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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第六十話

(あっぶないのぉ…毒ガスの類なら全滅やで、ほんま。)


 ほんま、きしょい感覚や。脳に送られてんのは、このごつい機械の使用法とか、目的…あとは、応用法か。無理矢理覚えさせてくれんなら、もっと便利なもん教えんか。


「……穴が塞がってるんは…文字が集まってんのか。」


シュー シュー


 こんキモい文字全部破壊せなアカンのやったら相性最悪や。触ろうとしてんのも、直接強制暗記させれば早いっちゅー話しやろ知らんけど。流石に脳が耐え切れんで、ぶっ壊れてしもうわ。…それに、触るだけなら魔装兵器が使いもんにならん!勢いがあるから跳ね返せるわけやし。


シュー シュー


 あっ、この部屋中のキモい文字は、きしょい機械の説明や!ただ、文字になっとるだけや!覚えてきとーな。理解できるようになってきたで。


シュー シュー


 もうぶっとい教科書くらい覚えとんのに、まっっったく全貌が見えん。なんの機械やねん!強制暗記マシーンなんておもんないこと言うなよ!強制暗記マシーンを強制暗記させるマシーンてなんやねん!


シュー シュー


「さっきからシューシューうっさいわ!なにがしたい……くそっ、そーゆーことかい…」


 あちらさんに攻撃するメリットが少ないんや。触らんでも覚えるしな。こっちは…知らんうちに脳みそぶっ壊れたら負け。寝てるコイツらは、その後触ればいいっちゅー算段やろ。睡眠学習は嘘っぱちらしいからな、寝てれば覚えれんと思うけど、触れれば別やろし。


「んじゃ、逃げさせてもろいます。」


 寝ている心地と前田を両脇に抱え出口まで走る。特殊な部屋のせいで、陣の特殊体質にイレギュラーが起こり始めていた。集中し過ぎる前に、新たな情報を脳が整理し始め、身体を壊すまで集中し続けてしまう陣のデメリットを軽減させていた。メリットを活かしたまま、逃げるという新たな選択肢を見つけられる初めての体験に彼はいた。

 抱えられる心地と前田は、一つの奇跡を起こしていた。仲間の声で、身体が先に動くほどに、思考と行動を切り離せる特異な変化が、二人の身体に生まれていたのだ。脳を焼き切るほどの情報から身体を守るため、認識する前に脳が寝たのだ。血反吐を吐くほどの訓練の成果が、予想だにしない場所で発揮されていた。


(場所はわかっとる。後でドローンでも飛ばせばええんや、こないなもん!)


 記憶は脳でのみ保存しているわけではない。身体全てで覚えているものが記憶なのだ。陣は、強制暗記させられる情報を、最速で整理しては、一度忘れている。再び思い出せる場所へと、保存し続けているのだ。そのため、脳が焼き切るまで時間を稼げていた。


シュー シュー


「……せっこいのぉ」


 陣の足が止まる。出口を塞ぐように、新たな文字人間が出現した。

 背後にいたはずの文字人間が、三分の一ほどの大きさになっている。出口を塞ぐ文字人間が大きくなるにつれ、背後で小さくなっていく。


(何人も作れるよかマシか…)


 逃げ道を塞がれた。走り回って拡散させるのもありやけど…コイツらが狙われれば終わりやな。つまり離れられへん。この部屋からも逃げられへん。無理無理続きや。……なんてな。


シュー シュー


 なめんなっちゅーんや。覚えることに身体が慣れれば、違うことだろーと、すんなり覚えられるもんなんや。順応や順応。つまりな、ここに広がる全ての情報を覚えられる男になれば……俺の勝ちだ!


「我慢勝負といこか……」


 抱える二人を床に降ろす。腕を組み、目を瞑った。魔装兵器は既に手から離れ、腰に装着されている。

 情報は氾濫する。既に陣の意思は存在しない。身体全てが覚えることに特化し、必要な行動を起こし始めた。


「…人間の行動範囲と許容範囲を結ぶαラインに送る電気信号はシナプスの変化を発生…特化する感情六種に属する事象変化能力を魔法と呼称する危険性と肉体分離化の発展性…」


 口から漏れ出す言の葉を陣は理解していない。ただ文字を刻まれる白紙に成り果てる。自我の崩壊を引き止める感情は自らが封印してしまった。



「出でごい゛!クソ魔法少女がぁああ゛あ゛!!


