第三話A
避難先から帰ってこれる時期は未定。化け物が次々と襲ってくるなら、避難先が無くなる方が早いだろう。つまるところ、家に酒や食料を残しておく意味はない。酔いは加速していくはずだった。
「つまり某達は、家族や友人、自身にまでも別れを告げ、戦う道を選んだのでありんす。」
オリヴィアが話す内容は、酔いを覚ますには強烈過ぎた。口調はふざけていても、淡々と語るには重く、真実であるとは思えない。
「なるほど…世界中から軍人や傭兵、腕利きの猛者が集まって新兵器の実験台になっているのね。」
「世界中とはいえ、某を含め大半は日本人でありんすよ。狙撃がやたら上手いツルツル外国人がいたりしやすが。」
プロトタイプだと話す四角い銃は、大木を容易く貫通して見せた。血の気が引いた。それに、重くて待ってられない。両肩に装備するってマジか。
「今は人数も多くありやせんが、これから増える?らしいでありんす。正直、装備が揃っても倒せるか怪しい…というか、やはり魔法少女の戦闘を邪魔する雑魚の始末が、主な仕事でありんすな。たぶん。」
「何故そんな技術を持ってる?外が黙ってないだろう。」
「よくわからないでありんす。タブー視されてたのもありやすが、魔法少女とは極力近づかない態勢なんでして…」
不忍の質問責めは続く。
「魔法少女が関わってるのか?魔法少女は元より人間じゃなくて、技術提供しているとかか?」
「わ、わわからないでありんすよ〜。某は武器が試したくて脱走しただけなんでありんすからぁ。」
結構ヤベェやつを拾ったんじゃねーか?口封じに狙われるとかねーだろうな。
「じゃ、小休憩に質問いいか?」
「小休憩とは?」
「そのとってつけたような口調はなんなんだ?アニメで日本語覚えたのか?」
「日本語以外話せない生まれも育ちも日本でありんす!口調は…その…」
やっぱりネジの一本や百本外れてないと、命投げ打って戦えんのかなぁ、これ。
「新部隊(仮)にサムライがおって…チョー強いんでありんす。だから、近づきたくて…その…」
「え゛!?憧れで自称忍者のヤベェ口調の変な女になったんかー?ぎゃっぎゃっぎゃっ!イカれてんぞコイツー!」
「誰かー!この酔っ払い寝させてきてー!!」
整に寝室へと連れ去られていくアル中女。この真面目な空気で、なぜ酔っ払い続けられる。
「そのサムライとやらの特徴は?」
おっと、不忍ぼっちゃんもふざけ始めたよ。侍とか好きそーだけど。
「赤髪をポニーテールのように束ねてて、一人称が拙者の女ザムライでありんす。」
そんなヤツいるか。
「……他に特徴は?」
おおお、まだ食いつく。どんだけ侍好きなんだよ。
「特徴…特徴…あっ、そうだ!プロフィール帳貰ったの!ポケットに大事に入れてて、主人!私の服は!?」
興奮して口調忘れてんじゃねーか。
「すまんの。洗っちゃったでありんす。」
「お前が言うんかい!」
「そんなぁ〜、滝城に戻ればコピーがあるけど、手元に無いのは不安ですありんす。」
「ふざけてないで、本題を進めましょう。」
整が戻ってきた。
「ふざけているわけではない。もしや、その女性は」
不忍の声を遮るように窓ガラスが割れる。俺たちを通り過ぎ、食器棚の中に飾られているイノシシの剥製を粉砕した。
「伏せろ!!!」
反応が早いのはオリヴィア。流石は元軍人だ。見様見真似で匍匐前進の体勢になる。不忍がじいさんの頭を掴んで無理矢理伏せさせた。
「残党でありんすな…」
「倒せるのか?」
「やるしかないでありんす。応援を呼ぶ機器など持っておらぬゆえ。」
オリヴィアの銃が握ると同時に形を変え長方形になる。上下に展開された勢いで、一弾目が装填された。二弾目以降は、撃った衝撃で自動装填されるらしい。蛇のトグロ状に仕込まれた銃弾は、素人が連射すると自動装填に失敗し詰まるとのこと。自慢話が長く覚えてしまった。
「そのまま某の後ろへ…」
匍匐前進で移動し始める。もう夜だ。敵の姿さえ確認できない。反して、俺たちは丸見えなのだ。
「敵は同じやつか!?」
「キャベツでありんす。飛ばすは眼球サイズの芽キャベツ!喰らえばイチコロでありんす…!」
「芽キャベツなんか育ててねぇぞ!」
