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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第五十話

 映し出された記録映像は、寝起きや食事中にふさわしいものではなかった。ある程度まとめられているとはいえ、グロテスクには違いない。特に、寄生されし物(パラサイト)の姿には、心の底から嫌悪が湧き出してくる。


「いやーっ、素晴らしい活躍でした。ご協力感謝します!ポッドロボは…今回は運が無かったですね。」


 映画に換算すれば二本分くらいだろうか。途中、解説と実況が自然発生したので、あまり長くは感じなかった。座ればいいものを、立ちながら見続けていたれいなさんの目つきは、ガラスにヒビが入りそうなほど鋭利で、朱や花子と違い緊張感がある。

 インスタント・ラブ・ボンバーに愛斬破(ラブザンパ)。ラブハートの力を応用した魔装兵器は、大量生産には至らないが、ボス格の寄生されし物(パラサイト)にまで、有効打になると結果が残った。


「どうも…また、作り直す時は言ってください。」


「完全復活してからにしてよね…ほんと。それと、α隊はわかったけど、γ隊は城に入ってからわからないし、β隊はデータ破損?どゆこと?」


 愛衣れいな、榛名奈々子、虎野朱、星崎花子と東北に伊渕。二人用の病室に六人もいると、少しだけ窮屈である。


「γ隊に関しては…

「はいはーいっ!私が説明できるよ!」


 伊渕の言葉を遮って、花子は元気に手を挙げた。


「γ隊の多くが、城型の体内に入れられたから、通信できなくなっちゃったの。中ではね、他の寄生されし物(パラサイト)がいて、まさに、敵の掌の上で戦ってたわけよ!」


「噛み砕くならまだしも、閉じ込める寄生されし物(パラサイト)なんて、異例中の異例ですね。」


 東北は、城型と魔法少女が戦った場合を想定した結果を、次々に映し出す。五日間は短いようで、長かったようだ。


「うん、それでそれで?」


「なんと!インスタント・ラブ・ボンバーを使って、城型の核まで辿り着いたのに、あと一歩で有効打が無くなっちゃったの。でもね〜、核が外に露出したところで、私が到着!華麗に倒したってわけなのよ!」


 いつもなら盛り上がるはずの朱が、デザートなのかバナナを頬張っている。れいなさんの優しい反応を見てもわかるけど、私が寝てる間に何回もこの話をされたのだろう。


「……ちなみに、花子が戦ってた相手は?」


「これです。」


 今度は伊渕が紙面にまとめられた寄生されし者(ネオ・パラサイト)を見せてくれる。

 ふむふむ、なるほど。猫?なにそれ…あと、リバティー…自ら名を名乗った…瞬間移動……は?


「瞬間…移動する寄生されし者(ネオ・パラサイト)?」


「そうだよ。どれだけ速くても追いつけないって、強すぎだよねぇ〜。」


「え?え?その、瞬間移動寄生されし者(ネオ・パラサイト)を倒した後に、γ隊のフォローに行って、城型寄生されし物(パラサイト)を倒したってこと?……何で一番元気なの?」


 胸を張り、腰に手を当てる小さき少女。

 瞬間移動を攻略するなら、私と朱…いや、れいなさんかな。私が移動位置を把握して、広範囲のビームで削っていくのが良いだろうね。


「もっちろん、光のぱわーを吸収して回復したのよ!」


「化け物?」


「身体分解する人の方が、よっぽど化け物ですぅ〜ベロベロ〜ばぁ〜。」


「んぐぅ…なにも言い返せない…」


「ぐうの音は出てんじゃねーか、はっはっは!」


 生を実感させる笑いが、病室内に響く。

 地上では、青々しい草木は珍しくなっていた。分厚い資料の束に、シミュレーションルームの更新が記載されている。季節感の変更や、寄生されし物(パラサイト)の種類が増えるなど、八十項目ほどがバージョンアップしたようだ。寄生されし者(ネオ・パラサイト)を仮想敵として戦えるらしいが、どこまで再現されているかが疑問視される。


「みんな起きたんすね〜」


 軽い口調で病室をさらに狭くさせにきた男は、白を基調とした紙の手提げ袋を持っている。赤い提灯や城のイラストが描かれている。


「あ、芋羊羹。」


「前野です。これはただの差し入れですよ。」


「お疲れ様です、前野さん。」


 榛名奈々子のベッド脇にある、小っちゃいテーブルに差し入れを乗せる。中身は言わずもがな、愛衣れいなが指摘した通り芋羊羹である。


「あっ、これ懐かしい。昔食べたことあるわ。」


「なんだ前野、あんこ玉は無いのか?いんげんが一番美味しいやつだ。」


「え!?あれって白餡じゃないの?」


「何で皆さんそんなに詳しいんですか?…あぁ、お二人もどうぞ。多めに買ってきたので。」


 東北はピンセットで芋羊羹をつまみ食べる。どこから出したか伊渕は見逃さなかった。胸ポケットに差したペンの一本が変形し、ピンセットになったのである。夕刻、少しだけ欲しいと感じてしまったことを喫煙室で語った。


