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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第八話

「クールとホープ、γ隊、通信不可。α隊は引き返しクールの捜索を開始。……β隊壊滅…。パッション、ラブ。わかってると思うけど、一度体制を整え

「私が先に出る。」


 歩を進めたのはラブハート。武器持ち寄生されし物(パラサイト)は残り六体。自身を殺せる力を持った生物が向かってくる。


ガガ! ガガ!


 単身で迎え撃とうとする寄生されし物(パラサイト)はもういない。六体全てが武器を構えた。


「何言ってるの!!身体はもう限界だってわかるでしょ!?わからない!!??なら何度だって言ってあげる!」


「待てよ。一人ノルマ三体…いやさっきの分合わせて私が五体担当するかなー。」


 先程の怪我を思わせないパッションの生命力は、魔法少女としての段階を駆け上がった残り香とも言えようか。湧き上がるのではなく、まとわりついていた。


「わかるでしょ…ねぇ…無傷の大ボスだって

「「勝てる!」」


 無知から来る命知らずの発言。つい、では済まないほどに危機感の欠如を露呈する。……ただ、この全能感に身を委ねてみたかった。無念を晴らすため理由なき自信に賭ける。しかし、意図せずに魔法少女の力は加速していく。


「……死んだら承知しないんだからね…」


「はっはっは。身体が軽い!調子はサイコーだ!!どこまでもいけるぞ!」


「そう……」


 …馬鹿。流した血液分だけ本当に軽くなってるのよ!あと何分戦える…?、いや違う、いつ倒れても不思議じゃない。必要なのは、致命傷をなんとしても避けること。次は駄目だ、絶対だめ…。これ以上に付与できる魔法で有効なものってなんだ?身体能力を強化は、付与された側の負担も大きい。どうする…ここでの判断が、変えれるものがあるかもしれないじゃない…。考えるのよ…どうする…


「ビームでアイツら分断したほうがいいかな?」


「お!そうだそうだ!ビーム見してくれよー。聞いてるだけでさ、間近で見たかったんだよー!」


 とりあえず、ラブとパッションの感覚共有を一度して、(ベール)の感覚を覚えてもらうか…。ハイになってる今なら違うかも知れない。


「どんな構えでやるんだ?やっぱりハートをつくったりするのか?」


「いや…ただステッキ通して…って感じで…」


 六体なら囲んでくる…いや、一体で惹きつけて五体が同時か…?近距離と遠距離でわかれるなら、それこそ、ラブのビームで先手を取れる。


「雲に穴とか開けちまうかー?よくある表現だけど、実際に見たことないから楽しみだ!」


「今回は正面にまとまってるから、空にはちょっと……あ!地面!、地面を抉って道作るとかなら…ど、どう

「うるさーーーーーい!!!今集中してるんだから、ラブは感覚覚えようと頑張るの!!」


 なにを会話を楽しんでるんだ戦闘狂どもめ。


「あ、ご、ごごごめんね奈々子ちゃん。」


「怒られちまったなー。」


 ………道を作る、か…。…?、これか?……こ、これじゃない!?これならヤバくなった時に対応できる!


