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前世の世界へ帰ってきた 9

後半、いわゆるあはんうふん的な展開をしてるのでご注意ください。


これはR15じゃ駄目だろ、という場合はこっそり教えていただけますと助かります。

あと、何処がヤバいと指摘してもらえると、さらに助かりますm(_ _)m

「落ち着け、ヒューバート。ただの少年の帰りが遅い程度で、騎士団は動かせない。今動ける冒険者へ声をかけている。もう少し待つんだ」



「落ち着いていられるか! 早くクオンを見つけろ!」




 辿り着いた冒険者ギルドからは、聞き覚えのあり過ぎる言い争う声が聞こえ、ついでに何かが破壊される音と、開きっぱなしの扉からは冷気が流れ出してくる。

「こ、氷の、魔王……っ」

 俺の背後では、シュシュさんを呼びに来た職員さんがそんな呟きを洩らして、真っ青な顔でガタガタと震えている。 

(ヒューバート、魔力だだ漏れてるー)

「置き手紙書いとくべきだったな」

 他人事みたいに呟いてると、肩から滑り落ちたディアベルがもふもふと胸元へ懐いてくる。

 寒くはないだろうに小芝居で震えて見せるディアベルを抱え、俺は苦笑い混じりでその背中を撫でてやる。

「次回からはそうしてくださると助かります」

 俺の呑気な独り言に、シュシュさんはゆるりとした相槌を打ってくれるが、その顔色も職員さんほどではないが血の気が失せて少し青白い。

「ど、どうしましょう……っ」

「俺を心配してくれてるだけなんだから、俺が出てけば落ち着くよ」

 怯えまくっていた職員さんは、俺の言葉を聞いてギョッとした表情で俺を見てくるが、もともとヒューバートは理性的な人間だ。

 今は心配性を拗らせてるだけで。

 開きっぱなしの扉からギルドの中へと足を踏み入れた俺は、受付に詰め寄っているヒューバートの背中へ勢いをつけて飛びつく。

 たくましい背中越しにヒューバートが大きく息を呑み、肩が揺れたのを感じる。

 と同時に、


「「!?!?!?」」


 夕暮れの迫る時間帯で閑散としていたギルド内に数人残っていた……というかA級依頼案件で呼ばれてきてたのかもしれない冒険者達からは声にならない悲鳴が上がった。


「やめるんだ、ヒューバート!」


 そして、珍しく声を荒らげたエストレアの制止は間に合わず、素早く体を捻ったヒューバートの腕が俺へと迫る。

「……無事だったのか」

 もちろんヒューバートが俺を害する訳もなく、確かめるようにギュッと抱きしめられる。

「ごめん。思ったより用事が長引いたんだよ」

 俺は周囲へ聞こえないように、小声で謝罪をしておく。まだ敬語装備な大人しめな少年で通したいのだ。

 しばらく無言で抱きしめた後、ヒューバートはまじまじと俺の顔を覗き込んでくる。

 ヒューバートは、その整い過ぎて冷たく見える美貌を、今にも泣きそうなほど歪めて俺を見下ろしている。

 ただの買い物でここまで不安そうな表情をされてしまうと、罪悪感が凄まじい。

「無事で良かった」

 怪我がないか確かめているのか、ヒューバートの大きな手のひらが体のあちこちを撫でていき、正直くすぐったい。

「次回からはきちんと置き手紙を……「駄目だ。私に無断で外出するな」……善処するよ」

 俺の発言を遮ってまで念押しされたが、守れるかは微妙なので曖昧に返すと、ため息を吐いたヒューバートから両手で頬を包まれる。

「怪我は? 治したのか?」

「うん? 怪我なんかしてませんよ?」

 人目があるので猫被って返したら、怪我をしているのを誤魔化してると勘違いされたのか、顔色を変えたヒューバートからの触診が酷くなる。

 というか、もう服を脱がされそうな勢いだ。

「ヒュー、ヒューバート、俺を人前でストリップさせる気か?」

(ヒューバートのえっちー)

