第四十五話
キュリオハートの長所は把握能力にある。'深緑の一時'全範囲視覚魔法や、'深緑の一時'視覚共有魔法をもって、死角を無くし、最善の手を指示し続けられる。
'深緑の一時'共鳴する再構築を使うメリットとは何か。一帯の状況把握とパッションの身体状況の把握だけではない。それは、自身の肉体を分解することで、戦闘能力が無いデメリットを補うことが一つ。そして…意思の共有。身体感覚の向上!
「「'深緑の一時'覗く海豚の超可聴域!」」
……は!?
「ちょっと、パッション!?勝手に技名変えないでよ!」
「いーだろー?私の身体使ってるんだから、技名も折半だ!」
「絶対わざとだし…心読まれた当てつけじゃん。」
冥界人魚型の口が開く。顎は開口限界を超え、骨が外れ筋肉が引きちぎれる。180度、口は水平に。長い舌が全て露出した。鋭い歯がギラリと光る。
「「疑いはごろせ!信念を゛崩し、さま゛よ゛え゛ぇ、永遠の死に触れ゛ろ゛!!ーー冥魚の絶叫」」
大気を震わせ、地を穿つ超音波。目には見えない破壊の声。触れれば、音の刃に全身を外部と内部、両方から切り刻まれ、振動をもって液状化する。生物が生存できない指向性のデスゾーン。
'深緑の一時'覗く海豚の超可聴域。元より感覚が鋭いパッションハートの能力を、限界を超えて強化した技。以前までの、キュリオハートの能力では、敵の一挙一動を把握することしか出来なかった。しかし、'深緑の一時'覗く海豚の超可聴域に存在する相手の情報は、内部までをも感じ取ることができる。鼓動の機微から、血液の流れる速度まで…炎結翔同士を叩いた音で行うエコーロケーション、炎結音翔を超えた完全把握である。
敵の攻撃を最速で感知、最良の反撃を導き出す。敵の攻撃速度を上回る理論上最速最強の後出しジャンケン。キュリオinパッションモードだからこそ可能とした一撃。
「「'深緑の一時'透徹現影大魔法!」」
冥魚の絶叫は竜巻の通り道かのような跡を残した。半壊していた道路は完全に剥げ、足の踏み場は存在しない。この地には、雑草も生えることは無くなった。粉砕された街の欠片が落ちる。
「触れちゃダメよ。」
「わかってる!」
パッションは冥界人魚型の背後、上空にて再構築する。攻撃のタイミングがあらかじめわかっていたことで、再構築時の座標を計算する時間ができた。
「「獣王 極閃」」
'深緑の一時'透徹現影大魔法は、一度身体を分解し、好きな場所で再構築する技。多用はできない。一つのミスで身体が崩壊する危険な技である。なにより、赤信号は一人じゃなくても怖い。
「ぐっ、かはっ……」
「パッション…っ!」
残り少ない血液が口から漏れる。このままでは、適切な治療を施されても障害が残る可能性がある。タイムリミットが近づく。
「'深緑の一時'勝利の黄金線!」
朦朧とする意識のパッションから、一本の金の糸が背中から生える。繋がる先は二冊の本。落下の速度は徐々に落ちていき、左肩から転がるように着地する。
くっ、この状態だと力が入らない…。もっとゆっくり着地するはずだったのに、私のミスだ。今は少しのダメージでも回避したい。…私の血液だけ構築して朱に流す…馬鹿、アホなこと考えるな!
