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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第五十九話

 早朝。朝風呂に入り、朝食を食べ、出発の準備をする際に事件は起きる。榛名奈々子と虎野朱は、一番着慣れた服装に身を包んだ。


「……いや、これ制服!!」


「がっっつり制服だなぁー。」


 医療班シェンが用意した替えの服は、二人が通っていた私立日向峰高校の女生徒用の制服であった。


「ああー!私のも制服になってるよぉ〜。」


 星崎花子の制服は中等部のもの。置き手紙が添えられている。


「なになにぃ〜、作ってボツになった防弾制服らしいです。供養のためにも着てあげて欲しい…だって!」


「倉庫整理でもしたのかしら…」


「本当に修学旅行みたいだな!はっはっは!」


 これが…尊いという感情…?もちろん私も着ていた時期はあったはずなのに…この湧き上がる感情は、現役の輝きにあてられた…ってこと?


「れいな姉ぇ、目が怖くなってるよぉ?」


「ああ、うん。奈々子ちゃんは鼻もう大丈夫?」


「全部抜け切ったかな、布団は申し訳ないけどさ。」


 夜、朱ちゃんが手に当たるあったかい液体で目を覚ました。飛び起きる朱ちゃんに起こされて電気をつけると、奈々子の枕とその周囲が真っ赤に染まっていた。叩き起こされたシェンは、「ティッシュでも詰めて…もう寝て…」なんて言って寝てしまった。医者が言うセリフじゃない。


「朝風呂入って大丈夫なら大丈夫だろー!」


「さっきシェンに診て貰ったけど、ただの鼻血だって。」


「全く〜、人騒がせなんだからぁ〜。」


「一番騒いでいたのは花子だけどね。」


 ほとんど無い荷物をまとめて外に出る。「お待ちしております。」って言われちゃったし、平和になったら皆んなでまた来るしかないよね。


「皆さんお揃いですね。早く出発しますよ。」


 伊渕と前野は昨日の事で寝れていないと思ったけど、どうやら違ったみたいだ。いつもみたいにクマができていない。


「あれ、シェンは?さっき奈々子ちゃんと会ってたみたいだけど。」


「バスでもう寝てるよ。真夜中に起こされたって不機嫌だった。」


 ふむ…確かに、怪我人の対応の後は制服受け取って、夜は起こされて…一番頑張ったのはシェンなのかも知れない。

 バスに乗り込むと私達の席にお菓子とジュースが鎮座していた。住民達のメッセージ付きだ。私達は世界を救うために戦っているわけではない、とても私欲的だ。でも、素直に嬉しくも思う。少し前の私なら、ズルイからと押し殺してしまいそうな感情も、今は向き合えている気がする。

 お菓子などが入った袋を膝に乗せて、バスは出発する。


「れいな姉ぇと私は二回目だねっ。」


「そうだね。回収されなかったら、また二人乗りでも良かったけど、しょうがないね。」


「安全運転ならねぇ〜。」


 最後部の席に並ぶ四人。どこからか寝息が聞こえてくる。


「そういえばシェンはどこ行ったんだ?」


「寝てるって話だけど…あれ?別のバス?」


「後ろです。お気になさらず。」


 四人で覗き込むと、最後部の座席のそのまた後ろ、荷物に埋もれて白衣の女性が寝息を立てていた。


「うぅ…悪く…ない……悪く……」


 寝言?訳ありなのは珍しく無いけど、うなされるほどに何か…不安とか、悲しいこととかあるのかな。…そうだ。


「苦しそうだねぇ、暑いのかな?れいな姉ぇはどう……何やってるのぉ?」


「これは熊。今作ってるのは猫。あとはキリンとかゴリラとか…いろいろ作るよ。」


 荷物から取り出した折り紙から、次々と動物が折られてはシェンの周りに置かれていく。


「それ癒されるかなぁ?」


「れいなさんって料理とかぬいぐるみとか、折り紙とか、何かと器用だけど子供の頃は習い事やってたタイプでしょ。」


「ん〜…授業中暇だったから。料理は海子さんに教わったよ。」


「はっはっは!話が噛み合ってないぞ!」


 慣れないバスの運転を強いられるのは前野。周囲の車は悟ってか、車間距離がやけに広い。


「いや、ほらさ、あんまり…友達もいなかったし、授業中やることがないでしょ?だから手元でできることが、上達しただけだよ。」


「意味わからんが、ちょっと悲しいエピソードだったぞ。」


「ちょっと待ってちょっと待って。れいなさんって頭良いじゃん。朱の問題集手伝ってたの知ってるよ。」


「バレてたかー。」


「成績は悪くなかったと…思う。でも、授業って教科書通りに進んでいくから、知ってると暇になっちゃて。別に荒れてたわけじゃないよ?先生も注意してこなかったし、テストさえできれば大丈夫の学校だったんだよ。」


