第六十一話
頬に当たる生暖かい液体。嗅ぎ慣れた臭いと不快感。後頭部が浸るほどの液体に浸かっている感覚を持つ。
「んっ、あぁ…」
目覚めが悪い。視界がぼやけ、身体が動かない。体重を移動しながら、ゆっくりと身体を起こす。
「………ここは…」
夢と同じく白い空間であった。違いはα隊員が並んでいないことや、巨大な浮かぶ生首が挙げられる。自身の手や顔に赤い液体が付着している。血の気が引くも、外傷は無いようだった。
隣で感嘆の声が漏れている。前田副隊長が目を覚まし始めていた。
理由もなく立ち上がると、視界が晴れ、一人の男の背中が見えた。気力無く立つ姿に見覚えがある。寝惚けも一歩進むごとに覚めていく。
「何があった、陣副…隊…長……」
出血の元が判明する。目や鼻、耳、口…内側から血が漏れ出ていることに気づく。
「おい…聞いてるおるのだ…」
傷ひとつない身体。どれほどの犠牲を払えば、今の結果が得られるのか…心地には想像さえつかない。
「聞いておるのだ!!…目を覚ませ……」
眼帯の裏からも漏れ出す液体は、頬に二本の道筋を作っていく。心地は涙をこぼしていた。前回の涙は思い出せないほどに過去の話。自身の無力を知る、望みを果たせないことに対する涙とは異なり、心地は異質な感情を抑えきれず声を漏らすばかりであった。
「救護班…救護班!!この男を助けろ…っ!助けるんだ!!」
前田は目を擦り、先に飛び込んだ聴覚からの情報に理解を得る。敵もわからない、起こったことさえ知る由がない。寝ていた…仲間が戦う最中寝ていた。心の置き場に困った男は呼吸もままならない。
「ひゅー…ひゅー…くっ、あ、…ぐぁ…きゅー…」
二人は同じことを考えていた。
どうか……
拙者/俺の行き場の無い力を
……ぶつけさせてくれ…
望みは叶う。
ー認められていません。
「「ーーっ!?」」
ー全ての思いは人間:陣 続郎 へ正常に受け継がれました。上限人数に到達。バックアップメモリーの追加は認められません。
白い部屋に穴が開く。長方形に空いた数多の穴から、機械のパーツらしきものが飛び出しては一つになっていく。
ー人間:心地 呼夢、人間:前田 球児 の生体データを照合…適正値ではありません。
出来上がったものは人型のロボットであった。腕や肩に銃砲が見え、巨大な剣を両手に持っている。五メートルはあるか、部屋を自由に動き回れる最大のサイズなのだと理解する。
ーパスコード認証は制限されています。立ち去ることを求めます。
「「断る!!!」」
ー殲滅モードへと移行。非常停止機能は制限されています。時間経過による解除が可能です。残り:97年42日7時間52分21…20…19…
二手に分かれて挟むように走り出す心地と前田へ、人間ではありえない可動域で剣が振り下ろされる。
シュー シュー
「クソがぁぁああ!!」
剣から鎌へ、鎌から盾へ、次々と役割を変化させる魔装兵器。向かい打つパッションは、炎を纏い力任せに殴り、蹴るのみ。吹き飛ばされても、何度でも斬りかかる。恐山の目的は酸欠のただ一つ。炎が絶え間なく燃え立つ環境下なら、時間はより早くなると考えていた。大きな声を上げ、考えず突っ込む姿を印象付ける。
「まっまっま!」※はっはっは!
作戦は成功しない。何故ならパッションは炎の中でも、大気をコントロールし無意識下で潤沢な酸素を補給し続けている。そして、いつでも口を覆う捕縛剤を剥がせる策があった。
「まだ立てるの……?」
唯一冷静な愛衣れいなは、魔装部隊員のタフさに違和感を持っていた。殺さないように手加減しているパッションの一撃でさえ、受けた魔装部隊員は車に跳ねられた人間の軌道を描いている。剣を地面に叩きつけたり、突き刺そうが、衝撃が全て消えるわけがない。
「お前らが…お前らがいるから…」
「まんあ゛?」※なんだ?
