第四十八話
「上段ーー恋雷衝!!」
恋に落ちた時、身体に受ける雷のような衝撃を刀に落とした一撃。ゆめたんの首に刀身が沈んでいく。
心地呼夢の初恋は四歳にして訪れた。テレビ番組「燦々!ぎゃんごとなき大将軍!!」に登場する'天晴れ恋侍ヨギギ'に惹かれた幼女。それが心地呼夢(4)であった。恋侍ヨギギは女性の侍である。大人になって理解する。それは、恋ではなかった。しかし、恋に落ちた衝撃というものが存在するならば、心地呼夢の人生に置き換えられる衝撃は他に存在しない。
小学生になってから、プロフィール帳なるものが流行り出す。アイドルやアナウンサー…お嫁さん。一際目立つ欄に書かれていた文字に多かったもの。心地も例外なく親にプロフィール帳を要求し、無事購入。欄からはみ出る大きさで'さむらい'と書き記した。その後、プロフィールの交換や、友人の欄に文字が追加されることは無かったものの、悪を挫き、弱者を助ける侍になるために、毎日を過ごすこととなる。身体を鍛え、いじめっ子を成敗した日には、教師や両親に叱られた。一人称のせいで、いじめられっ子にすら擁護はされなかった。あだ名も無く、ただ、ヤバいやつ、と呼ばれ続けた小学生時代。
時は流れ、心地呼夢(12)は中学生になり。剣道部に入部する。理由は侍だからだ。噂は広がり、ヤバいもの見たさに関わってくる人間も多くなったが、そういった輩はガチな人を求めているわけではなかった。憧れた侍に近づくため、孤高の心地は、剣道場の隅で竹刀を振るう。試合どころか、練習さえ参加させてもらえない。文句も不満も無かった。何故なら…
「おい。」
「なんだ?先輩。」
剣道場は男女共有である。部員数から、三分のニは男子部員が使用している。心地は、屈強な男子剣道部六人に囲まれていた。
「きもちわりーんだよ。ハブられても気にせず練習する自分カッコいい!…とでも思ってんのか?」
男達の手には竹刀が握られている。
「拙者は未熟者ゆえ、鍛錬は欠かせない。迷惑だったか?」
「拙者…ぷぷっ。」「ほんとに言ったよ…」
「鍛錬は欠かせないっキリッ!」「やめっ、ぷぷっ」
「侍とかくだらねーんだよ。女が男に勝てるわけねーだろ。目障りだっつの。」
女子剣道部員は何も言い返さない。事実、成長期の遅速を考慮しても、男女の差は埋まりきらない。さらには、心地が通う中学校の男子剣道部は全国に挑める実力を持つ。学校を挙げて応援の態勢だ。女子剣道部は、剣道場を使わせてもらわせている立場なのだ。
「確かに…そうかも知れない。」
「なんだ、つまんね。さっさと出てけ。」
男子剣道部主将 団藤道重(15)。身長は180cmを超える。
「だが…」
対する心地呼夢は150cmであり、去年までは小学生。
「拙者は侍だ。人間如きに遅れはとらん。」
面をかぶっていない。中学生の腕力であろうと竹刀は額を割るだろう。主将である団藤は理解もしていれば、剣道を暴力に変えることは決して無かった。
「クソがっ!!」
団藤は竹刀を振り下ろす。彼をそこまでさせた理由は心地にある。主将として剣道に燃やしていたその心を、否定された気分になったのだ。己の人生を否定するような笑みを、目の前で真っ直ぐに向けられる。二つも年が離れた女は、握っていた竹刀を、鞘に収める動きで腰に当てた。
