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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第四十七話

「β3は二手に分かれて焼きの足を潰せ。β2はそのまま前進せよ。β1、槍を惜しむな。冷凍は一箇所に集めて捕縛しろ。」


 焼き餃子、水餃子、揚げ餃子に冷凍餃子に囲まれるはβ隊。隊列を組み、B6で牽制をしつつ、着実に数を減らす。一体が餃子を頭部にした二メートル越えの寄生されし物(パラサイト)だが、β隊員は負傷者すら出していない。


「柿谷。」


「はっ。別動隊の君山がボスを発見。二十メートル以上の仏像で、有効打無し。こちらへ向かってきている様子。」


 後方で、何枚ものお札で塞がれている脈打つ箱を持つ男。名を戸崎 (はい)。β隊隊長である。


「ふははっ、その巨体なら問題無し。計画は順調だと知らせろ。一手の狂いも許されないと知れ。その贄となるのは、お前か私である。」


「はっ。承知いたしました。また、贄となる覚悟はできております。ヤツらに終末を、慈悲なき死を与え続けることを望みます。」


「願いは叶われるだろう。私達は死神だ。鎌を振るう時は、望みが達成される光悦の瞬間である。」


 柿谷は最後まで聞き遂げると、任務に移る。足音をさせず、腰を低くして走る姿は忍者を想像させる。

 死を恐れない行進がなんだというのだ。新たな武器を持った人間が脅威だとでもいうのか。餃子寄生されし物(パラサイト)達は怯まない。胴体に穴が開こうが、足を飛ばされようが、餃子の特性は消え失せない。焼き餃子の肉汁が空から、水餃子の熱湯が足下からβ隊を襲う。


「ぐ、あ゛あ゛、熱い!あづぁああっっ!!」


 露出した肌は火傷を免れず、衣服の繊維が身体に癒着する。周囲を覆う湯気が呼吸器にダメージを負わせ、餃子寄生されし物(パラサイト)に一番近い位置にいた隊員は、溶けた肉となった。死体は流され、他の隊員の皮膚と合わさり枷となる。

 しかし、死亡者と重症者を合わせてもβ隊の半分にも達さない。


「同胞よ…私は誇りに思うぞ。そこまでの覚悟を持てる者は数多く存在しない。其方らの死は無駄にはならん!!」


 餃子寄生されし物(パラサイト)の攻撃から身を守る行動はしない。前線の者は手を繋ぎ、肩を合わせ、目の前に迫る死の液体を真正面で受け止めた。


ズボボボボボボッッッ


 流れ出た液体を餃子達は吸い込む。その行動が意味することは理解可能。奴らが、餃子、ではなく、焼き餃子、水餃子、揚げ餃子、冷凍餃子に分かれて出現したことで、各自別の特性を利用することは判明していた。特性を利用するということは、常温になれば全部同じ餃子とはいかない。焼き餃子は焼き餃子で、冷凍餃子はずっと冷凍餃子なのだ。特性は何回も使える方が好ましい。


「さぁ、同胞の猛き熱情をその身に刻むが良い。起爆だ。」


「起爆します。魔装兵器ーー」


「「人間散る(ヒューマンドラマ)」」


 β隊員に埋め込められし魔装兵器: 人間散る(ヒューマンドラマ)。副隊長である柿谷琴音の魔装兵器を、一部切り離し使用している。それは、人間を使った爆弾である。埋め込められてからの、鼓動の数だけ爆発を繰り返す。最後の最後まで、敵を憎み、動き出そうとした者はより多くの爆発を敵に刻む。パッションハートの力を勝手に利用しようとして、偶然完成した産物である。そのため、熱き心に呼応する。

 飛び散った肉片も爆発する。β隊員を飲み込んだ餃子寄生されし物(パラサイト)の一部が、他の餃子寄生されし物(パラサイト)に付着し爆発。揚げ餃子の硬い身体をも破壊する。

