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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第五十一話②

 男達の動作は大きい。ミュージカル俳優のような所作は洗練されていて、事実無駄である。


「おいおい、この岩下原を忘れるなよ。」


「そうだぞ?俺こと梶田涼平もいるじゃないか。」


 無駄を排除せずに繰り返す先には、友情が存在している。学生としての友との戯れが、(いと)も簡単に破壊される前から、大切で貴重な時間であることを自覚している。それは、身を費やした部活動が無くなったとしても揺らがず。


「はいはい、サカゴリとバスゴリも元気なようで。」


 今を楽しむことを選んだ人間達。つまりは、()()人間であった。


「こんなとこで会うとはな!はっはっは!」


 なに笑ってんのよ。まずいまずいまずいまずいまずい…花子とか割とぽろっと言いそうだもん、魔法少女って。それで、ああっ!言っちゃダメだ!とか言っちゃうの。妄言にしとけばいいものをね!


「いやいや、ぶっちゃけありえんしょ。なんでこんなとこに?」


「ひっで!お前ひっで!こんなとこって…そんな言い方、全国健全ギャル協会に怒られんぞ!」


「そうだそうだ!全ギャル会が許さんぞ!」


「ゴリラ二人は黙ってろっつーの。」


 うわっなっつ〜…このノリなっつ〜!…って違う違う。ここは…


「ボランティアよ、ボランティア。」


 うん、見えなくもないよね。歳もバラバラだし。


「ほんとに?…アカ、ボランティアで来たの?」


「違うぞ!温泉に入ってカツ丼食べるために来たんだ!」


 …この馬鹿!


「…はぁ。まっ、そゆことにしといてあげんよ。アタシ達も旅行みたいなもんだし〜。」


「この子ったら悪ぶっちゃって…お母さん悲しいわ!」


「ギャル子よ…無期限休校だからおばあちゃん家行って手伝うって言ってたじゃないか。お父さんは素直な子が好きだなぁ。」


 福田萌香(通称:ギャル子)の正拳突きが、サッカー部のゴリラ、岩下原(通称:サカゴリ)の腹部に突き刺さる。バスケット部のゴリラ、梶田涼平(通称:バスゴリ)は、膝から崩れ落ちる岩下を視認後、瞬きのタイミングで背後回し蹴りによる衝撃がこめかみに走る。二人の大男は、重なり合う形で地に伏せた。


「おぉ〜、すご〜い。」


「えっと、貴方は…」


「あ、私はねぇ」


「確か…そうだ、星崎家の子でしょ?中学部の。」


「ええ〜!何で知ってるの!?」


「流石にうちの学校でも政治家の娘は珍しいからね。」


「そっかぁ〜」


 ギャル子と花子は相性が良さそうね。人見知りはしないにしも、初対面でここまで打ち解けられるなんて。問題は…


「それで…その美人な………目つきがすごい人は?」


 すっごい濁した。まぁ、見るからに歳上だし、そこら辺はしっかりしてる。問題のれいなさんは…絶対余計なこと考えてるな。


「…気にしないで。緊張してるだけだから。ボランティアのツアー?でお世話になってるの。」


「よ、よろしくお願いします…愛衣れいなです。」


 ここは、一番のお姉さんとしてカッコいい姿を見せなくては…正確にはシェンさんが一番お姉さんだけども。奈々子ちゃんと朱ちゃんの同級生、花子ちゃんの先輩だ。ダサい姿は見せられない。大丈夫、最近は料理を食べてもらったり、中々良い理想に近い立ち位置になれてる!きばれ、私。皆んなのお姉ちゃんになるんだ、私よ。


「これ…よかったら…」


「ここのイメージキャラじゃないですか、羊毛フェルトで作ったんすか?めっちゃ器用ですねお姉さん。」


「…ふっ、ふふ……」


 ……すごい。正直、負けたわ。初対面にも関わらずパーフェクトコミュニケーションね。鋭いままの目つきでニヤけてるから、恐ろしい顔になってるけど、とてつもない喜びの波動を感じる。


