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少しややこしい話

ストレス発散に、萌えを書き散らかしてしまいました。


グロ表現ありなのでご注意ください。


一応、路線はボーイズラブ予定でしたが、あまりボーイズラブはしてないです。ので、恋愛タグはつけてありません。


暇潰し程度に読んでいただければ幸いです。


似たようなネタは、たぶんどなたが書いてるかも?


あまりに似てるものがありましたら、そっと教えていただければ幸いです。

あとR指定入れないと無理だな、と思った場合もそっと教えてください。


すぐ削除いたしますので。

 少しややこしい話だが、俺には前世の記憶というやつがある。

 いやそれ、ラノベでよくあるやつじゃん、とか言われそうだが、ここで少しややこしいという言葉が頭にくっつく。





 説明すると少し長いが──。

 俺が産まれた時代は、この世界から違う世界への転生して俺つえーみたいな小説が流行る少し前で、物心つく頃には流行り始めていた。

 友人に勧められて何冊か読んでみたが、まぁこんな世界もあるんだな、が正直な感想だった。

 そんな時、一冊の小説と出会った。

 異世界転移ものというんだろうか、ヒロインが元の世界と似てるが少し違うファンタジーな異世界へ転移というか召喚され、そこで色んな出会いと冒険をする、というオーソドックスな展開のものだ。

 別にヒロインが好みだった訳ではない。

 気になったのは、ヒロインが召喚された先で最初に出会う、相手役ともいえる少年のことだ。

 ヒロインいわく、刹那的な恋愛を繰り返し、今が楽しければいいだろ? と何処か暗い目をしているらしい少年。

 ずいぶんチャラいな、と思って読むのを止めようとも思ったが、何故か気になったてついつい読んでしまっていた。

 やがて判明するのは、その少年の種族の悲しき運命。強く発現した能力ゆえの短すぎる寿命。ある程度の年齢になると、全身を耐えられないような痛みが襲い、やがて死に至る。

 どんな魔法も薬も効かない、その短すぎる寿命を唯一延ばせるのが、異世界から召喚した純潔の乙女の命のみ。

 惹かれ始めていた二人は、この残酷な運命に翻弄されるが、最終的にはヒロインの愛の祈りとかが効いて、少年を襲っていた痛みは消え、神様的な存在の奴から『彼の寿命は普通の人間程度に伸びたから(意訳)』という神託をもらう。

 そんなご都合主義のハッピーエンドストーリー。

「いやいや、アイツは神様じゃなくて、愉快犯な悪魔だった……って、俺は何を?」

 自室で小説を読み終えた俺は、そんなツッコミを口にしてから、意味がわからず首を捻る。

 でも、誰かにそんな事を言われた記憶があったのだ。



『祈るだけで叶うなんて、ある訳ない。物事には代価がつきもの、だろ?』


『ああ。俺の命を代価に──に、未来を……』



「そうだ、屋根裏で、見つけて、俺は試した」



 何を?



「……アイツに、生きていて欲しかった」



 思い出した。


 思い出してしまった。


 俺は、この小説とよく似た世界で生きていた。

 そして、この小説の少年とよく似た境遇の少年が、幼馴染みだった。

 俺は、幼馴染みのアイツが好きだった。

 恋愛的な意味だったかは、もうわからない。けれど、アイツが色んな女の子と一緒にいるのを見ると、胸が痛かったのは覚えてるから、きっとそうだったんだろう。

 アイツの運命を知った俺は、愛の奇跡なんて頼らず、自分の力で何とかしようとした。

 その結果が、この世界で生きている俺だ。

「……この小説は、俺みたいに向こうの世界の記憶があるヤツが書いたのか?」

 俺のしたことは無かったことにされたのか、それともあの悪魔が何もしなくて、俺が死んだ後に召喚が行われたのか、もう知る術はないが、アイツが生きているならどうでもいい。



(しっつれいだなー。神サマと違って、悪魔は律儀なんだよ。代価をもらったからにはきちんと願いは叶えたよ)



「お、おまえ、こっちの世界にも干渉出来るのか!?」

 唐突に聞こえたのは、前世でも聞いた楽しげな悪魔の声。

(あっちの世界は隣り合わせだからねー。そもそも、僕がいたのはこっち。せっかくだから、君の魂をこちらへもらったんだ。あんな馬鹿みたいにキラキラした綺麗な魂、見たこと無かったもん)

 てへ、とでも聞こえそうな、相変わらず楽しげな幼い少年らしき声。

「……願いを叶えてくれたのなら、どうでもいい」

(相変わらずだねー。あの幼馴染みがどうなったか聞きたくないのー?)

