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前世の世界へ帰って来た 1

ラブラブ?同棲生活スタートします。


主人公は深く考えてるようで、あまり考えてなくて、意外と変なことを気にするタイプです。

 少しややこしい出戻り転移をした俺は、前世で友人だったヒューバートと暮らすことになった。

 同い年だった『悪友』は、俺が一度死んだせいで二十近くも年上になっていたのだが、十代の頃でさえ迫力のある美人だったのに、歳を重ねた今はさらに……。



「迫力あるよなー」



(だね。あっちのニンゲンの描いた、魔王の絵みたいだよー)



 俺へ絡んできていたお兄さんが、真っ青でブルブルしてる姿を、ヒューバートの背中越しに眺めて俺はそんな事を呟いていた。

 俺にしか聞こえない声で相づちを打ったのは、お兄さんを睨んでいるヒューバートではなく、俺の肩でぐでっとしている羽根の生えた黒猫だ。

 ヒューバート以外には魔獣という事にしているコイツは、俺と契約している悪魔だ。

 ちなみに俺の前世の死因でもある。

 縁あって──というか、俺の魂を気に入った悪魔が、ずっと俺へ憑いていたらしい。

 で、俺が前世を思い出したし、向こう(前世だった異世界)見に行く? ちょうど召喚するみたいなんだよー。な、緩いノリで連れてこられた訳だが、今では感謝している。

 こうやってヒューバートと再会出来た。

 今生でも馬鹿とか言われる俺だけど、前世ではもっと馬鹿なやつだった。

 なんで、幼馴染みのために死んだんだろう。

 いや、別に幼馴染みが嫌いだったと気付いたとかじゃない。

 幼馴染みのことは、好きだった……と思う。それこそ前世のことだから、もう薄ぼんやりした気持ちの名残ぐらいしかないけど。

 でも、あの時は確かにアイツに生きていて欲しい。そう俺は強く思って、一人で突っ走り、悪魔を召喚して自らの命と引き換えに幼馴染みの一族を生かそうとした。

 自分でもツッコミどころ満載だ。


 何処の英雄サマだよ。


 しかも、誰にも知られたくないと、結局『悪友』だったヒューバートを巻き込んで、ずっと傷つけていた。



 目の前にある広くなった背中を見つめ、俺は思わずため息を吐く。

「おい、何かされたのか?」

 俺のため息を聞き逃さなかったらしいヒューバートが、バッと勢い良く振り返り、肩を掴んで心配そうに覗き込んでくる。

「いや、何もされてない。少し向こうで話さないかって、声かけられただけだ」

 安心させようと俺はニッと笑って見せ、やたらと絡んできたお兄さんが『向こう』と言って指していた方向へ視線を向ける。

「ん?」

 ちょっと路地裏でお話して、お金あるよねー? 的なお誘いだと思っていた俺は、そちらを見て首を捻る。

 確かに特徴的な建物がひしめき、暗めではある場所だが、カツアゲするには向いていない。

 露出の多いお姉さんや、色気がだだ漏れてるようなお兄さんお姉さん(?)が声かけてきたり、そうゆうことをしたい二人で消えていくような通りの筈だ。

 前世ではあの辺りに金を稼ぐ為に入り浸ってたから、見間違えとかはないと思う。

「あれ? もしかして、ナンパだったのか」

(気付いてなかったんだー。僕すぐわかったよー?)


 イヤらしい目で君のこと見てたもん。



 肩で寛ぐ──俺がディアベルと名付けた悪魔は、そう小さく付け足して、不機嫌そうにゆらゆらと長い尻尾を揺らしている。

「そうか、ありがとう。それでヒューを探してきてくれたんだな」

(だーって、君、気付かずついてって、サラッとヤラれそうー)

 サラッとヤラれそう……コイツの中で俺はどんだけ迂闊なヤツだと思われてるのか。

 そこまで考えて、そもそもの出会いが俺の迂闊な行いのせいだと気付いて、自嘲気味に笑う。



「ほぅ、ナンパか」



 囁く声、ひやりと。

 周囲の温度が一気に下がった気がし、俺はディアベルを抱えてぶるりと小さく体を震わせ、原因であるヒューバートの背中に触れる。

「ヒュー? ヒューバートさーん?」

「……少し向こうで『お話』しよう」

 そのお話って、どんなお話ですかー?

 お兄さん、ガクブルガクブルしてますがー?

 内心で突っ込むだけにして、俺はイイ笑顔でお兄さんを引っ張っていくヒューバートを見送る。

(おっはなしー、おっはなしー)

「あれは過保護過ぎないか?」

(君があっさり死んじゃったからでしょー?)

