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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第五十二話

「ねぇ、朱?ちょ〜っと重たいんだけど、もういいかなぁ?」


「はっはっは!速いぞー!」


「ごきげん〜。」


 上空では…。


「一人背負うだけでスピード落ちるわけね。流石に全快ってわけじゃないでしょーから本来は……んーーっ、顔が冷たい!!」


「ご、ごめん…ちょっと調整してみる。」


「いやっ、大丈夫!大丈夫だから、安全飛行に集中して!」


 耳がキーンってするし、風が冷たすぎ!でも、落っこちるよりマシ!……足元はビームであったかい。なんなのーー!こんな病人達で勝つ方法を考えなくちゃいけなのに…


「しっ、思考がっ、全然…くしゅっ!」


「あっ!今暖めっ」


「馬鹿っ、ちょっ、あぁ〜……」


 逆さまになった世界で戦地を目視。火の海が広がる前には、人間大の影…のみ。キュリオハートの力を持って予想を裏付け、ひとときの安堵。次にすべき行動を、背中に体温を感じながら組み上げていく。

 流れ星はそのまま地上へ向けて弧を描く。少し焦げ臭い。


「花子!」


「んもうっ!速度上げるよ!!」

 

 ホープベールふらっシューズにより、速度を殺さず地を蹴る。同時に、背中のパッションが両手に込めた炎を握り簡易ボンバー。落下する二人を救出に向かう。


「うげぇ」


 炎の威力によってもたらされた浮力は、がっちりと掴んだパッションの脚から腹部へ伝わった。


「あ、わるい。」


「………」


「はっはっは!……わるかったって。」


 ラブとキュリオは飛び上がったホープ、パッションの頭上に迫っていた。


「ごごごごめん、今調整するからっ。」


「だ…大丈夫だから、余計なことしないで。」


「でもこのままじゃ墜落する…」


「下見て、下…」


「花子ちゃん!」


 ホープソードはふらっシューズの光を吸収し続けていた。輝きは鞘の中で一箇所に集まり、剣の柄と鞘の間から無理矢理放出させる。


「よ〜しっ!このまま一緒にいっちゃお〜。」


「ん〜、甘んじて受けよう!ごめん奈々子!」


「…へ?」


 ホープボンバー。空中で四人の魔法少女達は閃光に包まれた。

 




「ボンバーにも違いがあるね。ちょっと眩しかった。」


「爆破された感想って貴重じゃない?普通は感想言えないでしょ?」


 仰向けに重なるラブとキュリオ。キュリオを両腕でしっかりと抱きしめている。ボンバーから守るためだが、爆破の中心にいれば関係ない。


「ふっふ〜ん、推参っ!って感じぃ〜。」


「初めてやったが、羊も使い所ありそうだな!」


 着地の瞬間に、炎で形成した羊をクッションに衝撃を軽減。普通に熱い。華麗に着地したホープの背後で羊は弾け、派手な爆発をもって登場する。


「ホープは襲われてる住民を助けて。パッションは火災の対処ね。」


「任せろ!」


 駅舎、隣り合う温泉付きの宿が黒煙を上げている。焦げ臭く、熱気が身体に吹き付けられていて、本能的な恐怖を感じる。消防車が囲もうが、消火するには一日では足りないだろう。


「ちょっと奈々子!あれ…人間じゃ…」


 ホープが指差す先には、火災の前で人が人を襲っていた。暴徒化した住民達から、見覚えのある黒い靄が口や傷口から漏れ出ている。


「違う、寄生されてないと思う。とにかく、まだ助かると思うから…速く!」


「…おっけぇ〜、まっかせなさい!!」


 ホープハートの速さで突撃すれば、人間の身体は衝撃に耐えきれず破壊されてしまう。


「微調整ぃ〜…ここ!」


 暴徒と距離を空けての急停止。衝撃は風となり、暴徒を吹き飛ばす。腰を地につけたところで、着ている服を破り、紐として拘束。キュリオ達の近くに、雑に投げた。


「奈々子ちゃん!私は何をすれば!」


「役割なら転がってきたでしょ。」


 半裸の男の目は血走り、拘束を破ろうと身体を激しく揺らしている。


「それじゃ、ホープが終わったら、一緒に怪我人のフォローに行ってね。」


 キュリオは小走りでパッションの向かった火災へと向かっていく。


「えぇ…まぁ……しょうがない。」


ゔゔぅ〜〜


「痛そう。」


「これ追加ね!」


 縛られた人間が三人投げられる。計四人、男三人、女一人。


「ちょっ、ちょちょ、」


 着ていた服の強度によるのか、元の腕力か。切れかかる拘束を手で押さえる。


「もういっちょ!」


 二人追加で計六人。男四人、女二人。


「手が、手が足りない!」


 魔法少女には容易いが、拘束を振り解こうとする力が上がっている。自身の筋繊維を破壊し、青黒く変色し出す。


「どうしよう…気絶させてみるとか…?」


 やったことないけど、顎を小突くんだっけ?確か漫画だと後ろから首にチョップ?格ゲーならダメージ蓄積とか…合わせると、顎にチョップでダメージを蓄積させていく!?