 ドロンッというコミカルな効果音が聞こえ、コウモリのような黒い羽根の生えた5、6歳ぐらいに見える愛らしい少年が部屋に現れる。

 背中の羽根が白かったら天使にしか見えないような愛らしさだ。

「お前は願いを叶えてくれたんだろ、律儀な悪魔」

 羽根を動かさずフワフワと浮かぶ姿はファンタジーそのものだが、会うのは二度目なので俺は驚きはしなかった。

 よく考えれば、前世はもとからこっちでいうファンタジーな世界だった事を思い出し、俺は苦笑いを浮かべる。

(もっちのろんだよー。アイツは今もピンピンしてるよ? 




 ……肉体的には、ね)




 くふくふと楽しげな笑い声をあげる姿は、正体を知っていても愛らしく、俺は言われた内容の最後を一瞬聞き流してしまった。

「お、おい! 肉体的にはって、どういう意味……」

(ちょうどいいことにねー、なんか、召喚とかしちゃいそうなんだよねー)

 召喚とかそんな気軽に起きるのか、とか、誰が何のために? とか、聞きたい事は山程思いついたが、訊ねる間もなく、俺の意識はブツリと途切れる。

 それは、いつか味わった死の静寂を思わせ、次に俺が目を開けた時に広がっていたのは、生まれ変わってから慣れ親しんだ自室ではなく……。



「本当に召喚されたのか」



 前世で生きていた『異世界』の風景だった。





「な、なに、ここ!? 召喚? 聖女? 意味がわからないよ!」




 俺はどうやら巻き込まれ……というか、十中八九あの悪魔が俺を巻き込んだんだろうが、あの騒がしい少女に巻き込まれて召喚されたカタチなんだろう。

 説明を聞きながらも騒いでいた少女は、召喚を行ったらしい術者イケメンに連れられて去っていき、魔法陣の上には俺だけが残される。

 部屋にも誰もいなくなったので、俺は興味を惹かれて足下の魔法陣を調べさせてもらう。 

「この文字……」

 さすがに召喚の魔法陣は初めて見たが、構成する文字には何処か見覚えがあり、特に一つの文字が記憶を刺激する。

 そのクセ字──アイツが前世での『親友』だとしたら、こっちは色んな馬鹿を一緒にして笑い合った『悪友』──そんな友人のクセのある文字だった。

 前世では俺の死に逝く様をずっと見送ってくれたであろうただ一人で、アイツとは違う意味で大切な友人──。

 この世界と地球の時間経過に差があるかもしれないし、何より俺は死んでからどれぐらい経って転生したかもわからない。

 けれど少なくとも『悪友』はこんな魔法陣を描けるぐらいにはまだ元気らしい。

 ハッキリとした魔法陣だし、最近描かれた陣である事は確かだ。

「しかし、相変わらずここのはね方特徴的過ぎるだろ」

 その場にしゃがみ込んで、何回指摘しても直らなかった記憶を刺激してくるクセ字をペタペタと撫で、ここにはいない相手へからかうように呟く。

「……それは貴様が最初にわざと間違えて教えたから、だ」

「いやいや、そりゃ最初にわざと間違った字を教えたのは悪かったが、俺はその後何回も矯正しようとしただろ? って、あれ? そういえば、直ってたよな……?」

「ああ、一回は確かに直った。だが、またこうやって書くようにした。……貴様が、生きていて共に過ごしていた、確かな思い出だったからな」

 え? と思った時には、俺は背後から覆い被さられる体勢で誰かから抱きしめられていた。

「帰って、来たんだな」

「いや、あの、人違いデスヨ?」

 耳元で響く掠れた声は、年齢を重ねて深みを増していたが、聞き覚えがあり過ぎて、俺は動揺を隠そうと片言で否定をする。

「……私特製ポーションを用意してあるぞ?」

 そこへ囁かれるのは、脅すような低い声音の台詞と、さらにちゃぷちゃぷと聞こえてくる水音。

「いらん!」

 『悪友』特製のポーションの味を思い出してしまい、俺は反射的に全力で拒絶してしまった。

(ナニソレ、そんなにすごいの? 僕飲んでみたいー)