「ボランティアってことは目的地は一緒かな?ちょうど帰るとこだし、案内するよ。」


 ギャル子はサカゴリとバスゴリを蹴飛ばし起こす。合図を待っていたのか、蹴られた衝撃で浮いたように見せかけ、着地した。


「すみません、助かります。私が伊渕、こちらが前野で、奥でタバコを吸っているのが轟です。」


「どーも、伊渕さん。こんな時期にボランティアなんて、前回の化け物騒ぎに関係があったりするんすか?」


「…まぁ、そうですかね。」


 緩やかなコンクリートの坂を歩いていく。両脇は木で囲まれているが、正面は住宅街であり、その先には光が灯っている。


「知ってます?魔法少女ってやつ。しょーじき、調べられるもんは調べたんだけど、よくわからなくて。ボランティアとかやってると、そういう情報入ってこないっすか?」


 おそらく彼女としては、ただの日常会話であり、情報収集なのかもしれない。しかし、額に汗をにじます者がここにはいる。


「い、いえ、あまり詳しくはないです。」


「そうなんですか。今世間?では、魔法少女を創る実験の際に生まれた化け物が、脱走して襲ってきているなんて話もあるんすよ。まぁ、妄想の域を出ませんけど。」


「それは突飛な考えですね。」


「確かに、あの化け物も魔法少女の出来損ないってのは違うと思うんすよ。でも、同じ穴の狢っつーか、なんつーか…そんな感じはするんすよねぇ。」


「……お嫌いですか?…魔法少女。」


 虎野朱は榛名奈々子の俯いた顔を覗き込む。後ろめたさを抱えながら戦うなど、一握りの人間にすらできないだろう。


 …やめて。言わないで…。どうか、私達を肯定して…。


「………嫌いよ。」


 ………


「おい!!煙が上がってるぞ!」


 声を張ったのはサカゴリこと岩下原。指差した市街地には、真っ黒な煙が立ち込めている。


「嘘…おばあちゃん……」


 走り出そうとするギャル子こと福田萌香の肩を掴む。


「はなせ!バカ!」


 バスゴリこと梶田涼平は離さない。


「バスを借りよう。そっちのが早いだろ。」


「だからバカって言ってんの!住宅街だよ!?それに、逃げる人もいるだろうし、スピードなんて出せないでしょーが!」


 走ったとしても、三十分はかかるだろう。遠くから聞こえる重い破壊の音は、とても聴き慣れたものだった。


「…なんで止めるの!!」


 声を張り上げる福田の手を掴んでいたのは榛名奈々子。


「大丈夫だよ、れいなさん。」


 愛衣れいなの右手にはステッキが握られていた。ラブハートのみ出撃すれば、ボランティア団体の中に、魔法少女が一人紛れていたことで誤魔化せる。その考えは、お見通しだった。


「…ねぇ、なんで魔法少女が嫌いなの?」


「それ今話すこと!?早く離して!」


「重要なことなの…!」


 ………


「答えて。」


 覚悟を決めるのは一度きりではない。いくつもの壁にぶつかり、その都度、必要なものなのだ。榛名奈々子は、覚悟の渦の中にいた。


「…許せないでしょ…戦車でも爆撃機でも使えばいいじゃん…。なのに、同じ歳くらいの女の子がさ、死にそうになりながら戦ってる。そんなの…」


 福田の目には涙が溜まっている。彼女には、化け物と戦う力はない。


「絶対アタシは許せない!……だから、嫌いなのよ…。」


「…ふふっ。」


「な、なんで笑うのよ。」


「はっはっは!」


「なに…なんなの!」


「教えてあげる。魔法少女が戦う理由はね。」


キィィィイン!


「大切なものを守るため…貴方達みたいなね。」



ーコードネーム'キュリオハート'

チカラヲカイホウセヨ


「ゲート…オープン!」


ーミチビキ ノ メ


「知的に支配!導く未来!魔法少女キュリオハート!」


 万全な変身ではない。しかし、初めて変身できた時のような…きらきらする心からの変身であった。


「大丈夫!必ず助けるから、安心して待ってなさい。」


「はっはっは!その通りだな!」


ーコードネーム'パッションハート'

         チカラヲカイホウセヨ


「ゲートオープン!!!」


ーココロ ヲ モヤセ


「真っ赤に燃えれば虎野朱!情熱猛らせ空を舞う!魔法少女パッションハート!!!」


 虎野朱は黒煙を確認すると同時に変身する心構えがあった。しかし、友を待った。友の強く握られ、震える拳に覚悟を見た。パッションハートに友を待つ心の余裕が生まれたのだ。


「…二人ともいつから…っ、ううん。」


 福田と岩下、梶田の三人は、非現実な光景を目の当たりにした。思いが込み上げる。たくさんの言葉を交わしたい。


「戦ってくれてありがとう。」


 三人は涙を流していた。共に笑い、泣いた友達が、命をかけて戦っていること…その屈託のない精神に触れ、自然と涙が溢れたのだ。


「よいしょ。」


 榛名奈々子は、いつのまにか自愛モードにまで変身していたラブハートに背負われる。同様、虎野朱もホープハートの背中に抱きついた。二人にはラブやホープのような高速移動はできない。


「二人揃っておんぶに抱っこ。アカナナっぽくはあるかな。」


「けっこー不服だぞ!はっはっは!」


「うっさい、役割分担の一環よ。…それじゃ、またね。」


 ステッキと靴が光り輝く。


「ラブビームスマッシュ…」


 左足首に装着されたステッキから放たれるラブビーム。辺りに広がるピンク色の輝きに押し出され、ラブとキュリオは空に飛び立った。残りビームが足元に当たると、少し暖かい。


「ホープベールふらっシューズ!」


 初めて見る空飛ぶ人に目を取られる。瞬間、閃光と共に少女が二人消えた。

 空にかかるピンク色の流れ星と、地をかける閃光。黒煙に向けて一直線に走る。


「ところで伊渕さん?」


 指を組んで身体を伸ばしながら半身振り返った。逆光ほどには至らないが、光が頬に当たるただの少女は非日常に見える。


「…何でしょう。」


「あんた嘘つきね。」


 シェンは新しいタバコの箱を開けた。

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