毎月俺の分を取り置きしてもらえないか? もちろん、その分は年単位前金で払う」

「え? えぇ、それは構いませんが、金額はかなり高くなりますし、お客様が損をされ……」

「損はしてない。そちらが面倒だと言うなら仕方ないが」

 実際、俺にとって損は無いので、戸惑っている姉の方から、弟くんへ視線を移すと、

「それはありません! 喜んでさせていただきたくあります!」

 勢いのあまり、かなりおかしな口調で承諾してくれた。

「今日はいきなりだから、無理は言わないけど、来月からの取り置き分は、それぞれ二倍でも大丈夫か?」

「はい! もちろんであります!」

 面白い返事をする弟くんの背後に、ぶんぶんと揺れる尻尾の幻覚が見え──いや、本当に生えてるわ。

 俺が思わず尻尾を注視してると、それに気付いた姉弟の顔色が揃ってサーッと変わる。

「あ、あの! これは、その……」

 姉の方がサッと前に出て弟を隠し、引きつった笑顔で何かを必死に言おうとしているが、その体は小さく震えている。

「ん? あー、喜んでるのはわかるが、埃が立つから仕事中はあんまりぶんぶん振らないほうがいいとは思うぞ?」

 生理現象みたいなものだからと、そのまま気にせず話を続けようとする俺に、姉弟は目を見張って固まっている。

「その、実は私達、獣人なのですが……」

「みたいだな。可愛い尻尾だ」

 今日の分と、前金分と、それに手数料に色を付けた額を想定して硬貨を数えていると、意を決したような姉の台詞が聞こえてきたので返したが、思い切り生返事になった気がする。

「か、可愛い……?」

 今度聞こえたのは戸惑ったような弟くんの呟き。

「男に可愛いは失礼だったか。ま、俺にとっては可愛く見えるんだ、気を悪くしたならすまない。で、いくらになる?」

 俺にしか聞こえないだろうが、飽きてきたディアベルが耳元で文句を言ってきてるので、俺はさっさと帰ろうと軽く謝罪をしてから金額を問う。

 大きな声では言えないが、ヒューバートは生前の俺のヘソクリをきちんと取っておいてくれただけではなく、こっそり足してもくれたようなので、懐にはかなり余裕がある。

「み、耳だってあるんですよ!」

 ディアベルを撫でて会計を待っていると、弟くんが当たり前な宣言をして、ピンッと立った自らの三角でもふもふな耳を見せてくる。

「ずっと倒して隠してたのか、器用だな。心配しなくても可愛いぞ?」

 自慢したいのかと誉めてみると、弟くんは目を見張って固まり、頬を染めてぷるぷるしている。

「あの、気になさらないのですか?」

 ぷるぷるしている弟を横目に、姉の方が金額の書かれた紙を差し出しながらおずおずと問いかけてくる。

「うん? 抜け毛とかか? うちにもこいつがいるし、店なら気にかけてるだろうから、気にはならない」

(僕、抜け毛ないけどー?)

 俺以外には、みゃうん、としか聞こえない声でディアベルが文句を言ってきたので、その頭を撫でてやりながら、数えておいた硬貨を手渡しする

「ありがとうございます……先程の定期的な取り置きを文面にいたしましたので、こちらの書類へサインをお願いします」

「あぁ……っと」

 代金を確認した姉から差し出された羽ペンと紙を受け取り、先程提案した内容が間違いなく書かれている事を確認する。

 内容の確認が終わり、前世で使い慣れた異世界な文字で名前を書いていくが、つい『クオンタム』と書きかけて、ピタリとペン先を止める。

 『クオンタ』まで書いてしまった紙を、どうするかと数秒悩んでいると、み、と短く鳴いたディアベルが俺の肩からでろんと伸び、ふわふわの右前足で紙へと触れる。

「あ、こら、いい子にしててくれ」

(えへへー、お礼は甘い物の追加でいいよー)

