表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
67/71

第六十一話

 頬に当たる生暖かい液体。嗅ぎ慣れた臭いと不快感。後頭部が浸るほどの液体に浸かっている感覚を持つ。


「んっ、あぁ…」


 目覚めが悪い。視界がぼやけ、身体が動かない。体重を移動しながら、ゆっくりと身体を起こす。


「………ここは…」


 夢と同じく白い空間であった。違いはα隊員が並んでいないことや、巨大な浮かぶ生首が挙げられる。自身の手や顔に赤い液体が付着している。血の気が引くも、外傷は無いようだった。

 隣で感嘆の声が漏れている。前田副隊長が目を覚まし始めていた。

 理由もなく立ち上がると、視界が晴れ、一人の男の背中が見えた。気力無く立つ姿に見覚えがある。寝惚けも一歩進むごとに覚めていく。


「何があった、陣副…隊…長……」


 出血の元が判明する。目や鼻、耳、口…内側から血が漏れ出ていることに気づく。


「おい…聞いてるおるのだ…」


 傷ひとつない身体。どれほどの犠牲を払えば、今の結果が得られるのか…心地には想像さえつかない。


「聞いておるのだ!!…目を覚ませ……」


 眼帯の裏からも漏れ出す液体は、頬に二本の道筋を作っていく。心地は涙をこぼしていた。前回の涙は思い出せないほどに過去の話。自身の無力を知る、望みを果たせないことに対する涙とは異なり、心地は異質な感情を抑えきれず声を漏らすばかりであった。


「救護班…救護班!!この男を助けろ…っ!助けるんだ!!」


 前田は目を擦り、先に飛び込んだ聴覚からの情報に理解を得る。敵もわからない、起こったことさえ知る由がない。寝ていた…仲間が戦う最中寝ていた。心の置き場に困った男は呼吸もままならない。


「ひゅー…ひゅー…くっ、あ、…ぐぁ…きゅー…」


 二人は同じことを考えていた。


 どうか……


 拙者/俺の行き場の無い力を


 ……ぶつけさせてくれ…



 望みは叶う。


ー認められていません。


「「ーーっ!?」」


ー全ての思いは人間:陣 続郎 へ正常に受け継がれました。上限人数に到達。バックアップメモリーの追加は認められません。


 白い部屋に穴が開く。長方形に空いた数多の穴から、機械のパーツらしきものが飛び出しては一つになっていく。


ー人間:心地 呼夢、人間:前田 球児 の生体データを照合…適正値ではありません。


 出来上がったものは人型のロボットであった。腕や肩に銃砲が見え、巨大な剣を両手に持っている。五メートルはあるか、部屋を自由に動き回れる最大のサイズなのだと理解する。


ーパスコード認証は制限されています。立ち去ることを求めます。


「「断る!!!」」


ー殲滅モードへと移行。非常停止機能は制限されています。時間経過による解除が可能です。残り:97年42日7時間52分21…20…19…


 二手に分かれて挟むように走り出す心地と前田へ、人間ではありえない可動域で剣が振り下ろされる。


シュー シュー




「クソがぁぁああ!!」


 剣から鎌へ、鎌から盾へ、次々と役割を変化させる魔装兵器。向かい打つパッションは、炎を纏い力任せに殴り、蹴るのみ。吹き飛ばされても、何度でも斬りかかる。恐山の目的は酸欠のただ一つ。炎が絶え間なく燃え立つ環境下なら、時間はより早くなると考えていた。大きな声を上げ、考えず突っ込む姿を印象付ける。


「まっまっま!」※はっはっは!


 作戦は成功しない。何故ならパッションは炎の中でも、大気をコントロールし無意識下で潤沢な酸素を補給し続けている。そして、いつでも口を覆う捕縛剤を剥がせる策があった。


「まだ立てるの……?」


 唯一冷静な愛衣れいなは、魔装部隊員のタフさに違和感を持っていた。殺さないように手加減しているパッションの一撃でさえ、受けた魔装部隊員は車に跳ねられた人間の軌道を描いている。剣を地面に叩きつけたり、突き刺そうが、衝撃が全て消えるわけがない。


「お前らが…お前らがいるから…」


「まんあ゛?」※なんだ?