 今どきの学校の先取りかな。なんて笑うれいなさん。絶対に違うし、私達の通ってた学校は割と特殊な方だ。…注意したくても、出来なかったんだろうなぁ。一番厄介なタイプの問題児だ。


「大変そう〜。」


「花子も気持ちわかるだろ?」


「友達いたもんっっ!」


「あ゛ー……もう…着きました…?」


「「うわっっ!」」


 シンクロしたのは奈々子と花子。シェンの長い髪に絡みついた折り紙が、動物園のようであった。


「うわっ…なにこれ…?」


「おはようございます。それは折り紙です。」


「まだ出発したばかりなので、寝てて大丈夫です。」


 助手席から声が聞こえる。報告書を流し読みする伊渕である。


「なにその…英語の教科書…みたいな会話…」


 再び荷物に包まれるシェン。寝転んだ勢いで宙を舞う折り紙の姿を見て、踊っているように感じた。朝から気分が高揚しているのがわかる。


「次いくところって、どんなとこだったの?」


 私と花子ちゃんは昨日のせいで予習済みだ。


「山に囲まれてて、古い建物の通りがあったり、遠いけど鍾乳洞なんかもあるらしいよ。」


「遊びに行くわけじゃ無いので期待せずに。」


「……田舎の観光地化された駅とお土産屋さん。」


「急にランクダウンしたな!」


「まぁ、昨日の今日だから片付けボランティアだと思ってたけどさ。」


「ええーー!!遊びに行けないのぉ!?」


 昨日の戦闘痕を片付ける。それと……あれ、目的ってそもそもなんだっけ。


「ちょっとー、療養の意味もあるんじゃないのー?」


 そうだった。


「トラブル続きですので、諦めるところは諦めてください。ただ…」


「ただ?」


「少しだけですが、気分転換になればと色々考えています。」


「流石いっぶ〜、あ、報告書は私にもアクセス権だしといて。」


「ええ〜なんだろぉ〜?温泉は入ったしなぁ。」


「やっぱり観光?」


「おーいー、そんなことよりお腹すいたぞ?お菓子で満たされると思ってるのかー!」


 バスに揺られて森の中。事前に安全かつ最短のルートを割り出しているものの、目的に着いたのは夕方だった。



 建物に被害は少ない。一番目立つ馬鹿でかい穴は魔法少女が開けたものだ。割れたガラス片を担当する者達に溢れた俺達は、目を細め見下ろすことに力を注いでいた。


「わかったぞ、前田殿。梯子でも掛けて歩けばいいのだな。嫌なら遠回りをすればいい。」


「話聞いてました?渡れるようにではなく、崩れることを防止したいんですよ。疲れてるなら寝ててください。」


「言うようになったな。だがしかし、お茶目な冗談だと見抜けないとは、前田殿こそ疲れておる。」


 αのヤツらの会話にも慣れてきた。しかし、慣れたから良いというわけでもない。そりゃー、もう、不満だらけだ。思い返せばバスの席からずーっと、不満だ。


「なぁ、恐山。なんで俺はここに?」


「おひょ〜、記憶が飛んだのか!お前は高らかに立候補してココにいる!!」


「おひょ〜、じゃねーよ。過去を改竄するのもやめろ。」


「知ってることを聞くんじゃねーよクソ!」


 恐山のキックが俺の臀部に繰り返し届けられる。感覚はケツバットだ。本気でやれば目の前の穴に落ちるわけで、落ちないギリギリの力を探すように蹴られているのだ。


「はぁ、お前らは棒立ちするだけか?他の者は働いてるってのに。」


「隊長…」


 γ隊の隊長である土井屋が遅れて登場。


「我々にできることは少ない。周囲を閉鎖して、瓦礫を除去。何人かは下入って生き残りがいないか探すんだ。」


「生き残りって、人?…それとも」


「どっちもだ。」


 地上にこびりついた黒泥(本部からの対策書類に記載)は動く素振りを見せなかった。穴の中に残っていようが、気味の悪いモノで終わるだろう。


「隊長。俺は恐山と違い勘が鋭い方じゃないです…が、黒泥のせいで地上に出てこなかった生き残りがいる可能性は大いにあると思います。β隊に得意な奴らがいるので、頼んで先に確認してもらいましょう。」


