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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第五十八話

カポンっ


 風流な音がした。火照る身体に当たる風が、なんとも心地よい。檜の香りに深呼吸して、濁音をつけて声を出す。どこまでも足を伸ばせそうだ。


「やっと入れたね。」


「ふうぃ〜、別の温泉用意してるなんてねぇ〜。」


 燃えてしまった温泉施設から移動し、別の温泉宿に来ている。避難先が燃えたことに関しては、国が何とかするらしい。とてもアバウトだけど、なんとかなるだけで皆喜んでいた。

 伊渕達を残してやってきた温泉宿は、バスか車でないと来づらい立地。でも、露天風呂もあるし、部屋も畳の香りが良い感じだった。


「五時間の道のりを二時間は飛ばし過ぎ。」


「誰も追いつけないから逮捕のしようもないなー。」


 奈々子ちゃんと朱ちゃんが話しているのは、私と花子ちゃんが、二人の元に合流できた道のりの話だ。



「やっと通信繋がったみたい。どうやって戻ろうか。」


「げっ!…れいな姉ぇ、車でも五時間以上かかるって……」


 地図アプリを見ながら涙目になっているのには理由がある。

 旅行に一番胸躍らせていたのは、星崎花子だった。中学生の花子にとって、友人との旅行は初めてだったのである。高校生組の二人は笑っていたが、修学旅行等の望みが消えた日本で、友と旅行に行ける子供は少ない。被害が全く出ていない地方でなら望みはあるが、近場で社会科見学が関の山だ。


「今からじゃ合流できないよね……」


 花子とれいなが居る場所は、明日以降のスケジュールで行く場所である。魔法少女達の負担を減らすため、特殊魔装部隊が先回りで安全を確認していた。

 つまりは、待っていれば合流できるのだ。しかし、全員で過ごす旅行の日数が減ってしまうことが何より悲しい。人命がかかっているから、仕方がないと、割り切ることもできる。……普段の花子ならできた。

 仲間の死や、自ら直面した死の感覚から、時間が無いことを心で理解していた。わがままでいたい…それだけで楽しく過ごせるなら、頑としてわがままでいたかったのだ。


「東北さん、お願いがあります。」


 通信機の復活。伊渕達へ報告を優先すべきだったが、愛衣れいなが繋げたのは開発部の東北。魔装兵器開発の度々の協力から、多少の無理は聞いてくれると確信していた。


ーーはいぃー、こちら東北。


 通信先では眠そうな声。仮眠していたのか、緊急時に叩き起こされた…そんな感じがする。


「頼んでたもの、こっちまで送って欲しい。」


ーーええー!?勘弁してくださいよぉ、街中で走るのも遠慮して欲しいくらいですから、アレ。


 よそよそしい空気感が無くなり、互いに楽な話し方へと変化している。


「お願い。アレなら夜になる前に合流できるでしょ?」


ーーあぁ〜…そういうことですか。目撃者無し、ビーム無し、到着したら回収する…全て約束してくれるなら。


「約束する。どれくらいで着く?」


ーー発射済みなのであと五分。その場を動かんでください。


「ありがとう。この恩は絶対返すから。」


ーーお土産買ってきてくださいねぇ。


 実のところ、お土産を買う難易度は高い。そんなモノが販売している場所を巡る予定がなかったのだ。最後には花子が交渉し、見知らぬ爺婆から大量の柿が滝城研究所に届けられた。地下栽培所で美味しい干し柿を作る競争が始まる…結果は一か月後。


「ごめんね、れいな姉ぇ。」


「…実はフルーツ牛乳作ってきてるの。車にあったクーラーボックスの中…」


「…ふぇ?フルーツ牛乳ぅ?」


 愛衣れいなの耳は真っ赤に染まっていた。密かにはしゃぐ年長者…旅行はもっぱら一人旅だった。


「ふ〜ん、れいな姉ぇも楽しみだったんだ。絶対合流しなくちゃね。」


 到着した白いポットには人間が乗るスペースは考慮されていない。一人でに開いた扉から覗き見えるピンク色のバイク。研究所内にあれば、ラブハートの物だと誰もが理解できる。


「MMM-01号機 ばるきゃん…限定ピンクカラー。」


 もちろんピンク色しかないので、限定カラーではない。


「バイクって初めて乗る…テンション上がってきたぁ〜!」


 ポットの内部にかけられたヘルメットをかぶる。一つは愛衣れいなが愛用していたヘルメットを再現した物だ。ばるきゃんのゴツさにはマッチしていない。

 腹部にくる音を鳴らして起動。安全のためにシートベルトが備わっている。花子のみ装着させ……発進!