 揚げ餃子の皮を、音を立てて踏み潰しながら歩く者がいた。


「ボスが到着するまで時間はある。敵は予測されていたゆえ、データも揃っている。討伐といこう、対象はしもつかれ。」


ぐちょぐちょグチョグチョ


 鮭の頭、根菜、酒粕、大豆等を煮込んだ料理が'しもつかれ'である。体長は五メートル弱といったところ。独特の匂いを撒き散らすそれは、グロテスクな見た目をしている。

 隊員の一人がB6を構える。


「止めろ、撃つな。」


 β隊隊長戸崎は伸縮補爆槍を投擲する。しもつかれの内部に入り、尖端が爆発、捕縛剤が内部で固まっていく。


グチョぐちょ


 自身の内部に腕を突っ込み、槍を摘出。捕縛剤に着いた部分以外は、内部に残る。摘出した槍は、β隊に向けて投げつけられる。


「はいっ!!」


 柿谷は迎え撃つように槍を投擲、空中でぶつかり、離れた場所に落ちる。槍に付着したしもつかれが、小さな寄生されし物(パラサイト)として、形成され動き出そうとするも、捕縛剤で動かない。


「分裂か…核は一つだ。捕縛剤で身体を削っていけ。銃を使えば敵が増える。」


 β隊はB6を肩に装備し直し、全員で槍を構える。




「…一直線に隊長のところへ向かっている。何故だ?この距離なら、他の人間も狙いに行けるはずだが…。」


 君山ジェイスン率いる別動隊は、ボスに気づかれずに追跡していた。元は、本隊と合流した際に、敵を挟み撃ちにすることを最終目標としていた。しかし、ボスの巨体から、発見と追跡のみの仕事となりそうだ。






「まずいぞ。本家のままなら、拙者達に勝ち目はない。」


「とりあえず共有してください。」


「まず不死身の体を持っている。地球も三十分で一周し、山にツノが刺さった時には、山が持ち上がったのだ。」


 心地の顔は青ざめている。自信溢れる言動が目立つものの、自身より強い者がいることを認めているようだ。


「ギャグアニメなんすか?…安心してください。目の前のアレは、ゆめたんっぽい寄生されし物(パラサイト)です。」


「ならば問題無し。四足歩行に対しての戦い方は心得ている。」


「それどこで心得れるんすか?山住みだったりします?」


ピキョピキョ?


 ゆめたんは頭部を低くし、ツノを突き出したまま突進する。道幅が無い建物内では、避ける場所が無く、正面から受けることを余儀なくされる。

 心地が刀を構え引き抜く動作の途中、ツノが刀身に衝突する。心地は衝撃が走るまで、前田は心地が後方に吹き飛ぶまで気がつかなかった。


「隊長!!」


 心地は身体をくの字に曲げたまま飛ばされ、階段上部にあった窓に衝突。ガラスを突き破り、外へ放り出された。ここは、六階である。

 咄嗟にとった行動に本心が宿るなら、前田球児は受け入れたくないだろう。心地に向けて手は伸ばされず、B6を強く握りしめていた。


「がっ、ぐっっ!」


 二つのB6を合わせて盾のように構えツノを防御。心地への攻撃から、間髪入れずに前田へ突進。先に入った二人が残した遺物が、ゆめたんの攻撃を教えてくれた。

 重心は低く。でなければ衝撃で身体が宙に浮いてしまう。衝撃は下に向いた。ツノの攻撃を耐え切った前田は、膝が曲がり、後頭部が地につくほどに仰け反っていた。次に襲いかかるは、ゆめたんの脚。突進の衝撃が受け流された今、勢いは止まらず、前田を踏みつける形で通り過ぎた。


「うっ、あ、…はぁ…はぁ…そうか、その速さだもんな…」


 前田は起き上がる。ゆめたんはスピードを活かすために、寄生されし物(パラサイト)としての重さが無かった。しかし、通常の寄生されし物(パラサイト)と比べて軽いだけであり、前田は大腿部と、肋骨を損傷、痛みに苦しめられる。


「隊長は……あの人なら生きてそうだが、立ち上がれるか微妙なとこ、か?…ここは、俺がやるしか無いのに、変わりはなし。」


 前田が構えたのは伸縮補爆槍。店内では、振るうに難しい武器である。


「えっと…そう、ゆめたん。お前は、一人が銃撃戦に挑んでも勝ち目がないタイプだ。だから、コレで勝負する。」


 声に出し、頭の中を整理し、行動に移す。出した結論はカウンター。動かない。動けない。


ピキョキョ!?


