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愛しい人がかえってきた 3

『前世の世界へ帰ってきた』の裏側というか、ヒューバート側3です。


長くならないよう、かなりぶつ切りになりましたm(_ _)m


そうしないと、ヒューバートの思いが重くて、内容がピンクになるところでした。

「……了解した」

 学園からの緊急呼び出しの通信を受けた私は、食事代わりのポーションをあおってため息を吐く。

 チラリと振り返ったベッドでは、幻ではないクオンがあられもない姿で眠っている。

 相当疲れ果てたのか、私が歩み寄っても起きる気配はなく、寝返りを打つ気配すらない。

 色々ブチ切れ、クオンを押し倒してしまった私は、そのまま昼も夜も関係なくクオンを求め続け、離せなかった。

 かろうじて学園には連絡を入れたが、緊急呼び出しが来てしまったため、行かなければならない。

「クオン……すまない、すぐに帰ってくる」

 自分でも弱々しく聞こえる声で囁いて、眠るクオンの頬を撫でる。

 色々とベタベタだった体は、クオンが眠ってから共に風呂へ入って洗わせてもらった。

 撫でていた頬に口付けると、眠っているクオンの口元が僅かに笑みを浮かべた気がするのは、私の願望が見せる幻だろう。

「共に連れて行きたいが……」

 出かけている間に姿を消されたら?

 悪魔が本気を出したなら、私にクオンを見つける事が出来るかわからない。

 しかし、この状態のクオンを他人に見せる?

 全身に私の付けた跡があり、交わった名残でほんのりと朱で染まっている肌、眠っていてもわかる、気だるげで無駄な色気溢れる姿だ。

 どう考えても、ホイホイと変態が釣れる気しかせず、私はため息を吐いて大きく首を横に振る。

「逃げても構わない。地の果てまで追う」

 聞こえていない相手へ宣言し、私は急いで身支度をして学園へ向かうため、玄関へと急ぐ。

 その道すがら、廊下でふよふよと浮いていた悪魔とすれ違う。



(ばーか、ばーか、へんたいー)



 言葉は可愛らしかったが、向けられる殺気は本物だ。

 クオンが本気で抵抗をしていたら、私は無事では無かっただろう。

 つまり、クオンは私を受け入れて……。

 そこまで考えて、私は反応しそうになった自身を抑えるため、先日見かけた鬱陶しい男の顔を一瞬だけ思い出そうとする。

 が、思い出せたのは同級生のエストレアの仏頂面だ。

 どちらにしろ鎮まったので、私は早足で学園へ向かうことにした。

 馬車はまどろっこしいので、ショートカットをして。

「なんなんだ、あの少女は……」

 学園からの緊急呼び出しの案件は、召喚された少女との顔合わせだった。

 幸いにも、直接は会わなくて良い、という話で、私は別の部屋から少女を見ていたのだが……。

「あれが、クオンと同郷?」

 思わずポツリと洩らすと、隣からはクスクスと笑い声が返ってくる。

「そうですねぇ。周りに好かれるところは、彼と似てなくもないような?」

 そんなとぼけた相槌を打った学園長に、私は返す言葉を探して、もう一度少女を見やる。

 視線を向けた先では、向こう側からはこちらが見えない特殊なガラスの窓があり、その窓越しに笑っている少女が見える。

 私が描いた魔法陣で喚び出された、異世界の少女だ。

 クオンよりは少ないが、感じられる魔力は確かに高い。

 王族の誰かからの依頼、としか聞いてなかった召喚だったが、甘えるように少女が笑いかけている男達の中に、クズ……いや、ゴミ……まあ廃棄物似な第二王子の顔を見つけて思わずため息を吐く。