「あばばばばばばば!」


ーーツギ ノ シンゴウ ヲ ミギ


 飛ばされそうになる花子と、ヘルメット内部から聞こえる簡易なナビ。カメラでは捉えきれない速さで、前へ前へと進んでいった。



「魔法少女じゃなかったらさぁ〜、いろんな骨が脱臼しちゃうかもっ。」


「はっはっは!速さに慣れてるヤツが言うと冗談に聞こえないぞ!」


 情報共有が温泉で行われているには意味があった。


「そういえばシェンが新しい服用意するらしいけどさ、明日でも大丈夫よね。浴衣あるんだし。」


「ギャル子が一着持ってったから、在庫がないんじゃないか?取り寄せるにもポットの使い過ぎだぞ。」


「今回だけでも通常のが二つと、ロボが一つ、運搬用が一つ……うーん、自分で着替え持ってくるべきだったか。」


「…あれ?濡れただけじゃないの?」


「あー、ちょっとなぁー。」


「朱がパリパリにしちゃったの。」


「あ゛ー!内緒って話だったろー!」


 歩くたびに服が崩れ落ち、極力擦れないように移動し合流、その後、旅館まで運び込まれたのだ。せっかくの旅館集合となったことから、温泉に浸かりながら話そうとまとまった。


「うっそ、炎の加減出来なかったってこと!?へぇ〜、そうなんだぁ〜。」


「あんときは必死だっただけだ!」


「新しいポットロボで川に沈めたって聞いたけど…。」


「それは合ってるけど、実は続きがあってね。」


 奈々子ちゃんが話したのは、ポットロボでの死闘後、襲い掛かったもの、そして朱ちゃんの力のこと。



 爆風に包まれ、崩れた橋と共に川へと落ちていく。エネルギー切れか、浮遊感は無く、ただ、重力に身を任せていた。

 作戦をやりきった満足感、達成感を感じながら、ぼやけた目でみる黒い液体、黒い空。ポットロボに覆い被さるように近づいてくる。

 作戦は成功した。おそらく多少の残りカスが地上にこびりついているだろう。…しかし、どうと言うことはない。コレは一つの生命体だ。本体が消えれば残りは汚れに過ぎない。もしも、新たな生命が生まれるのならば、私達の国を海に沈めなくちゃならない…そんなのは嫌だ。


「ーーっつ!」


 意識がはっきりしたのは、ポットロボの中に多量の水が入り込んだからだ。ボンバーを含め、魔法少女の技を連発した機体は防水性が失われていた。


「ギャル子…起きて…」


 意識を失ったギャル子の肩を揺らす。反応はない。


「はっはっは!大丈夫だ!」


 背後から元気な声がする。ヒビの入った機体を蹴破り、天井|(ポットロボの体勢によっては底かもしれない。)から光が差す。


「ふふっ、れいなさんと朱…二人のタフさはどこからきてるのかな。感情の方向?」


「そんなのどーでもいいだろー?早く脱出してご飯にしよう!」


 飲食店も併合した温泉施設が全焼してるのに、求めてるご飯が出てくるはずない。そんなことを思っていた次の瞬間…私達は津波に呑まれた。


(パッション…!)


 手を伸ばす。泥や土、石、木々を取り込み襲う津波の中じゃ、自分の手の先すら見えない。


(ギャル子は…手を握ってる…大丈夫。)


 ポットロボの中だったため、凶器と化した流れ物から身を守れている。キュリオの能力は使用できていない。力の消耗と焦りで定まらずにいた。

 気づかなかっただけで、橋の地点からずっと流されていたんだ。爆発と落ちた衝撃で…。この津波と思った水は、黒いヤツが溶け込んだ水…じゃないと水量がおかしい。温泉でも沸いたかってんだ。下流へと流された私達に、橋の残骸で堰き止められた津波の如き水が溢れて解き放たれた…たぶん、そうだ。


(大丈夫…大丈夫。息はできてなくとも私は冷静だ。次は…朱の居場所。)


 人間が無呼吸で脳死まで至るのは…たしか十五分か、それ以下。魔法少女じゃないギャル子には時間が残されてない。…どこ…どこ?ポットロボの搭乗部なんだ…目が見えなくても、機体が流されて回転しても…空間は把握できてるはずなのに………いない?