 振り下ろす剣はガントレットに傷をつけることもできない。


「人が死ぬ…犠牲が増えるんだカスぅ…消え゛ろよ゛!!」


 自身よりも大きい剣を振り回す。炎が纏わりつき威力が落ちていく。


「まっへまあんめーお゛!」※わっけわかんねーぞ!


 遂には綿の塊を振り回している感覚に陥る。これでは人間相手でも敵わない。


「クソ魔法少女より゛もぉ…」


 剣道ならば上段の構え。恐山は上段のさらに先、剣を自身の頭の上に垂直に構えた。


「強く゛ならなくちゃ……」


 愛衣れいなは空いた口が閉じれない。魔装部隊の子が振り下ろした魔装兵器は、パッションではなくアスファルトに突き刺さっていた。手を離し、拳を握りしめファイティングポーズをとっている。魔法少女と魔装部隊が、最も原始的な戦い方をしようとしていたのだ。


「…ももまあ、んあんぇーもあ。」※…言葉は、いらねぇーよな。


 パッションもガントレットを外して足元に置いてしまった。変身を解き、魔法少女体と人間体の境で捕縛剤を剥ぎ取る、べちゃりと音を立ててアスファルトに貼り付いた。器用な取り除き方だと感心する。

 互いに見つめ合い、言葉を交わさないまま拳が頬に食い込んでいった。避ける様子がない。殴り、殴られてを繰り返す。拳に血がこびりつき、腕を伝って肘から滴り落ちる。


「ちょっと…」


 魔法少女は人間体であっても、人間を凌駕する身体能力を持つ。鍛え上げられた魔装部隊員でも、人間であることには変わりなく、力の差は明確であった。しかし、恐山は倒れず拳を受け続けている。時折漏れる笑い声が狂気を感じさせ、呼応するように虎野朱も高らかに笑った。


「それ以上はダメだよ…?」


 正直な話、愛衣れいなには、人間がどれだけ殴られると死ぬか、血を流したから死ぬかがわからない。銃で撃たれるとか、剣で斬られることと比べ、殴打への具体性が導き出せないでいた。真剣勝負に水を差すべきではない気持ちと、痛そうだし喧嘩はやめて欲しい気持ちが混在し、とりあえず声を出してみたのだ。


「ダメだって…」


 服の下では拳大のアザが幾つも生まれている。呼吸の頻度が増え、また、浅くなっていく。脚に震えが発生し、視界が小刻みに揺れ始めていた。目の前の敵は動かない、避けない。二人の少女にとって、視覚は安心して放棄できる機能の一つに成り果てた。


「………」


 聞こえていないのか、無視をされている感覚をもった愛衣れいなは、目つきをさらに悪くしながら歩いて近づく。

 愛衣れいなは不器用である。指摘されることもしばしば。持ち前の苦手意識や先入観、偏見の無さが、不器用をフォローして余りあるため、本人は意識的に最後にはできる人間だと自負している。つまりは、初めは失敗が多い。経験がなければ尚のこと。両親から怒られた記憶が(ほぼ)無い故に、愛衣れいなにとって怒る指針は一つだけてあった。


「……」


 力を込めようとしても、思うように動かない。最後の力を振り絞るには技術が必要なのである。身体を振り回すように、全身で放つ拳が、互いの頬に接近する。


「死ね゛え゛!」


「はっはー!」


 拳は命中する。しかし、それは互いの頬にではなく、脳天であった。


「ダメって言ってるでしょ!!」


 素の腕力が魔法少女で一位の女、愛衣れいな。両脇に小柄な少女を抱え、皆の元へ歩き出す。その脳内は、一般人には計りし得ない。


(今、すっごいお姉ちゃんぽいなぁ。)


 足取りは軽い。



 速度は武器持ち寄生されし物(パラサイト)と変わらない。関節を狙ったり、内部からの破壊が可能であれば、敵を故障させることができるかもしれない。ロボットであることが、様々な弱点を想起させる。