「それを言われると、グーの音も出ないが……」

 殺したお前が言うな、とかいう無粋なツッコミは自分の首も締めるで言わないのが正解だろう。

 俺も逆の立場なら……そもそも、ヒューバートなら違う手段を取りそうだ。

 再び肩へ登ってきた悪魔の尻尾が、びったんびったんと頬を叩いてくる。もふもふで気持ちいい。

「……ヒューは、俺をどうしたいんだ」

「とりあえず、知らない人間にはついていくな。贈り物はやたらと受け取るな」

 独り言に返事があり、俺はシパシパと瞬きをして振り返る。

「いや、一応俺は前世足せば、成人……」

「記憶が戻ったのが最近なら、外見年齢と精神年齢は変わらないな」

 俺の反論は真っ向から正論で叩き返され、ついでにハンッと鼻で笑われた。

 ヒューバートは影のあるイケメンって感じの悪役が似合いそうなキツい顔立ちの美人だから、鼻で笑う仕草とか良く似合う。似合い過ぎだ。

(クオンの負けー)

「行くぞ、クオン」

「おう」

 もうはぐれないよう手を繋ぐぞ、というありがたい提案は、全力で断っておいた。

 そういえば、俺は前世と同じ名前でヒューバートから呼ばれている。

 別にそう呼んでくれと頼んだ訳でもなく、そう呼ばせてくれと頼まれた訳でもない。



 単純に、今の俺の名前もクオンだからだ。



『結木来音』(ゆうきくおん)



 移動してから、改めてそう名乗った時、ヒューバートは何故か泣きそうな顔で笑い、

「またクオンと呼べるんだな」

と、抱き締められた。

 その体は微かに震えていて、俺は申し訳なさからヒューバートが満足するまでじっとしていた。



 移動した先は、俺が変わり者の貴族からもらった隠れ家で、俺が死んだ後はヒューバートに引き継がれたらしい。

 俺は孤児で天涯孤独だったし、ヒューバートが使ってくれてたなら俺も嬉しい。

「クオンが使ってた部屋は、そのままにしてある」

 そう何でもない事のように告げたヒューバートだが、遠くを見るような寂しげな眼差しは、俺が死んでからここで一人で過ごした日々を思い出してるのかもしれない。

「……ありがとう、ヒュー」

 ごめん、という言葉を飲み込んで、改めて感謝を口にした俺は、ふとヒューバートに対する自分の態度に思いを巡らす。

 再会して即バレしたので、猫を被るような暇は無かったが、年上で身分差もあるようなヒューバートに馴れ馴れしく振る舞うのは、名前の事も含めて『クオンタム(前世)』との関係を疑われるから止めておいた方が……とそこまで考えて、あれ? となる。

「なぁ、ヒュー。前世の俺って、別に犯罪者扱いとかになってないよな?」

「どうした? 確かに悪魔召喚はあまりほめられた行動ではないが、犯罪という程ではない。その悪魔に、お前が大量虐殺を命じていたなら話は別だが」

 その悪魔、とヒューバートから視線を向けられたディアベルは、くぁ、と俺の肩の上で呑気に欠伸をしている。

「……してないよな?」

(してないよー、そんな面倒なことー。君のお願いはー、あの一族の短命な運命を変えることだけだったし)

「だよな。……なら、何で俺はこんなに不安を覚えてるんだ?」

(知らなーい。クオンが僕を喚び出した時、軽い洗脳状態だったからじゃないのー?)

「せん、のう? 誰が?」

(君が)

「いつ?」

(僕を喚び出した時。てっきり、そこの魔王顔の人が洗脳した人だと思ってたから、君の頭抱えて泣き出したのにはビックリしたのをよく覚えてるよー)

「そりゃあ、捨て駒にしようとした相手の頭を抱えて泣き出せば、何でだよ! ってなるか」

(そーそー。顔だけ見たら、なんかしそうだし? 洗脳してー、自分好きにさせてー、僕を助けてってお願いしそーな顔だもーん)

「ヒューは美人過ぎて、ちょっと悪っぽい顔だもんな」

 でも実際はとても優しいし、意外と泣き虫だ。

 そう内心で付け足した俺だったが、ディアベルとの会話に夢中で、ヒューバートの存在を忘れていた。

 かなり悪口っぽかったけどディアベルの言葉はヒューバートには聞こえないから大丈夫かなと恐る恐る窺うと、そこには魔王がいた。

「…………どういう事だ?」

「べ、別に、お前の悪口なんて言ってないぞ!?」

 地を這うような声音で問われ、俺はぶんぶんと首を横に振って引きつった笑みを浮かべる。

「ちょっと、ヒューの顔が整い過ぎてて初対面だと怖いかもなーって、話してただけだから!」

(そーだよー? 僕、すっごい睨まれたもーん)

「大切な友人の命を奪った相手を睨んで、何が悪い? 私は、その悪魔を許せそうもない」

「ヒューバート……って、あれ、もしかして、ディアの言葉聞こえてるのか?」

 ギロとディアベルを睨んで、ドスの利いた声で吐き捨てたヒューバートに、俺は驚いてヒューバートと悪魔を交互に見やる。

(あ、さっき聞こえるようにしたかもー)

「ああ、聞こえるようになった。癇に障る声だ。見た目通りの幼い子供のフリをして、クオンへ取り入ってるんだろう」

 一人と一匹の言葉に、俺は頭を抱え、おずおずとヒューバートを見る。

「あ、あのな、ヒュー。こいつも悪気があって言った訳じゃ……」

「私は! ……私は、別に悪魔の発言に怒ってる訳ではないないぞ? 顔が怖いぐらいは言われても気にしない」

 フォローしようとした俺の言葉はヒューバートに遮られ、脱力したヒューバートはその場へ崩れ落ちるように膝をつきながら、俺の腰へしがみついてくる。

 これはもしかして、魔法陣の反動がきたとか? 俺が無理矢理割り込んだから、想定以上の魔力を持ってかれたのか?