(私達も回転してるから、見つけられてない?違う。逃げるな私…!)


 朱は流されたんだ。開けた穴の近くにいた。身を乗り出していた気もする。だから…流された。不安定な足場で、これだけの勢いの水を受けたんだ。気絶してても不思議じゃない。変身体が解けてしまえば命が危ない。


(|'深緑の一時'領域拡大魔法グリーンルージュ ネクストページ…今だ。今なんだ!全て使い果たして友達を救って見せろよ私ぃ!!)


 最後の力を振り絞る。酸素が供給されないまま、強い気持ちのみで索敵範囲を広げていく。いくら広げようと、芯に押し寄せる冷たさを感じるのみ。感覚の違いである。本領が発揮しているならば、既に街へ届きそうなほどに展開できている。今は数センチメートル広げるだけで脳が沸騰しそうであった。

 生暖かいものが目の周りにひっつく。正体は榛名奈々子から垂れ流れる鼻血であった。限界は近い。


(うおおおおぉぉぉ…ぉぉ……お?)


 探していた友は見つかる。手を伸ばしても触れられない…だけども感じる燃えたぎるほどの体温。機体をなぞる指先からも感じる情熱。


(奈々子…大丈夫だ!)


 腕を組み、足を肩幅に開くパッション。襲い来る濁流から動かないポットロボを守るように、足を地に突き刺し仁王立つ。


(…ばか。そんな力が残ってるなら、さっさと助かりなさいよ…もうっ。)


 パッション(情熱)変身(点火)時、一面に火花を咲かせ、瞬間を炎で包む。それは、パッションが変身をする際にイメージしているものが、コンロであるからだ。ツマミをひねり、点火の音を感じて変身する…このイメージが、何度も再変身を可能とすることへ一役買っている。今のパッションが辺りの水を全て吹き飛ばすには、変身するしかない。


(できるできないなんて、考える時間が無駄だ。やってやるさ、やるしかないからな!)


 瞬間放出が最も輝く変身をするには、一度変身を解かなくてはならない。しかし、濁流の中で変身を解けば、再変身の隙で命を落とすことが明白であった。つまり、残された道はひとつだけ…。


ーコードネーム'パッションハート'

        オノレヲカイホウセヨ


 何処からとも無く聞こえてくる音声。これは幻聴か、はたまた心の声か。


(ゲートオーバー!!)


ーアコガレ ヨ フタタビ


(情熱想起し 目覚める感情!

      魔法少女パッションハート 大勇モード)


 二度目となるゲートオーバー。自身に集まってくるはずの炎が膨れ上がるのみ。炎結晶とならないことで、パッションは失敗したことを悟る。


(ぐっ…なんだ…言うことを聞け!!)


 水の中で焦げ落ちる草木があった。発火するコンクリートを見た。炎から繋がる感覚が広がり続けている。右手を伸ばせば、森一つ掴めそうな感覚…身体が巨大化する感覚がパッションに押し付けられていく。


(くそっ…失敗かぁ?……)


 今身動きをすれば背後にいる友を消しとばしてしまうかも知れない。パッションを襲うは、知らない力と漠然とした恐怖。


(…はっはっは!!だったら、全て私が背負ってやるぞ!!!)


 感覚を広げていく。実のところ、全く知らない感覚ではなかった。'深緑の一時'(グリーンルージュ)共鳴する再構築パーフェクトシンパシーである。キュリオがパッションと一つになった際、身体に新たな機能が元からあった、そんな感覚があった。


(しのごの言わずに纏われろ…炎纏結身(えんてんけっしん)!!!)