 いつの間にかヒューバートの肩に移動したディアベルも、さすがに止める方へ参加してくれ、前足でヒューバートの頭を叩いている。

「……ヒューバート様、クオンくんの無事を確認されたいようでしたら、個室をご用意いたしますので」

 凍りついて固まっていた周囲から、いち早く復活したシュシュさんが駆け寄ってきて、少しどもりながらもハッキリとヒューバートへ真っ当な提案をしてくれる。

「あ、あぁ……」

 そこで初めてヒューバートは周囲の目に気付いたのか、脱がせようとしていた俺の服を離してチラチラと俺の顔を見てくる。

「心配させてごめんなさい。ですが、本当に怪我はありませんから。


──どうしても気になるなら、帰ったあとで、ゆっくり見せてやるよ」

 相変わらず猫を被って告げて、さらに悪戯っぽく付け加えると、ギラリと瞳に剣呑な光を宿したヒューバートから抵抗する間もなく肩に担がれた。

 これは米俵抱き、でいいのか、これは。

 とりあえず女の子憧れのお姫様の方ではない。

「ヒューバートさーん?」

「舌を噛みたくなければ黙ってろ」

 本気で暴れたら逃げられるだろうが、周辺の諸々が破壊されそうなので俺は大人しくヒューバートの服を掴んでおく。

(僕も乗るー)

 肩に担がれた俺の背中に、のんびりと鳴いたディアベルが乗る。重くはないし、じんわりと温かいので眠くなりそうだ。

「依頼料と、前金分だ。本人が自ら帰ってきたなら、成功報酬は無しで構わないな。それと、壊した物の修理代だ」

「あ、ああ、こちらはそれで構わない。もとより破格な代金で十分過ぎるぐらいだった。それより、ヒューバート、その少年はいった……」

 俺の視界からはヒューバートの背中と、ワクテカな顔をしたシュシュさんしか見えないが、ヒューバートの低めの声が体越しに聞こえ、ドサリと重い金属の音がしたのはわかった。

 音的にほぼ未遂だった俺の捜索依頼の代金とヒューバートがぶち壊したらしい物の代金の硬貨か。

 ただの迷子の捜索依頼なのに、ヒューバートがお貴族様だから、A級案件にされたんだろうな。

 身分を笠に着るのが嫌いなヒューバートが、それを無視してまで俺を探そうとしてくれたのか。

 胸の奥がムズムズするような感覚に、ヒューバートの背中に顔を埋めて、その服をギュッと掴む。

 エストレアが何か言いかけていたが、ヒューバートはさっさと冒険者ギルドを出てしまったので、俺の耳には途中までしか聞こえなかった。

 ヒューバートは、聞こえていても無視した可能性も高いけど。

「ヒュー、今日の夕飯何がいい?」

「…………クオンで」

 重い空気を変えようと質問したら、なんか余計重々しい声で返ってきたのは食材でも料理名でもなく、俺の名前。

(クオン食べられちゃうー)

「んー、ヒューバートならいいけど、俺は唐揚げな口だから、唐揚げにしとこ」

 俺の腰辺りを掴んでいるヒューバートの手が、痛いぐらいに食い込んできてるが、俺は指摘せず笑っておく。

 鈍感系主人公っぽく煽ってもいいが、ヒューバートの行動力なら躊躇わないだろうし、何より俺には勿体ない。

 ヒューバートには、もっと綺麗で純真無垢な美しい人が似合う。

 今現在、俺へと向けている気持ちは、吊り橋効果みたいなものだろう。

 長年の罪悪感から解放されて少しはっちゃけてるのかもしれない。

(でも、クオンはヒューバートのこと──)

「ディアベル」

 ディアベルの言葉を思わず遮ったが、もとよりヒューバートには聞こえないようにしていたらしく、人一人を抱えてるとは思えない速度で進んでいくヒューバートの表情は動かない。