 ゆめたんは動かずに、地を右後ろ脚で蹴り続けていた。こと人間においては大した意味は持たない。後悔する。心地に聞くべきは特性…ゆめたんの攻撃に通じる特性であった。


「ふざっ…」


 ゆめたんは走り出していた。前田が観測できる地点は、走り終わり止まった後。走り出しの瞬間さえ認識できる間も無く走り終わっていた。

 急発進からの、急停止。前田の背後で止まったゆめたんの勢いは、止まったゆめたんから離れ、衝撃として壁にぶつかった。触れずして、ゆめたんの形をした穴がくり抜かれた。


ピキョピキョ!?


「…ソニックブーム?…いや、わからねぇ。わかるのは…」


 前田は生きていた。天井に突き刺した槍を掴み、壁を蹴り飛ばし、ゆめたんの突進を回避。靴とズボンの下半分は弾け飛んだ。短パン状態の前田の脚は、無数の切り傷で真っ赤に染まる。傷は深く無いものの、痛々しい。


「次避けるのは無理だ。今生きてるのも奇跡だろ…なんなんだ、ほんと…」


 前田は次の槍を壁に突き刺し、捕縛剤を撒き散らす。同様に、天井に突き刺した槍も起動。ゆめたんと前田の間には、捕縛剤のネットが張り巡らされた。


 これで防げるなんて思ってない。少しでも、纏わりついてくれれば御の字。アレは連続じゃ撃てないことにする。じゃなきゃ、何も成立しない。動けなくしてからB6を連射してみるか…パワーがなければ、捕縛して終わり。残りは、槍を内部で爆発?…他にできることは…


ピキョ?


 ゆめたんの突進。先ほどのものとは別だ。突進してくることがわかっている。前田は、左に位置するファンシーショップに頭からダイブ。血で濡れているが、素足になっていたため、滑らずに入店することができた。背後でゆめたんが通り過ぎる。

 ビルを支えているであろう柱の一本に、頭部のツノが突き刺さる。抜くと、ヒビが走ったのち、瓦礫となって足下に積み重なる。

 ファンシーショップの中には、腹部に穴が空いた大小様々なぬいぐるみが散らばっていた。


「本当に、どんな世界観なんすか。子供向けの番組じゃないってことなんすかね…」


 立ち上がり、振り返る。ゆめたんは捕縛剤を被り、動きは制限されているようだ。頭部を突き出して走るせいか、四本の足に捕縛剤は付着しておらず、真っ直ぐに走ることは可能であると見てとれる。


 えー、次は…なんだ、この店。柔らかい物ばっかで、色が全部毒々しい。キリンっぽい何か、パンダかこれ?…こっちは、ゾウ…なのに鼻がドリルになってる。


「…これだな。」


 手に取ったのは、白色と青色、たまに黒色が混ざったアルマジロ…のようなもの。ボーリングの玉ほどの大きさ。ぬいぐるみのように柔らかいが、中はゴムっぽい材質。おそらく、原作を再現しているのだろう。


「打てるものなら……打ってみろ!!」


 前田は野球のピッチャーの如き構えで、野球ボールの何倍もあるアルマジロをゆめたんに投げつける。回転がかかり、上から抉るような軌道で顔面にヒット。


「デッドボールだけど、許してくれよな。」


 ゆめたんのツノには、アルマジロが突き刺さり、先端さえも埋まり見えない。精密なコントロールで、ツノカバーをつけてみせた。さらには、捕縛剤で振り払うことはできない。


ピキョ!?ピキョ!?


 前方の視界はアルマジロで遮られている。しかし、ゆめたんのモチーフは馬。視界範囲は人間とは異なる。横目で前田を確認。目があったように感じられる。背筋に汗が流れ、自信は揺らぐ。


「俺はスタンドプレーは嫌いなんだ。生き残った仲間に繋がるプレー…俺は一つのピースで構わない。」


 春、高校一年生。前田球児の熱は、確固たる形を持ってグラウンドで燃え上がる。前田が求めたものは野球ボール。仲間の手を渡り敵を撃つ。一人では成し遂げられない目標にドギマギする…それも、中学の三年間を経て完全に捨て去る。野球強豪校だった母校は、完璧なエースとして卒業した。高校は無名校。両親の都合だった。

 山に囲われる高校生活。部活は野球部を選んだ。有名人だった前田は囃し立てられ、一年にしてエースに抜擢される。部員数十二名。万年一回戦負け。前田がいるべきチームではない。