 背後の相手から逃れようとするジタバタする俺の耳に、悪魔の呑気な声が聞こえてくる。

「お前は、こいつのポーションのおそろしさを知らないから、そんな事を……あ」

 二重に失敗した事を悟り、俺はバッと口元を手で覆うが、当たり前だが遅すぎたらしい。

「貴様は、一体誰と話している? それに、どうやって生き返ったんだ? 貴様はあの時──」

「魂まで悪魔に食い千切られて死んだはず、か?」

 何があってもほとんど動揺を見せない『悪友』が、背後でヒュッと息を呑んだのを聞き、俺の死に様はかなりのトラウマ映像だったんだな、と他人事のように思って中空へ視線をやる。

(あー、ソイツ、最後まで見てたヤツだねー。約束通り頭だけは残してあげたから、頭を抱えて泣いてたよー)

 頭を抱えて、ってのは慣用句的なやつではなく、物理的な意味なんだろう。

 俺の頭を抱え、泣いてくれたのか。

 小馬鹿にして嘲笑うか、呆れてうち捨てられたかと思っていた俺は、拘束する力が緩んだ腕から抜け出して、背後の相手と向かい合う。

「泣いてくれたのか、ヒュー」

「貴様の無様な死に様に、笑い過ぎただけ……な訳ないだろ! 目の前であんな死に方をされて、どうして、私に相談しなかった? そんなに、頼りなかったか?」

 いかにもプライド高そうな見た目の青年が、はらはらと涙を流しながら、ブチギレているのを見て、俺は少しの罪悪感を抱く。

 あくまで、『悪友』であるヒューバートを巻き込んだ事への罪悪感で、やった事に対して後悔はしてないが。

「……で、どうやって生き返った? なにか妙な気配がするのは何故だ?」

 切り替えが早いヒューバートは、改めて俺へと詰め寄ってくる。未だにはらはらと涙を流しているので、余計に迫力がある。

 前世ではほぼ同じ身長だった相手だが、今は人種と重ねた年齢の違いから見上げないと目線が合わないので少し癪に障る。

 気にしても仕方ないと体格差問題をため息一つで諦めた俺は、手を伸ばしてヒューバートの涙を拭う。

「生き返った訳じゃない。俺はちゃんと死んだ。お前は、見届けてくれたんだろ?」

 再び、ヒュッと息を呑む音がし、俺を見下ろすヒューバートの瞳が揺れる。

「だが、今こうしてここに……」

「どう見ても姿が違うだろ。前世の俺は、もっと背が高くてカッコ良かった」

 自画自賛する俺に、ヒューバートはフンッと小馬鹿にした表情で鼻を鳴らす。

「そうだな。まだ昔の方が見れた姿をしていた」

 思いっきり嫌味で返されたが、合間にスンッと鼻を啜ってるので、気にもならない。

「悪かったな、貧相で。でも、これが転生した今の俺の姿なんだよ。逆に、よくお前は俺だと確信したな?」

「転生……だと? そんな夢物語……いや、悪魔を喚び出して願うよりは現実味があるか…」

「お前って、サラッと俺のこと馬鹿にするよな。俺には成功させる自信がありましたからー」

 離れていた時間なんてなかったように、昔みたいな軽口の応酬みたいなつもりで返したら、注がれたのは寂しさと後悔を隠さない美しい瞳からの視線だ。

「……ああ。知ってる。今でも、ぶん殴って止めれば良かったと、後悔している」

「ヒューバート……」

「今からでもぶん殴っていいか?」

「死ぬ死ぬ、止めてくれ!」

 ヒューバートの発言の本気度を感じ取った俺は、慌ててブンブンと首を横に振る。

 前世の俺ならともかく、今の俺は魔法も使えないただの地球の一般人だ。ヒューバートにぶん殴られたら即死案件でしかない。

「冗談だ。……魔法は使えるのか?」

「わからない。向こうで前世思い出したのもついさっきだから、試す間もなかったからな」

 ちょうど心を読まれたようにヒューバートから訊かれ、俺はゆっくりと首を横に振る。

 こういうとこが気が合うから、俺達はよくつるんでいたな、と懐かしく思い出したながら、俺はふとヒューバートからの質問を思い出して周囲の安全を確認して中空へ視線を向ける。

「そうだ。さっき、誰と話してるか聞いたよな?」

 唐突な話題変更にヒューバートは一瞬怪訝そうな顔をするが、すぐに小さく頷く。

 ヒューバートは俺のこういうとこにも慣れてるから、話が早くて助かる。

「こいつだよ。今回の召喚に巻き込まれたのも、こいつのせいだ」



 薄暗い室内に響くのは、相変わらずコミカルなドロンッという効果音。



(やっほー。どうも、僕でーす。って、君にはこれじゃあ聞こえてないかなー?)



