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前世の世界へ帰ってきた 4

続編で、恋愛要素強めになった……と思うので、ハイファンタジーから異世界(恋愛)へ分類変更しましたm(_ _)m


まあ、一応念の為です。

(これ美味しいよー)


「そりゃ、良かった」


 浮きながらだとあちこち汚しそうなので、きちんとテーブルに着いてニコニコと笑顔で食事をするディアベルは、愛らしい幼児そのものだ。

 椅子の上にクッションを置き、その上に座っているので少し不安定かもしれないが、ディアベルなら落ちないだろう。

「ほら、ついてる」

 ディアベルの頬についたトマトソースを拭ってから、俺もスパゲティをフォークで巻いて口へ運ぶ。

「うん、自画自賛だけど美味いな。そもそもトマトが美味いんだろう。高そうだったし」

(ヒューバート、金持ちー?)

「金持ちだな。あと身分も高いし、顔もいいし、性格もいい。どう考えてもモテモテ人生だよ」

 あれ? 俺ってよく考えれば邪魔じゃないか? 普通にヒューバート、恋人とか奥さんとかいそうなんだが。

「なぁ、ディアベル。俺って、ヒューバートの邪魔にならないか?」

 本人に訊ねる訳にもいかないので、目の前にいたディアベルに訊ねた訳だが、幼児な見た目からは想像できないような呆れきった眼差しを向けられてしまった。

(……クオン、マジで言ってるー?)

「一応、マジのマジだったんだが……」

 ヒューバートは何だかんだで優しいから、間違っても自分から出て行けとは言わないだろう。

 そう伝えた時のディアベルの、えー、という顔は見ないようにしておく。

「邪魔になるかはともかく、自力で稼ぐ手段は欲しいから、冒険者登録でもするか。異世界転移小説のテンプレなぞるみたいで嫌だが……」

(それ知ってるー。冒険者ギルド行って、お前みたいなガキの来るとこじゃねぇ、って絡まれるんだよー)

 そんなコテコテのフラグを建てまくりながら、スパゲティを食べ終えたディアベルが飛びついて来て、着ていた白基調のシャツは洗濯行きとなった。

「金は持ったし、戸締まりも火の用心も大丈夫。ディアは、消えておくか?」

(クオンに何かあったら僕が守るのー)

 そう言ってドロンッと羽根のある猫の姿になったディアベルは、俺の肩の上に陣取って護衛してくれるつもりらしい。

「はは、やりすぎないでくれよ?」

(僕の黄金の右前足がうなるー)

 気合の入った様子のディアベルに、若干の不安はあるが、普通の猫サイズの猫パンチならさすがに死傷者とかは出ないだろう。

 ディアベルがもふもふな可愛らしい前足を動かす度、耳元でブンブンと風を切る音がするなんて気のせいだな。

「先に冒険者ギルド寄って、帰りにパン屋寄るから。ディアは何か食べたい物とかあるか? 魚とか肉とか……」

(えっとねー、若い健康なお肉ー。出来ればしょ……)

「若鶏でいいな、若鶏で」

 肩で舌舐めずりしているディアベルの発言をぶった切り、俺は夕飯はから揚げにしようと決める。

(ぶーぶー。じゃあ、クオンの作る甘い物ー)

「了解。何にするかなー」

 魔法があるおかげで、色々作業が楽なので多少面倒臭いようなお菓子でもいいな、と楽しい想像をしながら、俺はトンッと地面を蹴って前方の斜め上へ向けて跳び上がる。

 今はヒューバートの自宅となったこの屋敷は、主要な街道から外れて森の中にあるポツンと一軒家状態な屋敷だが、街まできちんと整備された道は続いている。

 だが安全な道中のため鬱蒼とした森を開いてあちこち迂回しているせいで、街までは少し遠回りになる。

 という訳で、俺は──。



「おっと、ごめんなー」

 突然巣の傍に現れた俺に驚き、大きな巣の中で巨大な鳥の雛がピヨピヨと騒いでいる。

(ごめんなー)

 俺じゃなくてディアベルに怯えてるのか、と思いつつ、俺は着地した枝を蹴り、さらに次の枝を目指して跳躍する。

 そして、また次の枝へ跳躍。

 それを何回も繰り返して一直線で街へ向かっていく。

 枝の間をヒュンヒュンと跳んでいる合間、アニメでこういう光景を見たなー、と思うが、理解してくれるのはお知り合いになりたいとは思えない『モミジさん』ぐらいだろう。

 ま、この移動方法は前世でもやっていたから、アニメ観て思いついた訳ではないけど。

 前世でもヒューバートには、馬車を呼んで使えって注意されていたが、こっちの方が断然早いし、気を使わなくていいし、痴漢にも遭わないから楽だ。

 楽しくなってしばらく無心でぴょんぴょんと進んでいると、



(クオン、なんかいるー)