「血液型違うだろー…」
膝に手をついて立ち上がる。上空では、元の姿へ戻りつつある冥界人魚型が泳ぐ。苦しそうな声を漏らしている。顎は完全には戻らず、大きく開いている。
「朱…あと一手なの。」
「わかってる。見えたんだろ?私なら大丈夫だ!」
隠し事はできないって、わかってるはずなのに。………ここは…
「やめろ、奈々子。それは負け筋になる。」
「で、でも、少しはダメージの肩代わりしないと…」
「次の一撃で終わらせて治療を受ける、それがベストだろー。代わりに唐揚げの日は譲ってくれよな。」
「病院食に唐揚げは出ないの!!」
確固たる意志で、纏う炎を全てパッションガントレットに集めていく。そこにキュリオの意思は存在しない。
「「ころ゛す…ころ゛すぅ…みなごろ゛し…」」
一帯を隔離する黒い腕が震え始める。削れ、塵と化し、風に乗って冥界人魚型へ集まっていく。中心に吸い込まれるように吹く風は、生暖かく、肌にべたつく嫌な風。
パッションは両手を絡め突き出す。衝撃に耐えるため腰を落とし、足は肩幅よりやや開く。
「「ま゛われ゛ぇ…死を謳歌しろ゛お゛ぉ…」」
元黒い腕の塵は形を変えていく。風邪に乗りやすく、尾ひれ、背びれが生まれ、魚類寄生されし物へ。集まり、固まり、圧縮され、魚群寄生されし物へ。絶え間なく集まる魚類は重なり、巨大化していき、ネオ魚群寄生されし物へ。
巨大な影に覆われたパッションハート。冥界の冷気が身体に触れる。心の芯まで凍える空気に身を置いていて、パッションは額に汗を垂らしていた。炎を纏うものとして、魔法少女で随一の熱耐性がある。さらには、汗など熱で乾いてしまうため、異様な光景といえる。
垂れた汗は、地面に触れると音を立てる。全身が沸騰しそうな高温に包まれているのだ。原因はパッションガントレットにある。炎を充填し続け、逃がさず保つ。周囲の空気は変わらない。熱すらも留めてエネルギーに変換している。自殺行為である。通常時は、冷気装置と、ガントレットに別装置で熱を送ることで発動を促していた。未だパッションが生きているのは、炎結翔が身体の熱を吸い取っているからである。
「「深海の骸よ゛…再び姿を゛あらわ゛すのだ!」」
冥界人魚型に'生'を与えられる。ネオ魚群寄生されし物は、ネオ魚群寄生されし者へ。人工的に生み出された刹那の生命体が、咆哮をもって誕生を証明する。
ヴェオオオオオオオオオオオオ!!!
パッションハートが見ているものは、血の涙を流す冥界人魚型。キュリオハートが定める狙いは、冥界人魚型の'核'。
全身に力を入れる。傷ついた血管を無理やり塞ぐためである。傷口を塞いでいた炎結翔は、全てガントレットに装着されている。
「「見せてやる…これが、魔法少女最強の一撃!!」」
ネオ魚群寄生されし者はパッションに向かって落下していく。その見てくれは隕石そのもの。
「「全てを道連れにしろ゛ぉ゛!!ーー冥影死墜落」」
ガントレットからパチパチと音がし始める。限界まで達した合図だ。
「行くぞキュリオ!」
「外さないわ…全て見えてる!」
冥影死墜落が迫る。
「「情熱の炎よ!天を破り、その熱き魂見せつけろ!」」
呼吸を整え…放つ。
「「ジェットブレイク!パッションパーンチッッ!!」」
パッションガントレットは変形する。装甲が外れ、手首に沿った最低限の装備が残った。軽量化を試みた結果である。外れた装甲は、空高く発射された。パッションパンチとは、言わばロケットパンチである。
冥影死墜落に衝突。反動で背後に倒れるパッションとキュリオの目には、開いた口の中に黒い腕が見えた。触れれば滅びる亡者の腕である。パッションパンチは炎を放出することで加速し、突撃していく。無数の腕が掴もうとするも…掴めない!
ヴェアア!!
近づけない。圧倒的なエネルギー体に全て吹き飛ばされていく。冥影死墜落はパッションパンチを抑え込むことができない。元の何倍にも膨れ上がった身体は限界を迎え、内部から破裂した。作られた寄生されし者としての証明である、人工的な'核'を撃ち抜く。パッションパンチに傷の一つもつかない。ネオ魚群寄生されし者…冥影死墜落はパッションパンチに触れることなく生命を閉じた。
「「ぐ、がぁ、ぐる゛な゛ぁあ!艶 針 淵 腕」」
砕け散った冥影死墜落を利用した、死体繋ぎの槍。向かい打つように放たれる。
「展開しろ、炎結翔ーー」
パッションパンチは艶 針 淵 腕に衝突する直前、二つに弾けた。元より、二つのガントレットが握り合った形である。仕込んだ炎結翔が反応し、ガントレットが一つずつに戻った。
弾けた瞬間、爆発をもって艶 針 淵 腕を破壊。地上には塵が舞い落ちる。
弾けた勢いで、直角にパッションパンチの向きが変わった。そして…二度目のジェットブレイク!
