日常に忍び寄る影(ヒロイン)2
ストレスかかると溺愛BL書きたくなる呪い、しっかりと発動中(ノ´∀`*)
何も考えてないエセシリアスで、二人がラブラブしてるところを書きたくて書いてます。
今回は少々あはんうふん匂わせありますので、ご注意ください。
ヒロインちゃんは出て来たとしても、当て馬以下の扱いしかされませんので、あしからず!←言い逃げ
俺が薬作りなどに使ってた部屋は、ヒューバートがそのままにしておいてくれたため、俺は快適な環境で薬作りに勤しんでいた。
ファンタジー系のRPGゲームが好きだった同級生なら、ゲームで見たまんまの風景じゃん! とか言って喜びそうな、魔女の薬屋的雰囲気の部屋だが、俺には見慣れた部屋な訳で特に感慨はない。
「これでヒューに頼まれた分はいいな。ついでに他のも色々してみるか」
(クオン、僕これ好きー)
コポコポと音を立てている二つのフラスコの液体を混ぜていると、そんな言葉と共にディアベルがふわふわと漂ってくる。
ディアベルが手に持っているのは、ボツにした増血ポーション(改)の瓶だ。
「ディアベルに、増血ポーションって効くのか?」
(効果無いよー? でも、味が好きなのー)
「その瓶は何味だっけ……」
(元気がハツラツー?)
ディアベルが読み上げたラベルの文字に、俺は色々納得して頷く。
「わかったよ。ディアベル用に、その味で何本か作っておく」
ちょっと試しに、日本では定番の元気が出る系炭酸飲料な味に似せて作ってみたのだが、まさかディアベルの好みに刺さるとは思わなかった。
異世界では珍し過ぎて舌に合わないか、とボツにしたのだが、俺とディアベルは好みが似てるのかも知れない。
「俺も好きだし、な」
俺とディアベルが飲むだけなら、増血ポーションじゃなくてもいい事に気付いたのは、全て作り終わった後だった。
●
「冷やしといた方が飲みやすいか」
ちょうどいい木の箱があったので、そこに中身を詰めた増血ポーション(改)を詰め、そのまま冷蔵庫へ入れておく。
俺の作業をふよふよと漂いながら眺めていたディアベルが、出来立てのハツラツ風味増血ポーションを飲みながら、不思議そうな顔をして冷蔵庫を指差した。
(魔法で冷やすの駄目なのー?)
「あ」
ディアベルの最もなツッコミに、こういうところは、まだ向こうの感覚が抜けないな、と苦笑いを浮かべた俺は、冷蔵庫から取り出した木箱を魔法で適温に冷やし、そのまま『収納』してしまう。
これでこのままヒューバートのお姉さんに渡せばいいだろう。
ヒューバートのお姉さんなら高位の貴族な訳だし、一人で歩いて来るなんて事はないはずだ。たぶん、というか確実に馬車で来るはず。なら、かさばっても大丈夫だろう。何だったら収納魔法ぐらい使えそうだ。
「……しかし、味が気になる辺り、日本人の性っぽいよな」
日本人は何でも魔改造する民族だ、とか外国人に言われていたニュースを思い出して苦笑いしながら、俺もハツラツ風味の増血ポーションを飲んでみる。
当たり前だが、断然飲みやすい。
前世では味なんて気にせず、効果ばかり追求していたが、よく考えれば、いざという時に回復ポーション系が飲み辛い味だと命に関わりそうだ。
転生してからは飲んだことはないが、前世で一度だけ飲まされた高級回復ポーションの甘苦い何とも言えない味を思い出し、俺は思い切り顔を歪める。
「普通の回復ポーションは、比較的飲みやすい方だけど、もう少し味の改良してみるか」
ファイトを一発する系にするか、果物系にするか、甘いお茶系にするか。いっそ、水みたいに飲めるよう無味もありか?
(僕は、甘いシュワシュワがいいー)
無意識に口から出ていたらしく、ふわふわと後頭部に着地したディアベルから、そんなリクエストが飛んでくる。
「ディア、病気とか怪我とかするのか?」
(すると思うー?)