「彼奴らに道理は通じんでありんすからなぁ。」
二撃目が来ない。連射はできないようだ。
「ここでありんすな…」
トリガーを絞るとオリヴィアの身体が揺れた。少し浮いた気がする。それほどの威力に反して銃声が小さい…と思う。
「当たったか…?」
「普通に外れやした。見えないとダメでありんす。」
「カッコつけて当てずっぽうかよ。」
大きな音を立てて玄関が崩れる。音なく発射できるは敵も同じらしい。
「生き埋めにするらしい。」
「こうも低姿勢だと埃がイヤね…こほっ。」
「威力があるとはいえ、一球で玄関口を塞いだ。しかし、こんな平家じゃ効果は薄い。頭脳の良し悪しは判断しかねる!」
「冷静で草。でありんす。じいちゃん担いでください。逃げるでありますよ。」
口が閉じないじいさんを不忍が担ぎ上げ、貴山を回収するため寝室に向かう。寝室といっても、ただの空いてる和室だ。
「貴山さん起きてください。キャベツの化け物が襲いに来ましたよ。」
「んっ…キャベツ…?」
「寝ぼけてんじゃねぇ。早く逃げねーと死ぬぞ、マジで。」
「ふわぁぁ〜…向かい酒はないんかぁ?」
「その銃弾が当たれば勝てるのか?」
「答えは…NO!キャベツの葉を剥がせば元通りになるのを知ってるでありんす。」
「あれぇ無視するじゃん…」
「敵が見える状況且つ、ソイツを連射すれば勝てる。どうだ?」
「それなら勝てると断言するでありんす。実際見てますし。」
「あれぇ…完全無敵無視太郎?…ちょい待てて、今起き上がるて…」
よくもまぁ、一時間足らずで熟睡できるもんだ。
「なんで戦う流れになってんだ?逃げるって言ってたろ。だから裏手から脱出するんじゃ?」
「馬鹿を言うな。車は撃たれる的、徒歩なら誰か、もしくは全員が死ぬぞ。既にここが戦場だと知れぇい!」
「知れぇい!じゃねーよ、全く。…じいさん、いつまで呆けてんだ!聞きたいことがあんだよ。」
畑が無くなり、家が半壊。気持ちはわかるが、頬は叩かせてもらう。
「…はっ!…うぅ…畑も家も失い、親切にしてやった若者に殴られる…なんだよこれぇ…」
「わるかった!ビンタは悪かったけど弁明は後だ。じいさんが鍵なんだ!化け物をぶっ倒す鍵なんだよ!」
「お…俺が…」
「助けてくれ親切なじいさん!」
じいさんは立ち上がり顔を上げた。目つきがかわる。
「じいさんじゃない、米田光蔵だ。聞かせてみろ、俺ができることがあるんだな。」
「なんで急に…いや、そんなことどーでもいい!光蔵!畑一面を光らせたい、あるんだろ!?」
土井屋の突飛な話に、整は頭を抱える。
「あのね、大きいといえど個人の範疇の畑にそんな設備…」
米田はニヤリと笑い、答える。
「あるぜ。」
「なんでよ。」
米田の寝室の天井を指さす先には、丸い蛍光灯の他にステージを照らすようなライトが取り付けられている。
「なに…これ…」
「この一室は天井が少し高い。脚立に座り、ライトを付ければ深夜だろうと畑を確認できる。」
「どーんだけ畑心配なんよ。もはや病気だぞ米じい。台風の時は家出んなよ米じい。」
「略すな遠慮なき胸。」
「ぶっころ〜。」
貴山が脚立を蹴り飛ばす前に窓ガラスが割れる。丸い穴を作った芽キャベツは、タンスの上に置かれた年代物の達磨に直撃。弾けてバラバラになり、破片が身体に幾つか当たった。
「…ちな、軍事ヘルメット被った人間が同じ爆ぜ方したでありんす。」
想像は容易かったものの、言葉にされると意識してしまう。
「ごほんっ…それで米田さん。コイツを付けるにはどうしたらいい。」
「電源入れればピカッ!よ、ピカッ!」
天井に固定されたコードは箪笥の裏を通り、襖近くの電源タップにプラグが刺さっている。
(不忍がこんな意味のねー質問…まさか…)
丸い蛍光灯から伸びる簡素な糸を引っ張ると、カチカチと音がする。音がするのみ。
「マジかよ…」
「今夜は月がよく見える、気づかんでも無理はない。敵は人間の殺し方をよく知っているようだ!」
「…どうするの?」
「電源自体は小屋にバッテリーがあるが…」
キャベツに俺たちの場所はバレている。居間にいた時は電気がついてた…から狙われたと思っていたが、別の方法があるのか?そんな中、小屋まで行くって無理じゃねーか?