「貴方のこと知れてよかった…おやすみ、もう離れ離れにならないでね…」
冥界人魚型を挟み撃ちにするパッションパンチ。狙いは'核'。
身体にしがみつく黒い腕を抜けて、内部に侵入。中心に、握り合った手と手。誰のものかは、キュリオだけが知っている。核を守るように握り合う手を、パッションパンチが両方から包み込む。熱をもって握られた手は一つになる。もう…離れることはない。
'生'と'死'に翻弄された夫婦は、自らの核を調和し消滅する。この世では、夫婦の安寧をもたらす事などできない。
冥界人魚型は元の姿へと戻る。握り合った手は離れない。残った冥界の存在達と消滅していく。地上に落ちたパッションガントレットは、滅びずに形を残していた。苦しんだ長い年月を支えた想いと繋がりは、決して滅びない。
冥界の瘴気は消えた。
分解と再構築を繰り返した通信機器は、壊れてしまった。助けを呼ぶことはできない。
「朱…聞こえる…?」
変身体は解け、虎野朱と榛名奈々子に戻っていた。変身体を保てなかったのは、キュリオの誤算だった。身体へのダメージが少なくとも、精神への負荷と、魔法少女の力を使い過ぎた結果である。
「……大丈夫、すぐ助けが来るから…」
虎野朱に意識はない。背中から伝わる体温が、急激に冷たくなっていく。呼吸はかろうじてある。いつ止まってもおかしくないほど、か細い。
「…誰か…早く、早く来て…朱が死んじゃう…」
囲まれていた黒い腕が無くなり、破壊されていない街の光景が見えてくる。空に浮かぶのは、撮影用のドローン。二人を感知している。
「あぁ…もう、遅いんだから…」
舗装された道路を無視して、最短距離で走る装甲車。榛名奈々子は、中から顔を出す医療班を確認した後に気を失う。
………
…
途切れた意識。実際の私は、今頃治療を受けているところだろう。朱は大掛かりな手術だろうけど、私は栄養だけ与えられてるか、力の酷使で内部にダメージがあれば手術…かな。あれさぁ、終わった後、痛くなさすぎて怖いんだよね。何使ってるのやら。
「奈々子ー、まだ眠いかー?」
そして…さっきから、この朱はなんなの!?パッションハートのぬいぐるみ…だろうけど、ちまちま動いては話しかけてきて…ちょっと可愛いんだけど!
「…もしかして…一緒に分解した後遺症?精神が混ざっちゃったの?」
「奈々子ぉー、奈々子ぉー。」
私の無意識下…というか、夢の中に、朱の精神の欠片が住んでる…みたいな。それって、大丈夫なのかしら…起きたら朱の性格がまるっきり変わってたり…えぇー…。
「奈々子ぉー、奈々子ぉー。」
このぬいぐるみも、どこかで見た覚えがあるんだよね。実際に見たんじゃなくて、想像してただけだっけ?…いや、そこはいい。ともかく、ここは私の夢だ。この朱が、元の朱の精神体の一部なら、どうにかして元に戻さないと…
「奈々子ぉー、奈々子ぉ?」
「なーに、もうっ!」
…いや…?朱の精神体なら、何か聞き出せるかも…?
「ねぇ、ちびパッション!貴方はなんなの?私に何か聞いて欲しいことある?」
ぬいぐるみは悩む動作をひとしきり繰り返す。
冷静になれば、私のいる空間…子供部屋?皆んなのぬいぐるみもある。パッション、クール、ホープにラブ、そして私。表情だけ違うぬいぐるみがたくさん。…れいなさんの、とびきり目が可愛い。目つきを気にしてる反動?…よく見たらちょっと動いてるな…あのラブハートのぬいぐるみ。クールハートのぬいぐるみに、猫のワッペンを…あ!見つかった。何やってんの、ほんとに。
「…怒らないから、ほら、言ってみて。」
まだパッションぬいぐるみは言い渋っていた。とびきりに言いづらいのか…大体気にしてるのは本人だけなのよね、そういうの。
「あのなー…」
「なーに?」
いかん。可愛いから、こっちの話し方まで影響されてる。
「実は…」
「なになにー?」
もじもじするパッションぬいぐるみ。
…
「ちょっと待って!別れの言葉じゃ
「唐揚げ食べちゃった。」
……
「唐揚げはダメだって言ったでしょーー!!!」
「うおっ!…ゆっくり起きないと身体に悪いぞ。はっはっは!」
隣のベッドで唐揚げ丼をかき込む朱。グルグルの包帯姿だ。…私もグルグルだ、うん。
「さっきのは…夢?」
「ずっとうなされてたぞ。ぬいぐるみがどーだか。あ、現状報告だよな、あれから五日経ってて、私も朝起きたばっかりだ。」
五日…五日か、うん、まぁそんなもんかな。身体はバキバキだけど、ご飯は食べれるくらい。
「何で唐揚げ丼食べてるの?…だれが持ってきたの?」
