第四話
これで大体のマーカーは終わったかな。マグロの他も魚ヘッドばっかだったけど、回遊魚ってやつ?向かってくるだけなら良いのに、明らかに逃げてるイワシはなんなの!?
「キュリオ!マーカー終わったでしょ?指示は〜〜???」
「ホープごめん、マップは共有し続けるから一人で対処して。」
「そんな〜…ま、聞いてる限りパッションのとこヤバそうだから別にいいよ〜だ。イワシどもはγ隊で倒せるでしょ?」
私はマグロ追いかけながら中型倒しに専念できそう。体力も無くなってきたし、ボスを最後に残すのは心配になってきた。
「そうね。問題あるのは豆アジとイワシの差がわからないホープね。」
「ばっ!ちっちゃくてわかんなかっただけだもんっ!!」
通信を切る。女の子が魚の見分けつくのは普通じゃないでしょーよ。…後でクール姉に聞いてみよ。クール姉なら、「普段口にする物ぐらい知っておくべきよ」なんて言うだろうな〜。
「γ隊聞こえる〜?キュリオの援護は期待できない状態ですので、私達だけでなんとかします。引き続き中型は距離取って、豆アジどもは積極的に倒しにいく感じでよろしくね。」
了解と短い返答。うちの戦闘部隊はクールに調教されてるのか、クール過ぎる気がする。そんなことを思っていると
「ホープハート。こちらγ隊。イワシの魚群に遭遇。ホープの方へ向かっています。」
「ざんねーん!それは豆アジでーす!」
「いえ、先程のものとは別物です。これはイワシの魚群…今になっては巨大な魚のような形をしています。」
うっそー。この地域のボスってマグロじゃないの?キュリオほんと、もう〜。ってかイワシだったんじゃないの!?私が見たやつ!
「ワイヤーでとめられ…たり?」
「何度か試しましたが、固定した電柱ごと引きずるパワーです。」
「私の役目じゃないよ〜!!」
「任せました。合体したと仮定するなら、核は一つのはずです。そこをなんとか…」
通信が切れる。核ってバカ硬いやつじゃん!みんな頭飛ばす方が楽だから狙わないじゃーん!はぁ……
「こちらホープハート。キュリオ、雑魚が固まって巨大化してるっぽい。応援は行けそうにないから、戦力にはカウントしないでおいて〜、じゃっ!」
これでいい。迷惑はかけられない、報告しない選択もできない…。う〜…頑張れ私!いけいけ私!
秋刀魚とダツが放たれた矢のごとく向かってくる。ダツはまだしも秋刀魚ってそう言う魚じゃないのに。
「悪いけど…まだ遅い!」
真横から突き刺しにする。おまけ程度の黒い胴体が溶けて、ぐったりとする魚を刀から振り払う。畳みかけるように、側溝から渡り蟹がガチャガチャと湧き出てくる。ハサミになった腕が狙うは脚!
「よいしょっ!音立てずに襲うものよ、そういうのってね。」
飛び上がり、二階建ての一軒家以上のジャンプ力。空から見ると気持ち悪いほどの量である。どうやって倒そうか。こういう時は、クールの銃とか、パッションの炎とか…ラブのビームなんてあれば楽勝なのに!多対一は他の魔法少女の担当でしょーに〜。
「ん?影?」
即座に頭上を確認する。タラバガニである。巨大な甲羅を背にして、ホープ目掛けて墜落する。
「ちょっと、空中じゃ…!」
自身の何十倍もあるタラバガニに押し潰される。衝撃で辺りの住宅が崩壊し、背中からは渡り蟹の砕ける音が耳に響く。
「かっ…はっ……」
力を防御に全て費やしたが、勢いよく口から血が噴き出る。逃げなくては行けない…動けない…動きたい…動けない…
ぶくぶくぶくぶくぶくぶく
ひっくり返った状態のタラバガニが、不快な音と共に吐き出す泡で、体勢を元に戻す。つるりと真上で回転したことにより、巻き込まれ、半壊した住宅に突撃する。木とガラス片で切り傷ができて、左半身が真っ赤に染まる。
ぶくぶく ぶくぶく
何か言っているのだろうか。タラバガニはこちらを見て口を動かしている。指先に力を入れて、通信……通じない。γ隊だけ繋がっているところから、他の魔法少女も何かあったと悟る。
「γ隊…は、呼んでも無駄だよね…」
繋がる…通信!
「こちらγ隊。戦闘地域の寄生されし物は拘束及び駆除の達成。他の魔法少女、並びに戦闘部隊と連絡つかず。引き続き連絡を試みます。」
γ隊かよ〜。…ふふっ、本当だ。マップの赤印がほとんど無い。あるのは止まってるのと、目の前のやつ。動いてる二つはマグロとイワシの群れね。
「こちらホープ…ハート。戦闘中…余裕だから、他地域の援…護っと、通信…続けて…。」
「ホープハート!大丈夫ですか!?お前ら、今すぐ援護に」
「大丈夫!もうγ隊の出番なんかありませ〜ん!サボってないで、他の魔法少女のとこに援護に行っちゃえー!」
通信を切り、受信拒否。…ゴホッゴホッッ…あ〜やっちゃったかも〜。カッコつけるんじゃなかったな…。
ぶくぶくぶくぶく
さっきから攻撃してこないけど、観察してるのかな。悪いけど、考えなしにゆっくり横になってたわけじゃないんだよね!