 展開されたパッションのエネルギーに触れた瞬間、水は全て気化する。高熱の水蒸気が周囲に溢れかえり、視界は雪原に錯覚するほどの白であった。

 干からびた川は、後に観光地になった。枝別れた川は、遥か下流で合流する。不自然に避けられた干からびた大地で日光浴をすると、少女の高笑いが聞こえるという…。また、川沿いに良く食べ物の屋台が並ぶこととなる。


「はぁーー……はぁーーー……」


 息づかいが荒い。高熱の水蒸気を、変身体で受け止める前に解除してしまったため、呼吸器官が焼けて息がしづらかった。

 ぐぅ…なんだこれ…チクチク体内が痛い気もするが…治っていく感覚なんだよなぁ。炎結晶が中にできてるのか?変身解いてるのにか?…んー、別にいいか!とりあえず動けるしな。


「ええっ、なにこれ!?地面あっっつ!朱ーー?どこにいるの?白くて何も見えない!」


 同じく変身体を解いた榛名奈々子は、ポットからギャル子を背負い脱出。全身から汗が滲み出る。


「サウナ?サウナなのこれ?なんなのー?」


「奈々子ー!こっちだ!」


「朱?声が反響してわからないって!」


 互いに、ここら辺にいた気がするを頼りにふらふらと歩く。


「ここから脱出しよ!ポットロボを背にして左ね!ひーだーりー!」


「左だな!はっはっは!ポットロボどっちだか忘れちったぞ!!」


「私の声がする方でしょーー!!」


「はっはっは!冗談だろ!!!!」


「なんてわかりにくい冗談なの!?」


「んん?さっきまで喉痛かったのに、もう治ったぞ!保湿だな!」


「冗談はほどほどにしなさいよ!足元注意!」


「冗談じゃないぞ!」


「なんなのーー!?…あれー…私も元気になった気がする…」


「保湿だな!」


「加湿器導入決定!」


 息苦しい中、澄んだ空気を求めて歩いていく。身体に当たる風が冷たい。反して、背負うギャル子の体温がより強く伝わってくる。


「はぁ〜〜、やっと抜けれた。涼しい〜。」


「おっ!奈々子!大丈夫だったか?」


 よかった…正直不安だった。朱がどこかに行ってしまったような…聞こえる声も私が作ったものなんじゃないかと…ふふっ、そんなはずないのにね。


「もうっ、危ない真似は……え?」


「は?」


「「うええええええええ!?」」


 私の目に飛び込んで来た大きなメロンが二つ。以前見たよりも大きくなっている。魔法少女が力を使う副作用じゃないのは確か。だって私は大きくなってないもの。は?ふざけんな。目や髪が染まるくらいなら、身体つきも変わっていいじゃんか。そうでしょ?身体能力は上がってるよ、うん。


「はっはっは!どーしたらそーなんだよ!って、私もほぼ全裸じゃん!はっはっは!」


「……まぁ、無事ならいいか…」


 歩くには遠い距離まできてしまった。迎えにきて欲しいが、通信機もボロボロに崩れ落ちた。朱のガントレットから位置を特定できるわけで、来て欲しい気持ちもある……けども、無理だよねぇ。


「修学旅行でバスに置いてかれた時みたいだなー。」


「そうねー、とりあえず前くらい隠しなさいよ。」


「はっはっは!流石に私も恥ずかしいぞ。」


「なおさら隠しなさいって。」


 途中、落ちていた毛布を三人で一緒に包まり歩く。残った服も、擦れるとすぐに剥がれ落ちてしまうので、ガニ股で一時間の道のりを歩いたのだった。




 報告書の提出通知。ただのメールの通知音と同じ。滝城研究所では、魔法少女の身の回りを管理する研究者達や、特殊魔装部隊の各隊に定期的な報告書の提出を義務付けている。

 α隊やβ隊は、隊長や副隊長が率先して提出することになっている。γ隊は平隊員である鈴木翔大が担当。理由は押し付けられたから。


「この…γ隊員の報告書は興味深いですね。第三者が寄生されし物(パラサイト)へ介入している…か。生き残るだけはあるんじゃない。」


「添付された写真はなんでした?」


「黒いゲロを吐くγ隊平隊員の恐山廻とα隊隊長の心地呼夢です。当てつけでしょう。」


「ケケケ、α隊の報告書でもう見た。」


 今回の戦果が新たな波乱を巻き起こそうとしていた。また、福利厚生で食堂にソフトクリームメーカーが置かれることとなった。

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