振り下ろされた竹刀は空を斬る。同時に認識したのは、声にもならない声。五人の男子部員が、腹部を抑えて地に伏しもがいている。
「……あ?」
「拙者は部活に参加させてもらえなくても構わない。相手にならないからな。」
突き。中学生には禁止されている技である。団藤は心地の竹刀に、胸元を軽く小突かれる。膝は曲がり、竹刀は手からこぼれ落ちた。二秒後、止まった呼吸は戻り、団藤は激しく咳き込んだ。
学歴…小卒!。剣道部の騒動は、心地が男子部員に襲い掛かったと処理され、退学処分となる。……ことはない。心地は、両親の仕事の都合で転校することが決まっていた。転校前に腕試しをすることは、最初から心に決めていたのだ。
「あ、あの…」
剣道場での女子部員の地位は向上していない。寧ろ悪くなった。
「なんだ?」
男子剣道部は一年に負けたことにより、地位は少し落ちる。優遇に嫉妬していた生徒は密かに喜んだ。
「実は、ちょっと憧れてました。」
最終日。話しかける眼鏡の少女は、心地と同じ小学校出身である。また、元いじめられっ子。
「これは?」
手渡されたのはサラシ。女子中学生が持っているものではない。眼鏡の少女は、自身の胸に巻かれているサラシを見せながら、心地に手渡した。
「さ、侍なら、サラシとか、するかなって…」
「……ありがとう!」
この瞬間から心地は侍となる。同時に、侍には愛が必要だと明確に理解する。心が暖かい感覚が、手足の先まで行き渡り、どこまでも強くなれる無敵感に浸っていた。
帰り道、カバンに忍ばせたプロフィール帳を取り出す。さむらいと書かれた欄に、上からピンクのペンでお嫁さんと書いた。既に侍となった。次になるべきは愛される存在。愛し愛される真の侍を目指し鍛錬を積む。
愛斬破は魔装兵器である。寄生されし物を選べば、首を切り落とせるだろう。しかし、ゆめたんは通常個体ではない。さらには、抜刀済みの愛斬破が、ゆめたんの首を落とせるはずがなかった。性能に反して刀身が沈んでいく。原因は心にあった。
キィィィイン!
愛斬破はラブハートの力を利用した魔装兵器である。心地の愛は、胸に巻いたサラシで補強されている。共鳴しないはずがない。刀身にピンク色のモヤがかかり出す。
ピキョキョ!?
ゆめたんの頭部は斬り離された。特殊魔装部隊α隊隊長にて不動のスコア一位、無敵の女ザムライ心地呼夢…無事、人間卒業。
「あのー…なんで無事なんすか?」
前田は、槍の捕縛剤により、ビルの壁にぶら下がっていた。心地は、垂直に突き刺した槍に仁王立ちし、刀を握っている。
「前田殿が使うと思って、槍を沢山持ってきたのが役に立ったというわけだ。本当はサプライズの予定だったのだが……」
違う!そういうことじゃない。カチャカチャ煩いから、武器を隠し持って来たのは気づいてた。……落とされてる途中で、槍を突き刺し減速。両腕で槍を持って、突き刺しながら登る。…これで多分合ってるはずだ。変な穴が空いてるしな…。でも、わからないことがある。
「なんで、ここで待ち構えていたんすか?」
心地は新たな槍を伸ばして垂直に突き刺す。簡易な足場を作って、前田を救出に向かう。
「…ん?それは、前田殿なら、落として倒すと分かっていたからである。隊長と副隊長の仲であろう。」
……そんなことある?
