第五十一話①
衣服で隠せる箇所を除き、包帯が取れると旅行の日程が決まった。愛衣れいなを除けば、魔法少女達は高校生と中学生。のんびりとベッドで回復を待つことなどできないのだ。
一人だけバイクで移動しようとした者がいる。駄々をこねて出発時間を遅らせた。年長者の威厳は捨ててある。年下の女の子三人に宥められ、一緒にバスへ乗った。
「ねぇ、後ろのバス付いてきてない?」
小型のマイクロバスから、後ろを走る大型バスを覗き見る。一番後ろの座席は、左から愛衣れいな、星崎花子、虎野朱、榛名奈々子である。
「そりゃ、関係者ですから当たり前でしょう。」
「私達だけってわけにもいかないか。」
運転席には轟紫苑こと医療班の女性。目は死んでいるが、向かう場所が出身地とのことで、ガイドも兼ねてもらっている。その後ろに伊渕と前野が座る。伊渕は激務が祟っているようで瞼は開いていない。
「研究所の奴らも休暇ってことか?」
「いえ…休暇は無いです。後ろのバスは魔装部隊ですよ。」
「はっはっは!冗談が冴えるな!」
………
「……冗談じゃないのか!?」
後方、大型バス。装いのみ、変哲も無いバスだが、その実、中は普段使っている装甲車を大きくしたものだ。座席は向かい合う形で固定されている。
「前田殿、牛串一本分けてくれぬか?」
「心地隊長…自分でも買ってましたよね?他の隊の人もいるんですから、みっともない真似はやめてください。」
「あの時一本で十分だと言ったくせに、前田殿は五本も買っているではないか!」
「隊長は既にたこ焼きとあん団子買ってたから言ったんすよ!」
あぁー…平和だ。隊長、副隊長があつまるバスに詰められたと思えば、サービスエリアで買ったものに一喜一憂。訓練よりも幾許かマシだ。
「凡人太郎、何食ってんだ?なめーきだゾ?」
……気に食わないなら隣に座るなっつの。無視無視。残党狩りが本当に起きても、目立ちたがり屋が戦うだろう。俺にとっちゃ、ほんとーっに、ただの旅行だ。平穏な旅行にしてみせる。
ばんっ
「無視するなら撃っちゃうぞ?」
「撃ってから言うんじゃねーー!!!」
B6から射出された銃弾は、顔スレスレを横切った。車内を跳弾し足元に突き刺さる。
「ははっ!めぐちゃんの思い切りは見習いたいものだな!」
「勘弁してくれ…」
頭を抱える我らがγ隊隊長の手には、俺と一緒に買った猫饅頭とやら。跳弾の際、眉間位置を貫いたため、風穴と焼けた餡子と皮の匂いが漂った。
「…はい、左手に見えるのが…山…登ると公園があります…」
運転席から聞こえる声はか細い。気怠さを表現したならば満点だ。咥えるタバコの煙を逃すため開けた窓からは、冷気が入り込んでくる。伊渕は寒さで目を覚ますこととなる。
「奥に見える…山…登ると公園があって…有名な神社がある山は…さらに奥だから…行かない。」
白衣のポケットから新たなタバコを引っ張り出して咥える。火をつけようとするたびに、走っていてもハンドルから両手を離す。途中から前野が火をつける係となる。
「山ばっかだな!」
「それより、山に公園が決まってある方が不思議でしょ。」
「ねぇ~、とどろっきーは地元が好きなの?」
バックミラーに映り込むよう前のめりになる。
「距離感がわからない子供よりは好きです。」
気怠そうなガイドと打って変わり、ハッキリと耳に言葉を届けた。
「ひっど〜い!!」
「伊渕と前野がいるから感覚が狂うけど、轟さんは初対面なんだから気をつけなさいよ。」
「初対面じゃないです。」
「へ?」
「医療班ですので…意識が無い皆さんとなら…何度も…」
「私は意識ある状態で会ってるよ。」
いつのまにか羊毛フェルトで猫を作っている愛衣れいなが口を挟む。
「あれは…恐怖を感じました…」
「知ってるぞ、それ。手術中に目を覚ましたんだろ?運が悪いよな、はっはっは!」
「こわっ!!発狂ものでしょそんなん。」
「だからシェンさんとは顔見知りなの。」
「シェン?」
「私の…あだ名。紫苑だからシェン…短い方が、医療中に…呼ぶ時便利…」
「へぇ〜〜、カッコいいねっ!」
ピピピピピ
「目覚ましなんかつけてたの?」
「…んっ、あぁ…着きましたね。」
「はい、到着です。」
目的地に着くとアラームが鳴るアプリ。名を最効率睡眠くん。昔、滝城研究所の職員に配布されたアプリである。
「うおおおお!…なんもねぇ!」
「ちょっと、窓から出るなって。」
いつのまにか後続の車はいなくなっていた。
駐車場には、魔法少女達一行のバス以外には止まっていない。
「当たり前でしょう、彼らは次の目的地に行ってますよ。」
目を擦りながら話す伊渕は、寝ていたせいかスーツに跡が残っていた。
「えー?一緒に回ればいいのにぃ〜。」
「先に行って安全確保の仕事をやってもらってんの。残党が残ってたら旅行どころじゃないだろ?」
「んー…前野にしては気が利く…のか?」
「逃げ隠れてた個体なんて、リハビリの代わり…いや、朱。ここは甘えておきましょ。」
「なんだ、中身変わったのか?」
「ちょっと怖い表現しないでよ。ただ、好意は受け取って楽しむべきだと思っただけよ。」
バスが止められた場所は市街地でも無ければ、駅が近いわけでも、避難所というわけでもない。麓に住宅街が広がる山の中腹、シェンが話していた公園の一つだ。
ベンチとありがちな形のトイレ。遊具などは見られない。必要のないほどに広い駐車場の裏手には、テニスコートがあるも人はいない。草木からは緑が失われつつあり、背後から吹く風は冷たく、透き通っている。
すーーーっ……はぁーー……
無意識にも、皆深呼吸をした。地下施設にも新鮮な空気や、人工的な光が差しているはずが、久々に自然との触れ合いをする感覚がある。気分の問題なのだ。
「ようこそ…ここが私の故郷…いいところ。」
紹介が立て看板みたいだなぁ。…天気もいい。ちょっと肌寒いのも、温泉に入るわけだし良い条件なんじゃないかな。研究所で一緒にご飯食べるのも楽しいのに、泊まりがけの旅行なんて夢みたいだ。
「奈々子ちゃん、羊毛フェルトで作ったこれ何かわかる?」
「しっ!…れいなさん、ちょっと静かに。」
え…ここのご当地キャラなんだけど……ん?何か聞こえ…る?…校歌?すっごい元気な声。
こちらに近づいてくる歌の主達は三人。中、歌っているのは二人。左右のガタイが良い男。中央には、服装とは相反する派手なメイクの女の子。
「「〜〜あぁ日向峰ぇ〜」」
確か、奈々子ちゃんと朱ちゃんの通ってた学校のジャージだ。二人とも寝巻きにしてたから合ってるはず。…あ、花子ちゃんも同じか、一貫校の中学だから。
「ぎゃ、ギャル子…。」
「あれ〜?アカナナじゃん。なにしてんの?」