「……そうだ、地面を掘って埋めよう!」


 ステッキに力を込める。

 目指すは身体が垂直に半分ほど埋まる穴。深すぎても浅すぎても駄目だ…。


「ぽっ…ぽっって感じ…ビームをちょい出しで…ぽ…」

「そこの人!!」


 顔を上げる。集中していたせいか気づかなかったが、消防服を纏った人間達に囲まれていた。

 重厚なホースを両脇にかかえ、服の隙間から汗が滴り落ちている。


「あっちで、緑色の人に必要だと言われ…使ってください!」


 緑色…奈々子ちゃんだ。こうなることを見越していたなんて、一人で慌ててた自分が恥ずかしい。


「ありが…いやいや、ホース貰っちゃっていいの?」


「大丈夫です。私どもは救助に向かいますので、それでは。」


 踵を返して燃え盛る炎へ向かっていく。

 ホースが必要なくなった理由は、彼らの背中を目で追いかけると同時に理解した。

 パチパチ音を立ててと揺蕩う炎は、空に飲み込まれるように吸い取られていく。炎の柱の中心にいるのは一人の魔法少女。


「炎昇竜!!」


 龍を象った炎は、エネルギーが無くなるまで昇り続ける。そして、透けるように消えた。

 建物の一部は完全に炭と化している。炎は完全に消火されていないものの、燃え移り被害が増えることはないだろう。


「ふぅ…ん?冷静になると、なんで炎の中で呼吸してたんだ?…はっはっは!意味わかんねー!」


「燃焼させる酸素を無意識に取り込んでただけでしょー!!」


「おっ!奈々子ーー!!大声出すと傷口に悪いぞ!」


 吸い上げた大部分の炎が無くなり、空中に留まっていたパッションは屋根に着地する。


「あんたが炎と一緒に昇るから遠くなったんでしょ!逃げ遅れた人を救助するから待ってなさい!」


「あーいよ!」


'深緑の一時'(グリーンルージュ)領域拡大魔法(ネクストページ)


 駅のホームは屋根が燃えてるばかりで、線路から逃げられたみたいね。中の施設にも反応は…っっ!隣の旅館はもっとまずいわね…。


「パッション!!改札入って右!一番奥の扉に二人取り残されてる!」


「わかったぞ!」


「救出したら二階に行って隣の旅館に渡って!消火作業を続けながら、一階から突入した私含む消防隊と合流!怪我人が取り残されてるからこっちは時間かかる!」


「無茶すん奈々子!」


「省略すな!!」


「ホース渡してきました!」


 消防隊員は四名。それ以上は応急処置にまわってもらった。最短ルートがわかっているキュリオがいる中、人員は一人でも無駄にはしない。


「ありがとうございます。今頃ホースをちぎってロープ代わりにしてるはずです。これから、取り残された人達を救助に向かうので、離れずついてきてください。」


 温泉施設と繋がる旅館へ足を踏み入れる。少しの衝撃で崩れてしまいそうである。高校二年生平均体重より幾許か軽いキュリオの一歩で、建物の至る所から音が鳴る。消防服を着ている彼らが歩けば、さらに音は大きくなり不安を駆り立てる。


「何故ですか…基本にのっとれば我々が踏み入るべきじゃありません。二次災害を招きます。何故、あんな子供の指示に従うんですか、納得できません。」


 不満を漏らしたのは、一番年齢が若い女性隊員だった。若いといっても、高校生とは比べられない。


「黙って進め。」


「何度も教えてくれたじゃないですか、基本を守れないやつが犠牲を出すって。…確かに我々は化け物と戦えません。ですが…」


「ですが、じゃねぇ。黙って進め。」


「黙りません、納得できません!なんで皆んな何も言わないんですか!!」


 ………


「いい大人が揃いも揃って言いなりですか!」


「馬鹿野郎!!」


 隊長と呼ばれていた男がヘルメットを殴りつけた。


「ちょっと!?暴れると予定が崩れるんですけど!?建物もね!」


「いつまで前の常識に囚われてんだ、若いもんが…」


 握られた拳は震えている。振り返り、立ち止まらずに話を続けた。


「聞け。俺たちは無力だ。これから救う命は本来救えなかった命なのは理解できるか?」


「…はい。炎の中で死なない人、それどころか、途方もない消火作業を終わらせた()()女の子のおかげです。」


 殴られた後から女性隊員に元気はない。過去の誇りを誇示する意地も、反抗心も萎んで消えてしまった。


「俺たちが誰かのためになれる世界は終わったんだ。終わったはずなのに、先頭を歩く少女は、化け物どもが暴れる変わっちまった世界で、まだ俺たちに救える命があるって言うんだ。」


 警察や消防士など、国民を守ってきた人間達は少なくない数が辞職を申し出た。理由は確固たるものであった。死を持って一秒にも満たない時間を稼ぎ死ぬのなら、後ろ指を刺されようと、残った人生を家族や大切な人と過ごそうと選択をしたのだ。

 しかし、過半数を大幅に超えて職を続けた者がいた。新たに志願した者さえいた。残った者にあったのは、少しの諦めと、しがみついた誇り。…誇りを捨て、見知らぬ少女に従った、隊長と呼ばれる男がした行動は、死地に赴く理由に反している。心をかき混ぜるような、その言動の先にあったものは、輝かしい憧れ。大人になるにつれ、見向きすることに苦痛を強いられる子供の頃の憧れだった。


「黙って進め。まだ、人を救える誇りを胸に…黙って進むんだ。」


 名を名護(なご) (つかさ)。年齢は四十八。来るべき最終決戦の時を生き残り、天寿を全うするまで人を助け続けることとなる。


 ひっかかるのみで、役割を終えた蝶番を本の角で叩く。光が差し込んだ用具入れには、水をかぶった親娘。


「えっと、隊長さん?ひとつだけ間違ってる。貴方達の姿を見るだけで安心できるんだもん…決して無力なんかじゃない。」


「うぅ…ありがとう…ありがとうございます…」


 運命は繋がっていく。

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