「翔大、お前が生き残った理由を、お前自身は理解していないが、他の者はわかってるよ。」


 隊長は本部と通信してから様子がおかしい。よそよそしい…感じが、なんとも嫌な気持ちにさせる。


「だがな、βは別の任務にあたっている。俺がここで話している理由は、戦力を集めているからだ。」


 視界はヘッドライトに頼ることになる。狭ければ武器をまともに使えない。もしも寄生されし物(パラサイト)がいるなら、今度はギリギリで負けるかもしれない。

 このメンツで命を賭けるべきなのは……わかっている。


「俺が行く。」


「理由はあるのか、平均値。」


 隊長がイジリに来ることは珍しい。


「……俺がこの中で一番弱い。だからこそ、逃げて帰ってこれる。」


「…そうか。だが、駄目だ。」


「………は?」


 隊長はオーバーな手振りで小馬鹿にした動きをする。まるで理解できていないと、動きで伝えられることがムカつくのは、音を発することを短縮させた手抜きだからだろう。


「生きて帰るだけなら魔法少女を待つ。我々に求められているのは、戦い強くなることだ。」


「ふひひっ!隊長ぉ〜、つ、ま、り、出番ってことじゃん?」


 魔装兵器を隊長から受け取ろうとする恐山には見向きもしない。ポケットから取り出した汚いメモ書きをみると、目線を移し口を開いた。


「α隊隊長心地、同じく副隊長前田、γ隊副隊長陣。三人を調査隊として任命する。」


「めっちゃ待たせてしもうたわ。」


 背後から現れた男は、同じ部隊でも久しぶりの対面となる。


「陣副隊長!身体は大丈夫なんですか?」


 城型寄生されし物(パラサイト)との戦いにおいて重傷に陥った陣は、命に別状は無いとだけ報告されたまま入院が続いていた。


「かめへんかめへん、αの!先行っとるで。」


 鉤付きのロープを使って穴に降りていく。別れを考慮しない、あっけらかんとした雰囲気は気持ちを軽くしてくれる。


「ふむ、アレが先頭に立つなら、敵を見逃すなぞありえんな。」


 陣副隊長は集中し続けられる特殊体質だ。逃げるばかりの俺より、はるかに最適だろう。隙がない心地隊長を中央に置いて、後方から投擲が得意な前田副隊長。よく考えられたパーティである。


「うがぁぁあーーーー!!!!」


「ちょ、暴れんなイカれ女!」


 暴れる理由は聞かずとも十分に理解できる。俺も一緒になって暴れてしまいたい。うがー、だの、あがー、だの。声にならない叫びで、組み伏せようとしてくる。


「土井屋隊長殿、これが選んだ道なのだな。拙者にはできないことだ…尊敬させてくれ。」


「こんな打算男に必要ない言葉です、心地隊長さん。」


「いいや、それでも尊敬させてもらう。」


 心地隊長が降り、前田副隊長が縄の前でしゃがみ込む。


「γの人達…貴方達には貴方達の役目があるでしょう。生き残り組って呼ばれてるの知ってますよね。」


 死ぬようなパーティではないのに、捨て台詞を吐いて穴の中へ入っていく。

 暴れる恐山を隊長に投げつけ、鉤を外れないよう固定する。


「前田副隊長…なぜ貴方側になれないのか、わかってるけど諦めません。」


 瓦礫の片付けを始められたのは、一時間は経過した後だった。ひとしきり暴れ、大人しくなった恐山は、膝を抱えて日陰から動かなかった。



 地下空間は迷路のように広がっていた。駅ビルの地下と繋がっているわけでもなく、配管のための空間でもない。どこかへ移動するための空間…もしくは、何かを隠している感覚を持つ。