 ずっと俺に憑いてきていた悪魔は、やけに人間臭い挨拶をしたが、本人(?)の言葉通りヒューバートには聞こえていないようだ。

 だが見えてはいたらしく、ヒューバートの方からヒュッと息を呑む音が聞こえたと思った次の瞬間には、転生してから聞く機会のなかった音が耳を掠める。



 それは高速で剣を抜刀し、相手へ斬りかかる風切り音。



(ひっどいなー。いきなり斬りかかるなんてー。僕はいたいけな悪魔なんだよー?)



「ちょ!? ヒュー! 止めろ! 下手に手を出すな!」

 どんなに愛らしい見た目をしていても、この悪魔はかなりの高位だ。

 でなければ、あんな馬鹿げた俺の願いを簡単に叶えられたりはしない。

 俺は、剣を抜いたヒューバートへ必死にしがみついて止める。手足を使ってしがみついたので、無様なコアラみたいだが、こうでもしないと止まりそうもないので形振りなんて構っていられない。

「こいつが……こいつが……こいつが貴様を食い殺した! 私の、目の前で、貴様を……っ!」

 ヒューバートのお綺麗な顔は憤怒で歪み、我関せずな顔して浮いている悪魔を睨んで、呪詛のような言葉を吐き続ける。

「それは……そうだが、こいつは俺の願いを叶えてくれただけだ。それに、こうして、俺としてここにいられるのも、こいつが何かしてくれたからだ」

 嫌われてはいないと思っていたが、思ったよりヒューバートは俺のことを思っていてくれたらしい……というか、目の前で死なれれば仕方ないか。

「だが! だが……ここで殺さなければ、コイツはまた貴様を……っ!」

「それは無いから、大丈夫だ、ヒュー。今こいつは俺に憑いて実体化している。宿主である俺を害すことは無いし、俺の指示なく周囲を襲うようなこともしないよう契約をした」

「ま、まさか! また貴様は、魂を代価に!?」

「いや、菓子だ」

「菓子……甘かったり、しょっぱかったりする?」

「ああ。その菓子だ」

「買ってきて食わせるのか」

「いや、俺が作ったのでいいらしい。召喚される前の、精神世界みたいなとこで話し合って決定した」

「決定したのか」

 ヒューバートの反応がオウムみたいになってきてしまい、俺は少々申し訳なくなってきた。

 目の前で惨殺された友人が、たぶん十年以上経ってから突然違う姿で現れて、しかも自分を殺した存在連れていれば、俺でもそうなると思う。

 俺がどう慰めようかと悩んでいると、ヒューバートの瞳が、ひた、と俺を見つめていることに気付く。

「ヒュー?」

「……とりあえず、貴様は死なないんだな」

「あ、あぁ、何かに襲われたり事故とかまでは保証できないが、見ての通り健康体だ」

「誰かのために命を捧げる予定は?」

「そんな予定がホイホイある訳ないだろ。強いて言えば、お前に何かあれば、俺に出来る事なら……」

「しなくていい! お願いだ。もう目の前で死なれるのは、耐えられそうもない」



(おー、熱烈だねー。助けたヤツより、こっちと付き合えばー?)



「両方共、そういう相手じゃない」



 地面に崩れ落ちて縋るように抱きついてくるヒューバートの背をポンポンと叩きながら、口でひゅーひゅー言って冷やかしてくる悪魔を軽く睨んでおく。

「……アイツに、会いたいか?」

 今は膝をついてるので、上目遣いになったヒューバートから、そんな問いかけをされる。

 そういえば、悪魔の気まぐれで他人の召喚に乗っかった目的はそれだったが、かなり大人びたヒューバートを見たらそんな気も無くなっていることに気付く。

「いや、会ってもわかってもらえないことに今気付いたし、向こうも別に会いたくないだろ。あ、でも、元気な姿は見たいな。ヒューがこんなかっこ良くなってるんだし、アイツはもっとかっこ良いだろ?」