振り下ろす剣はガントレットに傷をつけることもできない。
「人が死ぬ…犠牲が増えるんだカスぅ…消え゛ろよ゛!!」
自身よりも大きい剣を振り回す。炎が纏わりつき威力が落ちていく。
「まっへまあんめーお゛!」※わっけわかんねーぞ!
遂には綿の塊を振り回している感覚に陥る。これでは人間相手でも敵わない。
「クソ魔法少女より゛もぉ…」
剣道ならば上段の構え。恐山は上段のさらに先、剣を自身の頭の上に垂直に構えた。
「強く゛ならなくちゃ……」
愛衣れいなは空いた口が閉じれない。魔装部隊の子が振り下ろした魔装兵器は、パッションではなくアスファルトに突き刺さっていた。手を離し、拳を握りしめファイティングポーズをとっている。魔法少女と魔装部隊が、最も原始的な戦い方をしようとしていたのだ。
「…ももまあ、んあんぇーもあ。」※…言葉は、いらねぇーよな。
パッションもガントレットを外して足元に置いてしまった。変身を解き、魔法少女体と人間体の境で捕縛剤を剥ぎ取る、べちゃりと音を立ててアスファルトに貼り付いた。器用な取り除き方だと感心する。
互いに見つめ合い、言葉を交わさないまま拳が頬に食い込んでいった。避ける様子がない。殴り、殴られてを繰り返す。拳に血がこびりつき、腕を伝って肘から滴り落ちる。
「ちょっと…」
魔法少女は人間体であっても、人間を凌駕する身体能力を持つ。鍛え上げられた魔装部隊員でも、人間であることには変わりなく、力の差は明確であった。しかし、恐山は倒れず拳を受け続けている。時折漏れる笑い声が狂気を感じさせ、呼応するように虎野朱も高らかに笑った。
「それ以上はダメだよ…?」
正直な話、愛衣れいなには、人間がどれだけ殴られると死ぬか、血を流したから死ぬかがわからない。銃で撃たれるとか、剣で斬られることと比べ、殴打への具体性が導き出せないでいた。真剣勝負に水を差すべきではない気持ちと、痛そうだし喧嘩はやめて欲しい気持ちが混在し、とりあえず声を出してみたのだ。
「ダメだって…」
服の下では拳大のアザが幾つも生まれている。呼吸の頻度が増え、また、浅くなっていく。脚に震えが発生し、視界が小刻みに揺れ始めていた。目の前の敵は動かない、避けない。二人の少女にとって、視覚は安心して放棄できる機能の一つに成り果てた。
「………」
聞こえていないのか、無視をされている感覚をもった愛衣れいなは、目つきをさらに悪くしながら歩いて近づく。
愛衣れいなは不器用である。指摘されることもしばしば。持ち前の苦手意識や先入観、偏見の無さが、不器用をフォローして余りあるため、本人は意識的に最後にはできる人間だと自負している。つまりは、初めは失敗が多い。経験がなければ尚のこと。両親から怒られた記憶が(ほぼ)無い故に、愛衣れいなにとって怒る指針は一つだけてあった。
「……」
力を込めようとしても、思うように動かない。最後の力を振り絞るには技術が必要なのである。身体を振り回すように、全身で放つ拳が、互いの頬に接近する。
「死ね゛え゛!」
「はっはー!」
拳は命中する。しかし、それは互いの頬にではなく、脳天であった。
「ダメって言ってるでしょ!!」
素の腕力が魔法少女で一位の女、愛衣れいな。両脇に小柄な少女を抱え、皆の元へ歩き出す。その脳内は、一般人には計りし得ない。
(今、すっごいお姉ちゃんぽいなぁ。)
足取りは軽い。
速度は武器持ち寄生されし物と変わらない。関節を狙ったり、内部からの破壊が可能であれば、敵を故障させることができるかもしれない。ロボットであることが、様々な弱点を想起させる。
「遅いーー抜刀!×字斬!」