「パッション!ラブ!逃げ道よ!逃げ道作るから、塞がれないように対処したら、突っ込んで大丈夫!」


 '深緑の一時'(グリーンルージュ)勝利の黄金線(フリーゴールドライン)……


「お、おおおお、お?金色の紐が背中から出てるぞ?これでいいのか?」


「敵には見えてない。その線の先が最善の逃げ道…そういう魔法だから。」


「す、すごい…奈々子ちゃんは色んなことができてすごい…」


 背中から伸びる黄金線は、値千金の逃げ道に続く。逃げるが勝ちという言葉があるが、キュリオの生きる事を最優先とする想いから生まれた力である。


「キュリオね。」


「あ、ごめん…」


「別に、もう誰もいないから良いけどさ。」


「なんかセコイ紐も付いたし、ビームいけるか?」


「セコイって何よ!!セコイって!!!」


「大丈夫…いつでも撃てるよ。」


 ラブとパッションは臨戦態勢に入る。ラブは地を掴むように足を開き、パッションはクラウチングスタートのような態勢になっている。


「全く…3秒前ね。」


「3…」


「「2…」」


「「「1!」」」


「ラブビーム!!!!」





 ビームと同時にパッションは武器持ち寄生されし物(パラサイト)に向かって飛び出す。ラブを覆う力は、(ベール)とは似つかわない不格好なものであったが、力を移動するという一点に関してはパッションに近い精度に仕上がっていた。これは、キュリオの力添えありきの一時的なものではあるが、効果は絶大、力を放射するラブのビームは姿を変えていた。大雑把な範囲攻撃から、直線に敵を貫く力…破壊ではなく、命を奪う一撃。うっすらとハート型に見えなくもなかった。


「牛は牛でも闘牛って感じだろ?」


 ビームの影から炎の二本角が首を飛ばす。赤い布など目立たない。何よりも赤く燃えた存在がそばにあるから。どこまでも追いかける不可避の赤牛。


「よっし!あと四体!ラブは右に回って、パッションは合流させないように炎で視界遮って!」


 寄生されし物(パラサイト)は呆気に取られたように、その場から動けなかった。目の前の出来事を理解することに時間を要した。侮っていた炎の魔法少女が、一撃で同胞を殺したことではない。謎のピンク色の光に当たった瞬間。頭部などお構いなしに、消し飛んだ。傷さえつかなかった核ごと消し飛ばしたのである。


ガ ガガガガガガガガ


 この攻撃を防ぐ手は無い。背後に鎮座するモアイ像を頭部にした巨大な寄生されし物(パラサイト)、つまりは、彼らの最終ラインを、この身を挺しても守ることができない。以上を理解し、すべき行動に移す。それは…


ガ ガ


「不用意に近づくなんて、見てなかったのか?今の私はお前らを倒せるぞ!」


 パッションが破裂させた炎の塊は、見事に白い煙をあげた。寄生されし物(パラサイト)に合流する一手はもう打てない。しかし、もう関係ない。自身の命など関係ない。パッションの右足が頭部を潰すことを避け、突き刺した武器を踏み台に飛び上がり、胴体に大きな空洞が生まれた。二足歩行は困難になり、戦力としてはカウントできない。



 半壊した寄生されし物(パラサイト)はパッションに覆い被さるように、抱きつく。目的は読めている。キュリオが口を開く前に、全面から炎を噴射、爆発させ、爆風を持って視界を作る。無謀にも突っ込んできたことによる結果は、足元に散らばった。パッション側に分断された寄生されし物(パラサイト)、残り一体は逃げていた。視界を覆い、一体を犠牲に一撃を当てる。誰もがそう予想した。そう、これは予想外。十分な距離をとった寄生されし物(パラサイト)は、動かせるものを片っ端から集め、山を築いた。山を形成するのもは、自販機、車、…死体。あらゆる物がパッションに向けて投げつけられた。


「上空から車が二台、正面から自販機、人、人、車、…人。」


 キュリオがこの場一帯を支配している。物を投げつけようが、死体を投げつけようが、パッションに当たることは無く、来るとわかれば動揺も抑えられる。一連の行動が意味することは、一度致命傷を受けているパッションの体力を削ること。少しでも時間を稼ぎ、ガス欠を待つこと。


「なんで今になって、自分の命を駒のように…」


 当然の疑問であった。寄生されし物(パラサイト)は寄生生物である。これまでは、生物として命を惜しむ行動が見られてきた。特に小さい物に寄生し、戦闘能力が基準に達しない場合、魔法少女との戦闘は避け、逃げ惑う人間に執着した。多くの人間を殺すため、生きなくてはならない。今回は違う。最終的に、目の前の魔法少女を殺せれば良い。そんな感覚がひしひしと伝わってくる。ターニングポイントは、もちろんラブハートのビーム攻撃にある。


 「もう、仏さんで遊ぶのはやめろよ。」


 投げつけられた車を足場に急上昇。寄生されし物(パラサイト)の真上で急降下。模された動物は……鷹!