「ヒュー、しっかりしろ! 立てるか?」

 俺はヒューバートの様子に具合が悪いのかと慌てて声をかけたのだが、ヒューバートからの反応は予想外だった。

「それはこちらの台詞だ! 洗脳されていたとは、どういう事だ!」

「……いや、それを俺に言われても。今の今まで気づいてなかったんだぞ?」

 しがみついたまま詰め寄って来られ、俺は目線を外しながら答えて頬を掻く。

「……言われてみれば、悪魔召喚の少し前から、貴様の様子は何処かおかしかった。もとからおかしくはあったが、明らかにおかしかった。大切な幼馴染みのアレがあれなせいかと思っていたが」

(二回もおかしいって言われてるー)

「そう言われてもなぁ……死ぬ前後の記憶、かなり曖昧なんだよ。ヒューに何か頼んだのは……覚えてるな、辛うじて」

「そもそも、悪魔を召喚する魔法陣など、何処で知った? 貴様の……遺品を調べたが、そんな資料はどこにも無かった」

「…………え? それは、ここの屋根裏で見つけ……た?」

 そこまで呟いて、それはありえない事に気付く。

 俺にこの屋敷を使わせてくれている変わり者の貴族は、本当に変わり者だった。魔法陣や魔法に関して博識で、身分違いな俺とも楽しげに討論するような好奇心旺盛な人物だったが、ただ一つ『召喚』に関してはあまり興味を持っていなかった筈だ。

 悪魔召喚に関して言えば、興味を持つ以前に、嫌悪すら感じているようだった。

 俺もそれに関しては同感──。

「あ、れ? 俺は、悪魔を召喚する、なんて、したかったのか?」

 前世の俺は、確かに幼馴染みの助けになりたい、とは思っていた。

 でも、それは痛みを和らげたり、少しでも長く生きられるような手立てを考えていた。

「な、で、俺は……っ」

「落ち着け、クオン。息を止めるな、ゆっくり吸って、ゆっくりと吐くんだ」

(息しないと死んじゃうよー)

 ヒューバートとディアベルの声に、俺は自分が息を止めていた事に気付き、ゲホゲホと咳き込みながら必死に呼吸をする。

 腰にしがみついていたヒューバートは、いつの間にか立ち上がり、咳き込む俺の背中を撫でてくれている。

「ベッドで少し休むんだ。シーツも布団も綺麗にしてある」

 俺の咳が治まったのを見計らい、ヒューバートは軽々と俺を抱えて歩き出す。

 いわゆるお姫様抱っこ状態だが、俺は抵抗する気力もなく、おとなしく運ばれる。

 正直、もう一歩も歩きたくなかったので助かった。

 屋内だから人目も……ディアベルがニマニマと見てくるが気にしない。

「……下ろすぞ」

 ヒューバートのそんな柔らかい声と同時に、俺は柔らかい布の海に沈む。

 今生のパイプベッドとは比べ物にならない寝心地……というか、ここまで寝心地良かったか?

 確かに貴族の屋敷らしく、お高いベッドだった気はするがここまでではなかったような気がする。

「ベッドに不具合は?」

「え? 不具合はないが、何か替えたのか?」

「……ああ。一式買い替えた」

「なんで……って、そうか、あれから十年以上経ってるんだ。劣化もするよな」

 思わず疑問を口にした俺だったが、なんともいえない表情をしたヒューバートを見て買い替えられた理由を察して一人頷く。

 俺にとってはほとんど昨日のような感覚だが、あれから十数年は経った。ベッドが高級品だろうが劣化は免れないだろう。

「そ、そうだ! 劣化だ、劣化したんだ」

「そっか……」

 帰ってくるはずのない俺のために、わざわざ新しいベッドを用意してくれていたなんて、本当にヒューバートはいいヤツだ。

 俺は滲んだ涙を隠すため、ギュッと目を閉じてディアベルを抱え込んで暖を取る。

「ゆっくり休んでくれ」

思いの外疲れていたのか、目を閉じるとすぐに意識がふわふわしてきた。

「あぁ……何から何までありがとう、ヒュー……。──また会えて良かった」

 ふわふわとする意識の中、俺は離れていくヒューバートの気配を感じて、半分眠りに落ちながら囁いた。

 ちゃんと口から出せたかは微妙だが。



「──……」



 何か聞こえた気がしたが、眠りに落ちていく最中の俺には届くことはなかった。

お読みいただきまして、ありがとうございます(。>﹏<。)

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