思わず問いかけると、ディアベルは可愛らしい仕草で首を傾げて俺の顔を覗き込んで来る。
「しないだろうな」
ぷくぷくの頬をむにと指で押しながら笑うと、ディアベルも楽しそうにきゃはきゃは笑い出す。
こうして見ると、本当に愛らしい幼児にしか見えない。
(僕さいきょーだもんー)
「ディアの本気は見たくないなぁ」
きゃはきゃは笑って、後頭部に張り付いてくるディアベルをそのままにし、俺は想像した最悪の光景を振り払うように手を動かし始めたのだった。
●
「作りすぎたか?」
ついつい楽しくなり、気付いた時には大きな机いっぱいに並んだ瓶を眺め、俺はポリポリと頬を掻く。
(お腹ぽちゃぽちゃー)
「ディアは、つまみ食い……じゃなくて、つまみ飲みしすぎだ」
ただでさえ幼児体型でポコリとしていたディアベルのお腹が、今はかなり膨れて見える。
飛ぶのも辛くなったのか、翼ある猫へと姿を変えたディアベルは、部屋の隅に置いてあった仮眠用ソファの上でだらんと横になる。
「お昼はいらなそうだな。おやつはどうする?」
(おやつは別腹なのー)
「はいはい」
たしたしと尻尾であざとくアピールしてくるディアベルに苦笑いした俺は、ディアベルの隣に座ってふかふかのお腹へそっと手を宛てる。
(なんかあったかいー)
「ディアベルがお腹壊したら困るからな」
気持ちいいのか目を細めて本物の猫のように喉を鳴らすディアベルに、俺はからかい混じりの言葉を返しながら、ふかふかのお腹を優しく撫でる。
(回復まほー?)
「一応、な。まぁ、せいぜい手当て魔法ってぐらいかな」
前世か今生かはわからないが、遠いおぼろげな記憶の中で、お腹が痛い時誰かがこうやって優しく手を当ててくれていたのを思い出しながら、俺はディアベルのぽよぽよしたお腹を撫で続ける。
(クオン、もっとー)
「はいはい。今度はあんまり飲み過ぎるなよ?」
甘えて手にじゃれてくるディアベルにくすくすと笑って、俺はディアベルが眠るまでお腹を撫で続けていた。
しばらくすると、ディアベルの方からすぴすぴと可愛らしい寝息がし始め、ゆらゆらしていた尻尾がくたりとソファに沈む。
「可愛いなぁ」
犬派猫派とかなくどちらも好きだが、前世でも今生でも犬猫を飼うような余裕はなかった。
「って、あれはペットじゃないし」
脳裏に浮かんで思わずそう突っ込んだのは、前世で騎獣にしていた存在だったが、どう考えてもあれは愛玩動物の枠には入らない。
「でも、可愛かったし、もふもふはしてたな」
そんな事を呟きながらディアベルのお腹を撫でていると、不服そうな声でうみゃうみゃ鳴かれた。
「はいはい、ディアももふもふだなー」
寝言だったのかそれ以上の反応はなく、相変わらず穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
穏やかな寝息につられて襲ってきた睡魔に逆らわず、俺はディアベルを抱え込んでソファへ横たわる。
「……おやすみ、ディア」
(おやすみー、クオン)
思いの外疲れていたのか、一瞬で滑り落ちるように向かった先は、懐かしい夢の中だった。
●
『大丈夫? ──姉さん、何か飲めそう?』
目に痛いぐらいの鮮やかな色彩の部屋の中、俺は部屋の主人である女性に話しかけていた。
もともと肌が白く、儚げな美貌の女性だったが、血の気が失せたことにより動かなければ精巧な人形のようだ。
『そうね……』
俺の呼びかけに対し、女性は吐息のような相づちと共にうっすらと目を開けて、俺の方を見てくれる。
『──姉さん、冷たい果汁でももらってこようか? 少しは気分が良くなるかも』
青白い頬にそっと触れながら、俺がそう呟くと、女性は柔らかく笑って俺の頭を優しく撫でてくれた。
『ふふ。人にもよるけど、こういう時は私ならあたたかい物が飲みたいわ、可愛いクオンタム』
『わかったよ、──姉さん。あたたかい飲み物、もらってくるから』
『ありがとう、可愛いクオンタム』
ふふ、と笑い声混じりの感謝の言葉に送り出され、俺は部屋の扉へ手をかけて……そこで目が覚めた。
ゆっくりと瞬きをすると、頬を涙が伝う感触がある。
(どうしたの、クオン? 悲しいのー?)