「なぜ崩れずにいられるのか。心地隊長わかりますか?こんなに空洞があれば、地震で地上が落ちてきそうな気しません?」


「確かめてみるか前田殿。」


「え?」


 愛斬破(ラブザンパ)の柄で壁を力強く殴る。金属を殴った音が反響し、通路を形成する破片が頭部にパラパラと落ちてくる。


「ちょ、ちょ、何してはんの!?」


「ほら、見ろ前田殿。手加減してないんだぞ。」


 鉄やコンクリートなら、凹むなり穴が空く心地の一撃を受けて、多少跡が付く程度の傷ができるのみ。


「これは…うちの施設並の強度があるっすね。」


「待て待て待て待てぇい!ほんま、大丈夫か?あんたら。これで寄生されし物(パラサイト)が集まってきたらどないすんの!」


「先程通った部屋に戻って向かい打てばいい。不意打ちよりマシであろう。」


 部屋というのは、時々通る真四角の部屋を指している。広さはまちまちだが、先程のは大きく五十平米ほどあった。つまり、一辺五十メートルの部屋だ。


「そやろか、背後から来たら狭いこの通路で戦うねんで?いつでも真正面から来るとは限らへんやろ。」


「戦闘中と違い、よく喋る男だ。ずっと戦っていてくれ。」


「え?もしかして嫌われてんの?」


 実は心地隊長は、陣副隊長と面識があった。魔装兵器が解放されてからは、手合わせの相手に陣副隊長をセッティングされることが多々あったからだ。…その日は、機嫌が悪くなる。殴り合えば心地隊長の圧勝だ。しかし、魔装兵器の対決となると、技を受け流してしまう陣副隊長との戦闘は、負けはしなくともつまらない…と言うことらしい。

 

「ここって、防空壕?じゃないですかね。研究所が作り出して、途中で頓挫してそのまま…みたいな。」


「それなら、気づいたのかもしれんな。」


「気づいたっすか?」


寄生されし物(パラサイト)が、この空間に入り込めば、対処が難しいということだ。降ってくる際は流動体だから、どう防いでも入り込む時は入ってくるだろう。」


「あー、つまり、寄生されし物(パラサイト)がどんな形状で出現するか知らない時に始まった計画の名残り…なんすかねぇ。」


「あながち妄想ってわけでもなさそうやで。技術班から聞いたんやけど、一般市民を宇宙に逃す計画もあったんやと。アホやろ?」


「それは…」


「それを鵜呑みにする貴様がアホなのだ。」


「ええ?もしかして…からかわれたんか?」


 通路に手を当てて進んでいくと、模様があるのか、彫りが入っているのがわかる。どことなく、研究所内の通路と似ている気もする。

 途中、心地隊長が、愛斬破(ラブザンパ)で'魔装部隊参上!!'と刻んでいた。迷わないようにする標だとしても、矢印とかにしてほしかった。

 どれだけ歩いたか。二時間か、三時間か。直線に進めば別の市へ突入してると思われる。しかし、実際は曲がりに曲がった。心地隊長が落書きをしていなければ、同じ場所をぐるぐると回っている錯覚に陥っていた…かもしれない。

 光源は三人のヘッドライト以外には無い。自ら光っているにも関わらず、俺達は光を求める虫のように彷徨い、口数も減っていた。無機質な通路も癪に触る。使い捨ての駒には情報も共有されないのか…と、妄想の域を出ないことを決めつけ、自らを苛立たせる。


「なんや?」


 いつから俯いていたのか、立ち止まった心地隊長の背中に頭部がぶつかる。


「人間…いや、あれは拙者達だ。」


 一つの行き止まり。今までは一度たりとも無かった。


「壁一面が鏡張りっすか…。」


 指紋一つない。明るければさぞ綺麗な鏡なのだろう。ただ迷うばかりの俺達にとって、行き止まりは、最終地点まで行って誰もいなかった理由となりうる。


「嫌な仕打ちやの。」


「何故落胆しているのだ。同じ道ばかりで気が遠くなっていたところであろう。」


「隊長……」


 今までの道のりのせいか、マイナス思考に拍車がかかっていた。


「これは暗示じゃないっすかね。」


「暗示だと?」


「この道はハズレ…引き返せって…」


 鏡が映していたものは、俺達ではなく、俺達が歩いてきた道。誕生秘話や望んでいた先はわからないが、時を経てココは迷路として存在しているのだ。迷い者を小馬鹿にする親切が用意された迷路。少なくとも、俺達にとっては。