「それで芋羊羹は何しに来たの?」


「前野です。今後のことで相談に来たんですよ。」


「これからは芋羊羹が指導に入るってことですか?」


「…前野です。あれ?そんなこと言う人でしたっけ?チビどもの真似しなくていいんですよ?」


「えー、いもかんはカタカタしてた方が似合うぞ?」


「いもかん!?…あのですねぇ、指導なんかできませんよ僕には。」


「せっかくひと段落したんだよぉ?ちょーっとくらいさ、気分転換があってもよくなーい?ねぇ、いもいも〜。」


「………それでは、旅行の話は無しにしましょうか。」


「「「「「旅行!?」」」」」


「ごほっ、ごほっ、」


「起きたばっかで大きい声出すからだぞ、奈々子。」


「ねぇ、なんでいっぶーまで驚いてるの?」


「…知らなかったからです。前野さん、本気ですか?」


「沖縄!?それともハワイ!?」


 りょりょりょ旅行!?こんな時に?…何かの暗示…?それにしても、花子が考える旅行先が沖縄とハワイって…金持ち出してきたわね…。違う違う。


「ちょっと前野、時間も無ければ、余裕も無いと思うんだけど、どーゆーつもりなの?ちゃんと説明しないとわからないでしょ。」


「話を聞かなかったのはそっちなんですが…旅行とは言いましたが、その実、被災地巡りです。」


「被災地巡り…」


「満足に身体を動かせない期間に、精神面でも鍛えましょう。別に魔法少女だと宣言して歩く必要はありません。非難もあるでしょうからね。」


「精神的に追い詰めて鍛えようってこと?そんなこと考えるなんて、おかしくなったの?前野さ。」


 奈々子の声色は落ち着いているものの、怒りを孕んでいる。


「違います。…貴方達が守ったものを目で見て、肌で感じてもらいたいんです。普段は言いませんが、四人とも割と卑屈になりがちですので。」


「ひっど〜い。」


「…私も賛成です。メルタルケアと強化が両立できるなら、()()に考えて行くべきでしょう。」


 確かに、魔法少女の力は感情の起伏から何倍にも膨れ上がる。精神を鍛えることは、出力を安定させる近道だ。でも、でもぉ…


「私は身体を動かせなくても訓練できる。それに…毎回敵に上手をいかれてる。私達の予測不足に他ならないでしょ。対策会議なり予測シミュレーションなり、襲撃日が終わった今だからできることがたくさんある。…違う?」


「……ちが

「違うよ、奈々子ちゃん。」


 芋羊羹を飲み込み、愛衣れいなは背筋を伸ばす。


「何が…違うの?れいなさん、今は重要な時期なのよ。」


「奈々子ちゃん。私達は今一度、人間に近づくべきだと思う。寄生されし物(パラサイト)みたいになれば、寄生されし物(パラサイト)の考えとか、気持ちがわかるものではない…じゃない?」


 たとえ寄生されし物(パラサイト)と同じような存在に成り果てようと、私達には何もわからない。寄生されし物(パラサイト)には、意思があるようでない…から、無駄なことだ。


「それは、そうだけど、人間に近づいてどうするの?」


 榛名奈々子は鮮やかな緑眼で愛衣れいなを見つめる。愛衣れいなもまた、深いピンク色の眼を逸らさない。


「大切なものを忘れずにいられる。それが、私達の強さに繋がっていくと思う。…思うだけ…だけど…」


 証拠も証明も無い、感覚だけの言葉が後ろめたいのか、愛衣れいなは目を逸らした。つられて、榛名奈々子は目線の先を見てしまう。


「……あー、もー…わかったわよ。その代わり、移動中もできることやるんだからね!」


 先には、目を潤わした花子と、旅先で食べたいものを書き出している朱がいた。そうよ、私だけで戦ってるわけじゃない。そこが抜けていたら、ダメだ。……食べた後で、食べること考えるのって無理じゃない?私だけ?