「あんなー、炎結翔あるだろ?あれがさ、戦闘後に冷たくなって戻ってきて、身体に入っていったんだ。冷凍状態っていうか…まぁ、なんとかなったんだ。はっはっは!輸血は大変だったらしいぞ。」
「…この誤魔化し方…れいなさんでしょ。」
「ごめん…どうしてもって…」
「うわーー!!!」
真横のカーテンに包まっていた愛衣れいなが顔を出す。やはり包帯姿。なんで、料理してんねん。
「やっほー!元気にっ、あー!起きてんじゃん!」
一番元気そうな星崎花子も参戦。
「…みんな元気で、本当によかった。」
「はっはっは!そーだな〜、本当によかった。」
病室に笑いが起きる。扉の外では、怒りたいのに入りづらく躊躇していた伊渕がいた。
「ここは怒るべき…でも、精神上、今はやめておくべきでもある。それに、なぜ調理実習室の鍵を持って…」
「伊渕さん、β班とγ班の戦闘データ公開しますよ。」
技術班の東北が話しかける。白衣の胸ポケットに異常な量のペンがささっている。
「よかった…今行きます。」
「よかった?」
「決意が固まったといいますか…背中を押してもらいました。ありがとうございます。」
「え?…ど、どうも?」
第三回襲撃日が終わり、五日が経過した。被害は大きい。未だ魔法少女達には、詳細な結果は提示できていない。しかし、今は魔法少女全員が生きて帰ってこれたことを喜びたい。喜びで心を満たすべきだ。
「クククッ…中々良いデータが出てますよ。」
不安が絶えない。
・巨影墜落
生み出した魚類寄生されし物を集合させた魚群寄生されし物を、さらに巨大化させたネオ魚群寄生されし物を突撃させる技。
・艶 針 袁 腕
魚類寄生されし物を集め、圧縮し、一つの大きな針とする技。主に投擲する。炎結翔で空を飛ぶパッションに対しては、何本も用意して浮遊させて身体を削るなどした。
・燦 々 針 鐘
捻られ、圧縮された魚類寄生されし物が、一本の針と化す。一匹に対し、一本の針にするため細く見えない。数も多く用意可能であり、範囲攻撃に適している。一撃じゃ致命傷になりづらいデメリットもある。
・人魚の歌声
魅惑の歌声で対象者の脳に干渉し、意識を無意識下で創造された別世界に幽閉する。その後、宿主がいなくなった肉体を操り破壊の指示を下す。音波攻撃に切り替えることが可能で、内臓に直接ダメージを負わせることができる。その過程で、対象者の健康状態がわかる。
・反 生 頼 儡
破壊されて塵となった攻撃に、再び生を与えて再利用する技。元の形に戻るだけの身体が無い場合は、近くの塵を利用して一つの攻撃になる。奇襲も可能とする便利な技。
・燦 々 針 淵
冥界人魚型寄生されし者になって繰り出す燦 々 針 鐘。冥界の死に触れ、より黒くなっている。脆い代わりに攻撃力は増している。
・冥 生 頼 儡
歪で禍々しい形で、生まれ変わる技。反 生 頼 儡と比べ、生を瞬時に消化するため急加速を可能とする。再利用より、使い捨てのものを拾い上げ、投げつけるようなイメージが持たれる。
・冥魚の絶叫
冥界人魚型寄生されし者の咆哮。身体の外部と内部、両方から死を与える。死の咆哮が触れた場所は、雑草も生えない土地と化す。人魚の歌声と比べ、脳に干渉する能力は存在しない。
・冥影死墜落
ネオ魚群寄生されし物は生を与えられ、ネオ魚群寄生されし者と化す。敵へ向けて衝突させる他、ネオ魚群寄生されし者の内部は、冥界の黒い腕で満たされているため、触れれば崩壊する。迎え撃つことを封じられ、その巨体から逃げることも困難となる。
第三回襲撃日魔法少女評価報告書
パッションハート
・任務の完遂
・人間の言葉を用いる寄生されし者の発見
・人魚型寄生されし者の討伐
・冥界人魚型寄生されし者の討伐
・不死の存在を確認
・不死の存在を消滅させる
・冥界の亡者を確認
・魔法少女の新たな可能性を見出す
・最高火力の大幅な更新
・ダメージを軽減化させる能力の開花
・魔法少女の特性の強化を確認
・新形態の確認 大幅加点
・個人戦闘能力評価 大幅加点
・連携戦闘能力評価 大幅加点
・同時対応可能敵数 大幅加点
評価 S
キュリオハート
・任務の完遂
・人間の言葉を用いる寄生されし者の発見
・人魚型寄生されし者の討伐
・冥界人魚型寄生されし者の討伐
・不死の存在を確認
・不死の存在を消滅させる
・冥界の亡者を確認
・冥界から生還する
・キュリオハート'クロ'の確認と撃破
・魔法少女の新たな可能性を見出す
・肉体を再構築する術を確立
・魔法少女の特性の強化を確認
・新形態の確認 大幅加点
・個人戦闘能力評価 加点 ※ポットロボW使用時
・連携戦闘能力評価 大幅加点
・同時対応可能敵数 加点 ※ポットロボW使用時
評価 S+