手首の関節を狙いを定め放つ。刀は受け流されるばかりで、芯を捉えた攻撃ができない。圧倒的、ボールジョイント。関節部が球状になっており、刀を受ける瞬間に同方向へ自ら回転。威力を完全に殺すことを可能とした。意思を持たないことで得れる最大限のアドバンテージである。
「がああ!!」
心地は受け流された力を逃がさない。回転には回転を。懐に潜り込んだチャンスから結果へと進み続ける暴走回転マシーンと化す。
「じょうだぁん!恋雷衝!」
恋雷衝から始まる技の蓮撃に違和感を覚える。気合いと勢いに任せた剣技に名は無い。思いが乗った技は一刀目のみ。
意識に冷静さがなくとも、この違和感を身体が教えてくれる。心地は、過去の自分から贈り物が来たのだと解釈。心を落ち着かせ、刀を強く握りしめる。無意識下で繰り出された蓮撃が、思いの外繋がっていたことに気づく。感覚と経験が結びつき、過去の記憶を呼び覚ます。
口には出さずとも、量に不満を持ったまま終える給食の時間。余った二本を合わせた牛乳パックを指で折り畳む。
「ねぇ、心地さんも来ない?」
委員長と呼ばれるおさげの女の子は、心臓を高鳴らせて声をかける。
「遠慮させてもらう。」
「えっ…で、でも、先生も棒を振り回すはよくないって…それで、うさぎの赤ちゃん見に行こうって…」
化けの皮が剥がれたか。拙者の説明には納得を装い、同級生を使って邪魔をするわけだな。
「相川先生殿、拙者も仲良くしたいと思っている。しかしだな、やるべきことがあると説明は済んだ話だ。」
副担任の相川は生徒人気の高い女性教師である。計六グループに分かれる机の島に、日替わりで加わり共に給食を食べる習わしだ。今日は心地の隣で給食を食べている。
「断られる仕事を頼むのは、いささか酷であろう。拙者も兎は嫌いではないのだ、気持ちを汲んでほしい。」
食べるのが遅い相川は、未だ三分の一が残っている。縁無しのメガネに付着したスープを拭き取り、呼吸を整え目をカッと開く。
「ノリが悪い!!」
大きな手振りと比べ声は出ていない。生徒を驚かせないための配慮が感じられる。
「あのね、心地さん。ノリというものは、恐ろしいところもあるけれど、できないこともできちゃうところもあるのよ。」
心地の手を握り、目を見つめ、優しい声色で話す。
「努力をノリが凌駕するであろうか。拙者は、日々の研鑽が大事だと考えている。」
ただの小学生なら通用していた。
「ふっ…立場が逆ね…。でもっ!先生諦めないんだから!」
論争は大盛り上がり。クラス一丸となり、努力とノリの対決で昼休みの時間に突入していく。
「くっ…!」
ロボットの上半身が回転。振り回される腕に当たり吹き飛ばされる。過去から現実に引き戻されると、前田副隊長がロボットの体勢を崩していたことが目に見える。
「関節も効き目薄い!」
凹凸の無い床で受け身をとり、即座に走り出す。攻撃が効いていないことは、刀を通して理解していた。これからは死なないための行動を余儀なくされる。走り続けて機会を伺う。
「後ろだ前田殿!」
「隊長!左斜め上!」
寄生されし物と違う点は、手数の多さが挙げられる。両手の剣に加え、肩と腕にショットガン、腿に小型追尾ミサイル、掌に火炎放射、胸のビーム砲に加え、360度回転する頭部で二人を常に捉える。滝城研究所で製作されたポットロボを性能で上回っていた。
「近づけないっす!」
紐を括り付けたB6を投げつけ小型追尾ミサイルを暴発。そのまま回転させショットガンから身を守る。
「集中して聞け!」
「はい!」
愛斬破で巨剣を受け流し、囲む炎を斬撃で吹き飛ばし脱出、背から追うビームを垂直の壁を蹴って進み逃げ続ける。
「ヤツはこの部屋の規模に沿った攻撃をしている!火力は上がらないが、ロボットは拙者達の動きを覚えるのだろう?時間をかければ敗北が見えるぞ!」