「テメーに病院食を教えてやるぞ!」


ーコードネーム'パッションハート'

         チカラヲカイホウセヨ


「ゲートオープン!!!」


ーココロ ヲ モヤセ


「真っ赤に燃えれば虎野朱!情熱猛らせ空を舞う!魔法少女パッションハート!!!」


 窓から飛び降り、バスの上に仁王立ちする虎野朱。変身時の炎でバス内は暖房状態であった。感情がコントロールできていない証拠である。


「やめてください!アレは魔装部隊員です!」


「そうか、そうか。一般人じゃなくて安心だな。はっはっは!」


「うわー…どうしよぉ〜。」


「私が止めてくる。」


 昨日無茶したばっかの身体だ。変身できてるだけで凄いけど、怪我する前に止めなくちゃ。


「待ってれいなさん。実は朱の体調は問題ないの。昨日の検査時で基準を大幅にクリアしてる。」


「…どういうこと?」


「たぶんパワーアップの兆しなんだよ。お腹が空いてるのもエネルギーが必要だからじゃない?」


「なるほど…辻褄は合ってるね。」


「でもっ、でもさ!相手は部隊の人でも人間だよ?」


「…うん。でも、魔法少女と魔装部隊…戦うことで互いに利益があると思う。それにアレ見て。」


「んん〜〜っ?おっきい剣?」


「…魔装兵器だ。」


「そう!隊長と副隊長以外で魔装兵器を持ってるのは、同格の強さを持つ証だ…と思う。」


 バスは引き返す。バックで距離と同時に、戦う空間を広げる。

 パッションは動き出したバスから飛び降り、戦う構えをとる。


「ほら!伊渕も前野もそう思ったでしょ?」


「違いますよ!本部からの命令に従うだけですから!」


「……所長…」


「はい、そうです。ちょっと険しい山道ですが、迂回して進みます。」


「一回止まって。一人にするのは違う、私も降りるから。」


「残念ですが、降りるのはラブハートの指定が出ています。」


「あ、私?別にいいけど…」


「くぅ…確かに魔法少女として相互作用が得られる観点ならそうかもだけど、朱のことは私が一番知ってるし…」


「いーんじゃない?だって、いざとなったら背負ってここまで走るしねぇ〜。」


 花子の顔は、サンプル画像が必要ならば、ドヤ顔の欄に採用したいほどに気が抜ける顔であった。


「…はぁ。んじゃ、れいなさん頼んだからね。」


「うん、任せて。」


 窓から飛び降りると、切り返しができないバスが、バックで脇を抜けていった。横目で見えた前野の顔は、怒りを通り越して疲れ一色であった。

 スタスタと歩いて対峙する二人の元へ向かう。熱気と共に、壮絶な舌戦が繰り広げられていた。


「ふひひっ、お前二番目に弱そうだと思われてるの知らないだろぉ?」


「そうだったのか!当てが外れたみたいだな!」


「馬鹿は大声出せばいいと思ってんだよなぁ。終わってんぞぉ、お前。」


「そんな棒切れで大丈夫か?届く前に溶けちまうかもな!はっはっは!」


 指差す先には魔装兵器。持ってる本人よりも大きな刃を持つ。


「魔装解放ぉ…クレイジー ブラッド レディ!!」


「はっはっは!力比べで魔法少女に勝てると思ってんのかー?」


 振り下ろされるブラッドレディと、向かい打つパッションガントレットが衝突する。


「ぐっっ!」


 恐山の身体は地から離れ、山の斜面に飛ばされる。茂みがクッションとなるも、ブラッドレディで増えた重量がのしかかり背中を強打する。


「ん?」


ばしゅんっ


 パッションの足元で破裂したのは、伸縮補爆槍の尖端。中から粘着性の捕縛剤が噴き出し、パッションの身体にまとわりついた。


「なんだこれ!?」


 アレは攻撃と捕縛ができる支給武器だ。寄生されし物(パラサイト)の力でも解けない捕縛剤と、距離を取れる槍での採用…だったはず。まずは機動力を奪って、魔装兵器の大剣で一撃かな。…でも、通常の寄生されし物(パラサイト)と魔法少女は違う。