「一緒にカツ丼食べる約束もある。」
「…カツ丼食べる約束があると、考えることがわかるんすね…」
捕縛剤ごと服を破られ、肩に担がれると再び入店。
「さぁ、上の階を見たら退店しよう。外が騒がしくなってきたからな!」
「…なんか、良いことありました?」
口角が微妙に上がっていた。
「ふふっ、実は拙者が侍になった頃を思い出してたのだ。」
「それ…走馬灯じゃ……」
寄生されし物を警戒しながら散策。途中、ドラッグストアにて包帯を拝借し、前田は血だらけ両足に巻きつけた。心地は、誠の字が背中に入った青いハッピを購入。一目惚れだそうだ。代金はレジに置き、良い商品だ!と書かれた、意味のないメモを残した。
β隊に向けて発射されたものは鮭寄生されし物。しもつかれ寄生されし物の頭部内から顔を出し、動力不明の急発進。
「動くな。」
β隊隊長 戸崎の一声で、β隊員はその場に静止する。衝突は死を意味する鮭ロケットを前に、誰一人動かない。
鮭は戸崎の真横を通り過ぎ、地面に突き刺さった。役目を終えたのか、溶けて消える。
「全く…理解に苦しむよ。何故、しもつかれの中に、鮭が一匹丸ごと入っているのかい?」
ぐちょグチョ
鮭は再び充填される。最も厄介なタイプは、遠距離攻撃をしてくる寄生されし物だ。防御が意味をなさないのならば、隊員達は、決死の行動を余儀なくされる。
同じ場所、同じ角度で鮭は地面に突き刺さり消える。見た者は、敵の攻撃が戸崎を避けたと感じるだろう。
「それは鮭を飛ばしているのでは無く、鮭寄生されし物が飛んできているのだな。」
戸崎の手には、脈打つ箱は既に無い。
「ならば、問題無し。射出エネルギーに重きを置いている、本能が優先された寄生されし物など、私の敵ではない。」
鮭が突き刺さった箇所から、数センチ手前に置かれていた箱は、戸崎 這の魔装兵器である。
魔装兵器: 桍殺怒来奴鬼。これを手にしてからβ隊は狂い始める。寄生されし物を殺すことに執着し、目的の達成のためなら自身の命さえ軽んじる。
戸崎に渡した研究員は言った。
「人間のミニチュアがこの箱に入っている。」
「人間が…この箱にか?」
「そうだ。君らの前身とでも言えばいいか…α隊、β隊、γ隊の隊員だった人間が入っている。死にかけた者や、蘇生された者…つまりは、戦いに敗れ、動けない身体になった者達を使った。」
「そんなものを作って何をするつもりだ。悪いが、このことは隠さない。話させてもらう。」
研究員との会話は成立しない。目の前の白衣を着た人間に、人間らしさを感じることはできない。
「安心してください。生きてます。小さな人間の機能をした'モノ'に繋がり生きています。何人だったか…そうだなぁ、二十人は入ってそうだ。」
戸崎に箱を押し付けると、研究員はふらふらと、何処かへ消えた。
「…まぁいい。証拠が無ければ、信じる者も少ない。きな臭い組織だと思っていたが、こうも簡単に尻尾を出すとは。…この一枚だけ違うことが書かれている札…こいつの名か?」
箱は脈打ち生暖かい。
「…こ、ころ…ど…きどき…」
無数の声が頭に流れてくる。頭蓋骨の中を、ミキサーにかけられるような感覚。考え方とか…信念とか。そういった自分を作り上げるものが、ドロドロに溶かされていった。戸崎は死に、新たな戸崎が誕生した瞬間である。
「…こいつは使えるな。」
桍殺怒来奴鬼の内部では、今も尚、人間達が生きている。小さな箱に凝縮された、生命の塊に、寄生されし物は本能を刺激される。距離が離れていても、人間として箱を感知し、本能が元より強い寄生されし物は、箱への攻撃を優先せざるを得ない。強制的に寄生されし物を集め、攻撃を誘発する。それが、魔装兵器: 桍殺怒来奴鬼である。
グチョぐちょ
「放て!!」
β隊総員による伸縮補爆槍の投擲。捕縛剤がしもつかれを巻き込む。頭部は削れ、比例するように、胴体もまた、頭部にあったサイズへと変わっていく。
柿谷が投げた槍は頭部ではなく、胴体に向けて放たれた。捕縛剤が地面としもつかれ寄生されし物を固定する。手足をバタバタと動かすも、既に赤子と変わらない寄生されし物に剥がせるはずがない。両手にB6を構え、跳弾を恐れない至近距離の銃口は、逸らした目さえも吸い込んでいく。
ぐちょ
「消えろ。」
二丁のB6から放たれる銃弾は、着実に寄生されし物の肉体を削り取る。小枝のようになった腕を柿谷に向けて伸ばす。人間を殺す本能は最後まで残る。か細い身体を、厚底の硬い靴で踏み潰した。パキパキと音を立てて、残骸が靴の裏に張り付き、塵と化して風に流される。
パンッ!パンッ!