驚いた様子で顔を覗き込んできて、ふみゃふみゃと鳴きながら頬を舐めてくれるディアベルに、俺はゆるゆると首を横に振る。
強がりではない。悲しいかと聞かれても、悲しくはない。ただ懐かしく、あたたかい思い出が胸を締めつけただけ。
「……あそこへ行けば、会えるのか?」
過ぎ去った時間を思えば、もういないかもしれない。でも、あれだけ売れっ子な『姉さん』だったから、もしかしたら……。
「あたたかくして飲むような増血ポーションも考えるか」
ふみゃふみゃと鳴き続けているディアベルを抱えて起き上がった俺は、夢の中で彼女が言っていた台詞を思い出して呟くと、作業台の方へ足を向けた。
どうせならヒューバートのお姉さんに渡す用に作ればいいと、俺は思いついた何種類かの案を紙へと書き連ねていく。
「原液をお湯で薄めるのが使いやすいし、保存も楽か? それとも粉末か……」
すぐ思考の海へとどっぷりと浸かってしまった俺は、ディアベルが軽く舐めただけで、一目見て泣いたとわかる状態の自身の顔の事など忘れてしまっていた。
そして、作業に没頭していた上、仮眠までしたため、すでに時刻は夕暮れに近い。
つまりは──、
「ここだったか、クオン。ただい……ま……?」
帰ってきたヒューバートから声をかけられた俺は、挨拶を途切れさせたヒューバートを気にせず、時計を見て謝りながら使っていた道具を片付け始めたが──。
「おー、お帰り、ヒューバート。もうそんな時間か。悪い、すぐ夕飯の用意するから……って、おい、痛い痛い、どうした?」
不意に飛びかかるような勢いで思い切り抱き締められ、俺は片付けの手を止めるしかなく、ひとまずあやすようにヒューバートの背を叩く。
ヒューバートの熱烈な激しい抱擁に、全身ミシミシいってるのは気の所為ではないだろう。
しかし、見た目は綺麗系な細身のくせに、脱ぐとバッキバキだし、力も強いよなーと軽い現実逃避をしていると、
「誰だ、誰が貴様を泣かせた? クオンは名を言うだけでいい。骨すら残さず、私が始末してやる」
と、とんでもなく低音の囁きが聞こえ、数度瞬きをした俺は、ヒューバートの激情の理由を悟り、何となくディアベルを探す。
ディアベルはソファの上で寛いでいて、俺の視線に気付くと、ふみゃ、と文字通り短く鳴いて我関せずな顔をしている。
これは自分で何とかするしかないか、と意を決した俺は、狂気じみた囁きを洩らしながら自らが泣きそうな顔をしている可愛らしい恋人の頬へ手を伸ばす。
「泣いてる恋人を慰めてくれないんだ?」
ヒューバートの頬をするりと撫で、ふふ、と意味ありげに微笑んで見せてから、冗談だ、と告げようとした俺は、くるりと回った視界に目を見張って固まってしまう。
いくら油断していたとはいえ、ここまで見事に転がされるとは、ヒューバートは一体どこを目指して鍛えてきたんだろう。
思考を彼方へ飛ばしていた俺は、ソファへ押し倒されたまま、本家の魔王が裸足で逃げ出しそうな凶悪な表情をした美人さんを見上げ、彼方へ飛ばしていた思考を停止させる。
「庇うのか? なら、体に聞くしかないようだな」
熱を持って吐かれた台詞に、どこのエロ漫画だよ、と反射的に突っ込みそうになった俺は悪くない。
「ん、あっ……と、悪い……」
思考をかなりぶっ飛ばしていた俺は、不意に素肌へ触れた体温の低い手の感触に、最中のような甘い声を上げてしまう。
引かれたか、とおずおずとヒューバートの反応を窺って……後悔した。
「あ、あのー、ヒューバート?」
「……体に聞くと言っただろう」
だから、なんでそうなる。と言いかけた渾身の突っ込みは、物理的な妨害でヒューバートの口内へ飲み込まれる。
「ちょ、ヒュー……っ」
「私以外のことを、考えるな……」
息を奪い合うような激しいキスにより浮かんだ生理的な涙で、先程の涙の名残が押し出されて頬を伝う感覚がある。
「……泣くな」
俺の頬を伝う涙を見て息を呑んだヒューバートは、自らも泣きそうな顔をして俺の頬を拭ってくる。
その優しすぎる手つきに、俺は小さく、ふ、と笑い声を洩らして、頬を拭うヒューバートの手に自らの手を重ねる。
「昔の夢を見て、少し懐かしくなっただけだよ」
「昔……前世の夢、か? まさか、あ「違うからな」……そうか」
俺の言葉にハッと顔色を変えて何事か言おうとするヒューバートを見止め、俺は食い気味でヒューバートの言葉を遮り、否定しておく。
「あと、あいつの夢見ても泣くことはない」
これ以上、ヒューバートのヤル気に燃料は投下したくなく、しっかりはっきりと否定をした……つもりだった。
「──その泣くほど懐かしい相手、とは、私ではないのだな?」
明らかに『嫉妬してます』という表情で、肩を掴んで問い質してくるヒューバートに、俺は姉のような相手を思い出して泣いたという面映ゆさから、
「……え、あー、まあ違うな」
と、つい照れ隠しで言葉を濁してしまった。
その結果──。
「も、むり……だから……っ!」
「体に聞く、と言った!」
本日作ったポーションに、早速出番が来るかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m