「遅いーー抜刀!×(ペケ)字斬(じざん)!」


 手首の関節を狙いを定め放つ。刀は受け流されるばかりで、芯を捉えた攻撃ができない。圧倒的、ボールジョイント。関節部が球状になっており、刀を受ける瞬間に同方向へ自ら回転。威力を完全に殺すことを可能とした。意思を持たないことで得れる最大限のアドバンテージである。


「がああ!!」


 心地は受け流された力を逃がさない。回転には回転を。懐に潜り込んだチャンスから結果へと進み続ける暴走回転マシーンと化す。


「じょうだぁん!恋雷衝(コイライショウ)!」


 恋雷衝(コイライショウ)から始まる技の蓮撃に違和感を覚える。気合いと勢いに任せた剣技に名は無い。思いが乗った技は一刀目のみ。

 意識に冷静さがなくとも、この違和感を身体が教えてくれる。心地は、過去の自分から贈り物が来たのだと解釈。心を落ち着かせ、刀を強く握りしめる。無意識下で繰り出された蓮撃が、思いの外繋がっていたことに気づく。感覚と経験が結びつき、過去の記憶を呼び覚ます。



 口には出さずとも、量に不満を持ったまま終える給食の時間。余った二本を合わせた牛乳パックを指で折り畳む。


「ねぇ、心地さんも来ない?」


 委員長と呼ばれるおさげの女の子は、心臓を高鳴らせて声をかける。


「遠慮させてもらう。」


「えっ…で、でも、先生も棒を振り回すはよくないって…それで、うさぎの赤ちゃん見に行こうって…」


 化けの皮が剥がれたか。拙者の説明には納得を装い、同級生を使って邪魔をするわけだな。


「相川先生殿、拙者も仲良くしたいと思っている。しかしだな、やるべきことがあると説明は済んだ話だ。」


 副担任の相川は生徒人気の高い女性教師である。計六グループに分かれる机の島に、日替わりで加わり共に給食を食べる習わしだ。今日は心地の隣で給食を食べている。


「断られる仕事を頼むのは、いささか酷であろう。拙者も兎は嫌いではないのだ、気持ちを汲んでほしい。」


 食べるのが遅い相川は、未だ三分の一が残っている。縁無しのメガネに付着したスープを拭き取り、呼吸を整え目をカッと開く。


「ノリが悪い!!」


 大きな手振りと比べ声は出ていない。生徒を驚かせないための配慮が感じられる。


「あのね、心地さん。ノリというものは、恐ろしいところもあるけれど、できないこともできちゃうところもあるのよ。」


 心地の手を握り、目を見つめ、優しい声色で話す。


「努力をノリが凌駕するであろうか。拙者は、日々の研鑽が大事だと考えている。」


 ただの小学生なら通用していた。


「ふっ…立場が逆ね…。でもっ!先生諦めないんだから!」


 論争は大盛り上がり。クラス一丸となり、努力とノリの対決で昼休みの時間に突入していく。


「くっ…!」


 ロボットの上半身が回転。振り回される腕に当たり吹き飛ばされる。過去から現実に引き戻されると、前田副隊長がロボットの体勢を崩していたことが目に見える。


「関節も効き目薄い!」


 凹凸の無い床で受け身をとり、即座に走り出す。攻撃が効いていないことは、刀を通して理解していた。これからは死なないための行動を余儀なくされる。走り続けて機会を伺う。


「後ろだ前田殿!」


「隊長!左斜め上!」


 寄生されし物(パラサイト)と違う点は、手数の多さが挙げられる。両手の剣に加え、肩と腕にショットガン、腿に小型追尾ミサイル、掌に火炎放射、胸のビーム砲に加え、360度回転する頭部で二人を常に捉える。滝城研究所で製作されたポットロボを性能で上回っていた。