綺麗な音は、しもつかれの塵を流す風向きを変えた。その掌は、人間を丸ごと包み込むことが可能な大きさ。挟まれれば、ノイズにもならずに肉へと変わるだろう。
「えー、こちら君山。戸崎隊長にも見えたと思いますが、その仏像がボスかと。B6、槍、共に有効打はありません。」
桍殺怒来奴鬼で集まる寄生されし物を始末してきたβ隊。君山ジェイスンの簡潔な報告は脳に届かず、視覚からの情報を処理することで精一杯であった。
「別動隊も本隊に加わり防御体勢。死なないことを第一。次に時間稼ぎだ。」
パンッ!パンッ!
仏像が繰り返す拍手は地上に近づく。上空十メートルまで近づいた時、より響く力強い拍手から風が吹き荒れた。周囲の建物にはめられたガラス窓が割れる。尖ったガラスが霰が如く降り注ぐ。
β隊は両肩のB6で頭部を守る。しゃがめば、跳ね返ったガラス片が、目に刺さることも考えうるため、脚部へのダメージは気にせず立つ。
「散開しろ!」
柿谷の叫び声。戸崎を中心に、四方八方にバラけるよう走り出す。頭上には、右の掌を地上に向ける仏像がいた。二十メートルを超えた仏像型寄生されし物である。人間の足では逃げきれない。
パンッ!
一人のβ隊員が、背中から掌に押し潰され死亡。
受信した最後の映像であった。β隊報告文書によると、仏像型寄生されし物の拍手に、通信妨害の効果があったとされている。
絶え間なく続いた通信は、棒状の物を振り払ったかのような音と共に途切れた。悲痛な叫びも泣き言も無い。敵を観察し、得た情報を共有し続ける。
魔法少女がいない。人間だけで戦う戦場において、彼らが頼りにしている人物がいた。彼女ならば、勝てるかもしれない。僅かな希望を抱き、大きな可能性を託して地面のシミとなる。
死闘の末、ビルから生還した二人には、どこへ向かうべきかが判明している。敵の姿、能力、戦法。小さなピースが繫がり合い、出会う前から鮮明にイメージできる。
「前田副隊長殿、他の反応は無いんだな。」
駅に続く大通りにヤツはいた。せっかく購入した青いハッピは、飛ばされないよう石を乗せて道端に置いた。慣れない服で感覚が狂えば、その隙を狙われる。
軽快な足音。四本足で、人間とは異なるリズムを刻んでいるため把握しづらい。
「はい。拘束済みの寄生されし物を除けば、ボス一体です。」
心地から通信があった。ボスの取り巻きを拘束、ないし撃破した場合、戦闘を控え身を守れ。怪我人は、建物内に退避。動ける者は治療にあたっている。
取り巻きは団子の寄生されし物であり、狙撃は効かず、槍での戦いを強いられた。団子による窒息死を狙った攻撃をする。しかし、捕縛剤に、団子特有の粘りが絡まり、拘束を可能としたため、最低限の死者で倒し切る。
自由に動き回る寄生されし物が、残り一体となった時から状況は一変した。ボスに遭遇したα隊員で、生存者は僅か二名。どちらも狙撃に徹底していた者だった。出会ったα隊員は、死ぬまでの時間を情報共有に全て使った。誰一人、愛する者や、大切な友のために時間を消費した者はいなかった。
「全力で行く。」
大通りに散乱する死体。その先に、馬に乗った武士の銅像が、血の滴る刀を持っている。
心地は、防護服を引きちぎる。あられもない姿になってしまった。同時に、十数本の伸縮補爆槍が音を立てて地面に落ちた。身軽になった身体を確認するため、少し跳ねた後、手足を回して可動範囲を思い出す。
「α隊隊長 心地呼夢だ。どちらの刀が上か…推して参る。」
歩き出す心地に反して、立ち止まり距離を取る。互いの役割に干渉しない距離。
「α隊副隊長 前田球児。どうか、最後に聞く名であってほしい。」
相対するボス寄生されし物。刀を持ち、甲冑を纏い、馬の背に乗る銅像である。名をつけるなら、武将寄生されし物か、独眼竜寄生されし物。