「ふむ。」


「しゃーなし。もう地上に戻らな、陽が沈んで出口もわからんなるで。」


 振り返り歩く音は二人分。三人のパーティだから、立ち止まっている女は一人しかいない。


「帰るっすよ。」


 照らされる心地と鏡。俺と陣副隊長が小さく映っている。


「暗示なら、ば、ここは目的地だろう。」


「アホ!話聞いてなかったんか?」


 ピンク色の輝きが放出される。見えなかったものが全て見える。無機質な通路の模様や高さ、埃と汚れ。

 そして…矮小な姿と、なにものより輝く勇姿。


「製作者が引き帰って欲しいなら、此処が重要な場所に違いない!抜刀ーー愛斬破(ラブザンパ)!!」


 刀が縦に綺麗な穴を開ける。鏡が割れないのは、剣技か、鏡の特殊性か。

 かちゃり。と、音を立てる。鍵が開いたと誰もが感じた。ドアノブもない鏡の壁はゆっくりと開かれ、部屋が出現した。


「なんだ……これは……」

 

 ヘッドライトを消す。光源が見つからない、均等に明るい部屋には、四方八方に筆で書かれた印象を持つ文字がひしめき合って存在している。それらは、虫のように身体をくねらせ壁を動き回っている。踏むと文字はバラバラになった。

 ふらふらと歩く心地をついて行くと、中央には人の頭を摸したリアルな像が浮く、円柱の水槽。絶え間なく気泡が発生しては、上に吸い込まれて行く。支える土台には、数え切れないほどのボタンとモニター、メーター、ハンドルなどが存在している。人頭の巨像を管理する機械なのは推測できた。


「来るな!!!」


 心地隊長の声に身体は脳を介さずに動き出す。入った扉に向かって走るも、二歩目で視界は地面に近づく。何文字もの動く物体を殺しながら、身体は床にくっついた。燃えたぎるほどに熱い脳が、意識を強制的に閉じた。

 

シュー シュー


 それは、人間の形をした文字。ひしめき合う虫が如き動きの文字が、一つの形を作り出し、一歩、また一歩と歩き出す。

 広げた掌が、陣の頭部に近づいていく。急ぐ必要を感じない無防備な姿に、ゆっくりと動く腕が、文字人間の腹部を自ら貫いて行く。


「魔装解放ーー羊の群れ(ウーリィー・サークル)。」


 先程までの動きとは比べ物にならない。全身をバネにして背後に飛ぶ文字人間の前に、一人の男がゆっくりと立ち上がる。


「油断はありえんよ、もうアンタに夢中や。」


シュー シュー




 陽が暮れ始める。穴に突入した調査隊からの通信が聞き取れない。音声メモを文字に起こしてみたら、文字化けが酷く、本部は解析中の一報から返答がない。


「隊長、本当に大丈夫なんですよね。」


「強い電波障害が起こってるのは確認したろ、穴に入って電話とかして何度も何度も。」


 一定の時間を空けて送られてくる音声メモは、読めないものの、救難信号ではないと判断された。

 ただ、ひっかかる理由がある。遅すぎるのだ。たとえ魔法少女がビームを撃ったところで、地下に帝国が築かれるわけじゃない…はず。正直、一時間でも長いと、俺は思ってしまった。


「すみません…恐山のヤツは何処か行っちゃいましたね。まぁ、こんな地味な作業続けられるヤツでもないですけど。」


「あっちは舗装されてる道だ。車も安全に通れるほどのな。」


「あぁ、散歩ですね。」


「散歩だな。それに、魔装兵器引き摺ってたんだ、今夜は熊鍋かもしれん。」


「食欲が刺激されない響きだ。熊出ることも初耳だし。」


「獲れたてなら美味いよ。」


 筋トレと誤魔化してきた瓦礫の撤去作業も、腰が悲鳴を上げてきた。隊長も腰を伸ばす間隔が短くなってる。

 遠回しに戦力外通知をされたことも、今になっては自惚れていたと心の整理がついてる。俺には俺のできることだ。


「はぁ…平和じゃないですけど、平和ですねぇ。」


「なんだそりゃ。」


 バスは止まる。見下ろす形で目的地は見えていた。止まる原因は、鹿でも熊でもなく、小さな女の子であった。


「おーい、こちとら慣れない車で……お前は…」


 窓を開けながらせっかちに話す前野は、顔を外に出し、バスの死角にいる女の子を目視する。


「おい、魔法少女。アタシと戦え…そして死ね゛ぇ゛!!」


 バスの中には、空腹により苛立ちを抑えられない少女。


「ご飯の時間が遅れるだろーが!!!」

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