「近づけないっす!」


 紐を括り付けたB6を投げつけ小型追尾ミサイルを暴発。そのまま回転させショットガンから身を守る。


「集中して聞け!」


「はい!」


 愛斬破(ラブザンパ)で巨剣を受け流し、囲む炎を斬撃で吹き飛ばし脱出、背から追うビームを垂直の壁を蹴って進み逃げ続ける。


「ヤツはこの部屋の規模に沿った攻撃をしている!火力は上がらないが、ロボットは拙者達の動きを覚えるのだろう?時間をかければ敗北が見えるぞ!」


シュー シュー


 捕縛剤で固定した脚を、蒸気の噴射で浮かし剥がす。床を破壊することはない。ミサイルやビーム砲を放つも、部屋自体に傷はほとんど見られない。


「覚悟はできてます!隊長と会った時から今に至るまで…途切れることなく!」


 休憩の隙がない。間合いを読む時間も、距離を取ることも目の前のロボットには存在しない。疲労が溜まり、酸素が足りなくなってくる。


「必殺の一撃は必ず当てなくてはならない!拙者達の全力が敵を一撃で葬らん!!」


 心地は刀身で攻撃を受けることをやめる。伸縮補爆槍を使い捨てて攻撃を去なす。距離感を失う白い部屋を把握し、懐へ潜る為のルート模索。


(俺らが被弾しないことが前提だが…先に攻撃を読み切るかの勝負だ。俺の役目が見えてきた…)


 足元を巨剣で掃らわれ、跳躍で避けることを強制される。空中にいる前田へ向けて、ミサイルが一つ発射。弾数を押さえるため、B6のマーカー弾で向かい撃ち、爆風に吹き飛ばされながら距離を取る。


(心地隊長は刀の特性上、基本的に避けるしか無い。受け流すにも限界はあるはずだ…隊長には無いかもしれんが。)


 三歩進み、四歩下がる。二歩進み、一歩進む。心地はロボットとの距離を歩数で数えていた。残り十八歩…近づけば手数が増え捌くに時間がかかる。特にビーム砲は速度と範囲が広く避けづらい。


(被弾覚悟の突っ込みはさせない。俺の方に六…七…いや、八だ。八割の攻撃を引き寄せる。なんとかするのは、俺だ。…っよし……。)


「気合!!」


 伸縮補爆槍を床に向け突き立てる。ミサイルでも欠けない強度からして、鍛えた肉体如きでは無謀な行動であった。大声と相まり、狂った印象を持たれる男の足元に音がなる。


バキァッ


 賭けに勝つ。突き刺さる算段は想像上で、ただ最も衝撃が加えられていた床だった。


「根性ぉおおおおおお!!!!」


 突き刺さった槍を引き摺り溝を広げていく。身を丸め的を小さくする。肩のB6だけが身を守る盾となる。全力で走れない、身も守りきれない。全てが中途半端…ミサイル一発で吹き飛ぶ哀れな策。


ー器物の破壊を確認。原因の特定、削除を速やかに行えます。


 ミサイルは背後に衝突。前田の不規則なスピードを捉えきれていない。哀れな策は積み上げた'もしも'で乗り越えた。


 もしも…二足歩行でなかったら。不利な体勢で戦うなら。立てなくなったら。腕が無くなったら。足がなくなったら。息ができなかったら。視界が覆われたら。攻撃を惹きつけるには。知らない環境なら。腹部に物が刺さったなら。磔にされたら。紐で繋がれていたら。水分を奪われたら。武器がなければ。声が出なければ。…諦める理由に納得ができないならば。


 魔装部隊一位の女が考える状況は滑稽で、防ぐためを思考すべきだった。…一人の男を除いて真実には辿り着けない。

 男は知っていた。目の前の女は、次の段階にいるのだと。


(もしもを起こさないため…もしもが起きたなら…全てを対策した。センスだけじゃないから一位なんすよね。…見なくてもわかりますよ。)


「分析力と対応力、もしもを実現する力。強くなられたな、前田殿。」


シュー シュー


(できる確証はない…だが、やりたい気持ちが大きい。前田殿に影響されたか。…あとは'ノリ'であるな…)


 心地の目には前田球児が映っていない。爆煙に覆われた世界に彼はいる。今、二人の人間と一体のロボットは同じ方向に視線を置いていた。無機質な背中にピンクの波動が触れて、弾ける。


「ご覧に入れよう…恋の開幕である。」


 緊急事態といえ、敵の間合いまで近付かせるわけもなく、両手の大剣が心地に振り下ろされる。刀は鞘に収められる。大剣を身軽にひょいと回避し、鞘内部で起こした爆発による愛斬破(ラブザンパ)の抜刀。