バキッ…バキバキバキバキ!
ホープが倒れている半壊した住宅が、ホープを避けるかのように崩れていく。空が開け、日の光がホープハートを照らす!
ぶく ぶく
タラバガニから見れば、崩壊により押し潰され死亡したかのように見える。ゆっくりと方向を変えて、γ隊がいる商店街の方へ向かう。
「何処にいくの…蟹さん。」
ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく
立ち上がったホープハートに向かって突撃する。しかし、当たらない!
「私はホープハートよ…誰かの希望になるだけじゃない…!自分に差す希望の光さえあれば、何度も立ち上がってみせる!!」
タラバガニの脚が、ホープの上でタップダンスを踊るように襲いかかる。…一撃も当たらない、当たるわけない。
「実はね、あの家に突っ込む直前に、剣で切れ込みを入れておいたのよ。流石の私ね。パッションとかは炎だから大変だけど、日の光で回復なんて、私の力って底無しってわけで、実質最強?みたいな。」
カスリもしない攻撃に気付き、脚を広げて胴体で押し潰すよう倒れ込む。
「ねぇ、聞いてるの?」
タラバガニの甲羅の上で話しかける。
ぶくぶく!ぶくぶく!!
辺り一面が泡で溢れかえる。
「やっぱり話通じないのかな〜。チームワークで攻撃できるんだから、知性あると思うんだけど。」
ぶくぶく!
全身を震わせてホープを泡の海に突き落すはずが、胴体が地面に落下する。
「冬は蟹しゃぶよね。私ってば蟹捌くの誰よりも早いんだよ〜。」
バラバラと散らばる脚。動けなくなるタラバガニ。
ぶく!ぶく!
タラバガニの正面。大体十mほど離れた位置にホープハートはいた。
「ホワイトぉ〜…フラーーーッシュ!!!」
ホープハートの背後で、綺麗に捌かれたタラバガニが宙に舞う。そのまま地面に落ち、爆発!!決めポーズを彩るように、倒した敵を報告するように、爆発は蟹の形をしていた。
「焼きガニになっちゃったね!」
「ふぅ…きっついな〜。後はイワシとマグロかぁ〜。」
依然として通信が繋がらない。マップを見るに、残ってた拘束してあるやつも駆除していってくれたのね。…痩せ我慢も限界かな〜。血は止められたけど、魔法少女の見た目じゃなくて、病室から抜け出した女の子だもんこれ。あと三回。あと三回撃ったら動けなくなる、気がする。まともに動きながら狙うなら、二回……かなぁ〜。
バキッ!ビチッビチッ…ガガガッ!ばきバギばき
塀を壊し、電柱を倒し、両手には生首。血に染まった身体で高速移動するそれは、魚というより、真っ赤なミサイルであった。
「…マグロ……!!!」
ホープを目で捉えて速度がまた上がる。速さ勝負はホープの独擅場。魚の弱点(ホープ調べ)である真横からの攻撃。強敵であるからこそ、目を潰し、必殺技で確実に殺す。
ビギィィイイ!!!
予想外の攻撃。見せびらかすように持っていた生首を投げつける。高速の物体から放たれる高速の一撃。頭蓋骨は骨強度にもよるが、岩や鉄板を砕き曲げる硬さがあり、最も顔面を潰すには充分な物体と言えるだろう。しかし、ホープハートは魔法少女。剣で真っ二つにすることは容易い。マグロの真横に回り込むには体制を崩すことはできないため、剣道のような構えとなる。
振り下ろす剣が頭にぶつかった瞬間後悔する。見誤った。衝撃と同時に、対象の口から歯が飛び出る。魔法少女であれど、目の前のそれは音速を凌駕する速さで向かってくる散弾銃である。避けなくては死ぬ。命助かってもマグロに轢かれて死ぬ。上半身を反らし、後ろに倒れ込むように避ける!
「くっ…あっぶない!」
ピギィ?
目の前に迫るマグロ。直線的な移動をするマグロを避けるため、転がるように横に動くしかない。そのため、全身で地面を押し返す。マグロは逃がさないため、最高速度で地面を蹴る。どちらが速いか…その勝負は、ホープを覆う真っ黒な影で終わった。
ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ
宙に浮かぶ鯨のようなそれが、マグロを飲み込んだ。突如起こった事態を飲み込むことには時間はかからなかった。
「イワシ…の群れ…」
マグロはイワシの中で回遊をし続けている。ホープは直感的に理解する。合体した。ホープの天敵である耐久型の巨大寄生されし物。さらにはイワシの魚群という多対一。ホープの速さについてこれる速度を持つマグロが、回遊しながらイワシの中で核となる。寄生された魚を殺したり切り離すことは、群れという物体に効果が薄く、マグロは、速度と破壊困難な硬度を持つ核となった。
「私の攻撃効かなくな〜い、これ。」
ヴォアアアアアアアア
通信は…繋がらない。