 そう耳元でディアベルの声がして、ちょうど枝に着地した所で足を止める。

「なんか……? あぁ、ゴブリンか。こんな街に近い方で珍しいな」

 枝の間から地面を見下ろすと、薄暗い森の中を進んでいく緑がかった肌の小鬼を見つけ、首を捻る。

 モンスターがいる事自体はこの世界の普通なので驚きはしないが、俺の進行具合と木々の隙間から見える街の外壁との距離感からすると、少し近くまで寄り過ぎだ。

「一、ニ……三……いや五匹か。それと、冒険者か、あれは」

 気配を殺して周囲の様子を探ると、小走りなゴブリン達の前方に、必死な表情で走っている冒険者ぽい人影を見つける。

 性別は男性。人数は一人……ではないな、誰かを背負っているらしい。

 そりゃあ、表情は必死になってても足が遅い訳だ。

「あれを無視は、後味が悪いよな。



おい! 手助けはいるか!」

 いらないとは言われないと思うが、冒険者間の暗黙の了解として一声をかけてから、魔法を使う準備をする。

(なんで声かけるのー?)

「冒険者の暗黙の了解だ。基本的には助けを求められた時以外、手を出さない方がいい」

 手助けしようと思ってモンスター倒したら、獲物横取りするな! と怒鳴られてしまったこと(前世)があるからな。

 俺の経験談に、ディアベルはへーと気の抜けた返事をして、俺の肩にしっかりとしがみつき直す。

「た、たのむ!」

 息も切れ切れだが、存外しっかりした返事を聞いた瞬間、俺は練っていた魔法を発動する。

 前世だったら容赦無く炎で焼き払うところだが、今回は森を燃やしたくはないし、即死させられなければあの冒険者が襲われる可能性もある。

 という訳で。



「生い茂れ!」



 答えはシンプルに。

 森の中なんだから、植物を操ればいい。

 俺の『想像』通りに発動した魔法で、地面を突き破って緑色の蔓が出現し、ゴブリン達を囲んで足止めする。

 自分で想像しといてなんだが、かなりの太さの蔓が生い茂っている。

(痛そー)

「棘がヤバい」

 誰かの救助に使う場合は、しっかりと棘のない蔓を想像しようと心に誓う。

 今現在、棘に刺されてダメージを受けているゴブリン達は仕方無いよな。

「な、なんだ?」

 ゴブリンが追ってこない事に気づいたのか走っていた冒険者が足を止め、驚いた表情で背後を見ている。

「俺の魔法だ。殺すのは俺がするか? それともあなたが止めを刺すか?」

 木の上から話しかけると、

「そうか、助かった! ありがとう! すまないが、始末も頼めるか? 俺は武器がこの通りだし、相棒は魔力切れなんだ」

 男性冒険者は安堵した様子を隠さず、笑顔で感謝を口にして、折れた剣を叩いて見せる。

「あぁ、わかった。もう少し離れてくれるか」

 木から降りなくてもゴブリンの視認は出来てる。

 この男性冒険者は人が良いのか、素直に離れてくれた。

 よし、俺なら出来るだろう。

「右だったよな」

(なにがー?)

「ゴブリンの討伐証明」

 ディアベルに簡潔に答えながら、俺は頭の中でイメージを固めていく。

 さっきは気合を入れて叫んだが、たぶん無言でも魔法は発動できる筈だ。

 実験も兼ねて、俺はぎゃわきゃわ言ってるゴブリンを無言で睨む。

 燃え上がれ。

 心の名でそう呟いた瞬間、俺の周りに発生した小さな複数の火の玉がゴブリン達へ向かう。それはゴブリンに触れると一気にその体を青白い炎で包み、ぎゃ、という短い悲鳴だけを断末魔にして燃やし尽くす。

 残ったのは少し焦げた地面と、断面からブスブスと煙をあげている緑色の耳のみ。

 右だけ残すのは難しかったので両耳残ってるが、多い分には問題はない……はず。

「あとは頼んでもいいか?」

 ズズズと蔓を引っ込ませてから、俺は放心している男性冒険者へ声をかける。

「え! いらないのか? 持っていけば金も貰えるんだぞ?」

 驚きを隠さない男性冒険者の声に、枝の上からひらひらと手を振って応え、俺は再び樹上移動を開始する。

(ほっといていいのー?)

「面倒臭いからな。あとは自力でどうにかするだろ」

 ヒューバートが帰るまでには屋敷へ戻って、夕飯の準備をしないといけない。

 ここで彼らに冒険者ギルドまで付き合ったら遅くなってしまうのは目に見えてる。





(おせっかいー)



「また襲われたら面倒なだけだ」




 だから、彼らが向かうであろう先にいた、彼らに害なすであろう相手を倒しながら通り過ぎるのは、自分のためだ。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

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