「燃えろ!」


 燃える材質では無い。しかし、パッションを捕らえる捕縛剤は燃えて落ちた。パチパチと音を立てて、今もなお燃え続けている。


「…化け物よりも化け物ってかぁ?ひひっ。」


 頬に汗が垂れる距離で膝を抱え、体育座りで全貌を見ていた愛衣れいなは燃え方に疑問を持つ。


「ちょっと違う…器用になった?…ううん、朱ちゃんは意識して使ってない。」


 捕縛剤を蒸気で浮かしてた。身体から一旦離してから、炎を纏わせることで下に落としたんだ。炎の質が変わってる…とかじゃない。パッションは纏うことが得意だったはずなのに、放出させることにも長け始めたというか…うーん、なんだろ?


「なぁ、もうちょっと離れてくれないか?」


「あっ、ごめんね。」


 流石に邪魔だったみたい。いざとなったら変身したら良いくらいに思ってた。…最初から変身してたらよかったんじゃ。そういうとこあるなぁ、私。受け身というか…節約思考というか…。

 トボトボと歩くれいなの背後では、無数の弾丸に狙われていた。


「どこまで人間やめてるか調べてやるよぉおおお!!」


 両肩に装着された装甲と銃の役割を兼ね備える支給武器。そのサイズからB6と呼ばれ定着している。威力は各隊員でカスタマイズされている。恐山は反動と重量の軽減の為、威力は抑えめであった。しかし、人間に向けて撃てば二度目は必要としない。

 向かってくる銃弾の雨に対し、両腕をぶんぶんと振り回す。


「んなもん効くか!孔雀だーっ!」


 腕から離れた炎の一つひとつが羽根に模され、羽を広げた孔雀のように見える、炎の羽根に触れた銃弾は炎に包まれ、威力が落とされてしまう。


「んなっ…キモい動きで止められると思ってんのかカスゥ…」


 炎に溶かされ銃弾に穴が開く。中から蛍光色の塗料が撒き出てパッションを襲う。


「旧マーカー弾!生き残り連中しか持ってないレア物だぞ燃えカス!!」


 周囲に飛び散った塗料が口の中へと入る。目元は目潰し対策のため、第一に炎で守られるよう訓練されている。虎野朱の癖か、口は開いていることが多い。


「ぺっ!ぺっ!に、苦い!苦い!!」


 炎相手に銃弾が効かないのは想像できる。だからこそ、視界を潰しにきたわけだよね。でもパッションハートには有効打じゃないかな。大振りな攻撃が多い朱ちゃんには、雑な小細工は吹き飛ばされちゃう。


「…ひひひ。投擲は得意だゾ!!」


 メイン武器は魔装兵器だと思わされていた。孔雀で視界は狭まっていた。旧マーカー弾で冷静さも欠如している。そして、パッションは尖端しか見ていないゆえ、捕縛剤をが槍から出てくることを知らなかった。全ては殺意の一撃をぶつけるため。さらには、苦いとは知らなかった塗料を吐き出すパッションの口に向けて伸縮補爆槍が迫っていた。


「あっが!!」


 炎で威力は軽減されていた。高低差からくる落下速度と恐山の腕力では、頭部を貫くほどに加速しきれなかった。…運は味方する。槍は開けた口に突き刺さるように飛び込んでいたのだ。


(な゛めるな゛!)


 日々大食いを繰り返すパッションの顎は鍛え上げられていた。残った槍の威力を、噛むことで完全に消滅させることに成功させる。


「…は?」


 恐山は呆気にとられる。なんと、噛んだことで尖端が丁度のタイミングで爆発。捕縛剤が口の中から口元を覆う形で張り付いたのである。


「んっ、んぐー!んぐー!!」


「パッション!」


 体に纏わりついている捕縛剤と比べ、体内にまでへばりついている捕縛剤を取り除くことは困難である。


「ん゛ー!んっんっん!」


 パッションは右の手のひらをれいなへと向ける。


「…手助けはいらないってこと、だよね。」


 歩みを止め、引き返す。呼吸ができなければ死に至る…が、パッションの炎で捕縛剤に穴を開ければ空気を取り込むことができる。それは、三人共にわかっていたこと。ならば、本人が続きを望む限り身を引くべきだと考える。