「……少なくとも、私は好きにはなれそうもありません。クオンと会わせるかは、本人と話して決めます」

 女性を見抜く目がないと自負する私ですら、あの少女には嫌悪と警戒心を抱いた。

 しかも、クオンに会いたい理由は、私の勘違いではなければ『お優しい聖女サマ』の演出のためだろう。

 会話の端々に、そんな雰囲気が滲み出ている。

 不幸中の幸いか、クオンの名前までは知られていないらしく、『巻き込まれた男の子』や『運の悪い少年』などと呼ばれている。奴らにはクオンの名前を呼ばせたくない。

「そうですね。私からも、陛下へ伝えておきましょう。どんなに軽い頭でも、陛下のお言葉は無視出来ないでしょうから」

 それが惚れた女からの頼みでも、と付け足して優しく微笑む学園長は、味方にするととても心強い存在だ。

「ありがとうございます。私はクオンが心配なのでこれで失礼します」

「あまりがっついては駄目ですよ?」

 ふふふ、と笑う学園長には、何があったか見抜かれていたらしく、微笑ましげな表情で見送られる。

 もうそろそろクオンも目覚めた頃だろう。起きていなければ、またポーションを口移しで飲ませておこう。

 森の木々の間をショートカットして最速で駆け抜け、クオンの待つ屋敷へと辿り着く。

 手洗いうがいをする時間すらもどかしく、クオンを寝かせていた自室へ一直線に向かう。

 一瞬迷ってから、勢いよく扉を開く。

 ベッドの上には──、



「クオン……」



 誰もいない。もぬけの殻だ。

 思わず弱々しく呼んでみたが、答える声はもちろんない。

 崩れ落ちそうになった私の耳に、微かな話し声が聞こえてくる。

 ハッとして、そこでやっと魔力を探知することを思いつく。

 気配は二つ。

 凶悪な人外の気配と、抑えているらしい探し人の気配。

 ほぼ駆け足に近い速度で向かう先にあるのは、クオンの部屋。

 聞こえてくるのは、悪魔と楽しそうに話すクオンの声で。

 そこに私への嫌悪が無かったことに安堵する。

 恐る恐る対面を果たしたが、あれほどのことをした私に対し、クオンはほとんどいつも通りだった。

 怯えられても嫌だが、ここまで気にされないのも──と凹みかけた私の脳裏に、あの癪に障る幼児の声が響く。

 どうやら念話のようなものらしく、クオンには聞こえていないようだったが、私にはその内容の衝撃の方が強かった。

 元はと言えば、ほぼ無理矢理な感じで抱いてしまった私が悪いのだが、クオンは何故私の気持ちを信じてくれていない?

 クオンが汚い? 私だってそんなお綺麗な生き方などしていない。

 反論された上、さらに愛人宣言までされてしまい、またブチ切れた私は、物理的にクオンの口を塞ぐ。

 何度も何度も。深く深く。

 呼吸が限界になって可愛らしく喘ぐクオンを見つめながら、思わず感じたことを口にする。

 今のクオンが食べ慣れた味。

 クオンの説明を受け、私はほのかに湯気を立てている鍋の取手を掴み、ガツガツと食べていく。

 多少行儀が悪くても気にしない。

 初めて食べる味だったが、嫌いではない。優しくて好きな味だ。

 そう私が伝えた時のクオンの笑顔。

 はにかんで笑う表情に、愛しさが込み上げてくる。

 しかもクオンは、私のことが前世の時から好きだった、と!

 だった、という過去形な告白に、思わずクオンに詰め寄るが、不思議そうな顔で、今も好きだ、と……。

 それでも、相変わらず私の気持ちは吊り橋効果とやらだと疑うクオンに、思いの丈を吐き出して見つめる。

 縋りつくように抱きついていたため、上目遣いになってしまったが、クオンはほんのりと頬を染めて可愛らしい表情で私を見つめている。

 悪魔に対する態度から見ても、どうやらクオンは甘えられると弱いらしい。

 上目遣いのまま見つめ続けていると、クオンの口からは珍しく弱音めいた本音が吐き出され、私は込み上げてくる愛しさのまま、確かめるようにクオンのあちこちへ口付けを落としていく。

 負け惜しみなのか、可愛らしい冗談を口にしたクオンは、艶やかな微笑みを浮かべて私へと顔を近づけてきて、そのままゆっくりと唇が重なる。

 すぐに温もりは離れてしまったが、初めてクオンから口付けられ、色々限界寸前だった私は、理性の切れる音を聞きながらクオンを肩へと担ぎ上げる。





「死んだって離してやるものか」




 もう一度、繰り返し呟く。





「仕方ないやつだな」




 クオンはそう言って笑い、



「今度は死んだって離れてやらないよ」



 私の耳元で甘く囁いて返してくれた。




 私はとても幸せだ。

次回があるとしたら、クオン視点の続編か、モミジさんの話になりますm(_ _)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました(*>_<*)ノ

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