 ラブハートの視点に戻る。ビームを撃ち終わった後、走り出した瞬間にパッションによる煙幕が作られる。


「目の前の二体…同時は危ない。…うん。」


 寄生されし物(パラサイト)は走り出す。二体が一斉に逃げ出したのだ。


「へ?…あ、ちょっと!待って!」


「ラブ!引き離されたら駄目!飛び道具とか無いの!?ビームは連射無理でしょ?」


 と、飛び道具!?ななな何か投げれる物…アイツらが落とした武器!…は倒せないよね。核を丁度突き刺すのは、ちょっとな…槍投げしたことないし…いやそもそも硬い!それに走るの速っ!私じゃ追いつくのに時間がかかる…やっぱり飛び道具か…


「あーもー!じゃあステッキとかで何かあるでしょ!?」


 ラブハートのステッキ自体に飛び道具としての性能は無い。キュリオが伝えたかったのは、ビームの小出しで、足を撃ち抜くか、ビームの噴射で加速して追いつくなどである。…どちらもラブハートが成功したことなどない。訓練時、逆噴射で移動しようと提案された際は、ビームの加減が出来ずに、壁にラブの壁画ができたほどであった。ラブによるワイルドな壁画は、今でもクールによって補修されずに残されている。


「…!そういうことか…!」


 ラブは自身の武器であるステッキに愛着が無かった。動物的な可愛さに弱いラブであったが、ピンク色のマジカルステッキを可愛いと思える感想を持ち得てなかった。さらには、ピーピーうるさいくらいまで思っていた。正式名称も聞かされたが、覚える気などなかった。つまり、どうでもよかった。ということで、ラブがとった行動は


「ふんっ!」


 ステッキを投げつける。ただ投げつけるだけではない。ラブの力を入れ込んでから投げつけた。小さいビームの塊。手榴弾と遜色ない。普通は力を注入した時点で壊れるが、元より魔法少女が振り回すことを前提としているため、かなり丈夫である。


「ラブボンバー!」


 一体の寄生されし物(パラサイト)にぶつかり爆発する。全身がバラバラに砕け散り、もう片方は、爆風と同胞の破片で飛ばされるように転んだ。起き上がる前には、小さな影がかかっていた。



ガガ ガ 



「ヒビも入ってないって…すごい。」


 ステッキは表面に擦れたような傷があるだけで、原型をとどめていた。



ーワタシ ノ タイキュウド ヲ コウシン

ーキロクシマス



「……嫌み?」



 ステッキを握り、寄生されし物(パラサイト)に押し当てる。そのまま破裂させるようにビームを発射する。


「ラブインパクト!」


 コンクリートの地面ごと寄生されし物(パラサイト)が破裂する。力加減が出来ていないため、だいぶひび割れ、歩きにくい道路になってしまった。


「パッション、ラブ。六体の武器持ち寄生されし物(パラサイト)の殲滅を確認。気をつけて。モアイの動きを確認する。」


 ラブとパッションは急いで合流する。一対一になる状況を作ってはいけない。身体の大きさに差はあるにしろ、二体一であることを放棄するには早計である。



パー パー パー



 モアイを頭部にした寄生されし物(パラサイト)はゆっくりと立ち上がる。七階建てのビルを上回る大きさである。片手で何本もの電信柱を投げたりキャッチしたりと繰り返す。


「あの巨大から投げられたら、電信柱がミサイルみたいなものよ。絶対に避けなさい。」


 ラブとパッションを見つめ、電信柱をぎゅっと握った。


「…くる!!」




パーーーーーーーーーー





 開かれたモアイの口。中から輪っか状の光り輝く何かが発射された。イルカが気泡を用いて作るリングのようなそれは、途切れることなく、何十輪も発射され続ける。


「逃げて!!!!!!」





 ラブとパッションは全てがスローに感じられた。死が迫った時に起こる特有の現象は、二人が危機を理解するに足りうることだった。光の輪が地面に衝突する時、辺りが蒸発するかのように見えた。

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