シュー シュー
捕縛剤で固定した脚を、蒸気の噴射で浮かし剥がす。床を破壊することはない。ミサイルやビーム砲を放つも、部屋自体に傷はほとんど見られない。
「覚悟はできてます!隊長と会った時から今に至るまで…途切れることなく!」
休憩の隙がない。間合いを読む時間も、距離を取ることも目の前のロボットには存在しない。疲労が溜まり、酸素が足りなくなってくる。
「必殺の一撃は必ず当てなくてはならない!拙者達の全力が敵を一撃で葬らん!!」
心地は刀身で攻撃を受けることをやめる。伸縮補爆槍を使い捨てて攻撃を去なす。距離感を失う白い部屋を把握し、懐へ潜る為のルート模索。
(俺らが被弾しないことが前提だが…先に攻撃を読み切るかの勝負だ。俺の役目が見えてきた…)
足元を巨剣で掃らわれ、跳躍で避けることを強制される。空中にいる前田へ向けて、ミサイルが一つ発射。弾数を押さえるため、B6のマーカー弾で向かい撃ち、爆風に吹き飛ばされながら距離を取る。
(心地隊長は刀の特性上、基本的に避けるしか無い。受け流すにも限界はあるはずだ…隊長には無いかもしれんが。)
三歩進み、四歩下がる。二歩進み、一歩進む。心地はロボットとの距離を歩数で数えていた。残り十八歩…近づけば手数が増え捌くに時間がかかる。特にビーム砲は速度と範囲が広く避けづらい。
(被弾覚悟の突っ込みはさせない。俺の方に六…七…いや、八だ。八割の攻撃を引き寄せる。なんとかするのは、俺だ。…っよし……。)
「気合!!」
伸縮補爆槍を床に向け突き立てる。ミサイルでも欠けない強度からして、鍛えた肉体如きでは無謀な行動であった。大声と相まり、狂った印象を持たれる男の足元に音がなる。
バキァッ
賭けに勝つ。突き刺さる算段は想像上で、ただ最も衝撃が加えられていた床だった。
「根性ぉおおおおおお!!!!」
突き刺さった槍を引き摺り溝を広げていく。身を丸め的を小さくする。肩のB6だけが身を守る盾となる。全力で走れない、身も守りきれない。全てが中途半端…ミサイル一発で吹き飛ぶ哀れな策。
ー器物の破壊を確認。原因の特定、削除を速やかに行えます。
ミサイルは背後に衝突。前田の不規則なスピードを捉えきれていない。哀れな策は積み上げた'もしも'で乗り越えた。
もしも…二足歩行でなかったら。不利な体勢で戦うなら。立てなくなったら。腕が無くなったら。足がなくなったら。息ができなかったら。視界が覆われたら。攻撃を惹きつけるには。知らない環境なら。腹部に物が刺さったなら。磔にされたら。紐で繋がれていたら。水分を奪われたら。武器がなければ。声が出なければ。…諦める理由に納得ができないならば。
魔装部隊一位の女が考える状況は滑稽で、防ぐためを思考すべきだった。…一人の男を除いて真実には辿り着けない。
男は知っていた。目の前の女は、次の段階にいるのだと。
(もしもを起こさないため…もしもが起きたなら…全てを対策した。センスだけじゃないから一位なんすよね。…見なくてもわかりますよ。)
「分析力と対応力、もしもを実現する力。強くなられたな、前田殿。」
シュー シュー
(できる確証はない…だが、やりたい気持ちが大きい。前田殿に影響されたか。…あとは'ノリ'であるな…)
心地の目には前田球児が映っていない。爆煙に覆われた世界に彼はいる。今、二人の人間と一体のロボットは同じ方向に視線を置いていた。無機質な背中にピンクの波動が触れて、弾ける。
「ご覧に入れよう…恋の開幕である。」
緊急事態といえ、敵の間合いまで近付かせるわけもなく、両手の大剣が心地に振り下ろされる。刀は鞘に収められる。大剣を身軽にひょいと回避し、鞘内部で起こした爆発による愛斬破の抜刀。