「オリヴィア。どこまで近づく必要がある?」
「動きは遅い、固定砲台みたいなもんで、場所さえハッキリわかれば距離は問題無しでありんす。ただ、狙撃するなら脚立の上は厳しいとだけ。」
「…よし、俺と米田さんがライトを持って小屋から畑を照らす。土井屋がキャベツの場所を特定してくれ。整と貴山はオリヴィアのサポートだ。」
「場所を特定ってどうすれば…」
「頼んだぞ。」
「あーもー、わかったよ!なんとかすりゃいーんだろ!」
寝室から出て来た道と異なる襖を開ける。壁には農具がかけられている。土は落とされているようだが、畳の部屋に置くものではない。
「スコップはいけそうだが…もっと使えそうなもの…」
目が慣れているとはいえ、月明かりだけでは満足に探せない。次の芽キャベツ発射までの時間を考慮し、スマホのライトで照らしながら次の襖を開ける。
「仏間か…」
小さな仏壇。ライトを眩しく反射するほどには綺麗にしてある。
「っ、っとっとっと…」
つまづいた原因は、青色のビニールシートに包まれている。木材の感触であった。
スマホを胸ポケットに入れ、照らしながらビニールを取る。
「…来た。これだよ、これが欲しかったんだ。」
安堵のため息が漏れる。包まれた何かに腰をかけ次の目当てのものを探す算段を考える。胸ポケットのスマホは天井を淡く照らしている。
「遺影か…米田家のもんかな。」
額縁の端が見えたので、興味本位にライトを向ける。部屋を囲むように飾られる額縁は、遺影を入れるものではなかった。
風呂場の天井のさらに上、米田が両手の平で持ち上げると瓦ごと一部の板がズレる。満点の星空が顔を覗かせる。
「これは家主にしかわからん。」
「ピザ窯作ろうとしたもんで。後で庭に作れ言われ、やる気も無くなり穴だけ残ったっつわけよ。」
脚立は紐をつけて回収する。屋根から屋根へ伝うために使用するからである。
「今更だが、巻き込んでしまって申し訳ない。」
不忍は屋根の上で頭を下げた。四つん這いで移動していたため、意図せず土下座に似た姿勢となる。
「よせやい。久しぶりにノリ気になれたもんで、こっちもはしゃいどる。」
脚立を開き小屋への渡しにする。多少高低差はあるものの、虚をついた行動であった。
「…終わり次第風呂を貸していただきたい。このままでは寝付きが悪くなりそうだ。」
「戻れ!!」
安堵による油断は関係ない。発射された芽キャベツは風と共に姿を知らせた。目で捉えきれなかった発射スピードを、今はスローモーションに感じている。
首が閉まる。シャツの襟を後ろから引っ張られたからだ。芽キャベツは眉毛に触れた後、森へと消えていった。
米田と不忍の体格差は、子供と大人…まではいかなくとも、女性と男性ほどの差が存在する。そんな米田が、襟を掴んだだけで自身を背後まで投げ飛ばした事実と、迫っていた死が相まって不忍を放心状態にしていた。
「生きとるか不忍くん、時間をかければ次が来ちまうよ。早く行こう。」
オリヴィアも知らない敵の特性。ヤツらは人間の雰囲気を感じ取っている。仕組みは理解されていない…が、間違いなく人間の雰囲気を感じ取り移動先を決めている。突如家の外に出てきた人間は、さぞ強く存在を感じていたに違いない。
「耳を澄ますと、ギリギリギリぃ〜っと音がしとった。この辺りじゃ聞いたことのない音なもんで、もしかしたらって思ったわけよ。」
「すみません…助かりました。」
「なぁーにいいってことよ。」
再び歩み始める。次の弾が発射される前に準備が整えば、こちらの勝利である、不忍は感謝を胸に、小屋の中へと入っていく。
寝室では、三人の女性がポジション争いに精を出していた。
「……りんす…!」
「声が小さくて聞こえねーよ」
「胸が邪魔でありんす!!」
「でっけぇ声出すんじゃねぇ!」
脚立のてっぺんに座るオリヴィア。机に乗る整は、オリヴィアの背中を支えて反動を抑える。貴山はオリヴィアが腕を置く場所を作るため、タンスに布団を重ね、その上に寝転んでいる。
「うつ伏せになればどう?」
「おっぱいが押しつぶされて痛いのがわからんのかぁ?」
「デカけりゃ良いってモンじゃないわね。」
「だらしないお腹と酒臭いのは勘弁ならんでありんすか?」
「気づいちょらんから教えてやーけど、全員酒クセェからな?」
不忍以外は酒が回っている。女三人、ふざけ合いながらも一度狙われている窓から銃口を畑に向ける。不忍と米田ペアを狙った芽キャベツの存在には気づいておらず、内心穏やかではない。
夜といえど夏、さらには気温が高い地域である。頬から汗が垂れる。
今か今かと時を待つ。反して、時を遠ざけたい気持ちもある。作戦が失敗した時、真っ先に死ぬのは銃を撃つオリヴィアか、ライトで照らす不忍か…一番近い、俺か。
「勝負は一瞬で決まる筈だ…皆んなを信じて突っ込め俺!」
信じる相手が、数日の仲ってことに気づいた時は少し笑けた。解散してから十分、スマートフォンからアラームが鳴る。
「行くぜ米田光蔵2号!ニップルフラーッシュ!!」