 俺は横目でヒューバートの横顔を眺めて、今生も含めヒューバートより綺麗な人間は見たことないな、と改めて悪友の顔面の良さに感心する。

「ま、前世の俺だって、男前だったよな」

 結構モテてたし、客だって途切れなかったってことは、自意識過剰ではないだろうと思いながら呟くと、ヒューバートから睨まれた。

「私は貴様の見た目に惹かれた訳ではない」

 ハッキリと聞こえた声は、聞こえなかったことにした。

 ヒューバートのことだから帰りは馬車かと思ったが、俺と同じ移動方法で正しく屋敷から飛んできたらしい。

 俺の不在で相当焦ったんだと思うと、心苦しい。

 何も喋らず俺を肩へ抱えたまま、危なげ無く枝から枝へと渡っていくヒューバート。

 俺一人の時は枝や葉が体に当たったりしても気にしていなかったが、ヒューバートは律儀に魔法で防いでくれているので、風圧すらほどんど感じない。

「俺はそこまでか弱くないんだが……」

 思わずポツリと洩らすと、無言でギロッと睨まれた。

(クオンより速いー)

「風で推進力作ってるのか……」

 ディアベルの感心した声に、俺はヒューバートの使っている魔法の方へ意識をやる。

 風を切る音と周囲の枝葉が折れたりする音が結構してるので、隠密行動には向いてない魔法だろう。

 今は帰宅を急いでるため、目立ったとしても構わないので速さを選んだんだろう。

「着地する」

 舌を噛みたくないので、俺は無言で頷いて、ヒューバートの服をしっかりと掴んで身構えておく。

 ジェットコースターに乗ったときのような、内臓を置いていくようなヒュンッという感覚の後、トンッというやけに軽い着地音が聞こえる。

「ありがと、ヒューバート……って、まだ降ろしてくれないのかよ」

 すぐさま降りようとしたが、ヒューバートはこちらを見ることなく、そのままスタスタと玄関へと向かっている。

「ヒューバート、勝手に出かけたのは反省したから、いい加減降ろしてくれよ」

 また無言。

 ついに視線すら向けてこなくなったヒューバートは、玄関を開けると迷うことなくずんずんと廊下を進んでいく。

 向かっているのは洗面所のようだ。

 外から帰ったら手洗いうがいをしないといけないよな、とか呑気に思っていたら、洗面所を通り抜けたヒューバートが開けたのは浴室へ続く扉だ。

「ヒュー?」

 ポイと投げ出されはしなかったが、大人二人は入れそうな浴槽へ少々乱暴に放り込まれ、俺は首を傾げて犯人であるヒューバートを見上げた。

 お湯は入ってないが、濡れそうで嫌なのか俺の背中に貼りついていたはずのディアベルは、いつの間にか消えていたので潰す心配はない。一瞬心配しかけたが、さすがに潰されることはなかったようだ。