ダテダテダテ…
垂直に落ちるは伸縮補爆槍。前田が投げた槍が、武将寄生されし物の頭上に落下した。
「ふざけた声出しやがって…」
捕縛剤が放出される前に、刀で力の流れを変える。刀身に沿い、流れるように、心地へ槍が向かう。
身体を逸らす。最低限の動きで槍を躱し、手は刀から離さない。抜刀の構えを取り続ける。
「隊長…耐えてくださいよ!!」
投擲。繰り返す。心地が何十本と身体に忍ばせた伸縮補爆槍を、伸ばしては起爆させ投擲。頑強な肩から繰り出された槍は、空気を切り裂く音を纏い青に溶けた。やがて殺意が尖端からゆっくりと形作られ、数を増やしていく。降り注ぐは正確無比の死槍。
認識と反応を繋ぐ時間が短くなっている。単純な話、槍が到達した距離が高くなっているのだ。次の投擲は、さらに高く。決して衰えはしない。小さな一歩であろうが、もがき苦しみ泥水を啜っても手に入れる。前田球児の心に染み付いた地道、着実、絶え間ない向上心の賜物。いつでも己に言い聞かすーー
「こんじょおおおおお!!!」
対する武将寄生されし物に、槍は未だ一本たりとも当たっていない。
ダテダテダテ…
馬は一歩も動かず、武将は刀を振るだけで全ての槍を捌き切る。人間技じゃない。何故なら人間ではないから。誤算があるとすれば、α隊にも一人だけ、人間から遠ざかっていく生物がいたことを、寄生されし物は知らない。
キィィィイン!
ゆめたんへの一振りは抜刀後の一撃。鞘内部での爆発をもって繰り出す抜刀こそが、愛斬破の真の一撃。ラブハートの力と共鳴した心地呼夢の想いを乗せて、刀は引き抜かれる。
「抜刀ーー愛斬破!」
ダテ…
動けない。前田が投擲した伸縮補爆槍から放たれた捕縛剤が、辺り一面に広がり、馬を走らせれば絡まり倒れるのは必至。
ピンク色の閃光を放つ刀身が、武将寄生されし物の首へ迫る。動けないならば迎え撃つ。武将は刀を振り下ろし、愛斬破と衝突。ゆめたんの首を斬り落とした以上の力を持つ抜刀は、いとも容易く弾かれた。視点を変えれば、ボスの一撃を刀で止めたことになる。訓練では計測できなかった力は、戦場で顔を出した。伸縮補爆槍は既に投げ切られている。隙は作れない。
「拙者は侍…魂は決して弾かれぬ。」
弾かれたのは刀のみ。愛斬破が纏っていたピンク色の閃光は、刀から離れ武将寄生されし物の顔面に衝突した。ラブハートの力を利用しているとはいえ、生身の人間が放った、初めての魔法少女の技である。
背筋で無理矢理に沿った体を起き戻す。再び刀を振るう。抜刀ではない、威力は落ちている。しかし、武将寄生されし物は攻撃に転じることができない。
「連刀ーー八重咲き恋歌!」
鍛え上げられた足腰により、動かずに強力な刀を連続で繰り出せる。そして、襲いかかる簡易ラブビームによる二段構え。乗馬による機動力は活かせず、不安定な体勢で攻撃を捌かなくてはならない。
ダテ…ダテ…
人馬一体という言葉がある。人と馬とが一つになったかのような動き、馬を乗りこなすことを指す。武将寄生されし物は、その先に歩を進める。人馬一体でありながら、個々に行動する矛盾を正すのは、寄生されし物細胞の繋がり。
ひひんっ
飛び上がる。辺りの捕縛剤に触れることなく、数十メートルの距離を助走なしでのひとっ飛び。
飛び上がった瞬間の無防備な姿に、愛斬破の一撃が深く斬り込まれる。そのまま走り出せば、左後ろ脚がもげてしまうだろう。心地と前田の連携技をもって与えた傷は、着地するまでの時間で修復された。
心地は鞘に刀を戻し、前田は肩を回した。無傷であるのは共に同じ。気力で劣りはしない。
武将寄生されし物が構えたものは刀ではなく…弓であった。