「一刀 出逢えば縁繋がり」
背中への衝撃がロボットを少し前屈みにする。絶え間なく続く大剣の応酬に、一滴の血さえ付着しない。当たらない断頭台から鼻歌が聞こえてくる。
「二刀 並びて歩き雨模様」
背中のカケラがポロポロとこぼれ始める。爪で引っ掻いた絆のような跡が、無数に浮かび上がっていく。鼻歌が暴力の音の隙間を通り抜けた。部屋中に響き渡る音にのり、刀の速度が上がり続ける。
「三刀 寄り添い開く花の舞」
刀の爪痕に繋がり割れて花が咲く。
「四刀 二対の関門いざ参る」
誘導されていたのか、同時に振り下ろされた大剣が受け流され自身の機体を傷つける。
「五刀 水面に映る鼓舞の波紋」
心地の姿が消える。ロボット唯一の死角、股の隙間を通り抜け反対面へ。一刀から四刀目の連刀を再び繰り出す。何故か一刀分の時間しか経たないまま大剣が機体へと入り込む。テンポの変わらない鼻歌の中、一人だけ時の流れが違うように自らもが感じている。
「六刀 不屈の思ひ導く後来」
至近距離でのミサイルは、自身をも巻き込む避けるべき手段であったが、心地の眼前へと迫っていた。追い込まれるロボットを恋雷衝に似た上段で力任せに爆裂。
「七刀 円環の知 宿る灯火」
振り下ろし切った状態から一回転。六刀と七刀が合わさり十字の傷が刻まれる。
心地は一歩距離を取る。姿勢を低く刀を構える。突きの構えである。
「七色一織 恋の稲妻!!!」
全身をバネにした突きの先に、もう一つの魔装兵器:静寂夏。正確無比の投擲が最後の蓮撃を彩る。愛斬破と反応し爆発。剣先は沈み続け、遂に空気に触れる。
「「切り捨て御免…っ!」」
刀を引き抜き背を向ける。隣には前田球児が立っていた。爆風に当てられ、服の破損が激しい。半ズボンになってしまった。
ー動力源への外部接触が確認されました。
「これで陣副隊長も安らかに眠れるでしょうか。」
「今頃、眠りこけているであろうな。拙者達は、ヤツの勇姿を見てこそおらぬが、この命をもって武勇を語ろうぞ。」
「…そうっすね。」
強敵を打ち破り、仲間の仇を打った。二人は異様な高揚感を覚え、次第に口数も増えていく。
「ところで、前田殿。また服が悲惨なことになっておるな。」
「防炎防刃も焼け石に水っすね。」
「次はロボットにでも乗るであるか?」
「ははっ、勘弁してくださいよ。」
防衛システムを破った人間二人を見つめる巨大な頭部。合理主義では導き出せない'もしも'はある。攻撃手段があるならば、同時に繰り出せば良い。背を向けた瞬間もあった。今になって動き出すのは合理的では無い。
巨大な頭部の眼球が赤く光る。
「「ーーっ!」」
視界の隅で光を捉えた時には遅い。先の戦闘で何度も見た、ビーム砲の輝きは二人を見つめている。
「非攻撃…指定、人間を追加しろ……」
ー非攻撃指定に人間を追加。正常に機能しました。これより人間は非攻撃指定生物になります。
赤光は一瞬にして姿を消す。
声の主は判明している。立っていた位置から動かず、ミサイルや銃弾の一つたりとも当たらず、爆風さえ彼に触れる頃にはよそ風であった。
「陣…副隊長殿…!」
戦場と化した白い部屋で、傷一つ付かない不可思議な男は、第一の守護対象に指定されていた。二人に理由はわからない。ただ、今は喜ぶのみ。
恐ろしく速い歩き方で近づき、背を思い切り叩く。
「生きているなら言え馬鹿者!!!」
「ぎゃっっ!」
陣は再び眠りにつく。その場に倒れ込み動かない。
「帰るぞ、前田殿。」
鬼の形相の心地に言葉が出ずに、無言で後ろを歩く。
小脇に陣を抱えて歩き出す心地。足取りは軽い。