 れいなは身を引けることに成長を感じる。近頃、自己肯定感が上がってきた気がしている。


「も゛い゛!!」


「言われなくても直接ぶっ叩いてやんぞボケが。」


 「こい!!」って言ったのか。それで地の利を放棄して、下山してくるのも素直というか、ちょっと変だけど。


「頑張れ…二人とも…」


 クレイジー ブラッド レディを引き摺る跡がコンクリートに延びる。身体から伝った汗が、窪みに吸い込まれていく。強まる鼓動が恐怖からでは無いことに、ひたすらな安堵と興奮を目覚めさせる。


 

 夢を見ていた。恐怖も安堵も無い、平穏でも不穏でも無い。強いて表現するならば、何もない夢だった。


「ここは…」


 真っ白な空間に、白い患者衣を着ている。同じ服装の者が規則正しく並べられていて、その一人が自分であった。他に目を覚ましているものはいない。


「ここはα隊の墓場なのか…?」


 安らかに眠る顔は、どれも見覚えがある。振り返れば、隊長に足を向けて眠る前田副隊長の姿があった。


「前田殿も死んでしまわれたのか……拙者も死んだの…か…」


 立ち上がる気になれなかった。座ったままでは先が見えずとも、立ち上がればより多くのα隊員を見ることとなる。残酷なことだ。隊長の責務に心が締め付けられる。


「このまま…目を瞑っていよう。さすれば目を覚ました誰かが起こしてくれるはず。…そうしたら、一人では…ない…」


 誰もいないのに、起きる意味などあるものか。拙者は部下に一人で起きて待てなど命令できん…確かそうだった、そんな隊長であったはずだ。


 静かだ。志半ばでしんでしまう…のは悲しいことだ。苦しいことだ。…だけれども、普通だ。普通はこんなものだ。


 ……まだか?まだ、誰も起きないのか?…いや、五分も経っていなかろう。もう少し待とうじゃないか。


 ………なにをやっとる。前田殿、副隊長であろう?率先して目を覚さんか。隊長の次は副隊長が目を覚まして、その背中を仲間に見せんか、おのれ。


 …………。



「ええい!!待ってられるか!」


 持ち上げたり、転がしたり、時には低い位置から落としてみたりした。目を覚ます様子は無い。


「拙者が目覚まし時計になってやる!!」


 乱雑に眠るα隊員をどかして空間を作る。いつのまにか持っていた愛斬破(ラブザンパ)で、抜刀せずに素振りを始める。


「そうや、そのまま起きんでええ。」


 空間に響く声。壊れかけのスピーカーから流れてくるような音だった。


「起きている。」


「もう少し…もう少しなんや。」


「どこから話しておるのだ。鍛錬の邪魔だ、静かにしろ。」


「眠ってれば綺麗な顔しとんやけどなぁ。」


「喧しいぞ、さっきから何の話だ。」


「寝言で会話してくれへんやろか。」


「次会う時は斬られる覚悟を持っておくことだな、陣副隊長殿。」


 それは眠る心地に意識に流れ込んだ、陣が放棄したはずの思考のカケラであった。

 夢を見れるほどに、眠りが浅くなってきている。時間は残されていない。





解読された音声メモ ※一部抜粋


「なぁ、αのやつら武器破壊の優位性とか、瞬間と持続の脚力より、回復の速度がどーたらこーたら、ずっと話してんねんで?キモない?」


「好きなカップラーメンは二人してシーフードやねんて。しかも牛乳入れるらしいで。キモない?」


「配給食のチョコに抹茶味が入ってることで波乱が起きてんで。お互いに武器握りしめて白熱中や。キモない?前田副隊長はチョコミント、心地隊長は苺が適切やーゆうて。しゃーないから、貰ったろうと手ぇだしたら、どーしたん?やって。なんやねん。」


「焼き魚定食は、魚が綺麗に食えんとビミョーな空気になるゆうて、盛り上げようとしたんやけど、共感のひとつもなかったわ。そないなことある?ほんま、きしょいの。」


「なんも見えんし、気配だけで相手を斬る遊びしてんねん。当たらんかった〜ゆうて盛り上がる遊びちゃうの?これ。打ち合ってんねんけど。ほんまキモいから、魔装兵器出したろ思て、指かけた瞬間、ほんま瞬間やで?二人して笑いよんねん。これは遊びやーって。…なんなん?」


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