愛しい人がかえってきた 1
『前世の世界へ帰ってきた』の裏側というか、ヒューバート側です。
基本的にというか、クオンしか見てないし、クオンのことしか考えてないです。
若干きもちわ……ゲフンゲフン。
愛が重いかも知れません。
どうする。私の理性は何処まで耐えられる?
今も目の前で悪魔と戯れながら笑うクオンを見ていると、愛しさが込み上げてきて堪らない。
先程までのように抱き締めてもいいだろうか?
悩んでいた少しの間に、クオンの姿を見失う。
慌てて周囲を見回すが、いない。
走り出そうとした私の服を何かが引っ張る。
見ると悪魔がみゃーみゃー鳴いて何かを訴え、私の服を噛んでいた。
悪魔の道案内で向かった先では、鼻の下を伸ばしていやらしく笑う男が、クオンの腕を掴んでいた。
クオンはただ絡まれていたと思ったらしいが、連れ込まれそうになっていた先は、昼間でも独特な雰囲気の漂ういわゆる『そういう』場所だ。
今さらながら気付いたのか、きょとんとしているクオンは愛らしいが、正直心配になる。
男との『話』を終えた私は、年相応にしか見えない仕草で拗ねているクオンに、さらなる心配を抱く。
そもそも前世では、そういう行為をして稼いでいたのではなかったか? なぜ危機感が薄い?
一先ずはぐれないようにと手を繋ごうとしたが、全力で拒否されてしまった。
●
無事に屋敷までクオンを連れ帰った私は、幸せを噛み締めつつ、悪魔と会話しているらしいクオンの独り言のような声を何ともなしに聞いていた。
声の抑揚、喋り方、笑い声、その仕草。
全てあの日のままのクオンが私の目の前にいる。しかも、クオンの思い出を残した、クオンの自室にだ。
込み上げてくる幸福感と、下腹部に感じるズシリとした衝動。
そんな内心をどう隠すか悩んでいると、不意に猫の鳴き声としてしか聞こえていなかった悪魔の声に、癇に障る幼い声が重なって聞こえ始める。
これがクオンを誑かした悪魔の声……と、怒りに震えていた私は、会話の内容を聞いて目の前が暗くなる。
『洗脳』
確かにクオンは、死の少し前から様子がおかしかった。
それは『アレ』を助けたいがため、だと思っていたが、洗脳されていた?
誰に? 何のため……かは、悪魔召喚をさせたかったから、だろう。
証拠と言うには弱いが、クオンが亡くなったあと整理して隠した遺品の中に、悪魔召喚に関する資料などは全くなかった。
クオンは魔法に関する記憶力は凄まじかったので、脳内だけにあったという可能性もあったが……。
あまりに他人事のような反応をするクオンに、力が抜けてしまい、膝から崩れ落ちる。
すがりつくようにクオンの腰へ抱きつく体勢になっても、クオンは私の体調を心配してくる始末。
私が声を荒げて指摘をすると、やっと気付いたらしいクオンは、呆然とした表情になり、顔色が一気に悪くなる。
呼吸すら止めていたクオンは、ゲホゲホと苦しげに咳き込んで必死な様子で呼吸をしようとする。
私は今にも崩れ落ちそうなクオンを支え、労るようにその背中を撫でる。
何とか咳が落ち着いたクオンを抱え上げた俺は、たまたま新しくしてあったベッドへクオンの体を横たえる。
入れ替えがバレなくてよかった。
「……クオン」
少しだけ会話をしたが、すぐに意識を手放してしまったクオンに、思わず名前を呼ぶが反応はない。
眠る直前に見た、弱々しい笑顔に胸を締められる。
「おい、悪魔」
(寝てるだけ。大丈夫)
「元はと言えば……」
苛立ちをぶつけようとクオンに抱かれた悪魔へ視線を向けた私は、ぞわりと背筋に走った怖気に言葉を止める。
チラリと横目で私を見やった悪魔に、クオンの前で見せていた無邪気な幼児の面影はない。
そこにいたは──幼児の皮を被った『バケモノ』だ。
(今は僕が憑いてる。クオンの魂を害することが出来るとでも?)
美幼児へ姿を変えた悪魔は、ふっと嘲るような笑みと流し目をこちらへ向けてから、短い両手をクオンの体へ回してギュッと抱き締めている。
(僕に嫉妬するなんて馬鹿なことしないでよねー)
やはり悪魔は気に食わない。
●
久しぶりに作ったが、やはり私の料理の腕は壊滅的らしい。
無理矢理飲み込んだ緑色は、どろりとしていて苦く、ゆっくりと胃に落ちていくのがわかる。
自分でも次の一口がなかなか進まない中、クオンは全部飲み干してくれた。
その後、会話の流れで出て来た地下室の話題で、私は固まってしまう。
あそこは今、私の『クオンタム思い出室』に……クオンが勘違いしてくれたので、その方向で行くことにしよう。
クオンは無闇に他人を傷つけるような事はしない。
すぐ無断で入ったりはしないだろうが、あとで色々と移動をさせようと考えていると、今度は洗脳についてクオンが悪魔へ訊ねる。
悪魔の発言は要領を得なかったが、怪しいのは予想通り『アレ』のようだ。しかし、それより重要なことがある。
私は『アレ』に勝っていたのだ!
クオンは、私といる方が気が合って楽しかった、と。
別に『アレ』と会いたいとは思わない、と!
緩みそうになる顔を必死に引き締めていると、クオンから心配そうな目を向けられる。
よく見ると、その口元にはスープの緑色がある。我ながら、とんでもない色のスープを作ったものだ。
気付いた時には手を伸ばしてクオンの唇へ触れ、拭い去った緑色を舐めていた。
はっとして荒れ狂う内心を気付かれないように表情を引き締めていたが、クオンから聞こえたからかうような台詞に、つい手元が狂って口元に汚れが付いてしまったようだ。
何処か色香の漂う悪戯っぽい笑顔を見せ、私の口元から汚れを拭い、ちろ、と舌でそれを舐め取るクオンに、私は限界だった。
「っ……」
色々と。
ベッドへ向かったクオンの後ろ姿を眺めながら、誤魔化すために後片付けを始めたが、寝たフリをしていたらしい悪魔の発言を聞いてしまい、足元が危うくなる。
わ、私が、クオンと……。いや、将来的には、だな。
飛び出しそうな本音を飲み込み、私は引き締めた表情で悪魔を睨んで告げる。
「きちんと姿を消せ」と。
読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m
長くなりすぎなよう、かなりざっくりと省略してます。