 前田の人柄もあり、凄腕を振おうが嫌味の一つも言われない。入部して一年目、無名校は三回戦まで勝ち上がり敗北。練習試合に合同合宿、様々な申し出が寄せられる。絶対的なエースの力が誇示される記事にまでなった。反して、部活に所属していた弱小部員達は、前田が来てから強くなってきていることを感じている。モチベーションは上がり、練習を蔑ろにする者は一人とていなくなった。全国に通用するチームになるべく、終えた一年。


 ゆめたんの正面。立ち塞がるように前田は立った。B6を盾に構える。腰を落とし、限界まで息を吐く。そして止めた。吐いた息が生暖かく足首を掴む。今はそれでいい。少しでも体重が欲しい。


 事件は起こる。前田球児は高校二年生になった。後輩も入り、部員の数も増えていった。夏に差し掛かる境目、前田は肘を故障してしまう。田舎の診療所が下した結果。

「ちょっと待って欲しい。全く痛くもないし、違和感もない。もう一度検査して欲しい。」

 声は届かない。後に判明する。前田は肘の故障もしていない。身体に不自由など全くなかった。前田の後釜としてエースになったのは、通う高校の校長の息子。噂は広がり部員の心は離れつつあった。大会に出場するも、あっさり一回戦で負け。

「前田さん、もう一度投げてください。貴方が投げれば勝てるんです!」

「…今わかったよ。俺たちは勝ちたい、それに間違いはないな?」

「そうです、勝ちたいんです!」

「俺がピッチャーをしようがしまいが、勝てばいい。スタンドプレーは嫌いだ。野球は全員でやるものだと、俺は知っている。」

 前田はキャッチャーに転身する。ピッチャーを辞めさせられることに文句は言わない。今度は、キャッチャーをやる。不気味な印象を持たれる。結果は出た。前田の後釜は、同程度の高校との練習試合で勝利する。

「俺は皆んなで甲子園に行きたい。」

 後釜はイップスになる。怖かった。主張なき怪物に恐怖し、ボールが前に飛ばない。

「……俺は…俺に、できることは……」

 前田はイップスにした原因を咎められ、最後はイジメの主犯格として学校を去る。二度と野球は出来なくなった。

 ……前田に憎しみの感情はない。彼は聖人でもなければ、ただの野球が大好きな少年である。何故、理不尽な現実を受け入れられたか。それは彼がまだ、何も諦めていないからであった。



「皆んな見ててくれ。世界を仲間と共に救ってみせるから。」


 ゆめたんは動かず地面を蹴り続けていた。二度目の光景。


 今度こそ…全てを受け止めてみせる。全員で勝つんだ。


 ゆめたんが走り出したことを、衝突の衝撃で脳が感知する。


「こんじょおおおおおお!!!」


 前田は衝撃で吹き飛ばされずに、ツノに突き刺さったアルマジロを、キャッチャーミットのように構えたB6で受け止めていた。耐えれた理由は、素足につけた捕縛剤。ぶつかった瞬間に、張り付いた廊下ごと剥がれたが、一瞬だけ耐えれたことに意味がある。

 飛ばされず、ツノでも貫けない前田に対して、ゆめたんは急停止をせずに走り続けた。目標は真っ直ぐ正面。階段に差し掛かったところで、後ろ脚二本でジャンプ。前田は、ゆめたんが一度目のソニックブームで突き破った壁の穴に吸い込まれ、ビルの六階から、ゆめたんと共に放り出される。


 よかった。頑丈な壁にぶつかれば、押し潰されて死んでいた。クソ馬ごと外に出たなら、作戦は終了。やりきった。落ちても死なないとは思うが、地の利を失い、四方から狙えるんだ。俺らの勝ち…これで、役目も完遂ですよね……た、たいっ、


「隊長?」


 背中を引っ張られる感覚。捕縛剤が服と壁を繋ぎ止めているのか。何故、壁に捕縛剤が付いている?そんな疑問は、目の前の衝撃によって打ち消された。


「上段ーー恋雷衝(コイライショウ)!!」


 ビルから落下した心地呼夢が、空中に立っていた。飛び出したゆめたんの首に向けて、愛斬破(ラブザンパ)を振り下ろす。

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