「一刀 出逢えば縁繋がり」


 背中への衝撃がロボットを少し前屈みにする。絶え間なく続く大剣の応酬に、一滴の血さえ付着しない。当たらない断頭台から鼻歌が聞こえてくる。


「二刀 並びて歩き雨模様」


 背中のカケラがポロポロとこぼれ始める。爪で引っ掻いた絆のような跡が、無数に浮かび上がっていく。鼻歌が暴力の音の隙間を通り抜けた。部屋中に響き渡る音にのり、刀の速度が上がり続ける。


「三刀 寄り添い開く花の舞」


 刀の爪痕に繋がり割れて花が咲く。


「四刀 二対の関門いざ参る」


 誘導されていたのか、同時に振り下ろされた大剣が受け流され自身の機体を傷つける。


「五刀 水面に映る鼓舞の波紋」


 心地の姿が消える。ロボット唯一の死角、股の隙間を通り抜け反対面へ。一刀から四刀目の連刀を再び繰り出す。何故か一刀分の時間しか経たないまま大剣が機体へと入り込む。テンポの変わらない鼻歌の中、一人だけ時の流れが違うように自らもが感じている。


「六刀 不屈の思ひ導く後来」


 至近距離でのミサイルは、自身をも巻き込む避けるべき手段であったが、心地の眼前へと迫っていた。追い込まれるロボットを恋雷衝(コイライショウ)に似た上段で力任せに爆裂。


「七刀 円環の知 宿る灯火」


 振り下ろし切った状態から一回転。六刀と七刀が合わさり十字の傷が刻まれる。

 心地は一歩距離を取る。姿勢を低く刀を構える。突きの構えである。


「七色一織 恋の稲妻!!!」


 全身をバネにした突きの先に、もう一つの魔装兵器:静寂夏(サイレンスメモリー)。正確無比の投擲が最後の蓮撃を彩る。愛斬破(ラブザンパ)と反応し爆発。剣先は沈み続け、遂に空気に触れる。


「「切り捨て御免…っ!」」


 刀を引き抜き背を向ける。隣には前田球児が立っていた。爆風に当てられ、服の破損が激しい。半ズボンになってしまった。


ー動力源への外部接触が確認されました。


「これで陣副隊長も安らかに眠れるでしょうか。」


「今頃、眠りこけているであろうな。拙者達は、ヤツの勇姿を見てこそおらぬが、この命をもって武勇を語ろうぞ。」


「…そうっすね。」


 強敵を打ち破り、仲間の仇を打った。二人は異様な高揚感を覚え、次第に口数も増えていく。


「ところで、前田殿。また服が悲惨なことになっておるな。」


「防炎防刃も焼け石に水っすね。」


「次はロボットにでも乗るであるか?」


「ははっ、勘弁してくださいよ。」


 防衛システムを破った人間二人を見つめる巨大な頭部。合理主義では導き出せない'もしも'はある。攻撃手段があるならば、同時に繰り出せば良い。背を向けた瞬間もあった。今になって動き出すのは合理的では無い。

 巨大な頭部の眼球が赤く光る。


「「ーーっ!」」


 視界の隅で光を捉えた時には遅い。先の戦闘で何度も見た、ビーム砲の輝きは二人を見つめている。


「非攻撃…指定、人間を追加しろ……」


ー非攻撃指定に人間を追加。正常に機能しました。これより人間は非攻撃指定生物になります。


 赤光は一瞬にして姿を消す。


 声の主は判明している。立っていた位置から動かず、ミサイルや銃弾の一つたりとも当たらず、爆風さえ彼に触れる頃にはよそ風であった。


「陣…副隊長殿…!」


 戦場と化した白い部屋で、傷一つ付かない不可思議な男は、第一の守護対象に指定されていた。二人に理由はわからない。ただ、今は喜ぶのみ。

 恐ろしく速い歩き方で近づき、背を思い切り叩く。


「生きているなら言え馬鹿者!!!」


「ぎゃっっ!」


 陣は再び眠りにつく。その場に倒れ込み動かない。


「帰るぞ、前田殿。」


 鬼の形相の心地に言葉が出ずに、無言で後ろを歩く。

 小脇に陣を抱えて歩き出す心地。足取りは軽い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