 今はそれより無表情で見下ろしてくるヒューバートの相手が優先だ。

「全身洗えと? そこまで潔癖だったか?」

 冗談めかせて空気を和ませようと肩を竦めて笑うが、無言でバサリと何か白い布的な物を被せられる。

「……ん? これで洗えってのか?」

 顔を覆った白い布からは、何処かで嗅いだ覚えのある匂いがする。俺は問いかけながら、その白い布を寝転んだまま眺めてその正体を悟ったが、意味がわからず首を捻る。

「これ、俺の着てたシャツだよな?」

 そういえば、あとで洗おうと思って洗面所に投げた覚えがある。

「……そんな大量出血をして、怪我をしてないと嘘を突き通せるとでも?」

 ヒューバートが重々しい表情で指差すのは、俺の握っているシャツの胸元辺りを鮮やかに染めている赤色。

 クンと、思わずもう一度嗅いで確認するが、もちろん感じられるのはあの食材のみだ。血な訳ない。

「……………………シリアスしてるとこ悪いんだが、これ、トマトソースだ。ディアが顔拭ったんだよ、ここで」

 グッと浴槽内で体を起こし、握っていたシャツをヒューバートの方へと突き出す。

「トマト、ソース?」

「そう、トマトソース。昼はパスタ食べたんだ。で、トマトソース塗れになったディアが、グリグリとしてきてこうなった」

 わかりやすいようにシャツを広げて、ヒューバートに見せてやると、強張っていた表情が一気に緩み、そのまま覆い被さるよう浴槽内で抱き締められる。

「良かった……クオンが無事で……」

 おとなしくヒューバートの重みを感じていると、俺かヒューバートが何処かへ当たったらしく、突然頭上からお湯が降り注いで来た。

「おわ!」

「っ!」

 熱くはなかったが、思わず声を上げる俺と、驚いた様子で息を呑んで守るように俺をしっかり抱え込むヒューバート。

「大丈夫か?」

「いやいや、ただのシャワーだからな?」

 濡れて男ぶりを増したヒューバートの髪を掻き上げてやりながら、苦笑いを浮かべて返す。

「あー、もうびしょ濡れだ」

 濡れて貼りつくシャツが気持ち悪く、一刻も早く脱ぎたかったが、ヒューバートの腕の拘束は緩まず、シャワーはその間も降り注いできて俺とヒューバートを濡らしていく。

 お湯の温度とは違う、ヒューバートの熱い体温に俺は反射的に小さく身震いする。

「ヒューバート、離してくれ」

 触れ合ったところから溶けそうで、俺は喋らなくなったヒューバートを見上げ、誤魔化すようにへらりと笑って見せる。

 氷の魔王と称され冷たさを感じさせる美貌のヒューバートだが、実際は溶かされそうな程の熱を……って、少しのぼせて来たのかもしれない。

「ヒューバート」

 もう一度、しっかりと名前を呼ぶ。

 俺を見つめる青の瞳が、降り注ぐ水の膜の中、切なげにゆらゆら揺れて映る。

「クオン、私はずっと貴様のことを愛……」

 囁かれようとする耳触りのいい甘い声を察した俺は、ヒューバートの告白を掌で物理的に止めてから、あはは、と声を上げて笑って見せる。

「ヒューバート、落ち着けよ。お前の気持ちは嬉しいが、それは『吊り橋効果』みたいなもんだ。ヒューは真面目だからな。ずっと罪悪感を覚えてたんだろう? 俺はもうこうやって帰ってこれたんだから、気にしなくていいんだ」

 途端に俺の言葉を黙って聞いていたヒューバートの顔がくしゃりと歪み、口元を覆っていた手を掴まれて、そのまま縫い付けるように浴槽の床へ押しつけられる。少しだけ溜まったお湯を背中と後頭部で感じる。

 浴槽に栓はされていないので溺れる心配はないが、やはり濡れた服は気持ち悪い。

「とりあえず着替えないか……って、おい!」

 表情が抜け落ちたヒューバートの手が、俺の濡れたシャツの首元を掴んだと思った瞬間、布の裂ける音が浴室内に響く。

「ヒュー、ヒューバート、止めろ!」

 何をされるかは明白で、俺は言葉でヒューバートを止めようとする。

「なぁ、止めてくれ、ヒューバート……」

 逃げようと思えば逃げられた。けれど、ヒューバートの視線に縫い付けられたように、体は上手く動かない。

 ヒューバートの顔がゆっくりと近づいてきて、そっと壊れ物に触れるようなキスをされる。



「……私は決めたんだ。もう後悔しないと」



 そう囁いて泣き笑いのような顔をしたヒューバートからは、ポタポタと水滴が垂れてきて、俺の顔へ落ちる。

 何度も何度も口付けられて、薄く開いていた唇から温い水滴が口の中へ入ってくる。





 降り注いでいたシャワーは、いつの間にか止まっていた。

ヒューバートさん、色々ブチ切れる。


ずっと我慢してたので……。

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