 思わずやんわりと注意したが、ディアベルの黄金の右前足のおかげでインクが滲み、クオンの後の文字は判読不明な紙の染みへと変わる。

「すまない、汚してしまったんだが……」

「問題ございません。お名前はきちんと読めますので……お買い上げありがとうございます、お客様」

「名前で呼んでもらって構わない。お客様だと、区別がつかなくなりそうだ。あと、俺が名前で呼ばれたい」

 言葉の途中で断られそうな雰囲気を感じたので、言い切ったモン勝ちって事で後半は早口で言い切ってしまう。

「ですが、身分のある方をお名前で呼ぶなんて……」

「身分? あー、違う違う。俺はただの平民。これから冒険者登録行こうかと思ってたんだけど、途中でしょう油とミソ欲しくなって寄り道しただけ」

「え、あの、でもあの森の奥のお屋敷にお住まいのお貴族様なのでは?」

 すっかり耳を隠すのはやめたのか、弟くんの方が耳をピコピコとさせながら興味津々な様子で俺を見つめてくる。大型犬みたいで可愛いと思ったが、今度は口に出さないように心の中で呟いておく。

「住んでるのは友人で、俺は居候なんだ。で、料理を担当してるから、こうして調味料の買い出しもしてるんだよ」

 どうも二人共やたらと緊張してると思ったら、お貴族サマだと勘違いされていたのか。

「勘違いさせて悪かった。通りで異様に丁寧な扱いされる訳だ」

 冗談っぽく笑ってそう謝ると、弟くんは落ち着きなくパタパタと手と尻尾を振って、照れ臭そうな笑顔になる。

「いえ、その……クオン様がお客様である事には変わりはありません!」

「様もいらない」

 そう告げると、弟くんははにかんだような笑顔になり、

「では、クオンさん、と呼んでもいいですか? 冒険者登録に行かれるなら、お……私がご案内しますよ」

と、尻尾を揺らしながら提案してくれる。

(クオン、懐かれたー?)

 ディアベルの声にそっと笑った俺は、黙ったままの姉の方をチラリと見やる。

 彼女は弟くんを見て困ったように笑っていたが、俺の視線に気付くと表情を引き締めて、営業スマイルへと変わる。

 また弟くんが怒られるのでは、と俺は危惧したのだが、

「ぜひ弟をお連れください。これでも、そこそこ名前の売れた冒険者なので。お詫びにはならないでしょうが……」

と、ちょうど良かったとばかりに弟くんの背を押して俺の方へいい笑顔で差し出してくる。

 手のかかる弟に困ってる苦労人な姉かと思ったが、したたかな商売人の顔もあるらしい。

「いや、助かるよ。絡まれたりしないか、少し不安だったんだ。頼めるか、えぇと……」

「お、私は、トゥエルと申します。姉は、ミュオです」

「改めてよろしく。二人のことは名前で呼んでも?」

 弟くんのぶんぶんと振られている尻尾をチラリと視界の端に入れながら、姉の方へと確認の視線を送る。

「はい! 姉さんもいいよな?」

 しかし、俺の無言の確認に答えが来る前に、弟くんからの元気いっぱいなお返事。

 本当に元気な大型犬のようだ。

「ええ、構いません。これからもよろしくお願いします、クオンさん」

 そう言って頭を下げた姉──ミュオさんが、弟くんの背中を軽く抓って押してるのを見て、俺はくすくすと笑う。

「早速だけど、この後すぐ冒険者ギルドまで行くつもりなんだ。今からトゥエルくんを借りても大丈夫か?」

 即答しようとしたらしいトゥエルくんは、俺の視線が姉であるミュオさんを見ている事に気付いて、待てを命令された犬のような表情で黙っている。

「ええ。配達は専門に頼んでる方がいらっしゃいますし、もうすぐ閉める時間ですから」

「お、私もこのぐらいの時間から冒険者ギルドへ顔を出して、依頼を受けたり、店用の薬草とかの採取へ行くんです」

 そろそろトゥエルくんの尻尾が千切れそうだな、と場違いな感想を抱きつつ、俺はトゥエルくんを伴って冒険者ギルドへ向かうことになった。

思うままに生きてる主人公クオンくんです。


ヒューバートが胃痛持ちになりそうな予感。


そして、ケモミミは至高。愛でる枠なので、恋愛的な絡みは無いです。


あくまでも、クオンへの気持ちは強者に対する憧れの、ハズ。

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