「やったー!!ねぇ、まえも、どこ行くんだっけ?」


「まだ芋が残ってますね…最初に行くのは南西の方ですね。」


「南西ってアバウトな。」


 東北は前野の後ろポケットから紙束を奪う。


「あぁー…なるほど。埼玉じゃテンションは上がんないよね〜。」


「げっ、旅行先に選ぶとこじゃないぞ!」


「ちょっと、怒られそうな発言やめてください。被災された方々を受け入れてくれる場所なんですよ。ほら、伊渕さんからも言ってやってください。」


「…私も知ったばっかなのですが…ああ、でも、ここは温泉とかありますよ。確か、襲撃日直前の会議で、ラブハートとホープハートで温泉とか言ってませんでしたっけ?」


「温泉あるの!?流石いっぶー!記憶力の鬼!結局、れいな姉ぇと温泉行けなかったもんね〜。初めての場所だし、すっごい楽しみ!」


「私は何度か行ったことあるよ。バイクで。」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる花子と、伊渕に肩を叩かれる前野。今日は珍しく、伊渕がぞんざいに扱われない日みたい。朱はご当地グルメの検索を始めた。


「それでは、話がまとまったようなので戻ります。魔装兵器についてご意見ありましたら、積極的に取り入れていくので、気軽に遊びに来てください。」


「お疲れ様です、東北さん。また近いうちに〜。」


「ちか、近い?……?」


 東北が退室し、いつものメンバーだけになってしまった。

 魔法少女の力が身体を蝕み、頭髪や目が色鮮やかな四人組は、現代日本であろうと目立つ。時代が時代ならば、奇怪な存在として雑誌で持て(はや)されていたかもしれない。


「よしっ!明日の朝から出発だ!」


「それは無理!!」


 今日一番大きいツッコミをしたところで、意識が再び途切れる。榛名奈々子は、目を覚ましたばっかりの重病人に変わりはない。




「前田殿!旅路の支度は済んだか?」


「……何回目ですか。せめて前日に言ってください。出発の何日前からワクワクしてるつもりですか。」


 隻眼の女は、赤い髪を高い位置で縛り、刀を腰に差している。


「くっ…なんでこうなった…」


 頭を抱えるドレッドヘアーの女の名は東北。技術班である。


「魔装兵器の関係で、少しだけ顔見知りなだけなのに…なんで、引率の教師みたいな役目を…」


 ぶつぶつと呟くも、ハキハキとした赤髪の女の声によって耳には届かない。


「そう言うな、前田殿。βのやつらは行かないらしいが、γ隊は行くからな。目的の残敵処理はとっとと済ませて、城を見に行くぞ!」


「城って、もう二つ目の目的地の話してんすか?それに、γ隊の方々は見たくないと思いますよ。」


「そうなのか、めぐちゃん?」


「次はリンチにしてやるジャーン!ふひひっ。」


「うおおっ!……どうして女性勢の方が治りが早いんすか…」


 心地の背後からひょっこりと顔を出す。完全に隠れるためか、療養中か、ツインテールを解いている。

 未だに不便な生活を強いられている前田と比べ、包帯は取れていないものの、突然出現した恐山や心地は少しずつ訓練を再開していた。リハビリを地道にこなす傍らで、彼女達のみリハビリと称した訓練に移っているのだ。性格の差が出る。


「ふひーっ、性別を考慮するステージに行ってないザコは、一生傷口を撫でてろばぁ〜か!」


「………あ?」


「すみません!!おい、イカれ女!陣副隊長のお見舞いだっつってんだろ!」


 走って向かいに来た翔大に抱えられ、恐山は部屋を後にする。


「どこ掴んでんだゴミ!たいちょぉ〜、こいつ除隊処ん〜………」


「いやー、γ隊を見ていると元気になる。そうは思わんか、前田殿?」


「………俺はγの副隊長の容態が心配っすよ。重病人にアレは毒でしょ。」


 特殊魔装部隊は護衛の任務を承っている。現時点でさえ、満足に戦えない魔法少女達に軍牌が上がるにも関わらず、特殊魔装部隊が護衛として動く理由はひとつしかない。魔法少女達の完全復帰を一秒でも早めるための、犠牲だ。しかし、当の本人達は気にしてはいない。ドキドキワクワクの旅行へ向けて、日を重ねていく。





オマケ

〜移動用ポッドについて〜

問。移動用のポッドについて一言。


クール:合理的。


パッション:最初は楽しかった。


キュリオ:特に無いです。…そういえば、球体ってことは、ポッドは砲弾のイメージで射出すると思うのだけど、え?長くなりそうだから後にしろって?こんなアンケートする時間があるのだから、今聞きなさいよ。それで……


ホープ:私の方が速いんだからねっ!(事実)


ラブ:バイク移動の件…話し合ってく…あぁ、はい…

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