 俺がなし遂げた事を知ってるのは、願いを叶えてくれた悪魔と見届けてくれたヒューバートだけだ。

 その他の相手の認識だと、俺は自分の力を過信して敵わない相手へ手を出して無惨に死んだ馬鹿なやつ、そんな感じだろう。

 そう思われるよう振る舞っていたからには、そう思われていないと困る。

「……貴様はずいぶん縮んだな」

 フンッと鼻を鳴らして笑ったヒューバートは、立ち上がって俺の頭をポンポンと叩いてくる。

「これでも、背は高い方なんだよ。人種が違うんだから、仕方ないだろ」

 一応、俺だって百七十センチメートル後半近くあるが、ヒューバートはどう見ても十センチメートル以上は高い。

 アイツも同じぐらいだったから、それこそ縮んだりはしてない限り見上げる事になるだろう。

 向こうは俺を俺だと認識しないだろうから、あまり関係はないが。

「……誰か来る。悪魔をなんとかしろ」

「ああ、わかってる。……ディア、ここに」

 部屋で寛いでいたところだった俺は、大きめのセーターを着ていたので、その首元を伸ばして悪魔を呼ぶ。

(はーい)

 ゆるい返事と共に、ドロンッと羽根の生えた黒猫という謎生物に姿を変えた悪魔が、セーターの中へ潜り込んでくる。

 悔しいが可愛い。

「……姿を消させれば良くないか?」

「ヒューみたいに勘の鋭いヤツだと気付く可能性があるかもしれないし、無駄に疑われたくないから、魔獣ってことで通そうかなーと思ってる」

 別に、もふもふしたかった訳ではない。

 ましてや、姿を消させるなんて楽な方法を忘れてた訳ではない。

「……忘れてたな?」

「ハイソーデス」

 内心で言い訳してたら、ヒューバートにはバッチリ見抜かれてた。

 今さら姿を消させる訳にはいかないので、あとはヒューバートへ丸投げしておく事にした。

「……あぁ、特に危険性はない。なかなか面白い研究素材になりそうなんで、私が預かろう」

 やって来たのは騎士の制服を着た青年で、俺を連れて行こうとしたが、今現在はヒューバートの説明を緊張した面持ちで聞いている。

 俺は手持ち無沙汰なんで、ヒューバートの背後で彼の長い髪を梳いて、枝毛を探してる。

 今のところ枝毛はない。艶々でサラサラだ。

 これでほとんど手入れなんてしてないらしいから、世の女の子から恨まれそうな髪だな。

 セーターの首元から頭を出した悪魔な羽根あり猫も、俺の真似をしてヒューバートの毛先にじゃれている。

 ヒューバートは無視してるのか気付いてないのか無反応だが、騎士は気付いたらしく、見事な二度見をして小さくアワアワしている。

「あ、あの、ヒューバート様……!」

「なんだ?」

「その、聖女様に巻き込まれた方が……」

「ややこしくなるから、おとなしくしていろ」

 ため息を吐いて振り返ったヒューバートから釘を刺されてしまったので、俺はおとなしく悪魔な羽根あり猫を撫でて待つ。

 しばらくして話はついたらしく、騎士はバタバタと走り去っていき、部屋には俺とヒューバートが残される。

「無事に貴様は私の所有物だ」

「無事なのか、それ」

「命の保証だけはしてやろう」

 傲岸不遜な台詞を紡ぎながらも、ヒューバートは柔らかく楽しげな笑みを浮かべ、俺を見ている──。




 それは、前世でよく見た『悪友』の笑顔に似ていたが、少し違う。

 俺は笑い返し、並んで歩き出した。

 見覚えのある風景の中を共に。





 以上、本当に長くなったが、これが少しややこしい、俺が前世の記憶を思い出した話だ。

 まさか、異世界な前世を思い出せた日に、その前世な異世界へ飛ばされるとは、思いもしなかったが。




 隣を歩く『悪友』が心の底から喜んでくれているようなので、神に……いや、悪魔へ感謝しておこう。






(じゃあ、クッキー食べたいなー)





 今度の代価は、ずいぶんと甘くなったらしい。

お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m


冷静になると、この主人公って結構酷いヤツだな、と自分で書いときながら思ってしまいました。


珍しく自己肯定感強い系のつもりだったのに、気付いたらあんな感じになっていた不思議。


本当なら幼馴染み登場予定だったのですが、悪友がすべてをかっさらっていきました。

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